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のび太最初の特技にしずちゃんは塩対応『ロボ子が愛している』/のび太の浮気<番外編>

これまで「のび太の浮気」と題して、のび太が将来の結婚相手を約束されているしずちゃん以外の女性に色目を使うお話をいくつか見てきた。しずちゃんほどの器量良しの女性など滅多にいないわけだし、のび太は今生随一の不出来な小学生である。全く持って生意気な男である。

ただ、最初からしずちゃんと結婚できる運命ではなかったので、そこは丁寧に時系列で追っておかないと、必ずしものび太が生意気を言っている訳ではないこともわかる。

ざっくりのび太の恋愛模様を時系列にしてみると・・・。

1970年1月『未来の国からはるばると』他・・将来の結婚相手はジャイ子だと明かされる
1970年9月『ああ、好き、好き、好き!』・・ボタ子の家に来ていた美少女を好きになる
1972年2月『のび太のおよめさん』・・・将来しずちゃんと結婚する運命に代わる
1978年6月『ガールフレンドカタログ』・・・のび太、しずちゃんよりいい女性がいないかと探す
1978年10月『雪山のロマンス』・・・のび太、しずちゃんと婚約
1979年9月『ドラえもんとドラミちゃん』・・・恋のライバル出木杉君登場
1981年4月『虹谷ユメ子さん』・・・しずちゃんが出木杉に奪われたことを考えて滑り止めの女性を探す

今回の特集記事からすると、『ガールフレンドカタログ』ののび太の浮気の罪は重いが、最終的には浮気をして悪かったと詫びることになった。『虹谷ユメ子さん』では、あまりに出木杉としずちゃんが急接近しているので、その点同情の余地がある。『ああ、好き、好き、好き!』では、まだこの時点で運命の人はジャイ子なので、他の美人のことを好きになるのは止められない

なので、一口に「浮気」と言っても、その時々ののび太の心づもりは異なっている。

これまでの記事は以下。


本稿ではこの企画の特別編として、『ロボ子が愛している』という作品をご紹介する。時系列で言えば、まだしずちゃんと結婚できる保証がなかった頃となる。

本作ではしずちゃんも登場するが、最初は微妙な態度を取られてしまうので、ロボ子のようなロボットに心惹かれるのも良くわかるというもの。そのあたりののび太の心情を想像して、読み進めたい。


『ロボ子が愛している』
「小学四年生」1971年9月号/大全集1巻

のび太の特技と言えば「あやとり」「射撃」「昼寝」だが、それらがフューチャーされるのは、連載が始まってしばらく経った後のこと。わりと早めに昼寝ばかりしていることは描かれているが、1秒以内に眠りにつくという特技と化したのはずっと後のことだ。

で、本作では「第四の特技」、いや初めての特技が明かされる重要な回にもなっている。その技とは、ピーナッツを複数上に放り投げて、口に入れていくというもの。ここではピーナッツ投げとでも命名しておきたい・・。


冒頭、ピーナッツ投げをドラえもんに披露し、「鮮やかなもんだろ」と得意顔。この技を女子たちに見せた所、キャーキャー喜んで是非コーチしてくれと頼まれたという。

そんなコーチを女の子たちが頼むとは思えないが、何と言えない満足そうな表情でしずちゃんの家へと向かうのび太。ドラえもんも、「実にくだらないと思うけど、当人が満足ならいいことだ」と言って送り出す。


ところが、案の定というか、受け入れ側のしずちゃんは、訪ねてきたのび太に「あら、本気だったの?」と意外そうな反応を見せる。「もちろん」とのび太。

しずちゃんは、慌てて他のクラスメイトたちに電話をする。この時「そう、私も冗談のつもりだったのよ」などと、のび太には絶対聞かせてはならない発言をしている。

やがて二人の女の子がやってきて、のび太がピーナッツ投げの模範演技を見せる。これ以上ないほどに満足そうなのび太に対して、女子たちは「おじょうず」とまるで心が通っていない。


すると、スネ夫が訪ねてきて、「面白いゲームを買ったけど、三人足りないのでうちにこないか」と誘ってくる。手には「おもしろゲーム」と書かれた箱。この提案には、渡りに船という感じで、女子たちは「いくいく」と二つ返事。

しずちゃんは一瞬「でも・・・」とのび太を見つめるのだが、全てを察したのび太は「僕なら構わないよ」と答え、のび太を残してみんなはスネ夫の家に遊びに行ってしまう。

「ごめんね、ごゆっくり」と、一人しずちゃんの部屋に取り残されたのび太は、しばらく一人でピーナッツ投げをして、ひと袋を開けてから帰宅。事情を聞いて驚くドラえもんに、のび太は「喉が渇いちゃってもう・・・テヘヘ」とお道化るが、ドラえもんにはすっかりお見通しだ。

「さりげなく笑ってはいるが、君の気持ちがどんなに傷ついたか僕にはよくわかる」

ここ、泣くところです!皆さん!!


ドラえもんはのび太の悔しさを我が事のように共感し、とびきり上等のガールフレンドを紹介するよ、と言って未来の世界へと向かう。のび太は「一人寂しく宿題でもしよう」と、すっかり笑い顔は消えている。そこへドラえもんが帰宅。

そしてのび太に紹介する。未来の世界から来た「ロボ子」さんである。乙女チックな表情に未来感のあるワンピース姿の女の子(ロボット)である。なお、ロボ子の乙女な顔を描いているのは、当時アシスタントをしていた志村みどりさん。「白ゆりのような女の子」を描いた方として有名である。


ロボ子は手を付いて自己紹介。のび太のタイプだったらしく、ドキーンと心臓を鷲掴みにされて、「何とお詫びして良いか・・・」などと訳の分からないことを口走って、ペコペコする。

のび太はあんな素敵な子が僕の友だちになってくれるのか心配するが、ドラえもんはロボ子は「トモダチロボット」で、のび太だけを好きになるように調整済みだと言って安心させる。


二人だけになったのび太とロボ子。のび太はモジモジしながら「本当に僕の友だちになってくれる?」と尋ねると、ロボ子は「もちろん」と即答。のび太が勉強もスポーツもできないと卑下すると、誉め上手のロボ子は「そんな控え目な所がとっても素敵」と答えてくれる。

ロボ子は基本的にのび太を絶賛なのだ。

ピーナッツ投げを披露すると、しずちゃんたちとは違って、反応が抜群。「鮮やか!!」と言って紙吹雪を飛ばしてくれる。のび太はようやく唯一の特技を褒めてもらい、いたく感動する

ここで「喉が渇いちゃった」とのび太が呟くと、巨大なタライ一杯に水を汲んでくる。読者としては、ロボ子のこの極端さに少々不安を覚えるところだが、のび太は「それがまたいいんだ」と肯定する。・・・変なことにならないといいが・・・。


次にロボ子はのび太の宿題のノートを広げて、「素敵!こういう個性的な独創的な間違いは誰にでもやれるもんじゃない」と変な感心をする。さすがののび太も「それ褒めてるの?」と、怪訝な表情を浮かべる。

またママがのび太に買い物をお願いしにくると、「まあお可哀想!!」と過剰に反応して、代わりにと買い物に飛び出して行く。のび太はすかさず追いかけて、「悪いよそんな」と声をかけると、ロボ子は「なんて優しい方」とウットリし、のび太のほっぺにチューをしてくれる。

「しあわせ~」とデレデレするのび太に、ロボ子は「私も」と同調する。ここまでくると、立派なカップルである。


さて、ここまでは二人の仲は順調そのもの。のび太も喜びが勝っているわけだが、徐々にここからおかしな事態になっていく。

空き地の土管の上で二人は肩を並べると、ロボ子が「私以外の人を好きになっちゃ嫌よ」とのび太に対して惚れ惚れする。のび太も「なるもんか絶対に!!」と返すと、「うれしいわ」とロボ子が手を握ってくれる。

・・・ところが、これが想像以上に痛い。どうやらロボ子は怪力の持ち主らしいことがわかる。


そこへ、仲睦まじくしているのび太とロボ子を目撃したスネ夫とジャイアンは、「のび太なんかに勿体ない」と言って石をぶつけてくる。するとロボ子がこれに激昂。グイと二人の服を掴んだかと思うと、「のび太さんに意地悪すると私が許せません」と言いながら、二人を文字通りギッタギタにしてしまう。

やりすぎロボ子の止めに入るのび太。ロボ子はざっと百万馬力の持ち主なのだという。ちなみにドラミちゃんも怪力だったがこちらは1万馬力。ロボ子の強さは尋常ではないのだ。


どんな相手でも守って見せるとロボ子に言われ、ビビり出すのび太。そんな時にタイミング悪く、しずちゃんがやってきて、「さっきはごめんなさい」と、のび太を一人にしたことを詫びて、手を握ってくる。

途端に嫉妬の炎を燃やすロボ子、手を出すまでには至らなかったが、かなりのバチバチ具合でしずちゃんを睨みつけてくる。

さらに帰宅後、ママが買い物から帰ってくるのが遅くなったのび太に、「どこで道草食ってたの!!」と叱りつけてくるのだが、これをのび太へのいじめと受け止めたロボ子は、ママに百万馬力のパンチをお見舞いしてくる。

親にも手を出してくるロボ子を何とか止めようとするのび太。ドラえもんがここで仲介に入り、何とか事なきをえたようである。


ロボ子の極端な行動とバカ力に懲りたのび太は、もっと大人しいロボットはないのかとドラえもんに尋ねると、高性能のロボットは借り賃が高いのだと説明される。ロボ子は安めのレンタル料だったに違いない。

で、困ったドラえもんが、メイドっぽい衣装と厚化粧をして、自分自身が「トモダチロボット」に変身。しかし、あまりの気色悪さに、のび太は本気でゾオ~と震え上がるのであった。


本作では最初は塩対応だったしずちゃんが、後半では自分の態度を反省して、のび太に謝ってくる。これがきっかけかは分からないが、本作の5ヶ月後、のび太の誕生日にしずちゃんがプレゼントを持って来てるまでに親しくなる。

これによって、のび太の結婚相手はジャイ子からしずちゃんへと変更されたのであった。





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