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ネタが盛りだくさん過ぎる傑作!『地底の国探検』/ドラミ大活躍④

ご存じドラえもんの妹、ドラミちゃん。ドラえもんと違って、優秀できめ細かくて、メロンパン好きで・・というようなイメージが一般的に浸透している。

ところが、実際の原作においては、ドラえもん同じようにおっちょこちょいだったり、空気を読まない行動を取ったり、メロンパンを一口も食べていなかったりする。

世間(=アニメ)のイメージと、原作でのキャラに何となく乖離があるキャラクターなのである。


そんなドラミちゃんが、主人公となっているお話が全部で9本存在する。あまり知られていないが、ドラミはのび太の遠い親戚にあたるのび太朗の家に一時期世話役で住み込んでいた。

そして「ドラミちゃん」がメインのお話は、割と自由度の高いストーリーのケースが多く、読み応えもしっかりしているのが特徴だ。

そこで「ドラミ大活躍」と題して、いつもの「ドラえもん」より少しだけスケール感の大きい作品群を全て検討していきたいと思う。

ここまで3本の記事を書き終えている。リンクは以下。


本稿では、「地下世界」をテーマとした、壮大な物語を紹介する。

『地底の国探検』(初出:ここほれワイヤー)
「小学館ブック」1974年6月号/大全集20巻

のび太と同様、日々のお小遣いに困っているのび太朗。今月は既に残り100円玉一枚となっている。のび太朗はドラミに「相談だけど・・」と切り出す。地面の下にはたくさんの宝物が埋まっているはずで、そんな宝さがしの道具はないだろうか、という相談である。

ドラミは「せっかくですけどね」と話の腰を折り、さらに、

「そんな夢みたいな話嫌いなの。お金は自分で働いて儲けるのよ」

と冷たく対応する。のび三朗は、

「ドラミはいいやつだけど・・・、くそ真面目なところが欠点だなあ」

と愚痴るよりほかない。


のび三朗が空き地に行くと、カバ田(ジャイアンキャラ)が友達たちと何かしている。カバ田が見えないところで空き地に何かを隠し、カバ田がそれを探すというような遊びらしい。

カバ田が手にしているのは、途中で折り曲げてL字状にした2本の針金。片方の手に一本ずつまっすぐに持って、静かに空き地の中を歩きだす。しばらくウロウロしていると、針金がピクと反応して、スウと開く。

その真下をカバ田が掘ると、皆がこっそり隠しておいた鉄パイプが出てくる。何と、埋まっている場所の上に来るとひとりでに開くのだという。

一連の様子を見ていたのび太朗は、そんな馬鹿なと大笑い。しかしカバ田は新聞に出てたんだと言って、切り抜きを見せてくる。記事は東京新聞の2月17日号の実際の記事の引用である。


僕も子供ながらにこの記事には驚いた記憶がある。少し長いが全文抜粋しておこう。

針金二本あれば、地下に埋まっている物体の位置をピタリとあてる。信じられないような話だが、武蔵村山市はこれを実際に使って、水道工事に大きな成果をあげている。
科学的根拠はまだはっきりしないが、百発百中で、地下6メートルの物を探り当てることができる。
戦争中の不発弾を見つけた例もある。
「そんなバカな話が…と、疑う人は、まず現場で見てもらいたい」と、同市水道課員は語っている。

藤子先生は、この記事のような「すこし不思議」なお話が大好物だ。科学的根拠が無いからと言って、すぐに嘘だと決めつけない。今の科学で根拠が掴めないだけなのかもしれない、とそんな風に考えるのがF流である。

本作では、まずこの前半部分で新聞記事の話を肯定的に描いている。が、だからと言って、不思議な話を全面肯定するかといえばそうではない。


のび太朗はカバ田の針金を見て、これを使えば宝さがしができると驚く。そこでさらなる実験として、100円玉を埋めるので再度針金で探してもらうことにする。

ところが、カバ田が針金を持って空き地を歩いていても、先ほどのようにいっこうに開かない。結局見つからず、「100円玉では感じが出ない、一万円玉だったら見つかるのに」と諦め宣言。

のび太朗は、僕の全財産だと食って掛かるが、うるせえと殴られてしまう・・。


そう、藤子先生は、不思議な話を一方で肯定して、一方で否定する。そういうバランス感覚を持ち合わせていることが、本作の流れからも分かるのである。

ちなみにこの針金(棒)などを使って地下に埋まっている物体や水脈などを見つけることを「ダウジング」という。ダウジングの歴史は古く、中世の頃から宝探しなどに使われていたようだ。

本作で引用されているように、武蔵村山市では1974年当時、実際にダウジングを用いて、古い水道管を掘り当てる職員がいたらしい。


さて、のび太朗がたんこぶ頭でドラミに泣きつくと、「ここほれワイヤー」という道具を出す。ワイヤーを抱えて空き地へ行き、ウロウロしていると、ワイヤーがピョコと動き出し、百円玉の形を作る。

ワイヤーが指した先を掘ると、先ほど埋めた百円玉が見つかる。「ここほれワイヤー」は、針金をゴシゴシこすることで、地中の深いところの物も見つけてくれる道具だったのだ。

のび太朗は、「ここほれワイヤー」を使えば、宝探しができる、と大喜び。のび太朗はワイヤーを取り上げて、ゴシゴシ・・と何べんも擦る。

すると、ピョコと反応したワイヤーは、そのまま長く伸び続けて、町のような形を作り上げる。何と、地面の底に町が埋まっているというのである。


これには、宝探しに賛同していなかったドラミもビックリ。これは大発見だということで、地底に潜ってみようということになる。そこで、ドラミは「地底探検車」という、地下鉄を掘るシードルマシンの小型版のような乗り物を出す。

何とも壮大な話になってきた。

ドラミとのび太朗は地底探検車に乗り込み、地中深くに潜っていく。地下50メートル、60、70と掘っていくが何も見えない。やがて深度1000メートルを超える。ちなみに東京の地下鉄での最深部は大江戸線の六本木駅で深さ42.3メートルだという。


深く潜行していく中、のび太朗は埋まっている町は、地底人の町ではないかと推測する。マンガで得た知識らしい。地底人は、地上人を捕まえてムシャムシャと食べてしまうのだという。そんな与太話に、慄くドラミちゃん。

地下5000メートルに達し、さすがに引き返そうとするドラミたち。しかし逆転装置が壊れており、バックできないことが判明する。そして加速度を増して、さらに深く深く掘り進んでいく。


ここで地球内部の構造について簡単にまとめておく。

地殻(6~60キロメートル)
上部マントル(~660キロメートル)
下部マントル(~~2900キロメートル)
外核(~5100キロメートル)
内核(~6400キロメートル)

作中では地殻は地表から3万メートル(30キロ)くらいだと紹介されているが、1974年当時ではそのような認識だったらしい。さらに言えば、外核は液体で、内核は固体だとされているのだが、作中では外核(=外部コア)は固体として表現されている。


コア内側は400度以上の高熱の世界。のび太朗たちが乗っている地底探検車は、そこでも耐えれる仕組みとなっているという。見た目からは想像できない程の頑丈さである。

そして、明るくなったと思うと、地底探検車は内部コアへと突入してしまう・・。果たして二人は無事なのか、そして地下の秘密とは・・?


二人が気がつくと、地底探検車は動きを止めており、あたりは暗くてひんやりしている。そこで探検車のライトを付けてみると・・、そこには巨大な地底都市が広がっている!

のび太朗は地底人の国だと確信する。すると大穴が開いており、その中には人骨と思しき骨がたくさん投げ捨てられている。これは、地底人に食べられた人たちの骨なのか・・。ドラミちゃんは、ここでも「やーん怖い」と慄く。

すると、ギギギ・・と天井の一部分が開かれる。そして、ドヤドヤといかに地底人のような二つの影が階段を降りてくる。地底人だと疑わない二人は、「逃げろ」と、再び地底探検車の乗り込み、一目散に掘り戻っていく。


日替わり。新聞に1000年前のマヤ族の遺跡が地下から発見されたという記事が載っている。マヤ族とは、今のメキシコを中心とした文明を築いた人種で、膨大な質量の遺跡を残している。

藤子先生はマヤ文明好きでもあって、実際に本作を描き上げた数年後には実際に取材旅行で訪れている。

新聞に載った写真を見ると、そこはのび太朗たちが、先日地下深くで見つけた都市である。二人が掘り当てた都市は、地下深くではなく、地球の裏側にあるマヤ族の町だったのだ。マヤ族は生贄の文化があり、のび太朗たちが見た骨も、それで説明がつく。

新聞記事にはおまけがある。

「探検隊が入り口を発見して入っていったら二つの人影が逃げていった。あついは地底人ではなかろうか・・」

のび太朗たちが地底人を恐れていた一方で、自分たちが地底人だと思われていたことになる。・・・いいオチがついたようだ。


本作は、ダウンジングに、地底都市に、地球の地下構造に、マヤ文明の遺跡と、藤子先生が強い興味を持つテーマをこれでもかと詰め込んだ、何とも贅沢な一作である。

なお、本作はその後修正を加えて「ドラえもん」の単行本に収録される。のび太朗をのび太に、カバ田をジャイアンに書き直している。それと同時に、地球内部の構造の説明では、具体的な数字を消している。雑誌掲載から半年後の単行本化であるが、その間で科学的事実が深まったのだろうか。

また、マヤのピラミッドを描いたコマを挿入している。こちらは藤子先生のこだわりが強く反映されたものと考えられる。



「ドラえもん」も「ドラミちゃん」も。


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