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【単行本未収録】のび太、初めての野球『やきゅうそうどう』/藤子Fのベースボール③

「藤子Fのベースボール」と題して、「野球」をテーマとした藤子作品を集めていく企画の第三弾。ここまで「オバQ」2作、「パーマン」2作を見てきた。

過去記事はこちら。


本稿では野球がテーマと言えば外せない「ドラえもん」について見ていく。

ドラえもんと野球、と聞いたらまず思い浮かぶのは「ジャイアンズ」というチーム名だろう。ジャイアンツではなく、ジャイアンズという粋なネーミングは、ドラえもん史上最大の発明ではなかろうか。(・・は大袈裟か)

ジャイアンズは、ジャイアンが四番でエース、さらに監督も務めるチームだが、イメージとしてはいつも大敗し、リーグ戦(?)でも最下位街道まっしぐらの弱小球団である。

「ジャイアンズ」の面白エピソードは山ほどあるのだが、そのお話を集めていくだけで相当な分量となってしまう。よって、その全貌についてはまた別の機会で考察していくことにして、本シリーズにおいては、ジャイアンズが結成される前の野球エピソードと、ジャイアンズ結成直後のエピソードを二回に分けて紹介したい。


『やきゅうそうどう』「小学二年生」1970年2月号/大全集1巻

本作は単行本未収録作品の一つで、「藤子・F・不二雄大全集」でしか読めない貴重なエピソードとなる。連載開始から二か月目の作品で、ドラえもんにおける「野球」初登場の回となる。

「オバQ」も「パーマン」も連載開始間もないタイミングで「野球」を題材にした作品を描いていたが、それは「ドラえもん」でも繰り返される。野球という題材は、子供たちの日常にしっかりと結びついている鉄板ネタだったのである。


本作は、初期ドラならではの設定の乱れや、まだ大ボケキャラとして描かれていたドラえもんの破天荒さが際立つ異色作となっている。かなりのツッコミどころが含まれているので、楽しく正しくツッコミながら、物語を追っていくことにしよう。

初期ドラならでは

本作はのび太が少年野球チームの入団テストを受けるお話と、寒さに弱いドラえもんという二つのネタを組み合わせた展開となっている。

冒頭で、のび太がドラえもんに、「少年野球のチームに入りたいが自信がないので一緒に付いてきて欲しい」とお願いする。ところが極端に寒さに弱いドラえもんは、こたつを抱えて出掛けようとする。

のび太はそんなドラえもんに呆れ、一人でテストを受けに行く。途中で、初期ドラ最大の敵であるスネ夫に「野球ができるのか」とバカにされ、のび太の将来の結婚相手であるジャイ子にも「まりつきもできないくせに。ケケケ」と笑われてしまう。

ケケケ・・


傷ついたのび太は家に帰ろうとするが、ヒロインしずちゃんに「応援に行くから頑張ってね」と手を握られ、「やっぱり行こう」とグラウンドへ向かう。

ここまでで登場した、ドラえもん・スネ夫・ジャイ子・しずちゃんは、今のドラえもんからすると、少し違和感のあるキャラクターとなっている。そしてもっともキャラ変となっているのが、この後登場するジャイアンである。


グラウンドでは、入団希望の子供たちが大勢集合している。その中には、野球大好き少年のジャイアンの姿もあるが、なんだかボーっとしていて迫力がない。

初期ドラにおけるジャイアンは、まだスネ夫の子分みたいな立ち位置の大人しいキャラとなっていて、凶悪さはむしろジャイ子の方に感じさせる。

のび太の入団テストが開始
最初はボールをグラブで受けるだけだが、ボールを怖がって逃げ出してしまう(そしてのび太の後頭部に直撃)。
次にボールを投げる番だが、なぜかボールは自分の後ろへ(そしてキャッチャーの頭に直撃)。
打撃では振り回したバットから手を放してしまう(そしてピッチャーの頭に直撃)。

見事にテストは不合格となるのび太。

奇跡的な運動音痴。


一方、こたつに潜り込んでいるドラえもんの元にセワシ君が様子を見にやってくる。ドラえもんはのび太は「おきゅう」チームに入るのだと説明するが、もちろん「やきゅう」の聞き間違えである。

セワシは「何でのび太について行かないんだ」と職務怠慢を叱ると、ドラえもんはストーブを四次元ポケットに入れて、寒さ対策を講じた上でのび太の後を追う。(後の伏線になってます)


ところが時既に遅し、のび太は試験に落ちたあと。「今さら遅いや」とのび太に文句を言われると、チームに入れてもらえなかったことに急に怒り出すドラえもん。「怒鳴りつけてやる」と、もう一回テストを受けに戻る。

このあたりの横暴さが初期ドラの魅力である。

可愛いジャイアンに注目


ドラえもんは姿を消して、のび太の手伝いをするという。初期ドラでは、ドラえもんのシッポを引っ張ると姿を消すことができるという設定があったのだが、いつしかその機能は壊れてしまったらしく、「透明マント」などが使われるようになっていく。

キャッチボールでは、ドラえもんが全てキャッチしてくれて、それをのび太のグローブに入れてくれる。のび太が投げれば、ドラえもんがボールをフラフラと運んでくれる。至れり尽くせりなのだ。


そして次はバッティングのテスト。透明ドラえもんはのび太に出鱈目にバットを振り回すよう指示を出す。ところが、思いの外のび太のスイングが強烈で、ガチャとドラえもんのポケットに入っていたストーブに当たり、ボールを持った透明ドラえもんが、火に包まって飛んで行く

「火の吹くようなあたり!」と周囲に驚かれるが、このシーンを描きたいがために、ドラえもんを必要以上に寒がりにして、流れでストーブをポケットの中に入れさせたものと思われる。

なお、透明のドラえもんがのび太の活躍を手伝うという展開は、「オバQ」の野球編2作と全く同じ。

考えてみれば、透明になれるという設定は、オバQで散々使い倒してきたので、「ドラえもん」での透明設定は、すぐに止めてしまったのも知れない。


のび太の活躍を見た少年野球の幹部たちは、「入れてやる」と入団を認めるが、ドラえもんが割って入ってきて「入ってくださいと言いなさい」とケチをつける。さらに、

「契約金は、いくらくれる」

銭ゲバぶりを見せている。初期ドラでは、こうしたお金に汚いドラえもんが時おり描かれている。

タケコプターは??


「入れてよかったね」とドラえもんはのび太を背負って、空を飛んで帰る。絵柄の都合かタケコプターなしで飛んでいるように見えるが・・。まあ、初期ドラでは「タイムマシン」なしで時空空間を泳いで未来に戻っていたし、こういう設定の乱れは、大目に見ておきたい。

家に帰って、ドラえもんは「寒かった」と言ってこたつに潜り込む。のび太は「どうもすっきりしない」と腕組み。そして、自分の力で入れたんじゃないと思い直し、練習して本当にうまくなろうと決意する。


ところが野球の練習をドラえもんに手伝ってもらおうとするが、寒くて外は嫌だとごねる。最後までわがままなロボットなのである。

そこで、部屋を引き延ばしてくれるローラーを出して、部屋を広げて、外に出ないまま野球の練習をするのび太たちなのであった。


本作は単行本未収録作品だが、改めて読み直すとそれも致し方がないと思ってしまう。キャラクターがそれぞれ固まっていないし、タケコプターなしで空を飛んだりしている。そもそもドラえもんが姿を消してのび太を助けるという展開もオバQで二度も使っているネタだったりする。


野球のネタはその後も断続的に「ドラえもん」に登場していく。1971年の『アリガターヤ』で初めてジャイアンとスネ夫が野球に一生懸命になる姿が描かれる。

そして1974年の『うつしぼくろ』で、ついに「ジャイアンズ」のチーム名が明らかとなる。その後は、引っ切りなしにジャイアンズの野球シーンが登場する。

次稿ではそうした初期のジャイアンズの代表作を取り上げてみたい。


「ドラえもん」考察たくさんやっています。


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