見出し画像

パーマンが野球で活躍しても、みつ夫の心は晴れない。/藤子Fのベースボール②

子供の頃は毎日ナイターを見ていたのに、今となってはほとんど野球観戦から遠ざかっている僕なのだが、それでもスゴイ選手が現れると気になってしまうミーハー者

昨年で言えばエンゼルスの大谷翔平選手の活躍のニュースは気持ちよく見聞きしていたし、つい先日の完全試合・13者連続奪三振・一試合19奪三振のトリプル記録を達成させた佐々木朗希選手の活躍は、食い入るようにニュースを見た。

特に佐々木選手の完全試合は平成以降で槇原に次いで二人目と聞いて、凄いことだなと感心した。槇原の試合は当時リアルタイムで中継を見ていたが、それ以来なのかと驚かされる。

佐々木選手や大谷選手のフィーバーを見ていると、まだまだ日本人は野球が好きなんだと安心できるし、きっと今の子供たちもサッカーだけではなく、野球選手に憧れる人も多いのではないだろうか。


さて、そんな国民的スポーツとも言える「野球」は、当然藤子先生も頻繁にテーマとして取り上げている。子供向けマンガと野球とは切っても切り離せない関係にあるのである。

そこで「藤子Fのベースボール」と題して、シリーズで「野球作品」を取り上げていくことにしたい。既に第一弾ということで「オバケのQ太郎」から2作品を取り上げて紹介している。記事は以下。

続けて本稿では、「パーマン」の野球作品を数本ご紹介したい。


『野球はふたりで』
「週刊少年サンデー」1967年5号/大全集1巻

前回紹介した「オバQ」の『魔球でやったるで』は、メイン連載誌だった「週刊少年サンデー」の10話目のお話だった。

一度連載が打ち切られて、再開一作目となる勝負作でもあったが、その大事な場面で「野球」をテーマに据えた。それほどに「野球」は鉄板ネタだったのである。


本作の『野球はふたりで』も、「週刊少年サンデー」での連載3本目という重要なタイミングで「野球」ネタを放り込んでいる。

スーパーパワーを得たばかりのみつ夫が、ブービーと二人で野球の試合に臨むお話で、野球でヒーローになりたい願望を持った読者の心を鷲掴みにしたはずである。


みつ夫は野球好きだが、それほど上手くなく、カバ夫からメンバーが間に合っていると言われて、試合に参加させてもらえない。しかし、みつ夫がパーマンの友だちだということで、サブが「パーマンの秘密を聞き出すためにも、野球に参加させておこう」とカバ夫に忠言する。

ちなみにみつ夫の帽子にはイニシャルのMの文字。カバ夫がKでサブがSとなっている。


みつ夫は野球に参加させてもらえることになったが、打席に立てば三球三振に倒れてしまうし、守備でもエラーをしてしまう。みつ夫のせいで三点ビハインドとなり、あっという間に最終回。

ここで二死満塁のチャンスとなるが、打順は寄りによってみつ夫・・。チームメイトは不満タラタラである。

陰口に耐え切れなくなったみつ夫は、仕方なくパーマンと代わることに。こっそり物陰でパーマンとなって登場すると、みつ夫の時と打って変わって頼りにされ、みっちゃんにもホームランを期待される。


本作は「パーマン」開始3作目ということで、まだ相手チームはパーマンについて知らない様子。みつ夫の代わりだから大したことないと油断するが、一球目から大飛球を打たれてしまう。

この時はブービーがボールをキャッチしてしまったので、再度投げるのだが、今度こそ満塁ホームランとなってしまう。これで相手の攻撃を抑えれば試合は勝ち。パーマンはピッチャーを買って出るが、ボールを投げ込むとキャッチャーが吹っ飛ばされてしまう。

ということで、ブービーがキャッチャーとなり、他の守備選手も引っ込ませて、パーマン二人で野球をすることに。パーマンは規格外の速球で二者連続三振。三人目はわざと打たせるが、あっという間に守備でアウトにしてしまう。

このあたりの展開は、自分がもしパーマンになったらと考えると楽しくて仕方がない。日常のヒーロー・パーマンの面白さが存分に発揮されていると思う。


しかしながら、パーマンが活躍すると、その分、みつ夫の出番は無くなっていく。そんなこじれた状況となってしまう作品がこれ。

『それでもみつ夫はやる』
「小学四年生」1967年4月号/大全集4巻

この日もカバ夫とサブがみつ夫に対して、パーマンを野球に誘いにくる。みつ夫は「僕じゃダメなの?」と尋ねると、「君もいいけどパーマンには是非来てくれ」というお答え。

みつ夫は正直面白くない。パーマンは自分にとって仮の姿で、パーマンが褒められたところで、みつ夫の評価は変わらないからだ。

この二つの顔を持つ苦悩こそが、「パーマン」最大の醍醐味である。みつ夫としてチヤホヤされたいのに、パーマンの時しか尊敬されないのは辛すぎる。本作ではギャグにしているが、真剣な展開となる話もあるので、気になった方は以下の記事へ・・・。


みつ夫は素の自分で尊敬されたいと考え、みつ夫として野球に参加する。サブやカバ夫には露骨にがっかりされるが、今日のみつ夫はちょっと違うということで、生き生きとバッターボックスに向かう。・・・が、結局三振。守備でもエラー続きと、結局いつもと変わらないのであった。

チームメイトはみつ夫を引っ込めたいのだが、逆らってパーマンを怒らせるわけにはいかないので、引っ込めとは言い出せない。そんな空気を察知したみつ夫は、仕方なく自分からお腹が痛いと言ってチームから離脱する。すると、

「ばんざい。ちょっとでなく、ゆっくり休みな」

と、またまた露骨に喜ばれてしまうのであった。


するとそこへ、ユニフォーム姿の中学生たちがやってきて、試合があるから空き地を譲れと脅してくる。たまらず撤退するカバ夫たち。しかし、正義感溢れるみつ夫は、自分が交渉すると言って、中学生たちの元へと乗り込んでいく。

このあたりの正義感はのび太にはない、みつ夫独特の魅力である。しかし、非力なので、あっという間にボコボコにされて、相手にされない。


ところが、見ている人は見ている。みっちゃんは、みつ夫の勇気ある行動に触発されて、中学生たちの真ん中で座り込みをして、抵抗する。しかし素行の悪い中学生たちは、そんなみっちゃんまでも「女のくせに生意気」と殴りかかってくる。

ここでみつ夫の堪忍袋の緒が切れる。すかさずみっちゃんを助けて、ブービーに渡して逃がした上で、自分はパーマンに変身して中学生たちに仕返しにいく。パーマンをまだ知らない中坊たちは、いきり立つが、そこで僕らが言ってみたいセリフをパーマンがバチっと言い切る。

「君たちに最後のチャンスを与えよう。三つ数える間に消えたまえ。言うとおりにしないと・・ちょっと気の毒なことになるよ」


3つ数えてから、バッタバッタと中学生たちをやっつけるパーマン。

と、ここで冷静になったパーマンは、中学生相手にパーマンが出ちゃいけなかったと思い直し、その場から立ち去ってしまう。そしてへたっている中学生のところへ、みつ夫の姿で近づいていく。


一方、ブービーに連れていかれたみっちゃんは、「みつ夫一人で戦っているから」と、カバ夫やサブたちを引き連れて戻ってくる。ちょうどみつ夫と中学生たちが対峙しているところである。

パーマンにやられてすっかりやる気を無くしている中学生たちは、ここで撤収。傍目にはみつ夫が睨み返したように見えたので、カバ夫たちはすっかりみつ夫を見直す

「お前にそんな根性あるとは知らなかったぜ。尊敬しちゃうなあ」

念願のみつ夫の姿で尊敬されたことで、何だか自信の湧くみつ夫なのであった。


途中から野球があんまり関係なくなってしまったが、みつ夫にとって野球が大事だということはよく伝わってくる。『野球はふたりで』では、パーマンとして大活躍をしてチヤホヤされる。『それでもみつ夫はやる』では、パーマンばかりが注目されて気分を害したみつ夫が、自力で尊敬を勝ち取る。

この二本を通じて、パーマンの魅力がよくわかる。そんな野球編なのである。


「パーマン」の考察、たっぷりやっております。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?