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あったらいいな!超実用的ひみつ道具『お医者さんカバン』/ドラえもん名作劇場③

ときどきネットやテレビ番組などで、「一番欲しいドラえもんのひみつ道具」をランキング形式で発表しているものを見かける。

たいていの場合、ランキング上位は「タイムマシン」「タケコプター」「どこでもドア」「もしもボックス」といった定番道具が並ぶのだが、その先のベスト10くらいまでを見ていくと、へえ~と思わせる意外なマイナーな道具の名前も登場する。

その中で、ニヤニヤしてしまうのは「透明マント」。皆、透明になって何をしたいのだろうか? また、「人生やりなおし機」もこの手の調査でよく見かける機械。皆、人生をやり直したいのである。


もう一つ、アンケートに答えている人の切実さを感じるひみつ道具がある。それが「お医者さんカバン」である。この機械は、まずどんな病気かを正確に診断してくれるし、その症状に利く薬がすぐに出てくるという優れもの。

中年以上ともなれば、会合では必ず健康や病気の話題になるし、実際に病気に悩まされていたりする。また、コロナ時代において、自分の病名はすぐに知りたいものだし、特効薬も欲しい。

「あったらいいな」を飛び越えて、「是非とも欲しい!」と思わせてくれる道具が、「お医者さんカバン」なのである。


本稿では、そんな全国民(特に中年以上)垂涎の「お医者さんカバン」初登場のエピソードを取り上げる。

なお、すこぶる便利な「お医者さんカバン」は、藤子先生にとっても使いやすい道具だったようで、本作以降、短編・大長編問わず頻繁に登場させている。

既に記事にしている作品もあるので、こちらも関連作としてお楽しみ下さい。


『お医者さんカバン』
「小学四年生」1979年2月号/大全集8巻

『お医者さんカバン』は、大長編ドラえもん「のび太と雲の王国」や「のび太の創世日記」などに登場して、万能な仕事をしてみせる。まさに一家に一台、あったらいいなと思わせる機械である。

しかし、初登場回を読み直すと、意外にそれほど万能な機械ではないような描かれ方をしている。

初めてドラえもんが取り出した時には、「未来の子供がお医者さんごっこに使うおもちゃで、簡単な病気なら治る」と説明をしている。腹痛とか軽い風邪とか、そんな子供の病気を対象とした道具だということだろう。

しかし2回目の登場となった『昔はよかった』では、いきなり江戸時代の農民の結核を治療している。現代では結核は治せる病気になったとはいえ、子供のお医者さんごっこのおもちゃの域を超えている。

おそらくは、早々に「お医者さんカバン=子供のおもちゃ」という設定は、忘れ去られたものと思われる。



この日はしずちゃんがのび太の家に遊びに来る約束だったのだが、風邪を引いたようなので遠慮するという電話がくる。残念がるのび太だが、自分も頭がボヤ~ッとしてくる。そして、お腹も苦しく今にもはち切れそう。

のび太は「重い病気にかかった、もう駄目だ」と言って寝込んでしまう。そんなのび太を見て「相変わらず大げさだな」とドラえもん。そして取り出したのが、「お医者さんカバン」である。

子供のおもちゃと言うことだが、レントゲンを撮ることができるし、顕微鏡も備え付けられている。そして聴診器のようなものを顔に当てると、病気を診断してくれる。おもちゃどころか、これがあればお医者さんいらずの逸品である。


そしてのび太の診断結果は・・・

「病気ではない。食べ過ぎと昼寝のし過ぎが原因だ」

とのこと。頭がボヤっと感じたのは、昼寝ばかりしていたからであった。「お医者さんカバン」は、病気以前のモヤモヤした不調まで診断してくれる、やはり子供用とは思えない機械である。

そして症状に合わせて薬も自動的に処方してくれる。昼寝のし過ぎと食べ過ぎに利く薬がどういうものかは不明だが、出された飲み薬を飲むと、のび太の体調はスッキリ治ってしまう。


このような素晴らしい道具を放っておけないのび太は、「病気で苦しんでいる世の中の人々を救おう」と言い出す。もちろん、そんなことを言い出したのは、しずちゃんの病気を治して感謝されたりという気持ちが根底にあったからだが、のび太の真の狙いは、さらに邪(よこしま)なものであった。

なお、しずちゃんの家に向かう途中、スネ夫とすれ違うのだが、スネ夫は「ドラえもんの出した道具なら自分の風邪も治してくれそうだ」と思う。これが、後に、のび太の想定外の事態となるきっかけであった。


のび太は「往診に来たよ」と言いながら、しずちゃんの部屋に入っていく。そして一言、

「見てあげるから服を脱いで」

なんと、往診の目的は、病気を治して感謝されたいことと同時に、しずちゃんの服を脱がせる狙いを秘めていたのである!

ところが、しずちゃんは「大したことない、もう治っちゃったみたい」と診察を拒否。「なんだつまらない」とのび太の本音が漏れる。

なお、ここで気になるのは、しずちゃんも風邪が治ったら、約束通りにのび太の家に遊びに行けば良かったのではないかということ。もしかしたら、風邪と言っていたのは、のび太と遊ぶのを断るための仮病だったのでは・・・などと勘ぐってしまう。


そこへスネ夫が登場。しずちゃんの次は自分を診て欲しいということだろう。スネ夫がおもむろに服を脱ぎだすと、「脱がなくていい、当てるだけ」と言って、お医者さんカバンの聴診器を当てる。

このやりとりを脇で見ていたしずちゃんは、自分はのび太に脱げと言われたことを不思議に思いそうなものだが、なぜかここではスルー。

スネ夫の診断は「カゼ」。薬を飲ませると、あっと言う間に全快し、スネ夫は大喜びで走って行ってしまう。しずちゃんも、「今度風邪を引いたらお願いするわ」と、一応「お医者さんカバン」については信用はしてくれた模様。


さて、お医者さんカバンが処方できる薬については、どうやら数量が決まっているらしく、のび太としては早くしずちゃんに風邪を引いてもらいたい。(つまり早くしずちゃんの裸が見たい)

しかし、スネ夫が良くなったのを言いふらしたことで、次々と他の患者が診てくれと言ってやってくることに・・・。

まずジャイアンが胸やけして困っていると相談に来る。そして、いきなり全裸になるのだが、「脱がなくてもいいの!」とのび太。のび太はしずちゃん以外の裸は見たくはないのである。

そしてジャイアンの診断結果は、「焼き芋の食べ過ぎ」というのび太とほぼ同じ症状であった。


お餅を焼いてくれていたしずちゃんが、「指を火傷した」と言って部屋に駆け込んでくる。のび太はそこで、

「そりゃ大変。すぐ見てあげるから裸になって!!」

悪質なお医者さんごっこのようなセクハラ発言をぶちかます。それには「指よ」と冷静に返すしずちゃん。のび太は「今度はもっと重い病気になってよ」などとめげていない様子。


そこから、評判が評判を呼び、あちこちから問診の依頼が殺到する。おしりのおでき、虫歯、足の裏のマメ・・・。あまりきれいな患部ではなく、診るたびに「オエ~」となるのび太。医者の仕事は大変なんだなあと感じるシーンである。

こうして「お医者さんカバン」の薬は全て使い切ってしまう。トボトボ帰宅すると、そこへ「本当に風邪を引いたみたい」と言って、しずちゃんが訪ねてくる。「今さら手遅れだ」と断るのび太。


手遅れと聞いてショックを受けるしずちゃんが、「そんなこと言わないで。診て!診て!」とすがってくるものだから、のび太のスケベ心に火がついて、「まあみるだけなら」と診察することに。

部屋にてしずちゃんが服を脱ぎだすと、そこへドラえもんがやってきて、「薬が無くなったのにまだやってるの」と突っ込む。薬切れだった聞いたしずちゃんは、当然のごとく激怒して・・・。


のび太は、頭にはたんこぶ、顔中には引っかき傷ができている。しずちゃんは、常日頃怒り狂うとわりと遠慮ない暴力を振るうが、のび太は今回もボロボロにされたようである。(例:『人間製造機』)

「この傷を治せないか」と泣きついてきたのび太に対し、「手遅れ」と冷たく言い放って「お医者さんカバン」をポケットにしまい込むドラえもんなのであった。


「お医者さんカバン」という、超実用的なひみつ道具を欲しくなるお話である。それと同時に、しずちゃんの病気を治したいのではなく、しずちゃんを裸にして診察したいという、のび太のセクハラ魂の爆発が印象的な一本であった。



「ドラえもん」の名作を記事化しています。


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