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【短編小説】しげのぶ真帆・短編集

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物語を創作したくて、少しずつ書きためたものをこちらに公開します。 ご感想など、いただけると嬉しいです。
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【短編小説】屋敷森奇譚

【短編小説】屋敷森奇譚

 戦争は終わった。

 今、俺は故郷にいる。自分の命を確かめるように、長く静かに息を吐き出す。身体に溜まっていた邪気みたいなものが、重ったるい夜の空気にトロリと溶けて行く。両手を広げて、思いきり息を吸う。硬直した肋骨周辺の筋肉が、緊張から解き放たれて久々に自由を取り戻す。

(いいぞ。俺は生きてる)

 湧き立つような喜びが、腹の底から身体の外に溢れ出る。もう一度、息を吸う。湿った土と、むせ返るよ

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【短編小説】学食にて

【短編小説】学食にて

 学食のテーブルの上には、食べかけのAランチが行き場を失い、紙クズみたいになっている。
「なぁ、コタ。ここの窓、やたらデカいのな」
 俺がそう言うと、コタはスマホから目を離さずに「あぁ」とか「ふん」とか、超どうでもいい風の相づちを打つ。
「なんか、水族館みたくね」
 ヘラっと話しかけてみたけれど、コタの反応はない。俺はたぶん、Aランチの残骸の上にひとりごとをばら撒いているだけだな。
 窓の外は陽射

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【短編小説】戀う -KOU-

【短編小説】戀う -KOU-

「やっと あえた」
 病棟の中庭にたたずむ男性を見つめて、ばあちゃんは絞り出すように言った。
「お~ん」
 そして、いきなり泣き出す。車椅子から飛び降りるかと思うくらいに前のめりになり、おんおんと泣いている。迷子の子どもが親を見つけた時のような、あけすけな号泣っぷりだ。
「やだ、ばあちゃん、どうしたの?」
 私は慌ててなだめるけれど、ばあちゃんのおんおんは中庭に大反響。散策中の患者やスタッフが、一

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