【ハーブ天然ものがたり】がま
通気性よく、ふわふわです
「アジア圏の薬草」というと世界3大伝統医学から、漢方やアーユルヴェーダのイメージが強まりますが、日本には中国やインド発祥の医学が導入されるはるか以前より、植物を薬とする療法がありました。
もっとも古く記録された薬草は古事記「因幡の白うさぎ」に登場する、がま と呼ばれる日本のハーブ。
その特徴的な見ためは、いちど目にしたら忘れられない風貌で、湖畔や河川、沼地などで風にゆれる群落をみていると、すぅっと太古の空気につつまれるような、フシギ感情がめばえてきます。
がまは漢字で蒲と表記されます。
ガマ科ガマ属の水生植物で、茎の下部と根っこは水中にあり、茎上部はふつうの陸上植物とおなじ組成なので、ぜんぶ水につかってもだめだし、水が枯れてもよごれすぎても生育できません。
ですが、がま の群落はきれいな水辺にばかり生育しているわけではなく、みためも匂いもどろっどろの大地に根を下ろしている風景はめずらしくありません。
がまは地下茎が呼吸できないような土壌になっても、葉でつくる酸素を水中部位にはこぶ力があり、そのため葉茎はスポンジみたいな空洞だらけになっています。
葦とおなじで大地を浄化する作用が高く、通気性ばつぐんの葉茎は、やわらかくて手ざわりがいいので、むしろやすだれなどの材料として活用されてきました。
別名を水草といい御簾草の異名ももっています。
がま は北半球の温暖な地域にひろく自生し、オーストラリアにも繁殖しています。
フィリピンではバッグや帽子などをつくる資源として重宝され、椅子などの家具にも活用されているそうです。
ネイティブアメリカンの人々にとっても、貴重な食源・薬だったという記録がのこっています。
日本では布団は明治のころまで「蒲」団と表記していたといいます。
日本の文学界に私小説という形式を刻印したといわれる「蒲団」田山花袋(青空文庫) でもわかるように、1907年に発表された小説の表題は、ふとんに蒲の字をつかっています。
がまがふとんの語源になったのは、江戸時代まで丈夫で柔らかな がま の葉をつかって、円く編んで平らな敷物をつくっていたから、という説が有力です。
雌花から採取できる綿毛(羽根つきの種)を布につめたという説もありますが、出典は確認できませんでした。
ただ雌花が放出する綿毛のすさまじさをみると「ふわふわ星人あらわる!」という感じで、けっこうな衝撃をうけるので、たしかにこの綿毛の量ならふとんの一枚や二枚つくれそうだなぁと思ってしまいます。
がまの英名はたくさんあり
・cattail(ねこのしっぽ)
・bulrush(カヤツリグサ科のパピルスやフトイの呼び名でもあり、編みこんで敷物をつくれる植物の総称)
・reedmace(葦の仲間)などが有名どころです。
ふわふわ星人の正体
蒲という漢字の「甫」は、田んぼに草が生えている状態を示す語源説があります(OK辞典さまから画像お借りしました)
水の流れる、四角い大地から、空気をふくんで成長する がま は、地下茎をのばしながら群落を拡大し、種をとばしてさらに生育場所を確保してゆきます。
茶色いかまぼこみたいな穂は、花がおわったあとの雌花部分で、このなかに「ふわふわ星人」が潜んでいるのですが、その正体は約35万個もの羽根つき種です。
雌花は秋の深まりとともに茶色く色づいて、種は穂をつき破って飛んでいきます。
外からやさしく揉んだりさわったりして刺激すると「どんだけ内包しとったの?!」と、驚くほどの種が噴出してきます。
わかりやすい動画みつけたのでお借りします。
がま の花は、花といっても花びらもガクもない、菖蒲の花に似た棒状のカタチをしています。
がま は上部に雄花、下部に羽根つき種を噴出させる雌花という2段がまえの構造で、雄花には黄色い花粉がたんまりとついており、因幡の白うさぎでは、皮をむかれてヒリつくうさぎの肌を癒すのに使われました。
(羽根つき種の入っているがまの穂を使用した説もあります)
雄花につく がま の花粉は蒲黄といい、古くから傷薬として使われてきたのはもちろん、現代では消炎、止血の薬効がある医薬品として扱われています。
民間療法では因幡の白うさぎにあるとおり、傷口を清潔にして花粉をそのままつけるとよいとされ、中国最古の薬物学書とされる「神農本草経」には、蒲黄が止血やすり傷に効くと記載されています。
花が終わると、雄花のほうはなくなり、軸だけがのこります。
がまの穂とよばれる雌花が成熟すると、なかから羽根つき種がわんさか出てきますが、半枯れした地上部や穂にぶらさがる種が醸しだす気配は、湿地帯特有のどぶっぽい匂いもあいまって、なんとも形容しがたい様相となります。
ヒトぎらいのあやかしものがねぐらにしているような感じで、現代人の日常気配を身にまとっていると「ここはおまえさんのようなものが来るところじゃあないんだよ」と咎められるような気分になります。
そんな異様な気配とはうらはらに、がまの若い雌花はゆがいたり焼いたりして食べられるし、雄花につく花粉のほうはクッキーやパンに混ぜて食用できると、キャンプ・マスターでもあるアロマニア友人に聞いたことがあります。
地下茎はでんぷんを含んで甘味があり、若い茎も食べられるそうですが、現代社会の土壌では残留農薬などを含んでしまう傾向があるので、熟練野草ハンターのサポートは必須と思います。
以前キャンプにいったときには雌花の綿つき種を、火口として使うのを教わりましたが、がまの穂をまるごと乾燥させたものに火をつけることで、蚊取り線香にもなるんだよと聞きました(どんな香りがするのかな?)
がま は蒲鉾の語源となった植物でもあります。
今風の板についたかまぼこではなく、むかしは竹の棒にすり身をつけて焼いたものを かまぼこ と呼んでいたそうで、うなぎの蒲焼きも、むかしはうなぎを筒切りにして棒にさして焼いていたので、蒲焼きと呼ぶんだそうです。
棒に刺した食べものって、フシギとこころを浮き立たせてくれます。
お祭り気分が湧いてきて、手にしているだけで楽しくなっちゃう。
ひとつ丸ごと食べられもしないのに、つい買ってしまうりんご飴とか…串刺しおでんやチョコバナナも魅惑の棒でお誘いしてきます。
アスパラやいんげんは1本まるごと湯がいたり、スティックサラダもけっこうな長さでカットしたり、棒状の野菜を手づかみで食べるメニューが多いわが家ですが、それも考えてみると串刺しメニューにわくわくする感覚を連想したいのかも、と。
思い出バッテリー
幼少期は がまの穂が密生した沼にはおそろしくて近寄れなかったものです。(そこは沼ではなく秋風さわやかな湖だったかもしれませんが、がまの群落に圧倒された記憶がおどろおどろしい風景になっています)
そんなある日のこと、ご近所の野草ハンターおじさんにいやいやながらも手を引かれて、がまの群落に近づくことができました。おじさんが猫のしっぽみたいながまの穂をにぎった瞬間、大量の綿毛がとびだし、風にふかれて宙を舞う姿をまのあたりにして、おそろしさは一瞬にして吹きとんでしまいました。
恐怖心がきえたとたんに、腹のそこから笑いがこみあげてきて、おじさんといっしょに大笑いしたことは、元気即効フルチャージできる、今生の「思い出バッテリー」のひとつです。
小さながまの穂から、想像をはるかにこえた綿毛がつぎつぎとあらわれる現象は魔法か手品のようでした。
この世界に潜む魔法にふれたことで、こどもながらに身につけはじめた窮屈な道理はもののみごとにひっくり返され、それはそれは痛快の極みだったのだろうと、あとから思うようになりました。
あたまが解放されると、こころがおどり、からだがふるえ、笑いがこみあげます。
おじさんといっしょに「ふわふわ星人」と命名した がま の綿毛がふきだす記憶は、目のまえにあるおそろしさや、立ちはだかる壁、苦境や試練のたぐいなんかを通り抜けるとき、なんど助けになってくれたか数えきれません。
どんなにおそろしいものでも、あたまと見方を切りかえた瞬間に通念はひっくり返り、笑いにかえることができるのだと、がま は教えてくれたような気がします。
もしかすると白うさぎも、がまの穂をならべた大地にねころんで、重苦しい重力をふきとばすようにあふれてくるヨロコビの種が、内面のバリアーをつき破って飛んでいくのを、まのあたりにしたのかもしれません。
笑いの効用を思い出すことで、快癒できたんじゃなかろうか、と。
おそろしい生きものだと感じていた がま の立ち姿は、いまではからだじゅうの細胞をふわふわとゆらして笑いに変える、解放魔法の象徴ハーブとなりました。
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お読みくださりありがとうございました。
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