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パーマン3号とは何者なのか??『パー子の正体は?』『やさしいやさしい女の子』『女の戦い』

この藤子Fノートでは、「パーマン」を重点作品と位置づけ、この一年間、丁寧に作品解説&考察を行ってきた。主に1960年代に発表された「旧パーマン」に焦点を当てて、これまで32本の記事を書たが、あと数本で旧パーマンに関する記事は出揃うところまできている。

ところで、「パーマン」は大きく4つの魅力があると考えている。

ヒーロー譚:平凡な少年がヒーローとなって敵と戦う
青春群像劇:5人のパーマンのチームワークと友情
悩めるヒーロー:なぜ辛いヒーロー活動をするのか悩む
ラブストーリー:?

このうち、①から③については存分に語ってきたが、まだ手付かずなのが④についてのパーマンの魅力である。

「パーマン」は世界一のラブストーリーであるとは、作家辻村深月さんの見解だが、僕もそれに強く賛同している。パーマンにおけるラブストーリーの記事を書くことは、noteを始めた時から構想しているが、これまで敢えてその領域に踏み込んでこなかった。

なぜなら、まずは旧パーマンを丁寧に読んでおくことが、この後、新パーマンで花開くラブストーリーの魅力を堪能できる必要条件だと考えているからだ。


本稿ではその意味でパーマン考察における重要な部分を語ることになる。それはパーマン3号=パー子の正体は誰なのか? というテーマである。

旧パーマンでは、連載中にパー子の正体が明らかになることはなかった。全話を丁寧に読めば分かりやすいヒントが出てくるのだが、それでも決定打を与えずに連載は終了してしまったのである。

パー子の正体は謎のままだったが、やはり読者もパーマン仲間も気になるところである。そこでパー子に関する旧パーマンの3本の作品を見ていき、当時の読者がどのように感じたのかを追体験してみたい。

なお、これまで書いてきたパー子に関する記事は以下となる。まずこちらをチェックしてもらえると、本稿の楽しさもアップするものと思います。


『パー子の正体は?』
「週刊少年サンデー」1967年11号/大全集1巻

「パーマン」連載開始3ヶ月目にして、既にパー子の正体についてパーマンが探りをいれるエピソードが描かれている。

みつ夫のママが新しくパーマン仲間となったパー子を見て、「あの女の子、どこのなんて人?」と聞いたことで、みつ夫もそういえば本名も、顔も知らなかったと気がつく。

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ブービーと一緒になって、顔を見せないのは不公平だと抗議するが、聞く耳を持ってくれない。この時点でF先生がパー子の正体を決めていたのかは不明だが、パー子は

「いいじゃない。ナゾに包まれた美少女なんてロマンチックよ」

と自ら美少女宣言を行っている。


本当のことを明かさないパー子に対してみつ夫は、「必ず君の正体を突き止める」といって、色々な策を練っていく。

・気に入ってない「パー子」という名前で呼んで、釣られて本名をしゃべらせようとうする。
・パー子のマスクにノミを入れる(ブービーのアイディア→却下)
・フランス製のママのクリームを貸して塗る瞬間に顔を見ようとする
・酷い似顔絵(予想図)を描いて、怒らせてマスクを取らせる

以上の作戦は悉く失敗する。

諦めきれないパーマンは、パー子の後を付け回す。パー子はうまくパーマンの追跡をまいて、こっそりとパーマンの家へと入り込み、みつ夫のコピーロボットを自分に変身させる。

パー子となったみつ夫のコピーは、須羽家にただいまと言って戻り、そのままご飯を食べて、押し入れで寝てしまうのであった。

まあ、この時にマスクを取ってしまえば話は早いのだろうが、みつ夫はそうしたズルい手段は取らなかったようである。これは新パーマンでも同テーマの作品がある。

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『やさしいやさしい女の子』
「週刊少年サンデー」1967年20号/大全集1巻

以前の記事で少し紹介している。

パー子に家事をお願いするのだが、料理の腕は壊滅的で、裁縫についても不得手であった。料理については炊飯器でご飯を炊くだけなのに、石炭のような固まりに仕上がってしまう。

また、パー子の荒っぽい部分が強調されていて、例えばパーマンに呼び出されて飛んできたときには「出てらっしゃい、首根っこへし折って差し上げるわ」と物騒な言い回しをしている。

育ちが良さそうだが、お転婆な荒っぽさも見せており、ますます正体が気になってくる。

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『女の戦い』
「小学五年生・六年生」1967年7月号/大全集4巻

本作はみっちゃんとパー子というダブルヒロインの対決を描いたお話。そもそもF作品でヒロインが二人いる作品は珍しく、「パーマン」の最大の特徴となっている。

本作では三角関係のような構図にはなっていないのだが、「新パーマン」では二人のヒロインがいることが、複雑な人物関係を作り上げることになる。それはまたいずれの記事で書きたい。

また、本作は初めて「星野スミレ」の存在が明らかとなる。ご存じの通りパー子の正体であるのだが、本作では当然明示されない。しかし、本作を持ってパー子=星野スミレであるという設定は、作者の中では確定的となったものと思われる。

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まずはいつものように、パー子の荒っぽさを表現していく。みつ夫とパー子が一緒にテレビを見ているシーンから始まる。パー子は「キャプテンウラドラ」という特撮番組に興奮して、みつ夫を殴ってしまう。

お茶を出すようにみつ夫に要求するが、お茶くらい自分で入れろと返されて、面倒くさいなあと言ってヤカンから直接口をつけて飲みだす。パー子の言うには、お手伝いさんが全部やってくれるので、お茶を入れたことがないのだという。

その後もハエ一匹を追い回して、部屋を散らかし、間違えてみつ夫を叩いてしまう。お転婆なパー子に対して、みつ夫はみっちゃん(みち子)の名前を出して、少しは見習うよう告げると、パー子は怒って出て行ってしまう。

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パー子はみつ夫がみち子を褒めちぎっていることに納得がいかず、みち子に対して色んな能力を競ってどっちが優れているかみつ夫に決めてもらおうと、勝負を持ち掛ける

まず最初の勝負は「どっちが綺麗か」
比べようにもパー子はマスクのままなので判定できない。パー子は「少し待って」と言ってどこかへ飛んでいき、写真を持って帰ってくる。この写真というのが初登場となる星野すみれのサイン入りブロマイドであった。

「少女スターの星野スミレじゃないか」とみつ夫。「こんなのずるい」とみち子。このクレームに対してパー子は、

「ほんとにそれくらい美人なんだけどな。信じてくれないかな」

と呟いている。後の展開を考えても、このシーンを描いた時点で、パー子の正体はスター・星野スミレという設定は確立したものと思われる。

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二人の勝負はこの後、
・学校の成績→お互い優秀
・相撲→二人ともみつ夫を簡単に投げ飛ばす
・野球→二人とも荒っぽい
と続くが、パーマンとなったみつ夫が、どっちが自分に親切かで勝負しようと提案する。

ホットケーキを作る対決となるのだが、ここでパーマンが二人を競争させて漁夫の利を得ようとしていたことがバレてしまう。そこでパー子とみっちゃんは手を組んで、激マズのホットケーキを延々と食わせるのであった。

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本作で初登場となった星野スミレは、直後に発表された『ぼくはスターだぞ』『わが友「有名人」』で立て続けに姿を見せる。

その後は少し間を開けて、『パーマンをやっつけろ』でパー子はマスクを脱がされるピンチを迎えるが、この時スミレと思わしき頭の一部が見えている。

さらに最終回直前となった『赤い羽根』では、パー子と星野スミレが友人であることが描かれる。また、スミレがパー子のような口調でパーマンに声を掛けている。

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『女の戦い』、『パーマンをやっつけろ』、『赤い羽根』と3本をきちんと読み進めれば、パー子の正体は星野スミレだと確信できるようになっていることがわかってもらえるのではないだろうか。


他の「パーマン」考察はこちらからどうぞ。


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