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幼児期!『おばあちゃんのおもいで』/のび太、人生の岐路エピソード2

ドラえもんが来る前ののび太と、ドラえもんが(おそらく)帰った後ののび太のエピソードを全9回で紹介していく大型企画の第二弾。前回は、のび太の生まれた日をのび太が見に行くというお話をご紹介した。


本稿では「のび太、人生の岐路」エピソード2として、3歳ののび太と当時まだご存命だったおばあちゃんが登場するドラえもん屈指の感動作を見ていきたい。

『おばあちゃんのおもいで』(初出:おばあちゃん)
「小学三年生」1970年11月号/大全集1巻

本作は「おばあちゃんの思い出」として、短編映画になっていたり、「STAND BY ME2」でモチーフに取り上げられたりする、比較的ライトな「ドラえもん」ファンに喜ばれている一本である。

もちろん、ディープな藤子ファンも当然大好きだし、何より藤子F先生にとっても、本作については執筆から10年後にも手を加えている思い入れの深い作品となっている。


藤子作品は、初出から単行本の収録される際に、加筆修正することで知られている。「ドラえもん」で言えば、てんとう虫コミックスは、藤子先生が自ら選んで、修正を加えたバージョンを収録している。

そして、あまり知られていないが、コミックス版から、さらに加筆修正されている作品がいくつかある。1981~1982年に「藤子不二雄自選集」全10巻が編まれているのだが、この中で「ドラえもん」の短編11作にさらなる修正が施されている。

本作はその中でもかなりの修正が加わった作品であり、それはつまり、何度も手を入れたくなる作品だと、藤子先生も考えていた証拠となるだろう。


ママが物置を片付けており、ガラクタの中からポロリとクマのぬいぐるみが落ちる。それはのび太のおばあちゃんが繕ってくれた、懐かしいクマちゃんであった。

ここでドラえもんも読者である私たちも、のび太におばあちゃんがいることが初めて知ることになる。そしておばあちゃんは、のび太が幼稚園の頃、死んでしまったという。


古いアルバムを引っ張り出してくると、幼いのび太を抱いている、優しそうなおばあちゃんが写っている。のび太は「自分のことをすごく可愛がってくれた」と目を細める。

ここから、「おばあちゃんのおもいで」がセリフなしの8コマで描かれる

・小さいスネ夫とジャイアンに泣かされては、おばあちゃんは歌って慰めてくる
・おねしょして泣いていれば、すぐに寄ってきて着替えさせてくれる
・ボールで窓ガラスを割って泣いてしまっても、ママとの間に入ってのび太を守ってくれる
・犬に追いかけられ泣いた時には、ほうきを持って助けに来てくれる

のび太にとって、とっても優しいおばあちゃんだったのだ。100%自分の味方だったのである。


ドラえもんは、のび太の回想を聞いて、「その頃から泣き虫だったんだね」と感想を述べるが、「もっと素直に聞け」とのび太はヘソを曲げる。そうしているうちに、のび太はおばあちゃんのことを思い、泣き出してしまう。

「ワ~ッ もう一度、おばあちゃんに会いたいよう」

のび太は、自分に100%の愛情を掛けてくれたおばあちゃんを、多感な4~5歳に亡くしている。まだ「死ぬ」ということが何なのか、理解できなかったかもしれない。小さいのび太が、大変に大きなショックを受けたことは想像に難くない。

そして、本作ののび太は小学三年生の11月なので、まだ9歳。おばあちゃんを思い出して、泣き出してしまってもおかしくはない年頃なのである。


のび太は、タイムマシンを使って昔に行っておばあちゃんに会おうと思い立つ。ドラえもんはそのアイディアを聞いて、止めろと制止する。「いきなり大きくなったのび太を見たらおばあちゃんはどう思う」というわけだ。

さらに・・

「びっくりして、ひっくり返るぞ。年だから、悪くするとそのショックでぽっくりと・・・」

と縁起でもないことを付け加える。

穏やかではない表現を使っているが、要は歳を取ったおばあちゃんが、タイムマシンというものを信じるわけがないと、強調しているのだ。そしてここでのやりとりは、後の伏線になっている点にも注目しておきたい。


こっそり見るだけならということで、二人はタイムマシンで6年前へと向かう。本作が1970年の作品なので、1964年へと向かっていることになる。よって、おばあちゃんは、その数年後に亡くなるので、没年は1966年頃と考えられる。

なお、今入手できる単行本では、6年前に向かうという年数は載せていない。


のび太たちは6年前の庭に降り立つ。砂場があって、二年前に切ってしまった柿の木もある。家も6年分新しい。裏口から家に入り、おばあちゃんを探すが、おばあちゃんの部屋にも、洋間にも姿はない。

二階に上がって今ののび太の部屋に押し入ると、ママが掃除をしている最中。当然ママは驚くのだが、「若いなあ」とのび太に言われて、喜んでしまう。が、すぐに「6年経つと小じわだらけになる」と余計な一言を聞いて、大激怒。のび太たちは追い出されてしまう。


おばあちゃんはどこかへ出掛けているのだろうか。町を歩くと、ペロペロキャンディーを舐めながら、3歳ののび太が歩いているのを見つける。可愛いなあなどと眺めていると、幼きジャイアンにキャンディー取られて泣き出してしまう。

小学生ののび太はその様子に腹を立てて、「よくも僕をいじめたな」とジャイアンとスネ夫をげんこつで殴って泣かせてしまう。昨日も二人に転ばされたので、その仕返しの意味もあったらしい。・・・大人気ない。


すると、前からおばあちゃんがゆっくりと歩いてくる。ドキドキさせながら、おばあちゃんが通り過ぎるのを見ていたのび太は、「生きてる、歩いている」と感動して泣き出してしまう。

そこへ小さきのび太が近づいてくる。どうやらおばあちゃんに花火を買ってくるようお願いしていたようである。しかし季節は11月。町中のおもちゃ屋を探したのだが、花火は売っていなかったらしい。

それを聞いた3歳のび太は、花火が欲しいと駄々をこね、「おばあちゃん嫌いだ、あっち行け」と酷い言葉を投げつける。おばあちゃんは、「はいはい」とやり過ごすが、これを見ていた9歳ののび太は激怒。

「こら僕!!おばあちゃんをいじめるな」

と注意して、幼児ののび太を泣かせてしまう。

ここのシーンでは、小さい子供の残酷さと同時に、小学三年生ともなれば人の気持ちがわかるようになるということが描かれている。


小さい頃から泣き虫だったのび太は、全力で号泣。ママが聞きつけ、9歳ののび太に「どうして苛めるのか」問い質す。そこで、タイムマシンで6年後からやってきたのび太だと、しどろもどろに説明するが、「頭がおかしいのね」と全く理解されない。

このシーンでも、タイムマシンのようなSF話は一般に理解されないということを念を押している。


もう帰ろうとドラえもんは言うが、のび太は「もう一目だけ」と、再び家の中へと侵入。しかしすぐに小さいのび太に見つかってしまい、「さっきの変な子がいるよ」と騒がれてしまう。

思わず逃げ出したのび太は、ガラリと目の前の部屋に入ってしまうのだが、そこはおばあちゃんの部屋。おばあちゃんと、大きくなったのび太は目が合ってしまう。


ママがおばあちゃんの部屋を開けて、「変な子が来ませんでした?」と尋ねると、おばあちゃんは「いいえ」と答える。何と、侵入者であるのび太を押し入れに匿ってくれたのである。

のび太はおばあちゃんに感謝の意を述べながら、僕のことを怪しまないのか聞くと、これまた「いいえ」と答える。おばあちゃんは、のび太が物置で見つけたクマのぬいぐるみを繕っている。

のび太は「のび太くんがかわいい?」と聞いてみる。すると「ええ、ええ、そりゃもう」と頷く。そして、

「いつまでもいつまでも、あの子のそばにいて世話をしてあげたいけど、そうもいかないだろうね。私ももう、年だから」

と、しみじみ語る。心なしか、自らの死期を知っているかのように聞こえてくる。

おばあちゃんの話を聞いているのび太は、本当に間もなく世話をすることができなくなることを知っている。のび太は「そんな寂しいことを言わないでよ」と涙を零す。

おばあちゃんは続けて「せめて小学校に行くころまで、生きていられれば」と思いを述べる。「ランドセル背負って学校へ行く姿・・・」と目をつぶるおばあちゃん。


のび太は、決意を固めた表情となり、「ちょっと待って」と言って部屋を飛び出して行く。そして現代へと戻りランドセルを持って、過去へと舞い戻る。

のび太はランドセルを背負って、おばあちゃんに話しかける。

「信じられないかもしれないけど、僕、のび太です」

おばあちゃんが老人であるとかは関係なく、普通の人間であれば、大きくなった孫が目の前に現れることは、全く信じられないことである。現に、ママも「頭のおかしい子」と決めつけ、ドラえもんも「ビックリして死んじゃうのでは」というようなことを口にしていた。

しかしのび太のおばあちゃんは、それをあっさりと受け入れる。

「やっぱりそうかい。さっきから、何となくそんな気がしてましたよ」

おそらく頭で考えれば、あり得ない話だが、のび太と正面から向きあい、会話をすることで、大きくなったのび太だと感じたのである。おばあちゃんは、ただの優しい人ではなく、人を中身で見ることのできる人物であることが、ここでわかるのである。


のび太は「信じれくれるの?」と驚きを隠せない。おばあちゃんはさらに、

「誰が、のびちゃんの言うこと、疑うものですか」

と、小学生ののび太も優しく抱きしめてくれる。

世の中にありえない不思議なことを疑うよりも、自分の孫の言葉を信じる。おばあちゃんの、のび太を思う気持ちの強さに圧倒され、涙を零さずにはいられない。


本作から7年半後、再びのび太はおばあちゃんの元へと向かう。この時、久しぶりに見た小学生ののび太のことをしっかり覚えており、その姿も泣ける。記念すべき藤子Fノート第一弾の記事として既に書いてあるので、宜しければこちらもどうぞ。



さて、続けて「エピソード3」では、小学校に上がる前ののび太の初恋について見ていきたい。


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