【ハーブ天然ものがたり】かたくり
春の妖精
片栗粉という名で流通しているでんぷん粉のほとんどはじゃがいもが原材料です。
ハーブを学びはじめて日本原産の薬草に親しむうちに、もともと片栗粉は、かたくり(ユリ科カタクリ属)の球根から得られていたことを知りました。
地方によって愛称がたくさんありますが、万葉集に詠まれた古名は堅香子です。
少女たちが水を汲むような姿で咲き誇る、かたくりの花の可憐さを表現したうたなのだとか。
春爛漫のもの思い、ふっと目線を落として焦点をぼかし、現世のほとりに羽を広げて佇むような心境を、かたくりの花は代弁してくれるかのようです。
かたくりは傾籠(籠を傾けたように咲く)という字をあてて呼ぶ説もあります。
籠という字は竹で囲み、なかのものをお守りすること(龍はドラゴンのほかにすぐれたものという意味もあるとか)を示しますが、傾いて咲くかたくりの花は、この場所はもう安全だからと「すぐれたもの」を流出させて羽のばしさせているような風情があります。
可憐な花葉の地上部は春の1~2か月間ほど地表にあらわれ、種子を落とした後は姿を消してしまいます。
さっと光合成を済ませたら、それ以外の期間は地面の下でじっと球根状態を保ち、次の春に芽吹く準備をしています。
地上部にあらわれる期間が短いことから、春の妖精/スプリング・エフェメラル(はかない存在、儚いいのち)と呼ばれる植物のひとつです。
すみれと同じで、種にはアリが好む成分を付着させ、アリに種を運んでもらいます。
アリは種子から自分たちの食料になる成分をとったのち巣外へもちだすので、かたくりの種は広範囲に分布を広げられるというわけです。
「蟻はエサとして種子を巣に持ち帰り、エライオソーム部分のみを食し、種子は巣の近くに廃棄される」という記述はいかにも現代的つっけんどんを誇張した、いまだけ自分だけ金だけ思想を増長させるような表現だなぁと感じます。
しかしてそんな表現ができることこそ、コスト&効率&損得勘定プライオリティのデキル大人なのだと思い込み、必死に現代的つっけんどん世界に首をつっこんでいた時期もありました(遠い目)。
控えめにいってへとへとになり、こころもからだも病みましたが、いまはこの時代に特化した地球史ならではの珍奇な経験値と考えるようになりました。
世界は多層的で人智を超えた次元や生命種が存在していると考えるならば、アリと数種の植物はもともと同じ星からやってきた生命体で、地上に適応するため虫と植物に分化して協働しているだけかもしれません。
「必要なとこだけ食ったら不要物は廃棄ね」というアリAも存在するかもしれませんが、「同胞の植物から栄養成分を補給したら種はできるだけ発芽条件に適したところに配置しておくね」というアリBもいることでしょう。
行動としては同じことしていそうですが、いっしょに仕事するなら圧倒的にアリBさんと組みたいです。
アリは兵隊とか働きマンのメタファーにされがちな生き物ですが、さいきん話題沸騰のChatGPTなんかをみていると、ヒトのはたらきかたもおおきく変わってゆくのだろうと感じざるをえません。
ちなみに私はまだChatGPT未体験で、取説動画を1本見たくらいですが、興味をもちはじめたのはGPT氏はアリさんB寄りな感じがしているからです。(文面、使う言葉とか)
Bさん寄りなら安心して企画書に使えそうだし、教育関連の資料にも使えそうです。
写真も「選ぶ」時間が大幅にかかっていたのを、思い通りにさくさく創作できそうで便利だなぁと思いました。
これはもしかすると働きマン2:働かないマン8の法則も変わってゆくかもしれませんね。
人類の集団性の比喩として、アリの生態が適切だった時代は終わろうとしているんじゃないかと感じる昨今でございまする。
じゃあ次世代のメタファーにふさわしい生きものはなんだい?となると、予測するのはむずかしいのですが、どちらにせよ集団やグループ化の定義も変わらざるを得なくなり、企業単位、職業単位で人類をおおざっぱにカウントする時代は終わるのではないかな(ぼんやりと)。
これからの時代はコストや損得勘定よりも、次世代につなげていく循環型の大局視点が優先事項になり、ハーブや野菜の地産地消、一次産業の活性化と流通インフラ、山林・雑木林の育成(お手入れ)、水道・排水を含めたエネルギ-産業が一部少数の人々に独占されることなく、全員の興味対象・最優先事項になって、かたくりをはじめとする多様な植物たちの生存場所も確保される(といいなぁ)と思います。
かたくりとアリの関係性から、話題がかなり脱線してしまいました。
アリが広域に配置したかたくりの種から、花が咲くまでには8年ほどの年月が必要です。
種は倦まず腐らず地中のなかでゆっくりと芽吹きの準備をして、ようやく地上に姿をあらわし妖精のような花を咲かせると、太陽の光・紫外線をたっぷり吸収してハナバチなどを誘引し、受粉・結実します。
そうして毎年、春のいっときだけ地表に姿を現し、開花と結実をくりかえしつつ30年から50年を生きるといわれています。
地中ですごす約8年間を差し引いても、多年草の野草としてはかなり長い方だと思います。
春の妖精と呼ばれるかたくりは、8割ほど妖精国で過ごし、こっちの世界には2割ほどしか存在していないのかもしれません。
かたくりの生存場所が損なわれつつある昨今、循環型の大局的な視座が通常運転になって、地球と妖精国とのきざはしが断ち切られませんようにと願うばかりです。
林床カーペット
かたくりは日本全国に分布する野草ですが、現在はレッドリストにのってしまった絶滅危惧種でもあります。
人によって適度に間伐されたお山は陽当たりもよく、かたくりの絶好の生育地だったそうですが、雑木林に人の手が入らなくなった昨今、春の妖精たちにとって現代日本のしくみは生きにくいのかもしれません。
広葉樹が落葉する雑木林で、適度に間引きされた日当たりのよい林床は、それだけでも心地好い気配がむんむんしますが、そこに下生えするかたくりの群生は息をのむほど幻想的です。
本州以西にもかたくりの群生が見られる公園は多々あると思いますが、以前行ったことのある北海道の男山自然公園のリンクを貼っておきます。
広葉樹の落葉は収穫の秋を終えて、里からお山に帰る神仙の通り道(かもしれない)と感じている私にとって、落葉の林床を好むかたくりもやはり、神々のお通りになる地表を覆うために毎年花を咲かせているのかな、と妄想しています。
春になり、お山から里に下りてくる神仙のために、雪どけた山裾で真っ先に花を咲かせて、神仙たちの裾に土がつかないよう、工夫しているのではないかと。
かたくりの生存場所は人工的に生育したうえで、植林されている公園がメインになり、野生の群落は少なくなってしまいました。
春の妖精がこちらの世界にやってくる扉がどうかなくなりませんようにと祈りつつ、植生にご尽力されている方々には感謝しかありません。
野生のかたくり群生があちこちの野山に戻ってきたら、ピクニックシートを敷いて大の字にねっころがり、夢のなかで妖精国を訪ねてみたいです。
片栗粉
かたくりの食用歴史は古く、茎と花は茹でておひたしや酢の物にすると独特の甘みと食感が楽しめる、苦味のない春の山菜です。
生前祖母から聞いた話で私は食したことはありませんが、かたくりの伝統食はちゃんと引き継がれており、山形県には「かたくり干し」といって、干したかたくりを使う郷土料理があります。
干すことで保存食にして、年中いただくことができるそうです。
かたくりの球根はらっきょうに似ており、煮てそのまま食べたり、つぶして団子のように丸めて焼いたりしたそうです。
十勝で農家をしていた祖母宅に暮らしていたころ、いももちはよく食べた記憶があり、ときどきいつもより甘くて食感がなめらかな時があったなぁと思い出します。あれは、かたくりもちだったのかもしれないなぁ、と。
江戸時代までは片栗粉というのは正真正銘かたくりの球根から得られるもので、滋養強壮、腹痛、下痢止めなどによいとされていました。
明治になってから、でんぷん粉はじゃがいもでつくる政策にシフトしたようですが、名前はそのまま片栗粉としたそうです。
小さいころ母に頼まれたおつかいで「でんぷんじゃなくて片栗の方だよ」と、よくいわれていた記憶があるのですが、当時スーパーで売られていた片栗粉が、じっさいかたくりの球根から得られていたものかどうか、いまではもう確かめようもありません。
かたくり贔屓だった母の言葉が知らぬまに刷りこまれてしまったせいかわかりませんが、料理をするようになった私は、片栗粉は小麦粉よりも使用頻度が高く、魚介のソテーやザンギ(トリのから揚げ)には片栗粉、天ぷらにも混ぜて使います。
玉ねぎスープにのせる焼パンにまぶしたり、かぼちゃだんごやいももち作りにも欠かせない食材です。
小さいころは、お腹がすいたときに片栗粉にお湯と砂糖をいれて練り練りするのは、自作できる数少ないおやつメニューのひとつでした。
とはいえ昭和時代の片栗粉原料はじゃがいもだった線が濃厚なので、母のかたくり贔屓も正確にはじゃがいも贔屓ということになりましょう。
「妖精国への扉機能つき・かたくり群落のある雑木林もよいし、白樺林の筒抜け透明感もすてがたい。海岸線のローズマリー生垣はもちろん必須でしょ」
終の棲家について家人とやいのやいの希望を話し合うお年頃になりましたが、かたくり種子のようにゆっくりじっくり時間をかけて、あちら側で発芽する準備をととのえられる場所探し、楽しんでいこうと思っております。
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お読みくださりありがとうございました。
こちらにもぜひ遊びにきてください。
「ハーブのちから、自然の恵み。ローズマリーから生まれた自然派コスメ」ナチュラル・スキンケア Shield72°公式ホームページ
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