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「パーマンは世界一のラブストーリーである」序論/考察パーマン④

『はじめましてパー子です』
「週刊少年サンデー」1967年7号/藤子・F・不二雄大全集1巻
『パー子登場』
「小学三年生」1967年3月号/藤子・F・不二雄大全集3巻
『パー子登場!』
「小学四年生」1967年3月号/藤子・F・不二雄大全集4巻

今回は、てんとう虫コミックにも収録されている「週刊少年サンデー」版の第五話『はじめましてパー子です』をメインに、単行本未収録のパー子初登場回2本を加えた、パーマン3号について考察を行う。

これまで「パーマン」の考察では、

考察①:ミツ夫
考察②:ブービー
考察③:ミツ夫+ブービー

と連載してきたが、ついにパー子の登場をテーマとする。


パー子の登場で、「パーマン」の世界は大きく広がる。

まず最初に、パー子の存在がパーマンの世界観を大きく広げる重要な役割を担っていることを強調しておきたい。パー子の登場で、パーマンは抜群に面白くなっていく。

なぜかと言えば、「パーマン」は当然主人公であるみつ夫の視点で描かれているお話なのだが、パー子視点での物語が加わることで、パーマンが実は壮大な年月を超えたラブストーリーであることが判明していくからだ。

しかも、このラブストーリーは、「パーマン」から「ドラえもん」を経由して、再び「パーマン」に戻ってくるという、実に遠大な展開を経ている。

初めてこの話を聞く方は「??」という感じだろうが、このパーマンのラブストーリーを堪能するには、少しややこしい経過を理解しなくてはならない。

一気にその文脈を解説するのは難しいので、今回の記事を起点として、じっくりと数回(数十回?)にわたって語り尽くしていきたいと考えている。


ここで予告的に、今回、直木賞作家で大のFファンである辻村深月さんの文章を紹介したい。藤子・F・不二雄大全集「パーマン」3巻巻末解説からの引用。

私はもし誰かに「世界で一番好きなラブストーリーは何ですか?」と質問されたなら、絶対に「パーマン」と答える。そして、これこそが私が数々のF先生作品の中でも「パーマン」を特別な話に位置づける最大の理由だ。

ご興味持っていただけただろうか。おこがましくも、辻村さんのご意見に全面的に賛同する。僕自身、このラブストーリーを知って、大学時代に第二次Fブームが巻き起こったのだった。noteでのF考察も「パーマン」なくして始まらなかったと言える。


それでは『はじめましてパー子です』を見ていく。

この回はパー子初登場とともに、パーマンセットの機能拡充と超能力の秘密も垣間見せる、超重要回となっている。

冒頭、パーマンとブービーは、カバ夫とサブを乗せて空を飛んでいるシーンから始まる。そしてその様子を影から見ている謎の男。この男はマスクとマントの秘密を探っているのだ。

カバ夫たちはマスクを取った顔を見たいと頼んでくるが、拒むパーマン。パーマンが去った後、先ほど影から見ていた男が、カバ夫たちに近づいてくる。パーマンの秘密を探る知恵を貸してやるのだという。なんとも不穏な立ち上がりだ。


飛んでいるパーマンたちに近づいてくるもの、それがパーマン3号である。記念すべきパーマンとパー子の出会いだが、最初はかなりギクシャクして始まる。会話を一部抜粋する。

1号「き、君は誰だい?」
3号「見たらわかるでしょ、あたしもパーマンよ」
1号「え~女の子のくせに? だってさ、パーマンのマンは男って意味だぜ」
3号「じゃ、あたしはなあに」
1号「そうねえ…パーガールかな」
3号「カッコ悪いなあ」
1号「じゃ、3号とよぼう」
3号「番号で呼ぶなんて!品物じゃあるまいし」
1号「面倒くさい。パー子にしよう」
3号「なおさら嫌だわ。パーレディとでも呼んでちょうだい」
1号、大笑い

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この後もやりあいが続くが、全部で3ページにも渡っての口けんかを描いて、まずは二人の対立構造をはっきりと示している点がポイント。ボーイ・ミーツ・ガールの基本は、対立とその解消にあるので、教科書通りの始まり方なのである。


対立は深まり、それぞれが勝手に働くことになる。一人歩くパーマンに、カバ夫たちがドブ掃除のフリをして泥をかけてくる。そしてお詫びの印に風呂に入っていけと言う。このあたり、例の男の策略であろう。

まんまと計略に引っかかり、風呂に入っている間にマスクとマントを取られてしまい、素顔も見られそうになる。そこに先程の謎の男が拳銃を持って現れ、マスクとマントを奪われてしまう。

この男はある国の科学者で、パーマンの秘密を探り、軍事用にマントとマスクを大量に作ろうとしていたのだ。

ブービーの協力を得て科学者の隠れ家に向かうみつ夫。そこでは、さっそくマントの調査が行われていた。

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ここで、科学者の口から、パーマンセットの機能が初めて説明される。

マスク:被ると体内にパーマロゲンという新物質ができて、筋肉の収縮力が6600倍になり、骨の硬さはダイヤモンド以上になる。
マント:周囲2メートルに強力な反重力場が作られ、引力の向きを脳波の指令で自由にねじ曲げられる。重力をあちこちに分散させて前進する。

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科学者は奪ったパーマンセットを使って、みつ夫と睡眠薬入りのバナナで眠らせたブービーを大きな箱に閉じ込め、海の底へと沈めてしまう。

大ピンチに陥るが、突然バッジから音が鳴り出す。慌ててボタンを押すとパー子の声。バッジはトランシーバーの働きもするのだった。

パー子には助けてもらうために、出会いの時のいざこざについて、半ば無理やり謝らせられる。すると、深海までパー子がやってきて箱をこじ開けようとする。

流れ込む海水。溺れそうなみつ夫にバッジを加えろと言うパー子。バッジは酸素ボンベの役割もあったのである。

パー子とブービーでパーマンセットを奪った科学者を捕まえて事件は解決。お礼を求めるパー子に対して、パーマンは「さよならパー子くん!」と神経を逆なでして別れるのであった。


本作はパーマンセットの仕組みが明らかになり、バッジの二つの新しい使い道も判明した。みつ夫とパー子のライバル的邂逅も、壮大なラブストーリーの始まりだと思うと感慨深いものがある。


学習誌でもパー子が登場する話が二本あるが、単行本では読めない作品なので、こちらも簡単に紹介しておきたい。

まず「小学三年生」掲載の『パー子登場』から。

こちらもパーマンとパー子はぶつかり合う始まりかた。パーマンは、パー子を女の子だとバカにして、パー子が反発するという同じ展開だ。二人はどちらが活躍できるか競争することになり、「サンデー」版と同様に喧嘩に発展する。が、結局強盗事件を二人で解決し、喧嘩は面倒くさいので今後は力を合わせて働こうというハッピーエンドとなる。対象年齢が小学低学年であるためか、いい話、というオチであった。

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次に「小学四年生」掲載の『パー子登場!』。

こちらは冒頭、パーマンの仕事が忙しいと嘆くパーマンに、パー子が挨拶にくるという立ち上がり。いきなり、パー子くん、と普通に会話が始まるのが特徴的。ひったくり事件を追うことになるのだが、二人は何かと競い合う。そしてひったくり犯にマスクとマントを取られたみつ夫が、パー子に助けられて終わる。本作はコピーロボットも絡む展開なので、パーマンとパー子の対立に焦点が当たっていない。

さて、サンデー版の話に少し戻る。

パーマンマスクとマントを狙っていた科学者。実はこの話には続きがある。それが、てんとう虫コミック未収録の『砂漠のジン魔人』である。こちらは次回に詳しく紹介する。

おまけ

パーマンを世界で一番のラブストーリーと語っていた辻村深月さんは、ドラえもんの大長編の原作も一本執筆されている。それが2019年に公開された「映画ドラえもん のび太の月面探査記」である。こちらは、月面というまだF先生が手付かずだったテーマを選び、内容としてもF先生の思いをしっかりと詰め込んだ傑作。こちらも強く推薦しておきたいと思います。

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