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透明Qちゃんの助けを借りて、正ちゃん、巨人の星となる!/藤子Fのベースボール①

ちょうど藤子不二雄にドはまりしていた子供の頃、プロ野球観戦も大好きだった。実家が関東の田舎ということで、ご多分に漏れず家族でジャイアンツファン。毎晩のようにナイターをテレビ中継で観ていた。

僕が熱狂していた頃のジャイアンツは、既に王と長嶋が引退していて、原辰徳が四番サードのポジションで、エースは江川卓だった。監督は名将・藤田元司である。

若きジャイアンツの選手たちの活躍は、野球観戦初心者にとって、とっても魅力的に映ったのである。


僕は今ではほとんど野球に関心が無くなっているが、子どもの頃の話題は野球とドリフターズだったように思う。

今はサッカーとかに押されているんだろうか。その辺のスポーツ事情はよく分からないが、少なくとも僕が子供時代だった40年前や、もっと古いところでは、野球が子供たちの最も身近なスポーツだったように思う。


子供の世界を描かせたら右に出るものはいない藤子F先生は、当然のことながら、野球をテーマとした作品も、数多く執筆されている。そこで「藤子Fのベースボール」と題して、野球を題材とした作品をたっぷりと紹介していきたい。

まず第一弾として、「オバケのQ太郎」から、2本のベースボール作品をご紹介したい。


『魔球でやったるで』
「週刊少年サンデー」1964年24号/大全集1巻

「オバケのQ太郎」は、初回が子供たちの忍者遊びのシーンから始まることが知られている。これはオバQ誕生を描いた『スタジオ・ボロ物語』を読むとわかるのだが、締め切りが間近の中、子供たちが忍者ごっこをしている様子を見て、オバQのアイディアを固めている。

実際のところは定かではないが、生活ギャグマンガというジャンルを始めるにあたり、実際の子供たちが遊んでいること、興味関心があることからネタを見つけていたのは事実ではないかと思う。


本稿で紹介する『魔球でやったるで』は、オバQの第10話目にあたるお話なのだが、実は9話目までで一度打ち切りとなっており、本作は再開一作目にあたる。

打ち切りの理由は、「もともと決まっていたから」「思うように人気が上がらなかったから」など色々言われているのだが、子供たちの熱狂的な声が後押しが再開の扉をこじ開けさせたことには間違いないだろう。

漫画の世界はいつだって、大人の事情より読者の要望・都合が最優先なのだ。


その再開一発目に、「野球」をテーマに据えたのは偶然ではないと考える。本作が描かれた前年のペナントレースでは、ジャイアンツが2年ぶりに日本一となり、王と長嶋がベストナインに選出されている。この翌年からはジャイアンツV9の時代が来るが、その直前の人気がうなぎ上りとなっていた時期にあたる。

野球は子供たちの人気スポーツであり、定番の遊びだったのだ。藤子マンガでは、この後の生活ギャグ路線作品において、「野球」はかなりのメジャーなモチーフとなっている。今では考えられない程に、子供たちは野球に夢中だったのである。


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それでは内容を簡単に見ていこう。

野球に向かう正太にQちゃんは連れて行ってとお願いするが、面倒なことになるのは目に見えているので、野球を知らないから来てもつまらないよ、と行って家に留守番させる。

Q太郎はテレビで野球放送を見るが、「よくわからないけど忙しい遊びだ」と面白い感想を漏らす。そこへ、正太が帰ってくる。チームのメンバーが一人足りないので、Qちゃんをスカウトにきたのである。


無理やりにユニフォームを着せて、野球場へと連れていく。外人選手か? などと噂されるが、すぐに野球のことを全く知らないとバレてしまう。そして、ここからは「オバQ」の典型的な展開・・ボケ倒しの連続が始まっていく。

せっかくなので、ボケを箇条書きしておこう。

①グローブを足にはめる
②ボールを投げると、パクと食べてしまう
③守備についてボールを取ると、よその家に放り込んでしまう
④そして一言。「取るくらいなら投げなきゃいいのに」
⑤ボールを取りに行った家でくつろいでいる

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Qちゃんのドタバタと、敵チームが推薦してきたアンパイアがこちらのチームに辛い審判をしたために、初回から7点取られてしまう。

6回までに15対0と一方的なゲームとなるが、Qちゃんはだけは「野球って面白いね」と喜んでいる。するとそこへ、遅れていたしげる君がやってきたので、Qちゃんと交代となる。Qちゃんは10人でやろうと言い出すが、ベンチ行き。これじゃつまらないということで、こっそり透明になって、グラウンドへと入っていく。


ここからは透明Qちゃんが大活躍。

守備では、ボールを取ってあげたり、ベースを勝手に移したり、ボールを魔球にしたりする。打撃では、ボールを落下させたり、走っている選手を先に移動させたりする。

なんやかやで、12点返し、3点差。そして、フルベースとなってバッターは正ちゃん。ホームランで逆転のところまで辿り着く。そして、ポコッと当たったボールをQちゃんは掴んで、フラフラと空中に持っていく。見事これで満塁ホームランと思いきや、降りようとしたところに犬が現れて、降りれない。

ボールはそのまま空中に止まったままとなりました。

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改めて読んでみると、野球の試合を描こうというよりは、野球を題材にバカをしようという構成となっていることがわかる。この後、色々な野球作品を見ていくが、藤子先生は基本的に、ゲームの面白さよりは、ルール無用のバカバカしさをメインで描きたいようである。



『魔球でやったるで』で透明Qちゃんの活躍が描かれたが、この続編とも言える作品があるので、続けてご紹介したい。

『正ちゃんは名選手』
「別冊少年サンデー」1964年秋季号/大全集1巻

掲載誌となる「別冊少年サンデー」1964年秋季号は、「東京オリンピック・スポーツまんが」特集号で、既に大人気となっていた「オバQ」の初めての特別編として発表されたもの。

本作は実在の巨人軍に正ちゃんが入団するという、特別感のある作品となっており、王・長嶋や、川上哲治監督・城之内邦雄投手などが実際に登場する。

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お話としては、正ちゃんが、透明Qちゃんの力で、打てばホームラン、守ればどんなボールでも取ってしまう名選手となり、それが評判を読んでなんと巨人軍からスカウトにきてしまう。

契約金800万を提示されて、正一のパパもビックリして目を回す。そこへQちゃんがマネージャーだと言って登場し、800万を逆に値切って1000円で契約してしまう・・。

ちなみに本作が描かれた1964年の通貨価値でいうと、大学新卒の給料が17,100円というので、800万は契約金1億円というイメージくらいだと思われる。

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正ちゃんはいきなり5番ライトで先発出場する。さっそく守備につくが、大観衆を目の前にしてガッチガチ。王選手などに「正ちゃん落ち着いて」などと声を掛けてもらうが、まるで聞こえていない。

相手チームは阪神だが、当然ライトを目掛けて打っていく作戦に出る。そこで透明Qちゃんが、ガチガチの正ちゃんを体ごと動かしたり、ボールを持っていってあげたりと、面倒見てあげる。

打席に立っても緊張して目が回っている状況だが、空振りしたボールをQちゃんが場外まで運んでくれて、いきなりの大ホームランを記録する。

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ここでようやく落ち着く正ちゃん。ところがここで、トンデモない事態が発覚する。なんと正ちゃんが、前作の『魔球でやったるで』以来、Qちゃんのおかげでホームランを打ったり、ファインプレーをしたいたことを初めて知ったのである。

「僕は天才でも何でもなかったんだ」とショックを受ける正ちゃんだが、知らんかったんかい!と思わずツッコミしてしまうシーンである。


正ちゃんはQちゃんに今後は手伝うのを止めるように言う。スポーツはフェアに戦うべきだ、というのである。偉いぞ正ちゃんとか思っていると、同点で最終回の攻撃を迎え、正ちゃんの打順となると、やっぱり助けてくれと泣きを入れてくる。

Qちゃんはダメだと拒否。すると正ちゃんはデッドボールを受けて、出塁することになる。が、ボールを頭に受けたショックで動けなくなってしまい、ここでQちゃんにバトンタッチ(!?)

ここからは紙面の都合なのか、やや強引なまでの急転直下。砂煙の中でQちゃんがユニフォームを着て正ちゃんの代わりになり、6番国松がヒットを打つ中、猛スピードでホームへと駆け込んでゲームセット。一塁ベースに埋めてあった正ちゃんを掘りだして、球場から逃げ出すのであった。

なお、国松は国松彰を意識しつつ、漫画では「おそ松くん」の国松を登場させている。絵もおそらくは赤塚不二夫先生によるものだと思われる。

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ドッタバタながら、本物の巨人軍に正ちゃんが選手登録されるという、スペシャルなお話なのでした。


藤子不二雄完全合作「オバケのQ太郎」の考察たっぷり読めます!


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