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アンティークフォトへの誘い | アルマンド・ノワイエの世界

今回は、『アンティークフォトへの誘い(いざない)| アルマンド・ノワイエの世界』と称し、2枚のアンティークフォトを紹介する。100年以上前に撮影されたフランスのポストカードである。写真が登場してから、人々はその魅力の虜になり続けてきた。そして、旧来の絵画と同じく、人が写真に求めるものは「美」だった。今回紹介する写真も、パリの美女を写したものである。人はいつの時代も美をこよなく愛す。当時のフランスで愛された女性たちの姿を観ていこう。


20世紀初頭のフランス共和国で、Armand Noyer(アルマンド・ノワイエ)によって制作されたポストカード。Armand Noyerはパリのラヴィニャン通り22 番地にスタジオを構えていた写真家で、ポストカードを制作して販売も行っていた。画像は、筆者の収集品を一眼レフで撮影したものである。色味は限りなく現物に近づけて出力した。パリの美女を写した一枚で、モノクロ写真に色が手塗りされている。当時はカラー写真が高価だったため、こうした職人による色づけが頻繁に行われた。

大判写真ならではの美しい背景のボケ味がモデルをより一層際立ている。当時のパリのファッションや空気感が窺える。Armand Noyerのポストカードはナンバリングされており、本作はZED387に分類される。ナンバーが振り分けられていないポストカードも存在する。

目線を外してもらい、楽しげに何かを考えているような表情。僅かな微笑はモデルの力量で、モデルの力量を引き出せすのは写真家の力量。ポートレート写真は二人の共同作業で、互いの息がぴったり合っていないと良い作品は決して作れない。だから写真家は、いつもモデルに擬似的に恋しながら写真を撮る。


Armand Noyerによるポストカード。アンティークポストカードからは、当時の人の顔立ちや背景が窺え興味深い。こういう人たちが、かつて生きていたんだと静かな感動がある。彼ら、彼女らにはどんな人生があったのだろう。本作には20世紀初頭に使用されていたフランスの切手が貼られており、味わい深い。

何度観ても、Armand Noyerによる狂いのない完璧な構図、そして花束に囲まれこちらを見据える彼女はどこまでも美しい。今の私たちは技術革新によって写真がデジタル化され、何度でも撮り直すことができる。そして、後から編集ソフトで修正や調整を行うこともできる。だが、当時の写真はフィルム代が高く、撮り直しがきかない場合も多い。そして、現像までの仕上がりも確認できない。どれほど腕が良かったかが分かるのだ。


好きなものを撮る時間が一番楽しい。思い返せば、SNSアカウントは写真投稿用につくったのが始まりである。当時の自分は商業カメラマンを目指しており、自分の作品を発信し、他者の反応や評価を得られる場所を求めていた。

自分は写真家ではなく、商業カメラマンを目指していた。敢えて明確にこの二つの言葉を使い分けている。写真家が自分の作品づくりに重きを置いた芸術家なら、商業カメラマンは人からの要望に応えて撮影を行う職人である。どちらも写真を取り扱うが、両者の間には歴然とした違いがある。自分が撮りたいものを発信する前者よりも、人の願いに寄り添う後者に憧れた。

最高の一枚を目指し、撮影の教本はもちろんのこと、アンリ=カルティエ・ブレッソンやロバート・キャパ、マン・レイなどの古典作家の写真集、ロラン・バルトやスーザン・ソンタグを始めとする写真論の研究書等を手当たり次第、片っ端から読み漁った。

あの頃は24時間写真のことを考えていた。どうすれば、良い写真が撮れるのか?そればかり考えていた。そして、それにはまず、決められた予算の中でどれだけ自分に合った相棒となる機材を見つけられるかが鍵となる。また、自分を導く撮影教本がなければ、羅針盤のない航海のようなものになり、上達はない。撮影にも様々なジャンルが存在する。物撮り、建築、スポーツ、人物など。自分の場合は人物、すなわちポートレート撮影が最も性に合っていた。綺麗に撮れた写真を見せた時の、依頼人の喜ぶ顔が好きだった。その時の自分の喜びは、依頼人以上である。

話が逸れて自分語りになってしまった。だが、それほど自分は写真に対して真剣に向き合っていた。今でもファインダーを覗いてカメラを構える度、あの頃の情熱を思い出す。

Shelk 🦋

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