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産むが易し、育てるが難し『かぐやロボット』/藤子F竹取物語②

日本最古の「物語」である「竹取物語」は、あまりに有名過ぎて、パロディに向いていない作品ではないかと、個人的には思っている。

光る竹から小さなかぐやが生まれ、あっと言う間に美少女へと成長し、言い寄る貴族たちに無理難題を突き付け、最後は帝の求婚をスルーして月へと昇天する。

この物語を元にして、さらなる物語を生み出すには、かなりの工夫が必要な気がするのだ。

その中で、藤子先生は、持ち前のパロディ精神で「竹取物語」を換骨奪胎して、レギュラー作品へ取り込むことに成功している作品がある。

例えば「新オバケのQ太郎」では、何かと勘違いしやすいU子を主人公にして、凝ったお話を展開している。U子はたまたまかぐや姫のように周りの男性から言い寄られていい気分になり、調子に乗って無理難題を押し付けている内に、月の怪人に昇天させられそうになって慌てふためくというお話。

ありがちなお話の中に、O次郎が化けた月の怪人が、強烈に不気味な印象を残す忘れがたき一篇となっている。


続けて本稿では、昔話パロディの宝庫「ドラえもん」から、かぐや姫をモチーフにしたロボットにフォーカスを当てた作品をご紹介したい。後先考えないのび太が、いつものように取り返しのつかないことを引き起こすお話である。


「ドラえもん」『かぐやロボット』
「小学六年生」1983年6月号/大全集11巻

何度も同じ失敗、失態を繰り返すのび太。今回もまた禁断のひみつ道具に手を出してしまい、困難な状況に追い込まれる。

その失策とは、気軽に新しい生命を生み出してしまうということである。今回は「かぐやロボット」という人間のように成長するロボットを勝手に作ってしまい、手に負えなくなってしまう。

このパターン、実は3回目。直近だと本作の2年前の作品『ジャイアンよい子だねんねしな』(1981年2月)において、ジャイアンとスネ夫のクローンを勝手に作ってしまう。さらにその7年前の『人間製造機』(1974年7月)では、人間(赤ちゃん)をやはり勝手に作ってしまう。

生命を生み出せば、今度はそれを育てなくてはならない。けれど、育てることの大変さに頭が及ばず、安易に生命を作り出してしまうのだ。そして、当然のごとく、あっと言う間にのび太の手に余り、泣き出すことに・・・。まるで進歩なしなのである。


ちなみに本作を含めた「生命三部作」(←勝手に命名)
『人間製造機』
『ジャイアンよい子だねんねしな』
『かぐやロボット』
は、全く同じような始まり方をしている。

まず『人間製造機』では、「新世界デパート」が間違ってドラえもんに「人間製造機」を送り届けてしまう。ドラえもんはのび太に絶対にいじるなよと釘を刺して出掛けるのだが、好奇心旺盛なのび太は、勝手に説明書を見て人間を製造してしまう。

『ジャイアンよい子だねんねしな』では、「二十二世紀デパート」から突然「クローン培養器」が誤配される。送り返すことにして、ドラえもんが席を離れた瞬間に、のび太は「いっぺんくらい使ってみたい」と言って、これを隠して、ジャイアンとスネ夫のクローンを培養してしまう。

本作『かぐやロボット』でも、やはり「二十二世紀デパート」が「かぐやロボット」を送ってきてしまい、これも後で返そうなどと言っているうちに、のび太が気軽に作ってしまう。

そう、まるで同一パターンなのである。デパート名が違うくらいなもの。これはのび太が懲りないヤツだということもあるが、作者である藤子先生が好きなパターンなのだろうな、ということもわかる。


それでは、本作の流れを追っておこう。

誤配だらけの未来デパート。今回は子供のいない老夫婦が寂しさを紛らすために使うという「かぐやロボット」が送り届けられる。ドラえもんは、後で送り返そうと言って部屋を出てくるのだが、その同一コマにおいて、早くものび太が荷を解いてしまう。

このあたり、たった4コマでのび太がかぐやロボット制作に着手することになる超スピード展開となっている。

かぐやロボットは、かぐや姫をモチーフにしたロボットなので、作り方は「竹」を利用する。説明書によれば・・・

かぐやロボットの作り方
〇本品は人工細胞の増殖により、人間そっくりのロボットとなります。
〇竹の幹にカプセルを埋めて下さい。一日で体が完成します。
〇竹から取り出すと人間並みの大きさとなり、可愛い女の子に育ちます

要は竹取物語ごっこをしようという仕組みである。

のび太は、「かわいい女の子」の部分に反応し、気安く「作ろう!!」と即決。自然の宝庫である学校の裏山の竹やぶにさっそくカプセルを埋めに行く。のび太の良さは好奇心と行動力であろうが、頭が悪いのが致命的だ。。

かぐやロボットはデパートが取りに来たということにして、ドラえもんにはロボットを作ることは内緒。「クローン培養器」と同じパターンであり、ドラえもんもいい加減、のび太の嘘に気がついて欲しいものである。


翌日の放課後、竹やぶに向かうと、カプセルを埋めた部分が光り輝いている。近づくと、光る節の部分だけがパカと取れる。これを持ち帰り、カッターナイフで上部を切ると、ちっちゃな裸の女の子が顔を出す。

竹の節から出ると、ムクムクと体が大きくなり、可愛い女の子へと成長を遂げる。そして「わたしかぐやです、よろしく・・」と挨拶してくる。このままでは素っ裸なので、のび太はたまたま置いてあった「どこでもドア」をくぐって、しずちゃんの家へ・・・。

すると、いつものようにお風呂に入っているしずちゃんが悲鳴を上げる。そして「説明してる暇はないけど」と言いながら、しずちゃんの服を一方的に借りて行ってしまう。


部屋に戻ってしずちゃんの服を着せると、かぐやはすっかり可愛い女の子となる。友だちになってくれると尋ねると、「ハイ」と気持ちの良い答え。受け答え含めて、どう見ても人間には見えない。

かつて「ロボ子」という友だちになってくれるロボットが登場したが、この時はかなり強引な性格な女の子ロボットであった。未来でのロボット工学も日々進化を遂げているのだろう。


のび太はおやつを食べさせようと、ドタドタ取りに行く。するとのび太が猫を拾ってくるパターンを見切っているママがその様子を見て、二階へと上がっていく。まさに動物的感の持ち主なのである。

ところがのび太も、そうしたママの動物を察知する能力が高いのを見越して、先に「捨て猫なんか拾ってこないよ!!」とけん制。宿題中だからと言って、ママを部屋から遠ざける。

この辺ののび太とママの応酬も、よく見る形である。


さて、気に入った道具を入手すると、すぐにみんなに見せびらかしたくなるのび太。さっそくかぐやロボットを連れ出して、しずちゃんの家へと向かう。さっきはご免と謝りつつ、僕が作ったロボットだと自慢する。

続けてジャイアンスネ夫にも紹介すると、「のび太になんかに勿体ない」と言い合いになる。その間、蝶々に気を取られて一人で走って行ってしまうかぐや。

すると、一人のおじいさんがかぐやを見て、「おお」と声を上げる。名前を聞いたり、両親や家はどこかなどと質問をしてくる。のび太がかぐやたちを見つけ、「馴れ馴れしくしないで」とおじいさんを追い払う。


家に戻り、コソコソと部屋にかぐやを連れて行く。のび太の行動をチェックしているママは、こそこそ怪しいということで、再びのび太の部屋へ。

のび太は慌てて、ずっと部屋に置いてあるどこでもドアを開いて、かぐやを押し込む。ママの目からは逃れられたが、先が思いやられると心配になるのび太。・・・最初から家族に内緒で女の子と一緒に暮らせるわけがないのだ。


すると、どこでもドアから、「また勝手なことしたな」とドラえもんが起こりながら飛び出してくる。「ロボットと言っても人間と変わらない、この先どうするつもりなんだ」と至極最もな指摘をする。

のび太は「も、もちろん大事に育てるさ」と反論するが、ドラえもんはさらに真っ当な質問を畳みかける。

「ほ~育てる!? ママに隠れて押し入れに閉じ込めてか!? ご飯はどうする!? おやつは!? こづかいは!?」

矢継ぎ早に痛いところを突かれて、「いじわる!!」としか返答ができずに泣き出してしまう。なぜ、のび太はこうなると想像できずに、いつも新しい生命体を作ろうとしてしまうのだろうか・・・。

のび太とドラえもんの言い争いを聞いて、泣き出してしまうかぐや。夜になり、満月が昇ると、それをみて悲しそうな表情を浮かべるかぐや。望まれない子だったと分かるのはしんどいことなのだ。


すると、一台の高級車がのび太の家の前に止まる。車の主は、日中、かぐやに話しかけてきた老人であった。帽子を取るときれいな月のような禿げ頭で、「月形」と名乗る。

月形は、十五年前に娘を亡くしたのだが、かぐやと瓜二つだったという。それで驚いて、声を掛けたのであった。そして月形が手をついてお願いをする。

「ロボットでも構いません。可愛がって大事に育てますから、是非是非うちの養女に・・・」


かぐやを乗せた高級車は、満月が昇っている方向へと走り去っていく。後ろから車を眺めて、

「やっぱり月から迎えが来て、行っちゃったね」

と見送るのであった。


後先考えずに生命を作ってしまうのび太というお馴染みのパターンに、「かぐや姫は月へと帰る」というモチーフを掛け合わせたお話であった。

ただ、少々疑問に思うのは、かぐやロボットは、いつまで生きているのか(動くのか)という部分。寂しい老人が育てる用途が多いとのことだが、基本、老人は後先短いので、かぐやロボットだけ生き残ってしまう可能性が高いと思われる。

そうなるとロボット一人取り残されてしまい、それで不自由はないのだろうか? はたまた、人間のように成長して、自立できるようになるのだろうか?

かぐやロボットのその後が、どういう設計になっているのか、知りたいものである。



「ドラえもん」考察しています。


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