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美少女を射貫け! そして謎のボタ子も登場『ああ、好き、好き、好き!』/のび太の浮気③

「のび太の浮気」と題して、しずちゃん以外の結婚相手を探すお話をニタイトル見てきた。

一本目は、しずちゃんよりもいい女性がいるのではないかという本命探し。二本目は、しずちゃんが出木杉に取られた場合の滑り止め探しだった。結果的には、二つとも作戦は失敗し、ともかくしずちゃんを掴まえておかねばならないということがわかった。


本稿ではまだしずちゃんと結婚できるという運命が明らかとなっていない段階でのお話なので、「浮気」と言ってしまうのは少し違うと思いつつ、しずちゃん以外の子を好きになってしまう話なので、一応取り上げる次第である。


『ああ、好き、好き、好き!』
「小学四年生」1970年9月号/大全集1巻

本作は連載開始からまだ9ヶ月目の作品。まだジャイ子と結婚する運命から逃れていない頃の時期である。

冒頭でのび太が告白(と言っても友だちになって欲しいというもの)の練習をしている。けれど恥ずかしがってうまく言葉が続かないのだが、そんなのび太を見ていたドラえもんは「ブヒャハハハ」と派手に笑い倒す。

まだ未来の国から来たばかりの「初期ドラ」は全く持ってデリカシーがない。ドラえもんは「それ何のまね?」とさらに追い込み、「何でもない」といと照れるのび太に「隠すなよ。しゃべれよ、けち」と畳みかける。なかなか口の悪いロボットなのである。


そうこうしているうちに、のび太が友だちになりたいという女の子が家の前を通りかかる。ドキンと心臓が鼓動し、とっさに告白をしようとするのだが、「ぼ、ぼ、ぼくと・・・」などと声を詰まらせている間に、そのまま女の子は行ってしまう。練習でうまくいかないものは本番でも失敗するのは当然である。

この女の子、外見はしずちゃん以上の美人さんで、のび太でなくてもお近づきになりたい感じ。この子の名前は作中では明らかにならないので、本稿では「美少女」とでもしておきたい。美少女は二、三日前からボタ子の家に来ているのだと言う。

この美少女も初登場だが、ボタ子という名前もかなり聞き慣れない。後ほどご本人も出てくるが、外見はジャイ子をさらに高木ブーに近づけた感じで、口も悪く性格はあまり良く無さそう。日本テレビ版の「ドラえもん」に登場していた説もあるのだが、その詳細は不明である。


友だちになりたいのなら、ということでドラえもんが出した道具は「キューピッドの矢」。まあ見てなとドラえもんがベランダで弓を放つと、矢が小鳥に突き刺さる。「あっ!ざんこく!!」と思わず叫ぶのび太。

この矢に当たっても傷もつかないし痛くもない代物で、矢が当たるとうった人を好きになる仕掛けであるらしい。そして、矢を抜けば元通りとなるのだが、小鳥の弓を抜くと、ドラえもんにおしっこを掛けて「ふん」と言って飛んで行ってしまう。


さっそく美少女に試してみようと思いきや、緊張してか、のび太は目をつぶって適当に弓を引いてしまうので、矢はボタ子の飼い犬に突き刺さり、ベロベロと舐められてしまうことに。

美少女はボタ子の家に入ってしまったので、うまく連れ出す必要がある。窓から覗いて様子を伺うのだが、ボタ子が「誰だ人の家を覗くのは!」と言って、バケツで水を掛けられてしまう。

そこでドラえもんは、尻尾を引っ張って姿を消し、うまく誘い出そうと考える。初期ドラでは尻尾を引くと透明になるという機能が備わっており、何回か使われていたが、いつの間にか壊れてしまったようである。


ボタ子の部屋では、ボタ子が美少女にのび太のことを話題にしてバカにしている。そして続けて「おまけに変なロボットがついてんの。ノラえもんとかいう」と、ドラえもんの名前も間違えつつバカにしてきたので、思わず「どらえもん!」と大声を出してしまう。

ドラえもんは美少女の読んでいた本を囮にして、美少女を外に連れ出す。出てきたところを、のび太がすかさず弓射るのだが、またしても目をつぶって適当に飛ばしてしまうので、間違ってボタ子のお尻に刺さってしまう。

すると、当然のこと、ボタ子がのび太を好きになり、「仲良くしてあげるわね」とまるでホラー映画のようにすり寄ってくる。矢を抜こうにも、ドラえもんは投げ飛ばされてしまう。

ボタ子の追い回されるのび太に、ドラえもんは「ヘリトンボ」(タケコプター)を投げて、上空へと逃がす。「覚えてろ!」と激怒しているボタ子。おそらく怒りの矛先はドラえもんだろう。


さて、もう一度美少女を弓で狙うことになるが、矢はあと残り一本。そして、この後かなりのドタバタが繰り広げられていく。

ボタ子を探している美少女を見つけて、のび太はまたまた焦って目をつぶって矢を引いてしまう。すると、弓矢は美少女を飛び越えて、カバのような顔立ちの男性の鼻の中に吸い込まれてしまう。そして、クシャミをすると弓が鼻から飛び出して、ドラえもんへと突き刺さる。

カバ男を好きになってしまったドラえもんとのひと悶着があった後、再び美少女を狙うのび太。今度は接近戦を試みるが、あまりに鬼気迫る雰囲気でのび太が近づいてくるので、美少女は「ひとごろしい」と逃げ出してしまう。


するとそこへ担任の先生が通りかかる。のび太が女の子をいじめていると思い、弓矢を取り上げてしまう。とことん、のび太はうまく物事を運べない男である。

先生は自宅のアパート(しあわせ荘)に弓矢を持って帰り、弓で遊び始めるのだが、ガス代の集金人に矢を刺してしまい、大騒ぎに発展してしまう。

キューピッドの矢を回収するのび太たちだったが、これ以上は見込みなしということで、捨てちゃえと弓矢を放り投げてしまう。


すると皮肉なもので、物事、諦めると逆にうまくいくもの。捨てた矢がたまたまベンチで座っていた美少女の頭に刺さり、「どうかお友だちになって・・・」とのび太の手を握ってくる。念願のトモダチ作戦の成功である。

ところが喜んだのも束の間、美少女の父親が「そろそろ出かけるぞ」と声を掛けてくる。何とパパが転勤でこれからアメリカへと飛び立つのだと言う。ボタ子の家に来ていたのは、両親が渡米の準備をしている間に一時的に身を寄せていたということだろう。

せっかく仲良くなったが、すぐに別れることになって、肩を落として帰宅するのび太。すると、もう一本の矢が突き刺さったままだったボタ子が、家に入り込んでいて、台所で何やら料理をしている。

「すごおくうまいお菓子作ってやるからな」と、ねじり鉢巻き姿のボタ子。のび太は図らずも、ジャイ子に続いて、ボタ子をゲットしたようである・・。


初期ドラの魅力満載の本作。ボタ子という一回限りの強烈キャラの登場でも知られた名作となっている。本作の約一年後には『のび太のおよめさん』というエピソードでしずちゃんがのび太のお嫁さんになることが明らかになるのだが、本作はその過渡期にある貴重な位置づけの作品でもある。

この過渡期には『ロボ子が愛している』というガールフレンドが欲しいのび太のお話が存在する。せっかくなので、次稿で関連作として急きょ取り上げてみることにしたい。



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