【小説】あと22日で新型コロナウイルスは終わります。
~はやる気持ちをおさえて~
⚫⚫さんとは、ゴゴイチの午後3時で来院の約束をしたが、「今日は来ないかもしれないなあ。」とはどのスタッフも思っていた。
だからこその“火曜日”指定であった。今日来られなかったとしても、明日“水曜日”なら⚫⚫クリニックは開院している。⚫⚫クリニックの定休日は、木曜日と日曜日だった。
逆に、月曜日に来院の約束をしなかったのは、前日に⚫⚫さんに何かハプニングがあり、⚫⚫さんが当院に相談したくても、日曜日なので、当直当番の医師のPHS以外には連絡できなかったからだ。
火曜日の午前10時や午後3時に来院の約束をしたのは、何から何まで、院長と看護師たちの計算だった。
ところが、みんなの予想に反して、午後3時ピッタリに、⚫⚫さんは現れた。
その横には、⚫⚫さんの前のパートナーの名前を名乗っていると思われる現在のパートナーがいた。
二人は爽やかさだった。拍子抜けするくらい、どこまでもどこまでも爽やかな笑顔だった。事情を知らない人が見たら、幸せいっぱいのカップルにしか見えなかっただろう。だが、上の子二人はいなかった。
パートナーには、新型コロナウイルスの予防と称して、外で待ってもらうことにした。他のカップルも同じ対応だから、そのことで何か疑われることはないだろう。
⚫⚫さんが、妊婦健診の一貫である検尿・体重測定・血圧測定を終えると、彼女だけを別室に呼び出した。
「私は看護師の⬛⬛です。電話で何回か話したことがある。そう、久しぶりだね? 元気にしていた?」
電話で対応をし続けていた看護師は当たり障りのない話から始めた。
⚫⚫クリニック側としては、聞きたいことや確認したいことが山ほどあったが、急ぎすぎると⚫⚫さんとそのパートナーに怪しまれて、またしても行方不明になってしまうかもしれない。看護師ははやる気持ちをおさえた。
✔体調はどうなのか?
✔5週間以上も妊婦健診に来られなかった理由
✔こちらから掛けた電話には出てほしいこと
✔出産時と育児をサポートしてくれる親族や友人はいるのか?
✔パートナーとはうまくいってるのか?
✔お産はどこの医療機関でするのか自分で決めているのか? もし、決めかねているなら、当院で決めていいのか?
叱るのでも問い詰めるのでもなく、優しく声をかけて、彼女の心の声を聞き出して言った。そこから少しずつ分かってきたことは、
✅出産時と育児に協力してくれそうな親族も友人・知人もいそうにないこと
✅パートナーの感情には波があり、うまくいくこともあれば、そうでないこともあること
✅お産先は特に決めていないことだった
看護師は要点をまとめて、院長に伝えた。
院長としては、⚫⚫さんが来院する前からすでに結論は出ていた。
ケースワーカーが常駐していて、保健センターや警察など様々な機関と連携が取れているかなり大きな総合病院に案内することだった。
診察室に⚫⚫さんを呼び出すと、まずは、内診やエコー検査を実施した。
それが終わると院長は、⚫⚫さんに、転院先一覧をみせた。
それは、総合病院一覧で、本来なら、合併症がある妊婦さんに見せるための紙だった。⚫⚫さんはそれを見るなり、
「でも、こういうところは高いんじゃないですかね?」
と聞いてきたので、大部屋を選択すればそれほど高くはならないことや、ケースワーカーが相談に乗ってくれることを伝えた。
「この紙を持って帰っていいですか? 彼とも相談したいし。」
⚫⚫さんがそう言うと、院長と看護師は、
「次回は紹介状を渡す予定なので、希望先を決めてくるか、特になければこちらで決めさせていただきます。」
と伝えた。⚫⚫さんの次回の妊婦健診は1週間後に決まった。⚫⚫さんの週数なら本来は2週間後だが、妊婦健診にあまり来ていなかったことと、早く大きな病院に紹介したいという⚫⚫クリニック側の気持ちがそうさせた。
新型コロナウイルスが終わるまで、
あと22日。
これは、フィクションです。
◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口
▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)
▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)
▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)
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