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ああ、U子の勘違い。『かぐや姫だわよ』/藤子F竹取物語①

いつの時代も、昔話は子供たちが最初に触れる「物語」である。物語には主人公がいて、冒険があって、仲間がいて、そして教訓(メッセージ)も含まれている。

僕自身、子供の頃から無数の物語を、読んだり見たり語ってもらったりしたが、やはりその原点は、古典的な昔話だ。鬼退治、玉手箱、悪い猿、正直なおじいさん、小さき勇者・・・。パッと頭を巡らせても、子供のころに吸収したいくつものキーワードが浮かんでくる。


藤子作品では、昔話だったり、藤子先生が大好きだった冒険物語などをベースにしている作品は数多い。

子供が最初に体験する「物語」を、藤子流にアレンジすることで、子供たちの創意工夫の姿勢や、パロディ感覚なども培ってくれるんではないかと思う。

そうした昔話をテーマとした作品の記事をいくつか書いてきたので、その代表的なものだけ、リンクを貼っておきます。お時間などあればご一読下さい・・。


本稿から二回に渡って、藤子流の「竹取物語」をご紹介していきたいと思う。原案からの飛躍を感じ取っていただき、独特のパロディ精神とその中で輝くオリジナリティを体感して欲しい。


「新オバケのQ太郎」『かぐや姫だわよ』
「小学二年生」1971年12月号/大全集1巻

竹取物語」は日本最古の物語と呼ばれる、普及の名作。舞台となる平安文化も色濃く反映された一級の宮廷物語にもなっている。10世紀に成立し、その後読み継がれ、語り継がれてきた。

「月」と「竹」という、日本人なら誰でも身近な小道具(?)だったり、子供に恵まれなかった夫婦に突如美しい姫が授かり、やがて帝にまで求婚されることになるという「おとぎ話」が、当時の読者の心を掴んだのであろう。

個人的な話になるが、小学校のお遊戯会で「竹取物語」の舞台を作り、端役を演じたことを思いだす。子供から大人まで楽しめる作品なのだ。


歩きながら「かぐや姫」を読む耽るU子。彼女が夢中になっている部分は、かぐや姫が美しいお姫様に成長し、その噂を聞きつけた5人の貴族が訪ねて来るシーン。

かぐや姫は5人をあしらうために、それぞれに貴重な宝を持ってこいと無理難題を突き付ける。

・くらもちのみこさま → 宝の木
・大ともさま → 竜の首についている五色の玉
・いそのかみさま → つばめのこやす貝

そこへQちゃんが、U子に遊ぼうと声を掛けてくる。するとドロンパも現われ「いや僕と遊ぼう。僕と遊んだ方が面白いぞ」と対抗してくる。二人が喧嘩になったところで、今度はO次郎も「バケラッタ(あそぼう・・・多分)」とU子に話しかける。

U子は3人の言い寄られた形となり、「かぐや姫そっくり」と思う。そこで「美人に生まれるって辛いことなのよね」と勘違いが始まり、3人に宝を見つけて、早く持ってきた人と遊ぶと言い出す。その要求は以下、

・ドロンパ → 宝の木
・Q太郎 → 竜の首についている五色の玉
・O次郎 → つばめのこやす貝

といった具合である。

3人は宝のことがさっぱりわからぬまま、対抗意識を燃やしてそれぞれ宝を探し求めに出ていく。

なおよっちゃんがU子に、「かぐや姫は作り話で宝などない」と諭すのだが、U子は意外にも「わかってるわ」との答え。その上で「私と遊びたいならそれくらい苦労しなきゃ」と、勘違い女子の確信犯なのであった。


Qちゃんは学校の先生に聞く作戦だが、食い下がっても、当然知らないと答える。O次郎は図書館で調べたらしいが、これも探せない。ドロンパは、宝の木の枝が無いことは知りつつも、バカQに負けるのはシャクだということで、クリスマスツリーを持ち出して、宝の木の枝ということにしようとする。

3者大騒ぎをする中、よっちゃんがこれは「かぐや姫ごっこだった」とネタバラシ。3人は途端に興ざめしてしまう。


さて、ここからは攻守逆転。U子さん主導で始まった「かぐや姫ごっこ」を逆手にとって、Qちゃんやドロンパたちの「仕掛け」が始まっていく。


Qちゃん、ドロンパ、O次郎を待つU子は、すっかりかぐや姫気分が盛り上がり、十二単の着物と長い髪の毛(カツラ?)姿になって、3人を待ち受ける。そして自分が無理難題を押し付けたくせに、「あの人たち遅いじゃん」とキレ始める。

すると突然、窓から、頭が月の謎の怪人が侵入してくる。ヒョロっと手足が長く、無言の不気味さがある。怪人はU子に手を伸ばし、十二単の襟を掴む。「キャア」と混乱に陥ったU子は、「助けてえ」と逃げ出し、Qちゃんたちが集まっているところへと飛んでいく。

U子は、月みたいな男がいたと説明するが、みんなは本気にしない。ところが怪人が本当に姿を現すと、急変。みんなでU子さんを匿おうということになり、ドロンパの家へと連れて行く。

皆が守衛に付き、神成さんも剣道五段だと息巻いている。すっかり怯えているU子も、みんなに囲まれて一安心・・・。


怪人が来ないか見張っている間、「かぐや姫」のラストが話題となる。最後、月の使者が来ると、姫を守っていた武士たちは体が痺れてしまう。そして月へと戻ることになるのである。

これを聞いたU子は「嫌な話しないでよ」と狼狽える。すると、家に近づく足あとが聞こえてきたと神成さんが言う。待ち受けていると、スルスルと障子戸が開いて、U子の守備隊(神成さん、正ちゃん、Qちゃん、ドロンパ、よっちゃん)の体が痺れていく。

みなが倒れてしまった後、月の怪人が侵入してきて、U子へと迫る。怪人はかぐや姫であるU子を月に連れていこうというのであろうか・・・。


怪人に腕を掴まれ、「ぎゃー」と悲鳴を上げるU子。絶体絶命のピンチに、怪人が「バケラッタ」と声を出す。・・・O次郎??

何とこの局面、U子さん以外のメンバーで、U子さんをからかったいたことが判明する。「かぐや姫ごっこって面白いわ」とみんなで笑い、「ひどいっ」と言って泣き出すU子なのであった。


本作は、「竹取物語」のかぐや姫が美しい姫に成長してからのお話を下敷きに、前半はU子がかぐや姫になったつもりで皆を翻弄し、後半は皆が結託してU子を月へと攫われるかぐや姫の気分にさせるという、二段構えのお話となっている。

言い換えれば、前半はU子が引く手あまたのかぐや姫になったと勘違いする話、後半が月にへと連れて行かれるかぐや姫になったと勘違いする話と区分できよう。

本来、柔道家のU子さんだったら、月の怪人に恐れることはなく、エイヤーとやっつけてしまったはず。ところが、前半から自分がかぐや姫だと暗示もかけてしまっているので、月からの使者がやってきたと思い込んで、逃げ惑
うばかりとなる。

全ては、U子の勘違いに始まり、勘違いで終わる、「勘違い」の物語なのであった。



「オバQ」の考察もやっています。



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