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のび太が初めて昼寝をした日『おいかけテレビ』/ドラえもん名作劇場②

今となっては常識となっているドラえもんのキャラクターの特性も、最初から設定がカチッと決まっていたわけではない。

長い連載期間の中で、少しずつ個々のエピソードが積み重ねられて、それがいつの間にか皆が知る固有の設定となっていったのである。


例えば、ドラえもん=ネズミ嫌い、どら焼き好き、しずちゃん=お風呂好き、ジャイアン=殺人的な歌声、スネ夫の腰巾着ぶりなどは、後から少しずつ蓄えられた設定であった。

これまで藤子Fノートでは、そんな「初めて」に注目した記事をいくつか書いてきた。

例えば・・・

しずちゃんのお風呂、ジャイアンの歌、のび太の野球など・・。


そして、後から固まっていった設定の代表格として、のび太の三大特技というものがある。すなわち、

①射撃
②あやとり
③昼寝

である。これまでに、①と②については、かなりの詳細記事を書いている。こちらは目次から探っていただけると幸いである。

次稿以降で、のび太の第三の特技「昼寝」についての代表作を紹介予定なのだが、本稿では、「初めて」のび太が昼寝をしているシーンが出てくる作品を取り上げてみたい。

些細な一コマではあるのだが、ここから、全国民のほとんどに知れ渡っている「のび太=昼寝の名人」という特徴が確立していくのだと考えると、なんだか胸が熱くなる思いがしてくるではないか。(←大げさ)


『おいかけテレビ』
「小学四年生」1970年4月号/大全集1巻

本作は連載開始からまだ4ヶ月目の超初期作品の一つ。まだのび太はジャイ子と結婚する運命だったし、ドラえもんに対抗するキャラクターのガチャ子がいたり、ジャイアンがそれほど狂暴ではなかったりする。

そんな中で、のび太がぐうたらな男だということは最初から決められていたことであり、記念すべき第一話となる『未来の国からはるばると』でも、冒頭から寝転がってお餅を食べている。

のび太=ぐうたら=部屋で寝転がる=昼寝ばかりしているという設定が固まっていくのは、自然の流れであり、たった4ヶ月目で昼寝のカットが入るのも必然だったのである。


さて中身をササっと見ていきたい。

冒頭、ドラえもんが電話を取ると、

「説明している暇はない!!テレビを見たまえすぐに!!」

と何者かが急き立てる。慌てて指示通りにテレビのXチャンネルに合わせると、そこに映りだされたのは、「骨川スネ夫、四年生」。それは「ジャリッ子のどじまん」という素人が出演する類いの人気番組であった。

スネ夫は「大阪がだめなら、名古屋があるさ~」と歌う。のび太やパパとママも「うまいなあ」と聞き惚れる。

ちなみにこの歌は、「東京がだめなら名古屋あるさ、名古屋がだめなら大阪があるさ」という歌詞の『東京でだめなら』のパロディだと思われる。1969年(本作の前年)に水前寺清子が歌った楽曲である。

また、このようないきなり電話が掛かってきて、TVの歌番組を見せる展開は、後の「ドラミちゃん」『テレビ局をはじめたよ』にも使われる。


番組出演効果により、翌朝からスネ夫は町の人気者に。皆がチヤホヤし、のび太までもがサインを求めて走り出そうとする。そんなのび太を制止するドラえもん。のび太に対して、

「自分もやったるでーと思わないの」

となぜかエセ関西弁を使って発破をかける。テレビに出ると考えただけで赤面してモジモジするのび太。そんなのび太にドラえもんは「出られるとも、僕の力で」と心強く胸を張る。そして、

「君を人気者にしてみせる。君を日本中の子供の誰にも引けを取らないようにするのが、僕の仕事だ」

とのび太の背中を押すのであった。


初期ドラならではの、ドラえもんがまずは暴走するという展開だが、さらに無茶苦茶なエピソードが続く。

ドラえもんは皆に「これからのび太はテレビに出る」と宣言した後に、テレビが何台も売られている電気屋にのび太を連れて行き、「出演料はいらないからのび太をテレビに出せ」と言い出す。

「こんなにあるんだから、一つくらいに出してくれもいだろう!」

と、まるでテレビの仕組みを理解していないのである。とても未来から来た先進的なロボットとは思えない発言となっている。


その後テレビ局のオーディションを受けさせるが、ガチガチになったのび太はあっさりと落選。皆からは「テレビに出てないじゃないか」と突き上げらるのだが、ドラえもんは、これから全チャンネルで「のび太ショー」が放映されると、またも無茶苦茶なことを言い出す。

家に帰り、出した道具が本作のタイトルとなっている「おいかけテレビ」というテレビカメラである。ただし、作中には道具の正式名称は明示されていない。

このカメラをタッチすると、その人のことを追いかけ回して撮影し、それがテレビ全チャンネルに配信されるという、YouTuber垂涎の撮影器具である。


のび太はこのカメラの仕組みがわからぬまま、カメラにタッチ。のび太の模様が全国ネットにて配信されていく。ドラえもんは町中に「のび太ショー」を見ようと喧伝して回るが、そこでスネ夫に呼び止められ、「ありゃ一体なんだ」と突っ込まれる。

するとテレビに映し出されているのは、じいっと昼寝をしているのび太の姿。「のび太ショー」は、「のび太昼寝ショー」と化していたのである。そして、このワンカットが、初めてのび太がはっきりと昼寝をしている場面である。


この後は、「テレビに映るのは恥ずかしい」と逃げ回るのび太が描かれ、スネ夫が「だったら自分を出させろ」と、おいかけテレビにタッチして、主役がチェンジとなる。

スネ夫は『東京でだめなら』の更なる替え歌を披露。「青森がだめなら北海道があるさ~」と、どんどんと都落ち(?)していく歌詞を歌い上げる。

スネ夫のママも参加し、骨川家ショーが延々と流されることになるのだが、見ている方が付いていけずに、誰もテレビを付けなくなってしまう。ま、そりゃそうだろう・・。


テレビに映りたいのは、みんなに見て欲しいからであって、視聴者いなければやる気も無くす。しかし「おいかけテレビ」はそんな事情はお構いなしで、まるで意地を張るように、ひたすら嫌がるスネ夫を追いかけていく。

そして、ずっとおしっこを我慢してきたのだが、トイレの中までもテレビに追いかけられ、ついにギブアップ。「みなさん、助けて下さい」と全国ネットに流す羽目になるのであった。

「プロフェッショナル」や「情熱大陸」など、密着のテレビ番組は数多いが、被写体となる人たちの気苦労が何となくわかるような一作である。


本作ではのび太の昼寝シーンは、ほんの僅かで、何気なく読んでいては気付かないレベルである。また、スネ夫は初期ドラにおいては、絶対的なのび太・ドラえもんの敵として描かれており、本作のようにのび太たちに対抗して、酷い目に遭うケースが多い。

この翌月に描かれた『マル秘スパイ大作戦』では、スネ夫の方が昼寝をして、寝小便をするクセが治っていないことが描かれている。本稿を書いていて、初期ドラのスネ夫とのバトルを特集した記事を残すのも悪くないなと思ったので、近く挑戦してみたいと思います。。


「ドラえもん」の隅々まで考察中。


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