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いま話題の「経営人事」「戦略人事」とは何か?『しが採用ゼミ』第1回講義より──Happy elements 内藤健次さん

ローカルで活動する人事と経営者が、採用・経営課題の解決をともに目指す『しが採用ゼミ』。前年度好評だったこのプログラムが、2023年度も全4回でスタートしました。

このゼミでは毎回、ゲスト講師にさまざまな角度からインプットをもらった後、参加者同士の対話を経て、それぞれが抱える問題や今後行う施策の整理を行っていきます。

2023年8月22日に行われた第1回は、登壇したHappyElements株式会社の内藤健次さんに、今注目される『経営人事』『戦略人事』とは何か、整理をいただきました。今後のゼミのベースとなる講義であり、地方で「人」の獲得に課題を感じている方々に広く参考になるお話であったことから、その貴重な内容を本記事では再構成してお届けします。

しが採用ゼミ講師:内藤健次(HappyElements株式会社 執行役員 人事グループリーダー)

【職務経歴】
1. 三洋電機で海外営業(1.5年)
2. 外資系人事コンサルティング会社勤務 子会社社長(4.5年)
3. ポケモン 人事部長、子会社管理部長(6.5年)
4. スシロー 人事部長、海外法人社長(8年)
5. HappyElements 人事担当執行役員(3.5年)

経営&人事に携わって22年半

内藤:みなさん初めまして。私は普段、企業の中で人事をしています。今日は講師という立場でお話をさせていただきますが、日々みなさんと同じように、現場で悪戦苦闘しながらの毎日を過ごしております。

これまでいくつか仕事を変えてきたなかで、現職を含めて「企業人事」としてのキャリアは18年になります。その前、外資の会社で子会社の社長をやっていたときを含めて、22年半ぐらい「人事」に関わる仕事をしています。

経営者の気概のようなものも多少経験しながら、人事としてのいろんな悩みにも直面してきました。そこで学んだことを元に、今日はお話させてもらえたらと思います。

『経営』とは?

内藤:今日のテーマにもある『経営人事』。かっこよく聞こえる言葉ですが、正直よくわからないですよね。最近だと『戦略人事』や『人的資本経営』などの言葉も出てきました。基本的にこれらの言葉は「どれも同じことを言っている」と私は思っています。

では、『経営人事』とはどういう意味なのか。言葉を分解して考えてみます。

まず『経営』。小学館のデジタル大辞泉には、“事業目的を達成するために、継続的・計画的に意思決定をおこなって実行に移し、事業を管理遂行すること。また、そのための組織体”とあります。「継続的・計画的に」というのがポイントですね。当たり前ですが経営者のみなさんは、今年だけうまくいったらいい、などと思っていません。事業が長くうまくいくように、必要なリソースを使って「何とかやりくり」していく。これが『経営』かなと、私は解釈しています。

(当日の資料より、以下同)

内藤:これってでも、とても難しいですよね。なぜかというと、時代が変わるからです。今まで「これでいい」とお客さんも言ってくれていたのに、突然「これじゃダメ」みたいなことが起こる。常に新しいサービスを考えていかないと、事業としては継続できないんです。

一方で、必要なリソースの状況も変わり続けます。リソースは「人/モノ/お金/情報」によく分けられますが、特に「人」の採用は本当に難しくなりました。しかし、他のリソースを集めたり活用したりするのは、結局この「人」です。一番の源泉としての「人」が止まってしまうとどうしようもなくなるので、「何とかやりくりをする」必要がある。これが経営の仕事になります。

『人事』とは?

内藤:では、次に『人事』という言葉も見てみます。大辞泉だと“個人の身分・能力に関する事項。人の一身上に関する事柄”などとありますが、これだとよくわかりません。

似た言葉で『HRM』(Human Resource Management)の意味をあたると、リクルートマネジメントソリューションズの用語解説には“人材を経営資源として捉え、有効活用するための仕組みを体系的に構築・運用することを意味する。具体的には企業戦略を実現するために必要な人的資源の需要を予測し、予測に基づいた採用、教育・育成、配置を行う”といった記載があります。
わかりやすくすると、「採用する人や今働いてくれている人が、経営にインパクトを出すような施策を考え、実行する」ということになるかと思います。そしてこれは、中原淳さんが著書(ダイヤモンド社『人材開発・組織開発コンサルティング』)の中で、『戦略人事』を表した言葉と重なります(下図)。私が『経営人事』という言葉の意味を考えるときも、この表現が一番しっくりきています。

内藤:ここには、よく人事の仕事として語られる「人材開発」「組織開発」「採用」「配置異動」「評価」などはすべて、手段だと記されています。あくまで人事の機能であって、目的ではないんですね。それぞれの施策が経営にインパクトを与えるものになっているかを、私たちは常に考えておく必要がある、ということです。

「内的整合性」がないと、組織は白ける

内藤:人事のみなさんに少し振り返っていただきたいのですが、経営者に突然、こんなことを言われた経験ってないでしょうか。

「そろそろ繁忙期も終わるな。何かここらで、みんなの元気が出るようなこと考えてくれ」

で、やってみたものの、その取り組みがどうだったかのフィードバックはなされない。せっかく考えた施策なのに、翌年継続されることもない……。こういうケース、結構多いんですね。

すると従業員って、そういったものを割と冷めて見ていますから、「はい、また何か始まりました〜」みたいな流れにすぐなっちゃう。実際に従業員からすれば、突発的に何かイベントをされたとして、それでずっと元気が出るのか?って話なわけです。

もちろん私も、経営者の発案自体を否定するつもりはなく、「生き生きと仕事をしてほしい」と従業員を思う気持ちはすごく尊いと思います。ただ、こうした人事施策では、「一貫性」がすごく重要です。

その発案が自社の方針と整合しているか、「会社をこうしたい」「そのために、みんなにこうなってほしい」という一貫したストーリーの中に本当にあるのか。経営の方は、人事に何かオーダーするなら、ぜひそこから考えてほしいと思います。一方で人事は、経営側からのオーダーが本当に一貫しているか、整合性があったとしても、その上で自分が実際に行う施策が本当に経営にインパクトを出せているか、を必ず考えてください。

そこの確認ができていないと、組織は簡単に白けてしまいます。組織が白けると、「頑張っている人が浮く」という状態が生まれてしまうんですね。

企業の戦略実現に必要な人材を、どう確保するか

内藤:先ほどの『戦略人事』の定義には、“企業の戦略実現に必要な人材を確保”とあります。では実際に、組織を白けさせず、経営にインパクトを与える人材をどう確保すればいいのか。考え方としては実はとてもシンプルです。

1つは「採用する」。もう1つは「辞めさせない」。究極的にはこの2つをやるだけで、人は自ずと溜まっていきます。

内藤:ちゃんと「採用する」には、そもそも「企業の戦略に必要な人材はどんな人ですか」と聞かれて、きちんと答えられる状態にしておく必要があります。でも、実際に人事の責任者や経営者の方で、これをパッと言える方は多くありません。

また、継続的に事業を進めていくにあたって、そんな人がどのくらいの人数要るのか。今年だけじゃなく、例えば5年後はどうか、みたいなことも見据える必要があります。その上で、具体的な採用活動を行っていく。

「辞めさせない」についていえば、もう一歩踏み込んで「生き生き働いてくれているか」「活躍しているか」という視点で見ると、やれることは本当にたくさんあります。実績を出した人を評価する、人事異動で新しい刺激を与える、教育制度や労働環境を整える……。

もちろん、すべてをやる必要はありません。まずはできることの整理を始めながら、「このポリシーで従業員に向き合っていく」と決めてください。そこから、限られたお金や人員の中で、やれることを順にやっていくのがいいと思います。

ここで1つ注意が必要なのは、さっき言った「一貫性」を誰が見るか、はっきりさせておくこと。特に各機能の担当が複数に分かれている組織だと、それぞれの人事が「自分がいいと思うこと」をやるので、バラバラになりがちです。「採用で聞いた制度が、実際に入ると全然整っていない……」なんて事態にならないよう、人事責任者でも経営者でもいいので、全体の整合性を必ず確認するようにしてください。

“マイナス”を減らしながら“プラス”を増やす

内藤:「辞めさせない」で良い状態を保つ取り組みを、もうちょっと具体的に書いておきました(下図)。見てわかるように、従業員にとっての“プラス”を増やす視点と、“マイナス”を減らす視点の2つに分けることができます。

「できることから」といった場合、みなさんよくプラス面に目がいきますが、実はマイナス面をなくしていくことも大事です。このマイナスは、先ほどからお伝えしていた、従業員が白けていく状態です。これをちょっとずつ削っていくことで、思った以上に従業員のみなさんが元気になってくれるケースはよくあります。

内藤:そしてプラスの積み重ねは、実は「採用する」につながります。みなさんも感じておられると思いますが、今後の採用はより一層、口コミ勝負の世界になる。ここで積み上げていったものが、「一貫性」かつ「継続性」ある取り組みとして伝わっていくことで、放っておいても採用できる状態がつくれると私は考えています。逆にそうした視点をなしに、機能としての人事の仕事だけをやっていると、どんどん人を採りづらい世の中になっていきます。

私の場合はよく、社員や応募者に知り合いを連れてきてもらうことをします。いわゆる「リファラル採用」です。誘う人が自社にとって魅力的な人だったら、誘われてくる人もいい人である確率がすごく高い。逆に「うちは白けるポイントがすごくある」と思っている人に、誰か連れてきてもらおうとしても無理です。だから、採用戦略だけで何とかしようと考えてはダメなんですね。

「採用する」と「辞めさせない」2つのサイクルをひたすらぐるぐると回しながら、活躍してもらううえでのマイナスポイントを減らし、1つでもプラスポイントを増やしていく。そうすることによって、企業の戦略実現に必要な人材を確保できるし、売上や利益確保にも継続的に貢献できると考えています。

『しが採用ゼミ』本講義では、ここからさらに内藤さんが実際に行った具体的な施策例を共有いただいたあと、参加者同士が自社の課題を洗い出し、人事戦略を立てていくワークを実施しました。またそれぞれ持ち帰った「宿題」を次の講義までに整理し、発表する、というサイクルを4回かけて行っていきます。

第1回の講義を終えた内藤さんには、参加くださった10社に向け改めてメッセージをいただきました。

「今後ますます、経営も人事も採用も難しくなってくることが予想されますが、共に従業員の方々と真正面から向き合って、いい世の中、いい会社、いい人事組織を作っていきましょう」

【前年度の振り返り記事】

(執筆・編集:佐々木将史


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