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採用コンセプト事例:扶桑工業株式会社「やんちゃあつまれ」

企業が採用活動をするとき、軸になる「採用コンセプト」をつくっておくことで、自社の魅力を「ブレなく」「強く」伝えられる。前回はそんな話を書きました。

今回はその続編。上の記事で触れた扶桑工業株式会社(滋賀県)のコンセプト『やんちゃ、集まれ。』について、設計のポイントを具体的に紹介します。

“隠れた”ローカルの優良企業

琵琶湖の北東、長浜市を拠点にする扶桑工業さんは、建設機械や、農業機械などの部品製作を行う企業です。アルミ鋳造技術に強みを持ち、「世界のパワーショベルの約半分」に扶桑工業のパーツが採用されているなど、知るひとぞ知る優良企業の一つ

かつて一度、経営危機に陥ったことから、経営指標を常に見える化する「VM(Visual Management)経営」などを導入されており、働く人から見ても“めっちゃホワイト”だと、胸を張って紹介できる企業さんです。

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ただ、ローカルの「BtoB企業」によくある話なのですが、技術競争力があり、しっかりと利益をあげているにもかかわらず、その存在があまり一般には知られていない、という課題があります。そのため、採用にはとても苦労されていました。

上のWebサイトはリニューアル後のものですが、それまでは掲載される情報も少なく、採用ページにも「募集要項」があるだけ。一般向けの製品を販売しているわけではないこともあり、同じ長浜市内に住む人であっても、「看板だけは見たことがあるけど、実際に何をしている会社なのかよく分からない」状態だったわけです。

「もっと自社の魅力がきちんと伝わるようにしたい」というご相談を受け、私たちと一緒に、Webサイトだけでなく採用コンセプトの設計から、根本的につくり直すことにしました。

コンセプトのもとになる「キーワード」を探す。

「ブレなく」「強く」扶桑工業さんの魅力を伝えるために、一番ふさわしいコンセプトは何か。

それを探るため、まず最初に、人事担当の方に社長と専務を加えて、「どんな人がほしいですか?」とヒアリングをしていきました。ここで取ったアプローチは大きく2つです。

1つ目は、経営側で感じている課題を明らかにする。つまり、もし今の組織に足りないものがあるとしたら、それは「どんな要素が不足していると思うのか」を聞いていくんです。

今回の場合では、「大人しい人が多い」という意見が出ました。もう少し「はっきり自分の意見を主張する」要素を持つ人がほしいなぁと。

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これを踏まえての2つ目のアプローチが、今いる人のなかで、「この人がもう1人いてくれたら嬉しい人」を具体的に挙げてもらい、その要素を分解していくことです。採りたい人を「社内にいるエース」から想定して、性格や、仕事の進め方、モノの考え方などをタグ化し、キーワードを出していくんですね。

扶桑工業さんの場合、「大人しくない」人で「もう1人いてくれたらいいな」と思う方を聞くと、共通してある方の名前が挙がりました。

その方ってどんな人なんですか?
「とにかく仕事楽しんどるなぁ」
どこが違うんですかね?
「めっちゃ自分で考えとるなぁ」……

そんな話をひたすら続けるうちに、ポロっと出てきたのが、『やんちゃ』ってキーワードだったんです。「要はやんちゃな人ですよね?」って聞くと、「確かにやんちゃやな」と

採用過程に照らし合わせてみる。

キーワードが出てきたら、それを基準に、実際の採用活動のシーンを想定していきます。扶桑工業さんの場合、これが見事にハマっていきました。

たとえば、『やんちゃな人を採用しませんか』ってなったらどうですか?
「採用するなぁ」
そのとき、来てほしい“やんちゃな人”ってどういう感じですかね?
「上司とかにも臆せずに、芯を持って意見言えるやつちゃうかな」
なるほどなるほど。もしその人が入ったとしたら、期待することってありますか?
「たとえば、こんなもの作ってみましたって、勝手に作ってほしいかも」
良いですね。会社説明会で、そんな、やんちゃな人募集してます』って言えたらどうですか?
「説明しやすいなぁ……!」
きましたね……

こうして、コンセプト「やんちゃ、集まれ。」が誕生しました。あとは定義を明確にし、言葉を整えていくことで、より「ブレなく」「強い」コンセプトへと磨き上げます。

扶桑工業は、やんちゃな人が好きです。
「やんちゃな人」というのは、「悪いことをする人」ではありません。従来の仕組みだけを頑なに守るのではなく、「自らが良いと思った行いを、信念に基づいて動ける人」のことをいいます。
当社で働く人には、会社を使って、もっと遊んでほしい。会社を使って、自分のチカラを試してほしい。

社会に対してどんなインパクト・価値が出せるかを挑戦してほしい。滋賀の、湖北の魅力を積極的に発信してほしい。

(現在の採用サイトより一部抜粋)

コンセプトを軸に、表現を統一させる。

明確な採用コンセプトがあれば、言葉選びはもちろん、Webサイトなどのデザインも統一しやすくなります。目指す場所がはっきりするので、つくる側も迷いがなくなる。

たとえば、「やんちゃ、集まれ。」だと、大人しめの表現は使わなくなりますよね。何のフォントを使うか。色のトーンをどうするのか。どんな写真を使うのか。

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統一感のあるサイトは、応募者にもきちんと刺さります。逆に、統一感がない採用サイトは、応募者に迷いを生んでしまう。コンセプトをしっかり意識して、サイトデザインなどに反映させていきます。

「やんちゃ、集まれ。」が生んだメリット

実際に「やんちゃ、集まれ。」を軸にし、採用戦略を変えたことで、扶桑工業さんの状況はどう良くなったのでしょうか?お聞きして感じたのは、大きく2点です。

1つは、会社説明のしやすさ。「うちは『やんちゃ、集まれ。』ってやってます」「うちが求める『やんちゃ』はこういうことです」と、話す際に迷いがなくなった。情報が整理されたため聞き手の頭にも入りやすく、「応募者の企業理解にもつながっている」と感じているそうです。

もう1つは、選考時の評価基準。「この人は『やんちゃ』の基準に合致してるか」などの視点で整理できるようになりました。面接は「なんとなく違う気がする」といった感覚値で評価してしまいがちでしたが、なぜ違うかの基準ができたことで、面接官によってのブレが減るんですね。

扶桑工業さんからは、「なぜあなたが良いか、良くないかのフィードバックにも使いやすい」という声ももらっています。この結果、新卒採用でも、興味を持ってくれる学生が明らかに増え、内定者の獲得につながりました。(もちろん、つくったコンセプトを扶桑工業さんが採用活動でしっかり運用したからこそ、そうした成果が生まれています)

また、そこから派生して、現在は社内の人材育成にも「やんちゃ」というキーワードが浸透してきました。採用の基準は、今いる社員の方に求める行動指針にもなるからです。

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(扶桑工業が考える人材像を、現場の社員さんに落とし込む人材育成プログラム「やんちゃ塾」が動き出しています)

「社員に何を期待するのか」を語る言葉は、ときに難しくなりすぎ、なかなか浸透しにくいという課題を抱えがちです。しかし、「ブレなく」「強い」キャッチーなコンセプトである「やんちゃ」は、少しずつ扶桑工業さんの内部へも浸透し、機能し始めているようです。

採用コンセプトを軸にした組織戦略の一つの事例として、ぜひ参考にしていただければと思います。

北川雄士/Yuji Kitagawa

滋賀県彦根市生まれ。株式会社いろあわせ代表取締役。
広告代理店、ITベンチャー企業の人事部門責任者の経験を経て、2014年にフリーの人事として独立。これまでに数千人の面接を経て来た。2015年末にUターン。ひと・もの・まちを“掛け合わせ”、それぞれが持ついろや魅力を大切にしたいとの想いで、株式会社いろあわせを設立。現在『しがと、しごと。』をはじめ、行政や地元企業と共に地域発の採用の仕組みや場づくり・まちづくりを積極的に実践中。(TwitterFacebook


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(編集:佐々木将史



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