パーマンと星野スミレの出会いを邪魔するパー子『スミレちゃんサインして!』他/パー子の正体は誰?①
「パーマン」世界の大スター・星野スミレ。まだ小学生であるにも関わらず、歌にドラマに映画にCMにと八面六臂の大活躍である。
パーマンこと須羽みつ夫は、ご多分に漏れずスミレちゃんの熱狂的なファンの一人で、彼女の出ている番組やCMを見るために、テレビに釘付けとなっている。スミレちゃんをもっと見たい、できれば会いたいと願う日々なのである。
ところが、彼は知らないのだ。
みつ夫の願いは既に叶っているということを。パーマン活動の良きパートナーであるパー子の正体が、実は憧れの大スター本人であることを・・・!
「パーマン」は1960年代に発表されたヴァージョン(旧パーマン)と、1980年代にリニューアルされたヴァージョン(新パーマン)に大別できる。
旧パーマンでは、星野スミレは登場していたが、パー子の中身がスミレちゃんだと明言せぬまま連載が終了してしまった。(当時のアニメや単行本では明示されていたが)
ところが新パーマンでは、「パーマン3号=星野スミレ」という事実は読者に対してすぐにオープンとなり、知らないのはパーマン世界の登場人物たちだけとなった。
よって、「新パーマン」での星野スミレエピソードは、大好きなアイドルと最も仲良くしているのは自分自身だということを知らないパーマンに対して、何ともやきもきすることになるのである。
藤子Fノートでは、パー子と星野スミレ、及びみつ夫との関係性について、これまでに多くの記事で語ってきた。また「パーマン」世界を飛び出して「ドラえもん」に登場した成人した星野スミレについても記事にした。
詳しくは下記の記事群をチェック願いたい。
「新パーマン」では、星野スミレとみつ夫のラブストーリーが描かれていくことになるのだが、まずはその前段の作品についての記事を書くことにしたい。本稿以降、3つの記事にて、ラブストーリーに発展する手前のパー子関連作品をお届けする。
パー子の正体が明らかになったことを前提にしたお話が揃っていて、個人的にもお気に入りの楽しい作品ばかり。
まず本稿では、1983年8月(=連載開始5か月目)に同時に発表された2作『星野スミレが家へくる』と『スミレちゃんサインして!』を、続けてご紹介する。
まずこちらの作品は簡単に。
星野スミレ命のみつ夫くん。麻薬の密輸の取り締まりという重要な任務を2号と3号に委ねて帰宅し、自分は星野スミレが2時間にわたってインタビューを受けるというテレビ番組「スタークローズアップ」を食い入るように見る。
スミレちゃんを堪能しているとママと妹のガン子が部屋に入ってきて、パーマンを呼べと言う。なんと今見ている「スタークローズアップ」に、次回パーマンが出演して欲しいという依頼があるというのだ。
しかもインタビュワーはなんと星野スミレ! インタビューはみつ夫の部屋で行われるという。当然小躍りして快諾するパーマン。
そしてその日がやってくる。「新パーマン」では初めてのパーマンとスミレちゃんの邂逅シーンである。
ところがこれからインタビューを始めるというタイミングでバッジが鳴る。見張っていた麻薬の取引がいよいよ始まったので、パー子たちが呼び出したのである。
コピーロボットに代わって、文字通り泣く泣く犯行現場に急行するパーマン。星野スミレと会いそこなったと聞いたパー子は「会ってもどうってことないわよ、あんなの」と笑って話す。
「スミレちゃんを悪く言うな!」と怒るパーマン。パー子(=スミレご本人)からすれば、ちょっとした謙遜なのだが、もちろんパーマンには伝わらないのである。
事件を解決して帰宅するも、とっくにスミレちゃんはいない。長時間一緒だったコピーロボットは、「僕だけの思い出にしたい」と言って、パーマンとのおでこタッチ(記憶の共有)を拒否するのであった。
この作品ではパー子の正体が星野スミレとは明かされないが、パー子の中身がスミレちゃんだということが前提となったやりとりが出てくる。
スミレと親しくなるチャンスを妨害したのは、スミレご本人(パーマン3号)という構成が何ともニクイのである。
本作でもみつ夫(&コピーロボット)は星野スミレに首ったけ。出演するCMの時間帯を調べ上げており、時間に合わせてチャンネルを切り替えていく。
「ポカリスイート」のCMを見た後は自分もポカリを飲み、「豆乳石けん」のCMが流れれば、ママに「ヨツワ石けんではなくて豆乳石けんを買ってくれ」とねだる。
さらには「目産スミーレ」という車のCMを見て、「スミーレ買って」とママに告げ、「いい加減にしなさい」と叱られるのであった。
ちなみに今の3つのCMについて補足をしておくと、まず「ポカリスイート」は「ポカリスエット」のパロディである。ポカリスエット、通称ポカリは1980年に発売開始されたスポーツドリンクで、1981年頃から人気が出始めた。
ネクストブレイクの美少女アイドルを起用するCMが印象的で、第1回ポカリスエット・イメージガールコンテストの優勝者は森高千里である。その後も宮沢りえや一色紗英がCMに起用されているが、この流れの中に星野スミレがいてもおかしくはない。
しかし意外なことに、本作発表時(1983年)はまだ日本人のアイドルを起用していない。つまり、星野スミレがポカリのCM美少女第一号と呼んでもよいのではないだろうか。
続けて「豆乳石けん」は、牛のマークが印象的な「牛乳石けん」を意識したものだろう。
本作でスミレちゃんが「信じられる?ヤングのふたりに一人は、毎日顔を洗ってるんだって」とキャッチコピーを語っているが、牛乳石けんの名称が「ヤングレディ」だったので、それをモジったのかもしれない。
というか、同じようなコピーのCMを子供の頃見た気がするのだが、思い出せない。誰か知っている方がいたら教えて欲しい。
「目産スミーレ」は、80年代に発売していた日産車のマーチのCMを意識したもの。日産マーチは「スーパーアイドル」をキャッチコピーにして近藤真彦(マッチ)を起用、「マーチが町にやってきた」というCMは今でもよく覚えている。
本作でも「町にスミーレがやってきた」というのCMの場面が描かれている。
さて、そんなスミレちゃん大好きなみつ夫が、心から羨む事態が発生。なんと三重晴三が自身の金持ちコネクションを伝って、星野スミレの生サインを手に入れたというのである。
みつ夫以外の面々もこれにはびっくりして、みっちゃんは「さわらせて」、カバ夫は「匂いかがせろ」、サブは「なめさせろ」と三重晴を追いかけまわす。
みつ夫に至っては「う・ら・や・ま・し・い~~」と大号泣して、「スミレのサイン欲しいよ~」とコピーロボットに悔しさをぶつける。
そこでコピーが「パーマンでも思い通りにいかないことあるの」と素朴な反応をして、みつ夫はハタと気が付く。パーマンの立場ならサインがきっと貰えるに違いないと。
ということで、言い出しっぺのコピーを留守番にして、さっそくパーマンはスミレの家へと向かう。
パーマンはその途中で、「強盗がスミレの家に入ってて、それを僕がやっつけて、仲良くなったりして」と、とても物騒な想像を巡らせるが、これはこの後の展開の伏線になっている。
星野スミレの家は都心にあるとは思えないほどの大豪邸。地方の大地主のような巨大な庭には池まである。ちなみにこの邸宅は、「ドラえもん」に登場する大人になった星野スミレの家と一緒。
ここで疑問に思うのは、スミレはこの時は大スターといえど小学生であり、直近の稼ぎだけでこれほどの豪邸を建てられるものだろうか、ということ。スミレの親としても小学生の子供が稼いだお金で家を建てようとは思わないはずである。
そう考えると、もともとスミレの親は資産家であったとした方が自然なのかもしれない。
邸宅の門の前ではスミレちゃんの親衛隊が3人立っている。スミレ命と書かれたお揃いの法被に鉢巻姿。いかにもアイドル親衛隊という風情だが、好きな芸能人の家の前を毎日ウロウロしても警察沙汰にならなかった昭和の時代を感じさせる。
パーマンはスミレのサインを貰いに来たというと、親衛隊3人は「これだから素人は困る」と言って笑いだす。スミレは猛烈に忙しく、予約なしには総理大臣もパーマンも会えないというのである。
するとそのタイミングで、「キャア~」と、とてつもない大声の悲鳴が響き渡る。これはスミレちゃんの悲鳴で、本当に強盗が入ったのかもしれない。パーマンは「チャンスだ!!」と言ってスミレの家へと飛び込んでいく。
重大事件かも知れないのに、会えるチャンスと考えてしまうパーマン・・あまり褒められた態度ではない。
ガラスを割って部屋に飛び込み、「悪者はどこだ」とファイティングポーズを取るのだが、そこにはスミレちゃんが台本らしきものを手にしてポツンと一人立っているだけ。
いきなりガラスを割られて何者かが侵入してきたのに、スミレは「あら、パーマンどうしたの?」と平然としている。さすがはパー子の中身の人なので、肝が据わっている。
先ほどの強烈な悲鳴は、今度の映画のお芝居の稽古だったらしく、パーマンは数十万はしそうな大型一枚ガラスを大破させたことを詫びる。
優しくて経済的余裕のあるスミレちゃんは「いいのよ、悪気でやったことじゃないし」と簡単に許してくれる。そしてパーマンはこれをチャンスとばかりに、サインをお願いしてみると、「いいわよ」と快諾。
実は本作に限らず、スミレはパーマンに対して徹頭徹尾好意的なのである。
「色紙とサインペンを取ってくる」と部屋を出ていくスミレ。「ユメじゃないかしら」と大喜びのパーマン。
ところがそんな夢見心地のパーマンに、最悪のタイミングで呼び出しのバッジが鳴る。『星野スミレが家へくる』と全く同じ要領で、一秒も待てない事件が発生してしまったというのだ。
「こんな時に事件を起こすなんて許さない」と涙を零して気合を入れるパーマン。一秒も待てない事件とは、百人の暴力団が町中で銃撃戦をしているという1930年代のNYのような物騒なもの。
パーマンは躊躇なく「お前たちか!!」と立ち向かっていき、あっと言う間に全員を撃退してしまう。パー子とブービーは「もの凄い活躍だったじゃない」と感心する。
タッチの差でスミレのサインを逃したパーマンは、事件を解決した後もションボリ。この話を聞いたパー子は「く~だらない!」と軽くあしらう。「くだらないとはなんだ!!」と激高するパーマン。
この辺りの流れも『星野スミレが家へくる』と同じである。
するとパー子はおもむろに「代わりに私がサインしてあげる、有名人のサインをまねるのは得意なのよ」と言って、サラサラと手慣れた様子で星野スミレのサインを色紙に書く。
「ニセのサインなんかいっぺんにバレるよ」とパーマンは思うが、このサイン色紙を見たカバたちは、三重晴三のサインと見比べて「どう見ても本物だよ」と驚く。
「パー子って一体どういうやつなんだろう」と不思議がるみつ夫。ここで固定観念を振り払って思考を巡らせれば、本物のサインを書くパー子が本物のスミレだという結論にも達しそうなものなのだが、もちろんそうはならない。
「新パーマン」では、以上の二作品が星野スミレが初登場回となる。
上で見てきたように、パーマンはスミレちゃんと長く話すチャンス、サインをもらうチャンスを寸前のところで逃してしまう。機会逸失の原因は、皮肉にも、スミレが正体のパー子がパーマンを呼び出したせいであった。
しかも悔しがるみつ夫に、パー子は二作ともスミレなんて大したことないという反応を見せている。自分がスミレ自身なので、当然そういう反応なのだが、みつ夫はそんなスミレの内心を知る由もない。
なお、本作(1983年8月号)の時点では、作中でパー子の正体をスミレだと断定はしていないが、続く1983年9月号において、ついに作品の中で公然の秘密が明らかなものとなる。
それについては次の記事で見ていくことにしたい。
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