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結婚生活!『のび太のおよめさん』/のび太、人生の岐路エピソード7

野比のび太、小学生。

単行本では小学四先生で、アニメでは小学五年生の設定となっているが、学年誌に連載中は、掲載誌の読者年齢と合わせた年齢となっていた。いずれにせよ、のび太が小学生であることは誰もが知るところ。

しかし、そんなのび太でも、赤ちゃんだった時代もあるし、未就学児童だった頃もある。将来は進学して、就職して、結婚もする。長い連載の中では、そうした小学生ではないのび太も時々は描かれており、それらを繋げると、野比のび太という男が辿った一本の人生が見えてくる。


そこで、「のび太、人生の岐路」と題し、全9回に渡って、のび太の人生の節目節目を見ていく大型シリーズ企画を立ち上げる。既にエピソード1~3という形で、のび太の誕生から、未就学児童だったときのお話を3本記事にしているので、こちらを先に読んでもらえると嬉しい限り。。


そして、今回から3回連続で、エピソード7~9をまずは記事化していく。エピソード4~6は、最高傑作と呼び声の高い作品が含まれてるため、もったいぶって、こちらは後に取っておくことにしたい。

・・・ということで、本稿では、のび太のしずちゃんとの結婚生活が初めて明らかとなった作品『のび太のおよめさん』を考察していく。


『のび太のおよめさん』
「小学四年生」1972年2月号/大全集1巻

冒頭、のび太の誕生日を祝ってケーキを食べるシーンから始まるが、「小学四年生」掲載作品ということで、「もうすぐ小学五年生、あと二年で中学生だ」などと、順調に成長していることをお祝いされる。

この部分、てんとう虫コミックスでは、学年がぼやかされ、「もうすぐ小学五年生」が「もう立派な小学生」に、「あと二年で中学か」が「あとわずかで中学か」へとセリフの変更がある。

なお、のび太の誕生日は8月が公式設定であるのだが、本作の時点では定まっておらず、2月の誕生日としている。


そして高校・大学と進学し、大学を卒業したら一人前の大人になり、「その次はお嫁さんね」とママが言う。ドラえもんが、「誰が来てくれればだけど」と茶々を入れて、のび太が真っ赤になって怒るのだが、そこでふと我に返る。

「もしも僕にだけお嫁さんのきてがなかったらどうしよう」と心配になってしまったのだ。


この時のび太はうっかり忘れているようだが、のび太は将来ジャイ子と結婚する運命にあったはずで、嫁のきては、いるにはいる。来るか来ないかの心配ではなく、誰が嫁になるのかが重要だったはずなのだが、本作ではその辺はスルーである。

ちなみにのび太の結婚相手だったジャイ子は、連載開始直後にはたびたび顔を出していたが、1970年3月発表の『のろいのカメラ』を最後に、姿を消してしまっている。(次の登場は1980年である)

本作でも全くジャイ子の話題になっていないことから、この時点では、一時的にジャイ子はいなかったことになっている可能性がある。

本作はジャイ子と結婚する運命はなかったものとして、頭を切り替えて読む必要があるようだ。


さて、ドラえもんはそんなに気になるなら「タイムマシン」で見に行けばいいと言い出す。途端に恥ずかしがって躊躇するのび太だが、すぐに「是非見たあい」と言い出して、25年後の未来へと向かうことにする。

本作は10歳くらいの設定なので、25年後といえばのび太は35歳。ドラえもんは「その頃ならいくらのび太でも誰か相手が見つかっているよ」と言っているが、これを今読むと、いやいや35歳でも未婚は多いよ~と思ってしまう。

本作はもう50年前の作品なので、今とは結婚観、人生観が全く違っていたのだ。


さて25年後。タイムマシンを出ると、そこはトイレ。のび太の家の周りは再開発によって公園となり、野比家があった場所は、公衆便所になっていたのだ。

なお、タイムマシンを出るとすぐトイレというシーンは、本作の10ヶ月前の作品『のび左エ門の秘宝』でも描かれいる。(この時は肥溜めであったが・・)

外へ出ると、町の様子はすっかり変わり、まるで未来の風景である。本作の時系列で言うと、1997年頃の東京ということになるが、今から25年後と言っても不自然ではない未来感である。

近くの交番で野比家を尋ねると、10年前にマンション引っ越したのだと教えられる。さらに12階の68号室だと、具体的な部屋番号まで教えてくれ、未来社会の交番にはプライバシー保護という考えはないらしい。


エレベーターで昇って部屋の前に到着。ここで急に尻込みするのび太。会うのはまずいので、影からこっそり見たいという。そこで「とうしめがね」をドラえもんが出してくれ、野比家の様子を伺うことに。

レンズを覗くと、後ろ姿の女性が座っているのが見える。ドキドキするのび太。すると女性がクルッと振り返る。ジャーンという擬態語と共に、どブスな女性が顔を見せる。

のび太は思わず「すごおい!」と声を上げ、とうしめがねを手放してしまうほどのショックを受ける。そしてすぐに「あんなの嫌だよ、怖いよ」と言って泣き出してしまう。


ところが座っているこの女性は、別の家のお母さんで、のび太の奥さんが誰かを探して帰ってくるのを待っているようである。

のび太は急にグイッと女性に腕を掴まれる。「さあ、捕まえた。悪い子ね」と、のび太を誰かと間違えているようだ。女性の顔を見るのび太。かなりの美人さんだが、のび太はすぐにピンとくる。

「ひょっとして、あんたは・・・25年前の源静香さん!?」

すると、それに対して、「ママに向かってなにわかりきったこと言ってるの」と返してくる。のび太の思った通り、35歳のしずちゃんママであった。

しずちゃんママはのび太を息子と勘違いしていると思われるが、それはすなわち、しずちゃんはのび太と結婚したということを意味するのである。


ところが喜ぶ暇もなく、のび太は引きずられるように部屋へと連れて行かれる。「スネ太郎君のママがかんかんよ。よくお詫びしなさい!」としずちゃんママもかんかんである。

そして、先ほど「とうしめがね」で見た女性、スネ太郎のママの前で頭を下げさせられる。のび太の息子は、いつもスネ太郎を泣かしているようで、しずちゃんママは、「うちのノビスケはわんぱくで」と詫びている。


ここでわかったこと。まず一つ目は、のび太の息子の名前はノビスケということである。ノビスケと言えば、のび太のパパの名前も「のび助」で、呼び名は一緒。おじいちゃんの名前を取ったと考えられるのだが、そんなに単純な話でもない。

というのも、本作発表時点ではのび太のパパの名前はまだ決まっていなかったからだ。本作の約二年後の作品となる『地下鉄をつくっちゃえ』で、名前が初登場となるが、この時は「野比のび三」とされている。

つまり、まずは息子の名前がノビスケと決まり、その後パパの名前ものび助となったことになる。やや穿った見方になるが、ノビスケの存在を忘れて、パパの名をのび助と決めてしまったのではないかとも考えている。


もう一つわかったことは、のび太の息子ノビスケは、父親の血を引かず、まるでジャイアンのような乱暴者になっているということだ。外見はのび太そっくりのようだが、果たして何でそんな成長を遂げたのだろうか?

また、もう一点。スネ太郎という名前が見えたが、これはどう考えてもスネ夫の息子の名前だろう。スネ夫はのび太がパッと見て恐れてしまうほどの外見の女性と結婚してしまったようである。


さすがののび太も、この時点で全ての状況を把握する。のび太は無事、将来しずちゃんと結婚することになったということだ。「ばんざい!」と言って有頂天となるのび太。ジャイ子と結婚して不幸になるはずだったのび太の未来が、バラ色に変わった記念すべき瞬間である。

ところが、しずちゃんママからすれば、ここにいるのび太は腕白なノビスケである。息子の反省していない態度に腹を立てて、のび太を捕まえ、「パパはあんなにのんびりした大人しい人なのに、お前はどうしてきかんぼうなの?」と言いながら、お尻をペチペチと叩き出す。


「人違いだあ」と言って叫ぶのび太。するとそこへ、ノビスケが「ただいま」と帰ってくる。二人目のノビスケが現れて、驚くしずちゃんママ。「お前誰だ!」といきり立つノビスケ。

のび太はここでパパの顔を見せて、

「ノビスケ!あまり乱暴しちゃいかんぞ。勉強はちゃんとしてるかね」

と注意するのだが、ノビスケは全く聞く耳を持たずに、のび太の顔面を殴ってくる。そして、のび太に対して、「僕に化けた宇宙人で、この家を乗っ取る気だ」と決めつけて、バットを持って向かってくる。


しずちゃんママも、その昔ドラえもんがいたことは覚えているだろうから、タイムマシンで子供の頃ののび太が訪ねてくる可能性に気がついてもおかしくない。

この場面で、ノビスケが二人になったことを驚くしずちゃんを見ていると、ドラえもんの記憶すらもう曖昧になってしまっているのかも、と思ってしまう。


ノビスケに追い立てられ、のび太とドラえもんはタイムマシンの出口であるトイレへ急ぐ。しかし悲しいかな、トイレは使用中で、ノビスケに追いつかれてしまって、ボコボコにされる。腕白とは聞いていたが、噂以上の暴れん坊だったようである。

現代に戻り、「なんて乱暴な子だ」とのび太。ドラえもんは「元気でいいじゃない」とボロボロになりながらも、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる。

ドラえもんからすれば、そもそも未来からやってきた目的の一つは、のび太の結婚相手を変えることだった。それがついに成し遂げられたことを意味する。目的達成の嬉しさもあったのかなあ、と想像するのも一興である。


食卓へと戻ってきたのび太に、ママが「どこへ行ってたの」と声を掛ける。なんとしずちゃんがのび太の誕生日を祝って訪ねてきてくれたのだ。きれいな服を着ていて、大きなプレゼントの包みを持ったしずちゃんが、「のび太さん、おめでとう」とお祝いしてくれる。

のび太は、ついさっきしずちゃんが自分の奥さんになることを知ったばかり。すっかり照れてしまい、顔を真っ赤にしてテーブルの下に隠れてしまうのび太なのであった。


本作は、初めて未来の世界へ行った話だが、奥さんがしずちゃんになり、暴れん坊の息子ノビスケがいることが判明する最重要な回となっている。

野比家の付近が公園となり、家が建っていた場所が公衆便所となり、タワーマンションの上に移り住んでいることもわかった。ついでに、スネ夫が〇スと結婚してスネ太郎という息子がいることも描かれた。


のび太は相変わらずのんびりした性格のままらしい。だが、本作では実際に大人になったのび太が姿を見せる場面はなかった。これはもう少し時を待たなければならない。

次稿では、本作から約5年後、連載開始から初めて大人になったのび太が描かれるお話を紹介する。未来ののび太の暮らしぶりがさらにわかるエピソードとなっているので、こちらもお楽しみに。。



「ドラえもん」考察200本以上!


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