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「5年後&10年後の組織図」づくりから、次の技術を生み出す──扶桑工業(長浜市)

琵琶湖の北東部・長浜市を拠点に、建設重機や農業機械に使う部品を製作する「扶桑工業株式会社」。世界のパワーショベルの約半分に同社のパーツが使用されるなど、グローバルに通用する、高い技術力を持つ企業です。

“BtoB”という事業の特性上、一般への認知度は高くなく、以前から採用には頭を悩まされていましたが、近年は「やんちゃ、集まれ。」をコンセプトに掲げるなど若い世代へのアプローチを強めています。また、そのコンセプトを軸にした研修プログラム「やんちゃ塾」をスタートしたり、現場社員のエンゲージメント調査を元にした組織改革「シン・フソウプロジェクト」を立ち上げたりと、人材育成や働く環境の整備も進めてきました。

2022年度秋に行われた『しが採用ゼミ』(滋賀に拠点を置く法人向けの、採用・経営課題の解決を目指すプログラム)では、ミッションやビジョン、今後の課題の整理などを改めて行い、人事戦略の策定にも踏み出した扶桑工業。「事業の成長」と「人の成長」の関係を、今どのように捉えているのでしょうか。

同社の代表取締役・髙橋善孝さんと、人事部門を率いる取締役・吉井浩二さんをたずね、これまでの取り組みや、未来の姿の描き方を伺いました。

3世代先に活躍する「やんちゃ」がほしい

——扶桑工業さんは、もともと「経営」と「人事」をかなり近いところで捉えていらっしゃいました。どういった背景があるのでしょうか?

髙橋:モノづくりの会社として、以前から「技術戦略」を中心に、中期経営計画・長期経営計画をずっと立ててきました。「30年後」にどんな技術を持ち、どんな事業をしているかを常に描きながら、会社も成長を続けています。

そこがまず前提としてあったうえで、「では30年後の技術を担うのはどういった人だろう?」という観点から、近年は人の育成により力を入れるようになりました。

扶桑工業株式会社 代表取締役社長 髙橋善孝さん

——30年後の技術を担うメンバーは、具体的な人の顔を思い浮かべてイメージされるんですか?

髙橋:そうですね。私が常にイメージしているのは「3世代」です。実際に今いる他の役員たちが、私よりひと回り下の、次世代と言えます。彼らよりさらにひと回り下の、今現場を引っ張ってくれている層が次々世代。3世代先は、ここ数年の新入社員たちの年代になるはずです。

彼らが扶桑工業を担っていく未来を想像したとき、「明るく、自分の意志を持った人」がもっと必要になると感じました。「やんちゃ」というコンセプトを打ち立てた最近の採用戦略などは、そうしたメッセージの表れとも言えますね。

扶桑工業は、やんちゃな人が好きです。

「やんちゃな人」というのは、「悪いことをする人」ではありません。従来の仕組みだけを頑なに守るのではなく、「自らが良いと思った行いを、信念に基づいて動ける人」のことをいいます。(略)

当社で働く人には、会社を使って、もっと遊んでほしい。会社を使って、自分のチカラを試してほしい。
社会に対してどんなインパクト・価値が出せるかを挑戦してほしい。滋賀の、湖北の魅力を積極的に発信してほしい。

(扶桑工業の採用サイトより)

——人事部門を率いる吉井さんも、そういった「世代」のイメージをずっと持たれていたのですか?

吉井:正直、そこまで壮大なことを描けていたわけではないですが、「若い社員たちがもっと活躍できる組織にしていく必要がある」とは感じていました。一対一で話すと、彼らの中にも良い意見を出してくれる人がたくさんいます。でも、それを日常的に発信できる機会が少ないんです。

若い世代がどんどん前に出られる環境をつくったら、もっと成長してくれるんじゃないか。そんな思いもあって、2019年頃から「やんちゃ塾」というリーダー層向けの育成プログラムを立ち上げるなどしてきました。

扶桑工業「やんちゃ塾」の風景

——まだ始めて3、4年だと思いますが、現時点での塾の手応えはどうですか?

吉井:参加する社員のモチベーションはかなり高く、「成長したい」という意欲を受け止める場になっていますね。初期に参加してくれた人がその後昇進したりして、現場の中核を担っていることもあります。

髙橋:会社への理解も深まったとは思います。扶桑工業がこれまでどのように成長をしてきて、今どういう方向を目指しているか、といった説明をする良い機会になりましたね。

一方で、そこに参加している1〜2世代先のメンバー自身の、「今後こういう技術を磨いて、こう事業を進めていきたい」という考えまでは、まだまだ見えてきていない。学んだものを生かして、「これを使って次はこうやりたい!」と言い出す社員がもっと出てきてほしいと感じています。

技術戦略×人事戦略で未来をつくる

——実績を拝見する限り、すでに高い技術力があるように思えるのですが、そこに留まっていてはいけないと。

髙橋:技術力の向上があってこそ、会社を未来に残すことができると考えています。今のモノづくりの現場では、自動化ロボットの導入などもどんどん進んでいますし、同じことをしていたら絶対に廃れてしまうんです。

実際、当社は1998年に一度破綻して、会社をやり直した経緯もあります。だからこそ、今は製造や経営に関する多くのデータを内部で公開していて、誰でも見られるようにもしている。技術や品質の重要性を全員で意識しあう風土の中で、将来の技術開発を担うメンバーを育てている最中なんですね。

後継者がしっかり育っている分野もありますが、もっと多方面にほしいというのが今の正直な気持ちです。

扶桑工業の「VM」(目で見る経営)活動(ご提供写真)

——吉井さんは昨年の『しが採用ゼミ』でも、新たな「人事戦略」の策定を掲げていらっしゃいました。髙橋さんがおっしゃる未来に向けた、新しい指針になりそうですが、どこがポイントになりそうですか?

吉井:今の話でもあったように、育ってほしい技術者のイメージはあるんです。社長や工場長も技術にはかなり詳しいし、新しい基礎技術などを学べる場も用意しています。だからこそ、「自分はこう変えていきたい!」という“モチベーション”そのものが育つようにしないといけないな、と思っています。

みんなが「技術を高めること」自体を前向きに捉える雰囲気というか、組織風土がないと、勉強したり提案したりしようと思えないですよね。そのためのコミュニケーションや労働環境など、根本的なところから見直す必要があります。

取締役 サポートセンター長兼営業部長 吉井浩二さん

——安心して学んだり働いたりできる環境を整えていこうと。

吉井:あとは、適正な評価も大切です。ただそこには、単に「取得した資格に対して評価給をプラスする」だけだと、発展がなく止まってしまう難しさがあります。評価とあわせて、学んだスキルを生かすための「具体的なチャレンジの場」を、どう設計していくかが重要だと思っています。

「5年後&10年後の組織図」をなぜつくったのか

——人事戦略を描くのと並行して、扶桑工業さんではもう一つ、「5年後&10年後の組織図」も作成中だと聞きました。これはどういった意図からですか?

吉井:社長の言う「3世代」のイメージを、もう少しみんなで見える化して、共有したいと感じたからです。というのも、当社にも60歳定年という制度があるなかで、実際には次のマネージャーが見当たらず、60歳を過ぎても残ってもらっていることが多かったんですね。

もちろん、今は65歳や70歳という年齢の方も働く時代だし、定年を伸ばす形でマネージャーをお願いすることが絶対に悪いわけではありません。でも、できれば次の代にスムーズに引き継げるようにしておきたい。

急に後継者を指名しようとしても、周囲も現在のマネージャーの力と比べてたりして、どうしても不安が先行してしまいます。長い目で見た「育成」の視点を持てるように、計画立てた組織図が必要だと考えました。

——作成しながら、どんな気づきがありましたか?

髙橋:単純に、もっと「やんちゃ」がほしいと感じました。自分で企画を立てて、どんどん前に進めていけるような……。そういう人材が現れるために、もっといろんな経験が積めるような異動も増やしていいのかな、とも思いました。

「技術力が大切」と言いましたけど、今の時点でその人が持っていなくてもいいんです。意志があって行動できれば、経験を糧に自分なりに考えて、自ずと成長できます。そんな機会を、今の中堅や若手にはあまり与えられてなかったかもしれないな、と思いました。

吉井:実際、次の人事異動も結構変わりますよ。

髙橋:私としては、本当はもっとガラガラポンって動かしたかったけれど(笑)。でも、まさに「5年後の組織図」に向けた、最初のステップになると考えています。

吉井:いろんな経験ができるのはやっぱり大事ですよね。今の会社を見渡しても、やっぱり技術開発や管理部門にいる社員は結構成長してくれているんです。それは何でだろうと思うと、やっぱり彼らは業務の中に、アイデアを出す機会がすでにあるんですよ。

一方で、製造部門だとどうしても「決められた作業をきちんとする」という仕事が優先されます。そのぶん、新しいことを自分で取り入れる働き方には慣れてない。異動を機に、そうした現場にいる社員が活躍してくれるようになったらいいな、と思っています。

髙橋:自分自身がそうだった……という経験を人に押し付けてはいけないんですが、私も品質管理、技術、営業、購買、総務経理といろんな部署で仕事をしてきました。技術や品質管理部門から歴代の製造マネージャーが出ていることを見ても、異動がポジティブな効果をもたらす面はあると考えています。今回はそこの認識を、「5年後」「10年後」という単位で、初めて役員間で共有する機会になりました。

魅力ある会社として、新たな採用へ

——貴重なお話ありがとうございました。最後に、人事戦略や未来の組織図が完成した先の、具体的な次の一手として考えていることがあれば教えてください。

吉井:会社の未来のためには、やはり採用がカギになります。そのためには、若い人たちに敬遠されがちな“製造業”のイメージから変えないといけません。扶桑工業がどんな会社なのか、働きやすさはどうなのか……若い世代に広く魅力が伝わるようなアピールの仕方が大切だと思っています。

もちろん、内実が伴っていないと意味がありません。現場の声を起点に進めている『シン・フソウプロジェクト』をうまく仕上げて、そうした発信につなげていけたらと考えています。

社内で10のチームを編成し進めている『シン・フソウプロジェクト』

髙橋:採用に関しては、手法の間口を広げたいなとも考えています。新卒採用は引き続き重視していきますが、全体のバランスを考えたときに、中途採用についてももう少し踏み込みたい。スカウトの活用なども視野にいれています。

あとは「産学連携」ですね。今ちょうど、龍谷大学の理工学部の研究室との交流が始まったところなんです。もちろん事業面でもプラスの効果を期待していますが、そこから採用にもつながる、次の良い出会いが生まれたらと考えています。

(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


【しが採用ゼミ2023 プレセミナーの案内】

昨年好評いただいた、会社を本気で変えるための経営層向け採用勉強会『しが採用ゼミ』を2023年度も開催。今年は8月から11月にかけての、全4回を予定しています。

先立って、6/28(水)にプレセミナーを実施します。株式会社Pallet代表取締役・羽山暁子さんを講師に迎え、「人事を経営の中心に据えることで、採用成功に導く」をテーマにお話しいただきます。

・日時:2023年6月28日(水)15:30〜17:30
・開催場所:オンライン(オンライン会議ツール「Zoom」)
・対象:滋賀県内に企業や事業所がある経営者、人事採用担当者
・参加費:無料
・申込み:https://shigajobpark.jp/2023/05/15/5017/

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