【ショートショート】ベーコン座布団
「さっ、どうぞ」
人里離れた宿の主人に差し出された敷物は、明らかに巨大なベーコンだった。
そうである。あの肉のベーコンである。
「さ、ささ、遠慮せずにお掛けになってください」
(遠慮せずにって、ベーコンの上に座れと)
最初、自分がおかしくなってしまったのだろうかとか、これは夢の中なのではないかと思った。
「さ、ささ」
なおも宿の主人は勧めてくる。ベーコン座布団の一部を触り、指についたテカテカする物をなめてみた。
(やはり、ベーコンだ)
明らかに塩と肉の味がした。
クシュンッ、クシュンッ
突然、クシャミが出たかと思うと止まらなくなった。
「早すぎたか」
天井からそう聴こえた気がしたので上をみると、頭上にはこれまた巨大なコショウ入れが、穴の方を下にして、プラ~ン、プラ~ンとぶら下がっていた。
(やや! もしや、自分を肉巻きベーコンにする気では?!)
宮沢賢治の『注文の多い料理店』を思い出して
(はて? あれはどうやって無事に逃げ出すことができたんだっけ?)
と、震える体とは別に、冷静な頭は記憶を手繰り寄せつづけた。
(終わり)
古雑誌から、『座布団』と『ベーコン』をランダムに抽出し、今回のショートショートを作りました。
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