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【小説】あと28日で新型コロナウイルスは終わります。

~ほんとうの犯人とは?~

「そう言えば、……最近、見かけていません。」

ネットカフェの女性スタッフがそう答えると、店長と警察官は目を合わせ軽くうなづいた。

「彼が来たのは、ほんとうにそれが最後ですか。」

「少々お待ちください。今、調べますね。⚪⚪さん、そのお客さんの名前はわかる?」

店長が女性スタッフにたずねた。

「たしか⬛⬛さんです。その日の前日までは、ほぼ毎日夜の9時半くらいから11時くらいまでに入店していた喫煙ルームのお客さんなので、そこからもたぶんデータを引っ張って来られるかと。」

「ああ、たしかに⬛⬛ ⬛⬛さんは、その日の前日まで、ほぼ毎日その時間帯に喫煙ルームを使っていますね。それ以後は当店に一切来店していません。」

店長は端末をいじりながらそう答えた。

「他の店舗に行かれているかどうかわかりますか?」

「ええっと、△△店に最近来店した記録があります。」

「わかりました。⬛⬛ ⬛⬛さんの来店データや住所・電話番号をいただけますか。」



それから、1週間くらいして、ネットニュースに⬛⬛ ⬛⬛容疑者の名前が載った。

警察から全店に「⬛⬛ ⬛⬛が入店したら連絡するように」と伝えてあり、⬛⬛ ⬛⬛が🔘🔘店に入店したとスタッフが警察に連絡し、警察官が駆け付け、⬛⬛ ⬛⬛に任意で事情を聴いたところ、あっさり財布を置き引きしたことを認めた。

容疑者によると、いつものようにいつもの店舗に入店しようとしたところ、受付カウンターから一段低い位置に黒色の財布が置いてあるのに気づき、そのまま盗って逃げたそうだ。

コロナの影響で会社から契約を打ち切られ、捕まったときの所持金は213円で、
「『疲れた。もう逃げられない。』と思った。」
そうだ。

213円ではそこのネットカフェを30分も利用できないが、最後にネットカフェで好きな映画を観たりマンガを読んだり、シャワーを浴びたり、無料飲食をたくさん摂って、リュックにその飲食物をたくさん詰め込んだら、一時外出をする振りをして、そのまま戻って来ないつもりだったそうだ。



「よく分かりましたね?」

アキナは田中のおばあちゃんにそう言った。

「ここのネットカフェは、木目調で統一されていて、それの良いところは、落ち着いて見えるし、汚れやゴミを目立たなくさせているんだけど、悪いところは、わたしみたいな老眼持ちからすると、暗い色の物が置いてあっても、木目と同化して分かりにくいんだよ。財布を盗まれたと言っていた男性も、恐らく視力が低かったんだろうよ。」

そこのネットカフェは、お客さん側に一段低いカウンターがあり、幅が10㎝くらいあるので、バッグからメンバーズカードや財布を出すときに、バッグを置くのに重宝していたが、そこに財布、スマホ、メガネ、折り畳み傘などの忘れ物をする人が多かった。また、監視カメラも、来店するお客さんの顔とレジまわりを映す位置にあり、そこは死角になっていた。

犯人が捕まったからと言って、晴れ晴れとした気持ちにはなれなかった。犯人にいかなる事情があれ、財布の置き引きは許されないことであるが、コロナがなければ、会社の契約を打ち切られなかったら、政府がもっと対応をしていたら、様々な給付金の手続きや福祉に相談すること知っていれば、おこらなかった事件かもしれない。

「アキナさんは、これからどうするんだい?」

田中のおばあちゃんにそう聞かれて、アキナはアキナの抱える問題に向き合わざるを得ないときが近づいていると感じた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと28日。

これは、フィクションです。画像のネットカフェとは一切関係がございません。

 ◆自殺を防止するために厚生労働省のホームページで紹介している主な悩み相談窓口

 ▼いのちの電話 0570・783・556(午前10時~午後10時)、0120・783・556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)

 ▼こころの健康相談統一ダイヤル 0570・064・556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)

 ▼よりそいホットライン 0120・279・338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120・279・226(24時間対応)

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