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のび太何様!? しずちゃん以上の結婚相手を探せ!『ガールフレンドカタログ』/のび太の浮気①

ご存じの通り、「ドラえもん」が未来の世界からはるばるやってきたのは、のび太の不幸な運命を変えること、専ら結婚相手の変更が目的であった。

それは運命の人だったジャイ子に対してひどく失礼な話だが、同時にジャイ子の暴君嫁っぷりも見るに堪えないので、どちらかと言えばのび太に同情したくなる。

結果的に、のび太の結婚相手はしずちゃんに代わり、ジャイ子も漫画家の夢を持つことで未来の希望が開け、全てがウィンウィンの決着を得ることになり、ドラえもんの大いなる目的は達成されたのであった。


しかしながら、未来はいつ変わるかわからない、という設定が強調され始め、さらにはのび太の強力な恋のライバルとして出木杉君も登場。のび太の運命も安泰ではなくなっていく。

そんな中、のび太はしずちゃん一筋かと言うと、実はそうではない。のび太はのび太の分際で、しずちゃん以外の女性との可能性も時おり考えているのである。


そこで「のび太の浮気」と題して、のび太が突如しずちゃん以外の女の子に色目を使うようなお話をご紹介していきたい。まずは『ガールフレンドカタログ』という作品から。


『ガールフレンドカタログ』
「小学六年生」1978年6月号/大全集6巻

本作を語る前に一般論から。

結婚相手を決めるタイミングっていつだろう? そしてその決め手は何だろうか。

運命の人は会って5秒でわかるという人もいれば、一度同棲してみないとわからないという人もいる。

学生時代に大恋愛して将来の結婚を誓ったとしても、互いに働き出したりして、すれ違ってしまい、そのままフェイドアウト…なんてことも良く聞く話。

結婚適齢期というものが、俄かに囁かれるが、時期ありきで将来を決めてしまってよいのかという問題もある。かといってグズグズしていては、良い人はほとんど既婚者に・・・という悲しい展開もあり得る。

結婚して、長い年月が経って、人生振り返った時に今の相手が運命の人だったのかどうかがわかるのだろうが、それでは手遅れになっている可能性もある。

どんな人といつ結婚するのかという問題は、答えの無い大いなる課題なのだ。


そんな悩めるリアルな私たちと違って、漫画の主人公たちは、作者の意図によって、運命の人がきちんと定められている。原則、読者にとって納得のいく人と結ばれることになる。

つまり、漫画の登場人物たちは、作中であれこれ悩んだとしても、必ず正解を選ぶことができるのである。

なので、のび太の将来の結婚相手がしずちゃんであることは、疑いようのない「正解」なのだ。

ところが、そんな恵まれた環境にあるのび太が、運命の相手がしずちゃんなのかと疑ってくるのでタチが悪い。お前ごときが・・と怒りすら覚えてくる。本稿では、そんなのび太を見ていきたい。


お話はスネ夫の相談から始まる。スネ夫の部屋で、ジャイアンとのび太にポップコーンを遠慮なく食べてよと勧めてくる。スネ夫にしてはポップコーンとは安そうなお菓子だが、これは後ほど意味を持ってくる。

スネ夫はまず、隣のクラスの河合伊奈子を知ってるかと聞いてくる。河合伊奈子は学校一の美人と噂の高い女の子らしいが、スネ夫は彼女と将来結婚したいのだという。突然の告白に驚く、のび太とジャイアン。

二人は「そんなことを考えるのは早すぎる」と笑うが、スネ夫は「わかっていないのは君たちの方だ」と反論する。スネ夫曰く、河合さんにはご機嫌を取ってくるライバルが山のようにいる、今から支度しておかないと手遅れになると言うのだ。

スネ夫は妙に大人びた人生の計画性について語り、チャンスがあったら河合さんにスネ夫が優れた少年であると知らせて欲しいとお願いする。若干お願いする相手が違うような気がするが、ポップコーン攻めにあった二人は了解するのであった。


さて、スネ夫の遠大な人生計画を聞いたのび太は、自分もしずちゃんに何か行動を起こすべきだろうか、などと考える。そんな矢先に、家に帰ると大好きなホットケーキがおやつに出される。

既にポップコーンでお腹が膨れているのび太は、ホットケーキを食べることができない。そして、

「ホットケーキがあるとわかれば、誰がポップコーンなんか・・・これは大変な問題だぞ! 単におやつのことだけじゃなく人生の・・・」

などと神妙になる。

そしてドラえもんに変なお願い事をする。自分の身の回りで、これから25歳くらいまでの間に現れる女の子を全部知りたいと。

変わった注文だなあと言いながら出したのは、「ガールフレンドカタログメーカー」という、妙にロマンチックなデコレーションが施された機械。これで調べれば、のび太が将来知り合う女性の今の写真がデータ付きで出てくるという。

ドラえもんが、使用用途を聞くと、「しずちゃん以外の女性を検討したい」というようなことを告げる。ドラえもんは「タイムマシンでしずちゃんと結婚するのを見てきただろう」と言うと、「未来は変わることもあるんだろう」とのび太。

そして極めつけ、

「結婚は一生のことだからね。もし後からホットケーキが出たら・・・」

と、まるでしずちゃんを安いポップコーンのように扱う暴言を吐くのであった。


さて、実際に「ガールフレンドカタログメーカー」を使ってみる。ドキドキするのび太。まあ、確かにこんな道具があれば試してみたいものだが、子供の段階で将来出会う人全てを分かってしまうのも、何か張り合いがないような気もする。

ピンポロポーンと音が鳴り、ドバっと大量のコメント付き写真が機械から飛び出してくる。チラリと見える中では、「かば島でか子」というカバ顔の女性や、星空はるか、月形まる代という名前の女の子の写真がある。

ここで注目しておきたいのは、明らかに「エスパー魔美」の佐倉魔美ちゃんの写真も飛び出していること。魔美は、「ドラえもん」と同時期に同じ町内に住んでいることが分かっており、互いの作品で互いのキャラクターが登場している

例えば「エスパー魔美」では、『うそ×うそ=?』や『ずっこけお正月』などにドラえもんたちがチラ見できるし、「ドラえもん」でも『なんでも空港』という話で、魔美がのび太たちの目の前に飛んでくる。

なので、確かに幾度かはのび太と魔美とはすれ違っているのである。ちょうど本作を描いているタイミングで「エスパー魔美」も連載していたので、その辺の遊び心であろう。


さて、大量に出てきた写真を見てのび太は「数は多いけど質がどうもな・・」などと口走っている。その中から好みのタイプだとい二人の女性に目をつける。

一人は「月形まる代」、高校でのクラスメートになる女の子。もう一人は「花賀さき子」、就職した会社の同じ課の女性である。

さっそく、今の二人に会いに行ってみようと考えるのび太。そこへたまたましずちゃんが遊びに来るのだが、「悪いけど忙しいんだ」と窓からタケコプターで出て行ってしまう。全く持って何様のつもりなのだろう!?


今の内から二人と親しくなっておこうと、スケベエな顔で飛んでいくのび太。写真裏面のコメントを頼りに、まずは花賀さき子の家へ向かう。花賀家はかなりの豪邸で、二階の部屋ではさき子さんがピアノを弾いている。

窓の外から一目見て「好き!!」とハートの目となる節操のないのび太は、そのままフラフラと窓から部屋の中へ。そして勝手に座り込み、「いつ聞いてもベートーベンはいいなあ」と感想を口にする。

するとのび太の存在に気がついた花賀さき子は、これはチャイコフスキーの「四季」の中の「舟歌」だとツッコミを入れる。見事な知ったかぶりだったのび太は、「そ、そうナントカスキー、僕大スキー」と狙っていないダジャレを飛ばす。

そこでようやく、見知らぬ男が部屋に入り込んでいることに気がついたさき子ちゃんは、軽くパニックになって大騒ぎ。思わず逃げ出してしまうのび太。「顔を覚えられたかな、今度は慎重にやろう」と反省しつつ、「どっちかと言うと月形さんの方が好み」などと、再びデレデレする。


月形家を見つけ、庭に降りて、どの部屋にいるまる代がいるか探し始めると、庭いじりをしていたおじいさんに見つかってしまい、「誰だっ、何をしとる」とどやされる。

しどろもどろするのび太だったが、そこへ噂のまる代ちゃんが「どうしたの」と言って現れる。すると、初対面のはずなのに、「あら野比さんじゃない」と声を掛けられる。都合が良いことに、親しくなろうと思う前から、のび太のことを知っているようなのだ。

まる代は「隣の学校だけど噂は良く聞くわ」と意外なことを言い出す。「そんなに有名!?」と喜ぶのび太だったが、まる代は期待とは違うことを口にする。

「遅刻記録、立たされ記録、0点もらい記録など、続々新記録を作ってるんですってね」

・・・確かに有名であったが、それは高名ではなく悪名だったようだ。恥ずかしくなったのび太は、そそくさと月形家から飛び去る。


自分の悪い噂が隣町まで轟いていることにショックを受けたのび太は、スネ夫とジャイアンに「僕の良い評判を流して!」と泣いて頼み込む。しかしそんなのび太の頼みにも二人は冷たく突き放す。

「お前、そこが図々しいってんだよ。自分がどんな男か考えてみろ。頭も悪い、顔も悪い、スポーツも何にもできない。選り好みできる身分か」

まあ、スネ夫とジャイアンに偉そうに言われたくはない発言ではあるが、事実認識としては間違ってはいない。

そして、「お前でもいいから嫁になってやるという人がいたら、有難く来ていただくべきだぞ、女でさえあれば」と、さらに追い打ちをかける。「女でさえあれば」のくだりは今の世ではカットされそうなセリフではあるが、これにはのび太はぐうの音も出ない。


そしてのび太はその足でしずちゃんの家へと向かい、土下座して謝罪する。

「浮気して悪かった。どうか許して下さい。」

なんのこっちゃわからないしずちゃん。彼女からすれば、浮気の前にのび太を好きになっていないのだから・・・。

しかし、これに懲りないのび太は、別の話でまた「浮気」をしてしまう。これは次稿にてお話いたしましょう!!



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