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5本もない(Ⅳ)

横浜地方裁判所側の駐車場には警備員さんがいます。警備員さんに
「すみませ~ん!急ぎなんですけど、空いていますか?」
と車の窓を開けて声をかけると
「ああ、こっち!ここが空いてるよ!」
と、誘導してくれました。裁判所の職員さんって警備員さんまで親切ですねぇ。
車を駐車場に停め、裁判所の扉まで走り、裁判所内では早足で。毎度おなじみになった、重い扉を開けて、
「お願いしますっ!!」
と、西村いちろうさんと南村二江さんの分の訴状を窓口の職員さんに手渡しました。ちょっと声が大きかったかな、井上君…。
「そちらでお待ち下さい。」
訴状を受け付ける部署は、さすがに横浜地裁だけあって、かなり広いです。学校の教室4つ分くらいはありますね。スチールのデスクがカウンターの向こうに整然と並んでいます。入り口の反対側は大きな窓。窓の前には、この部署の責任者さんのものらしい、大きなデスクが堂々と陣取っています。部屋の左右には大型のロッカーがズラリと並んでいます。そして、カウンターの入り口側には、座り心地の悪いベンチ型の椅子が横並びに置いてあります。こんな所に長時間座っているような人など想定していないからでしょうね。私達は、そのベンチに座り、職員さんは私達の訴状を手にしてデスクに戻りました。
職員さんが訴状を読んでいる間、私達の視線は職員さんの顔つきや手の動きに釘付けになっていました。
(あっ、ページをめくった!つまり冒頭部分の書式はOKなのかな?)
(あれ?同じ所を読み返してるよ?)
(だね、あ、首をかしげた!表現力の問題かな?)
(簡裁は通ったけど、さすがに地裁はそんなに甘くないかもなぁ…。)
(あああ、今日もダメ出し、出直しかぁ…。)
お互いコソコソささやきあい、それはそれは長い時間待ったような気がしました。
 
と…、

カッ…シ…ャ…ー…ン…
 
思わず職員さんの手元を見ると、私達の訴状をホチキス止めしているではありませんか!井上君と私は、思わず顔を見合わせました。
続けて、また、カッ…シ…ャ…ー…ン…さらにもう一度カッ…シ…ャ…ー…ン…
 
(おい、これは?)
(通ったか?まさか…?)
 
実際はカシャン、カシャンだったのだと思います。でも、職員さんの動きがまるでスローモーションのように見えるほど、私たちにとっては長い時間だったのです。
 
職員さんが立ち上がると、私達は呼ばれてもいないのに整列してカウンターへ行きました。職員さんは、無表情で
「はい、これでいいでしょう。」
とのご神託を下されました。

おおおおっ!こんな非常識な事があっていいのでしょうかぁっ!!
こんなド素人の訴状が、たった3回目で受理されるなんてぇっ!!!

井上君は職員さんに約70度ほど頭を下げて、お礼を言いました。
私は何事もなかったような素振りでいましたが、部屋から出ると井上君に向けて親指を立てて「やったぜ!」サインをしました!
ここは受理された感動よりも
「たった3回で受理された私の凄さ」
を思い知らせてやるべき所ですからねw 内心は
(うっわぁ~~~…。通ちゃったよぉ…。何、これぇ?)
と、信じられない気持ちでしたがw。

この日はもう退勤時間近くでしたので、渋滞を避けるように早めに裁判所を出る事にしました。車の中では、二人共お祭り騒ぎでした。
「いや~!やったねぇ!さっすが私!!」
「おっ疲れ様ですたぁ!あはははは!まぁ、よく3回で通ったもんだ。」
「だから、この偉大で超優秀な私を崇めよってば!!」
「はいはい、お狐様w ってか裁判します!って大威張りしてたけどな、  ばぁさん。訴状届いたらどんな顔するんだか。」
「大喜びするんじゃない?自分で『裁判します』って言ったんだから。」
「親戚一同で宴会でもやるんじゃねーの?わはははは!」
 
そう、その日は南村おばぁさんが裁判します、と大威張りした日の、約1ヵ月後の2月9日でした。あのご親戚一同は「弁護士がついている。」と言ったのに内容証明郵便も来ない、訴状も来ない。約1ヶ月間、何の音沙汰もなかったのです。
 
ともあれ、もしかしたら史上最低かも知れない素人作成の訴状はめでたく、誠にめでた~く受理されました。タイトルも「とりあえず、これで出してみよう」と決めただけでしたし、「請求の原因」の部分なんか本当に今までの経緯をかいただけ。小学生でも書けちゃいます。
 
それから、訴状を受理されたら、アンケートのようなものを書くのですね。
「回答書」というもので、事件番号や担当民事部の番号が書かれています。和解を希望するか等、回答します。チェックマークを書き入れるだけですので簡単です。
 
 
その後、神奈川簡易裁判所と、横浜地方裁判所から井上君宅に「期日請書」という書類が送られて来ました。


期日請書


これは井上君が書記官に電話で聞いた所、次回期日(次に裁判所に行く日)が決まったら、その都度送られて来る書類で、「承知しました」という意味で、署名・捺印して担当書記官へ送り返すものでした。
「出頭します」と言う言葉が、ちょっと物々しいですね。
(「期日請書」というものは、必ず送られて来るものではなく、裁判所内で 当事者や裁判官が揃って「次回期日」を決めた時などは提出を求められな いそうです。)



 
 
☆参考までに、史上最低の訴状をアップします。こんな稚拙な訴状でも受  理されました。必要な「証拠説明書」がなく、段落に番号も振っていな  かった上、この時点ではページ番号も振っていなかったので参考になるも のではありませんので、この点はご了承ください。

訴状の「第2請求の趣旨」までは画像にします。


ここまでは画像です


2ページ目から「請求の原因」です


「第2 請求の原因」は以下です。A4用紙に以下のように書きました。本文と区別するために太字にしますね。証拠方法までは、全部で5ページとなりました。
ここは提訴するまでの経緯を書いたものですから、面倒臭い方は読み飛ばしてください。(私も2つ、ウソを混ぜたのは事実です。井上君は、横浜に転勤して来て以来、昭和A棟には一度も戻っていませんでしたが、『留守がちだが、住んでいた』という意味の事を書いておきました。まるっきり空き家にしていた、となると、泥棒に入られても仕方ないだろうと言われかねませんからね。それから『使用貸借』もテキトーに入れてみた言葉です。通常の賃貸では使われませんので、ご了承ください。)

第2 請求の原因
 
被告らは親族数名と共に平成22年12月12日、原告の占有するM市波手名3-7-5の家屋に原告に無断で鍵を破壊し、不法侵入した上、6頁の目録記載の動産を含む原告の所有物多数を窃盗しました。窃盗された動産の中には原告が当該物件の占有を開始する原因となった当該家屋の被相続人との賃貸契約書、また、原告と原告の知人女性に関する、写真を含む個人情報の入ったハードディスクもあります。
 
被告と共同不法行為をなした西村いちろう氏は不法侵入の翌日平成22年12月13日、原告の母親の携帯電話に電話をし、当該家屋への侵入によって知った原告の私生活の状況について暴露し、原告を中傷し、また、原告の母親に対し、原告の母親が泣くまで執拗に罵倒を繰り返しました。
 
なお、本件賃貸契約書は賃貸人、当該家屋被相続人 東村元男氏
 
賃借人、原告
 
保証人、原告の父親
 
保証人連絡先電話番号、原告の母親の携帯電話番号
 
となっています。
 
父親から連絡を受けた原告は平成22年12月24日、22時ごろ、当該家屋の被害状況を確認するため帰宅しましたが、被告ら及び被告らの親族らによって鍵が交換され、当該家屋に入室する事が不可能な状態になっていました。(証拠写真A)
 
そこで、原告は急遽G県警M警察署に出向き、事情を説明しました。担当警察官が被告西村いちろう氏に連絡をとると、同日平成22年12月24日24時頃に被告らは被告らの親族数名を伴い、同警察署に出向いてきました。
 
その際、被告及び被告の親族らは不法侵入と窃盗及び鍵の交換については自白したものの、原告の私生活状況や原告の人格について激しく罵倒、非難を続けました。
 
原告は被告及び被告の親族らとの交際はありませんでしたので、人格まで侮辱された事に非常に衝撃を受けました。まして被害者であるにも関わらず、多数の警察官の方々の前で私生活状況を暴露されるなど、非常に屈辱感を感じました。
 
平成23年1月11日、G県警M警察署の司法巡査のS氏の立会いの下、当該家屋内の被害状況を確認し、原告は被害届を提出しました。
この際、被告と共同不法行為をなした南村二江氏が立ち会いました。南村二江氏は司法巡査のS氏に対し、当該家屋の相続人東村和美氏の代理人として名乗り出ています。
また、この際当該家屋の鍵は南村二江氏が所持しており、南村氏自身が開錠しました。被害状況の確認後も南村氏が施錠しました。
(証拠写真B、C、D なお、この資料の提出についてはM警察署の許可を得ています)
 
また、被害届提出後、同警察署に南村二江氏及び当該家屋の相続人と名乗る東村和美氏が、被告及び被告の親族らが交換した当該家屋の鍵を持参し、原告に対し、受領するよう要求しました。
 
原告は司法巡査のS氏の許可を受けてS氏立会いの下、M警察署内にて当該家屋の鍵を1本受領し、東村和美氏に対し鍵の受領書を渡しました。
原告は東村和美氏からは鍵の引渡し書(甲第1号証)を受け取りました。
この時点では、当該家屋の鍵の受領に際し原告は南村二江氏及び当該家屋の相続人東村和美氏から、当該家屋の使用に関して一切条件を付されていません。
 
この被害届提出後、現場検証のため、司法巡査S氏と原告は再度当該家屋に入室しました。この現場検証の際の開錠、及び施錠は原告が行いました。
 
同日平成23年1月11日、現場検証から数十分間後、南村二江氏から、同日中に話し合いをしたい旨の電話がありました。原告は話し合いには必ず応じるが、多忙のため後日の面会を希望する旨を伝えましたが、南村二江氏は後日の話し合いは拒否するとのことでした。
同時に、南村二江氏は、原告を「提訴する。」と言いましたので、これ以降、被告らとの接触はありませんでした。
 
 
なお、被告及び被告の親族らは当該家屋の鍵を破壊し、侵入した理由として原告が退去したものと思ったと主張しましたが、原告は当該家屋を継続して使用しています。当該家屋の電気メーターは当該家屋の外に設置されており、使用中である事が容易に確認できる状態です(証拠写真E、F)。
○○電力株式会社との契約は原告名義であり、証拠として原告の電気料金の支払い記録(甲第2号証)を添付いたします。
 
被告及び被告の親族らは○○電力株式会社に対し、少なくとも電気が使用されているか問い合わせをする事は可能でした。
原告が退去したと思ったという被告及び被告の親族らの主張は不当です。
 
また、被告及び被告の親族らは原告との連絡不能についても、原告に無断で侵入した理由として挙げていますが、原告は当該家屋の被相続人との賃貸契約時以来電話番号を変更しておりませんので電話連絡は可能でした。勤務の性質上、電話に出られる時間帯は狭められてはいましたが連絡不能ではありません。
 
原告は勤務の性質上不在である事は多かったものの、帰宅は欠かさなかったため、郵便物の受領も可能でした。しかし、当該家屋の相続人東村和美氏、被告、また被告の親族らは原告に対し、書類の郵送での通知、請求等を一度も行っていませんでした。
 
 
原告の母親も当該家屋の賃貸契約時以来、携帯電話番号を変更していません。被告及び被告の親族らは原告の母親の電話番号を知っていたのであるから原告の母親を通じて原告と連絡する事も可能でした。現実に被告と共同不法行為をなした西村いちろう氏は当該家屋への不法侵入の翌日平成22年12月13日に原告の母親の携帯電話に電話をして、原告の母親を罵倒しています。
よって、原告との連絡不能を理由とする被告及び被告の親族らの主張は不当です。
 
また、被告及び被告の親族らは平成22年12月12日、当該家屋に不法侵入した際、動産目録記載の動産を含む原告の所有物多数を窃盗しましたが、その理由として原告の家賃の不払いを理由としていますが、被告及び被告の親族らの当該家屋への侵入及び窃盗は自力救済であり、不法行為です。
 
なお、この家賃の支払いについては、当該家屋の被相続人の逝去後、原告は当該家屋の相続人及びその親族から契約書の書き換え要求や家賃の請求等、一切連絡がなかったため、相続人との間では使用貸借が許されているものとして使用を継続していました。また当該家屋は大正時代に建てられたもので、老朽化が著しく、また一畳ほどの中庭はあるものの(証拠写真G)、隣家との境界の塀が高く、ほとんど陽が差さない物件ですので相続人及び相続人の親族らにとっては価値がないため、放置しているものと考えていました。
 
なお、原告は、当該家屋の相続人及び被告ら、また被告の親族らが原告に対し要求している当該家屋の明け渡しを拒否するものではありませんが、明け渡し請求は予告なしに突然なされたものであり、そのため移転に伴う費用等の請求について、原告は当該家屋の相続人東村和美氏に対し、神奈川簡易裁判所に平成23年2月9日提訴いたしました。
 
原告は成人であり、両親もすでに保護者ではなく、原告の私生活を監督する義務はありません。両親とはいえ、独立した人格ですので、被告ら及び被告の親族らによって両親に私生活状況を暴露された事に非常に精神的苦痛を感じます。
 
また、被告西村いちろう氏に母親を執拗に罵倒された事も母親の心情を思うと今だに苦しく感じています。
 
原告自身は被害者であるのに多数の警察官の方々の前で被告ら及び被告の親族らによって私生活状況を暴露され、人格を傷つけられ、激しく罵倒され、屈辱を感じました。
 
被告ら及び被告の親族らに当該家屋に無断で侵入され、生活状況や所有物を見られ、多数の所有物を窃盗された事にも非常に苦痛を感じています。
 
さらに、ハードディスク内に保管してあった、写真等個人情報については、原告自身のみならず、原告の知人の写真も入っており、また知人が女性であることもあり、被告及び被告の親族らにその写真等を見られる恐れ、またその写真等個人情報が流出する恐れがあるため非常に心労に悩まされています。
 
そのために被告ら及び被告の親族らが窃盗した6頁目の動産目録記載の動産の補償として、金480,080円、及び被告ら及び被告の親族らの不法侵入、窃盗等の共同不法行為、並びに被告ら及び被告の親族らによる多数の警察官の方々の前での原告の生活状況の暴露及び原告の人格の蹂躙により原告が受けた精神的苦痛に対する損害賠償金として、
金5,000,000円を請求します。



       証拠方法
 
1    甲第1号証 当該物件の鍵の引渡し書の写し
2    甲第2号証 電気料金支払証明書の写し
3    甲第3号証 証拠写真A~G
 
付属書類
 
1    訴状副本                1通

 


(「証拠方法」ではなくて「証拠説明書」を添付するものだと、後に書記官から教えていただきましたが、この時点では、これで受理されました。)

次の6ページ目は、「動産目録」です。


動産目録


最後に甲1号証から甲第3号証を添付しました。


7ページ目
8ページ目

甲第3号証はA~Gにしました。本来なら甲第3号証、甲第4号証、と数字にした方が良いようです。


9ページ目
10ページ目
11ページ目
12ページ目
13ページ目
14ページ目
15ページ目


以上が最初の訴状一式です。

☆作画をお願いした画家さんは「ぷりもちる」さんです。


目次

1大家が泥棒(Ⅰ)
1大家が泥棒(Ⅱ)
1大家が泥棒(Ⅲ)
2オタ友のために(Ⅰ)
2オタ友のために(Ⅱ)
2オタ友のために(Ⅲ)
3現場検証したら(Ⅰ)
3現場検証したら(Ⅱ)
3現場検証したら(Ⅲ)
4仕事しろよ(Ⅰ)
4仕事しろよ(Ⅱ)
5本もない(Ⅰ)
5本もない(Ⅱ)
5本もない(Ⅲ)