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ヘルベチカという書体は一体何なのか

どこで見かけるのか?ヘルベチカ

デザイナーではなくてもその名を知っている方も多い、ヘルベチカ(Helvetica)という書体があります。

いったいどこにヘルベチカが使われてるのか。東京のど真ん中で使用されています。

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ローマ字表記の部分がヘルベチカです。日本語部分は新ゴという書体。
Ogiyoshisan - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=39139577による

他にも様々な企業のロゴに使われています。それについては後ほど。

日本でグラフィックデザイナー以外でもヘルベチカという書体※について知っている方が多いのは、グルーヴィジョンズ(Groovisions)というデザインチームが多用したことがその一因となっています。このチームの名前は、ピチカート・ファイヴの小西康陽さんがつけたとか。


書体とフォントの違い

ところで「書体」と「フォント」ってどう違いのか。

書体は、英語ではTypeface。ひとつのデザインコンセプトで統一された文字の集合を意味しています。明朝体やゴシック体もそれぞれ書体ですし、ヘルベチカもまるっとひとくくりにして「ヘルベチカという書体」と言えます。

フォントは、もうちょっと小さな単位で、もともとは大きさ別にしてまとめた1セットを「フォント」と言います。ヘルベチカなら細いヘルベチカ1セットをフォントとして捉えるということになります。ヘルベチカは書体、ヘルベチカの細いものはフォント、という違い。以前は、書体は活字といって物体があり、大きさや太さ別にして分けられていました。その分けたものがフォントです。現代では、コンピュータで簡単に大きさや太さを選べるようになり、フォントと書体(タイプフェイス)の境界が曖昧になりました。

違いはあるんだけど、もうどうでも良い、のが現在の状況と言えそうです。


「ヘルベチカ」の意味

ヘルベチカは、Helveticaと書き、ラテン語で「スイスの」という意味です。「スイス」というラテン語は、Helvetia(ヘルヴェティア)。その形容詞が「ヘルベチカ」です。


ヘルベチカが使われているロゴ

日本の企業でも海外の企業でもヘルベチカを企業ロゴに使用したところが多くあります。枚挙に暇がありません。

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カッシーナ


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BMW


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パナソニック


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ルフトハンザドイツ航空


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川崎重工業


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3M


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Knoll


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Nestlé


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Epson


グラフィックデザイナーは使いたがらないかも

以上のように、ヘルベチカという書体は、知名度やイメージとしてインフレを起こしています。それだけに人気も、完成度も高い書体なのですが、デザインを提案する際には、ヘルベチカの必然性が強くないと「何も考えていないように思われかねない」懸念が生まれやすい。別にヘルベチカに限りませんが、デザインには、狙いやコンセプトがしっかりないとレベルが下がります。

そしてコンセプトを形成するとき、ブランディング戦略も含めて考えるため、「差別化」という要素を軽視できません。その際、これほど多くの企業やブランドで使用されている書体を「あえて使う」とき、差別化のハードルは高くなります。

が故に、グラフィック・デザイナーは、ヘルベチカを今では少し避ける傾向がある気がします。

しかし、その一方でヘルベチカの販売元であるMonotypeは、2019年にHelvetica Nowという新しい書体を発表しています。ヘルベチカは進化し続けているし、その人気は衰えても居ない様子です。



ヘルベチカという書体はどういう種類か

こちらがヘルベチカの見本です。

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見ての通り、シンプルで読みやすいサンセリフです。サンセリフとはこちらで説明していますが、日本で言われるところの「ゴシック体」です。

ヘルベチカは、サンセリフの中でも「ネオ・グロテスク・サンセリフ」というカテゴリーに分類されます。サンセリフ黎明期のグロテスクをより読みやすく整えたものがネオ・グロテスクです。ヘルベチカのほかに、UniversやFolioという書体もネオ・グロテスク・サンセリフとして有名です。


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Univers
By Blythwood - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=41107519


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Folio
By GearedBull, Jim Hood - Own work, CC BY 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2125194



ヘルベチカをデザインした人は

ヘルベチカという書体が世に出たのは1957年、スイスでの展示会Graphic57に出展されたとき。このときはBoldという太いバージョンしかありませんでした。

スイスのHass鋳造所( Haas Type Foundry)というところから販売されました。デザインしたは、マックス・ミーディンガー(Max Miedinger)。エドアード・ホフマン (Eduard Hoffmann)というディレクターとともに制作しました。コンセプトメーカーがホフマン氏、制作がミーディンガー氏と言った按配。

詳しくは、日本語でもあるこちらの著書に経緯や、制作過程の書簡などが載っています。これを読むとヘルベチカに限らないことですが、一つの書体を作るのに多くの試行錯誤があることを知れます。

こちらが英語版。


マックス・ミーディンガーさんはこんな感じの方です。

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マックス・ミーディンガー氏
source: http://dottysresearchjournal.blogspot.com/2014/05/max-miedinger.html


エドアード・ホフマンさんは、こんな感じの方。

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エドアード・ホフマン
source: https://multimediaman.blog/2013/05/11/eduard-hoffmann-1892-1980/



ヘルベチカという書体のおもしろいところ

完成度が高い書体は他にいくらでもあるのですが、ヘルベチカは飛び抜けて人気が高い。その理由は、よくわからないのです。視認性は少し低く、ユニバーサルデザインとが言い難い。小文字のcやeの隙間が狭く、小さく、または離れてみるとどの文字かわかりづらい。シンプルに洗練されたラインは、それでいて幾何学的ではなく、またGill Sansのように人間味が強いわけでもない。しかしどことなく愛嬌がある。

使ってみると簡単に?ロゴのようにきれいに印象がまとまる。

魅力があるのはわかるし、どういう書体なのかは説明できるのですが、「なぜこれほど魅力があるのか」についてはうまく説明できないのです。なぜかとてもモテる人のような謎。

ゆえにグラフィックデザイナーからヘルベチカをつかって提案が出されることがあれば、ぜひとも「なにゆえにヘルベチカなのか」と尋ねてみたいです。

例に上げたロゴにヘルベチカを使用している企業は、企業のブランドとヘルベチカをすでに融合させています。川崎重工業とスキンケアブランドのイソップではイメージがぜんぜん違いますが、どちらもヘルベチカを何の違和感もなく使っています。イソップについては、ロゴではなくプロダクトデザインに使っています。ロゴに使っているのはOptimaという書体。

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イソップのプロダクトデザイン
source: cult beauty “Aesop”

ロゴの下の表記に使われているのがヘルベチカです。


まとめ

ヘルベチカについで有名で人気のある書体にFuturaというものがあります。

レコード屋さんに行ってジャケットをいろいろ見ているとこの2つの書体に何度も出くわします。Futuraはとても幾何学的ながら碑文のプロポーションをベースにしていて読みやすく、高貴さのようなものが含まれています。

この2つの書体に共通しているは、「異なるいくつかのものが同居している」というところ。酸味と甘味とかオーセンティックさと現代っぽさとか。そういう、或る意味、アンビバレントな要素が含まれている。もしかしたらこれが魅力を強くしている理由かもしれません。塩が少し含まれたデザートの魅力のような矛盾したものが同居することで生まれる複雑さ、それはまるで人間のよう。

つまり人間は、人間のような複雑さを持つものを好むのかも知れません。


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