見出し画像

小人族を人間から救い出せ!『ドンジャラ村のホイ』/グリーン・ドラえもん②

「のび太の魔界大冒険」(1984)でドラえもん映画は5周年を迎えたが、少しずつ映画の動員は落ちていたという。そこで、動員テコ入れの目的も兼ねて、自然保護憲章制定10周年を組み合わせた「僕たち地球人」キャンペーンが企画された。

このキャンペーンでは、藤子F先生の賛同の上、ドラえもんをエコのイメージカラーである緑色にするグリーンドラえもんが開発された。そして「のび太の魔界大冒険」では、ドラ映画初の入場者プレゼントとしてグリーンドラの缶バッチが配布された。これは公開当時僕も貰っている。


また映画公開からすぐに、『さらばキー坊』という環境破壊をテーマとした作品を、原作漫画とTVアニメの同時展開を行った。このような展開を取る初めての作品だと考えられる。

この見事なキャンペーンの効果で、その後「ドラえもん」が地球にやさしいエコロジーのイメージを纏うことになったように思う。なお、『さらばキー坊』の考察については下記の記事をご参照ください。

『さらばキー坊』から4か月後にグリーンキャンペーンの第二弾として『ドンジャラ村のホイ』が発表された。本作も『さらばキー坊』と同様、TVアニメの放送と連動した展開を取っている。また、後の大長編「のび太と雲の王国」の重要場面に繋がっていく、ドラ史上でも重要な作品である。


「ドラえもん」『ドンジャラ村のホイ』
「月刊コロコロコミック」1984年7月号

まず余談から入るが、子供の頃ドラえもんの「ドンジャラ」が流行したことを思い出す。アニメ放送時にもよくCMで流れていたものである。今でもあるのかな、と検索したら、昨年発売40周年ということでまだまだ絶賛発売中であった。

ちなみに我が家では、ドンジャラではなく、ドンジャラの元となった「ポンジャン」が家族団らんの重要アイテムとなっていて、週末ともなれば親子4人で卓を囲んでいた。これが小学校高学年になると「麻雀」へと変わっていくのだが、それはまた別の話である。

いずれにせよ、ドラえもんのドンジャラは大当たりした商品であり、本作のネーミングはそこから影響を大いに受けているのでは、と指摘しておきたい。


画像1

物語冒頭、いきなりのび太がエリマキガエルを見つけるところから始まる。このエリマキガエルの元ネタとなった珍獣「エリマキトカゲ」は、本作発表時の1984年に三菱自動車のミラージュのTVCMに使われて、大ブームが巻き起こっていた。チョコチョコと走っていく姿は今でも脳裏に焼き付いている。

ちなみにこの翌年にはこれまた珍獣両生類である「ウーパールーパー」が大ブームとなっている。エリマキトカゲとセットで覚えておきたい昭和頻出単語である。


のび太はエリマキガエルのことをスネ夫たちに話すが、当然の如くバカにされる。ところが一人の老人が声を掛けてきて、その話をもっと聞きたいという。老人は珍しい動物たちの標本コレクターで、家の中には天然記念物も含めた貴重な動物の標本が飾られている。

天然記念物は捕獲を禁じられているが、自分は密猟者から買っているだけだと悪びれない。さらに自分の夢は、コアラやパンダをペットにし、シロナガスクジラのはく製を庭に飾り、ネッシーや雪男までも・・とどん欲な姿勢を見せる。

こういう金に物を言わすコレクターがいるので、密猟や禁漁が後を絶たないのである。そしてこの老人は「エリマキガエル」を捕まえた者には100万円を渡すと言い出す。

画像2


のび太はエリマキガエルのことをドラえもんに告げると、過去に人類が多くの動物を絶滅に追いやってきたことを、怒りを持って指摘する。

「そのエリマキガエルは絶滅寸前の動物かもしれない。やっと生き残っている、世界で最後の一匹からもしれない。君も知っているだろ、これまでにどれだけの動物が人間のために地球上から姿を消したか!今も消されつつあるか!!」


「ドラえもん」ではこれまでにも絶滅動物をテーマとした作品が描かれているが、そのたびに身勝手な人間に対する強い憤りのメッセージが発せられている。

過去、以下で記事にしているので是非こちらも合わせてお読みください。

画像3


ドラえもんはエリマキガエルが誰かに見つかる前に安全な所へ移そうとするが、既に噂を聞きつけた人々が一斉に捕獲に動き出している。そこで「あっちこっちテレビ」というモニターとカメラのセットを出す。四方に高速移動するカメラを飛ばして、周囲をモニタリングしようというのである。

すると、なんと小人が倒れているのを発見する。「人間の新種だ」と驚くドラえもんとのび太。「お医者さんカバン」で手当てし、しずちゃんから人形の家を借りて、そこに寝かせてあげることにする。この小人とのやりとりは「のび太の宇宙小戦争」でも援用されている。

小人は目を覚ましてのび太たちを見つけると、キャーッと逃げ出す。「僕たちは怖くない」と言っても聞く耳をもってくれない。そこでスモールライトで自分たちが小さくなって近づいて、ようやく心を開いてくれる。

画像4


小人の名前は、ドンジャラ村のホイ。実寸のどら焼きを3人でつつきながら、ホイたち小人族について尋ねる。ホイが語ってくれたポイントは下記である。

・ドンジャラ村は青葉ヶ丘の森の中だが、宅地や工場の開発が急速に進んで住みづらくなった。
・森は小さくなり、川の水は汚れて動物や小鳥や魚や虫たちは住処を追われた。
・ホイは新しい村を探しに出たが、どこに行っても大人族(人間)の町ばかりだった。

取り合えず村に戻ろうとどこでもドアで青葉ヶ丘の森に向かうが、造成工事が進んでいて村人は誰ひとり居なくなっていた。どこかへ避難しているのだろうということで、急ぎ村人を探すことにする。

そこでホイが「万能手綱」というエリマキ状の手綱を動物の首に巻くと、コントロールすることができるようになる道具を出して、これをツバメに巻き付ける。のび太が見たエリマキガエルは、この手綱を巻いていたのである。

画像5

近くの緑地が残る場所を探す。団地の外れの雑木林に降りて家族を探すが、人間の子供たちや車や番犬やと、小人族が落ち着ける場所はどこにもない。一日中歩いても見つからず、どこかの家の庭で寝ることにする。

木に「みの虫式ねぶくろ」を引っ掛けて眠る三人。なおこの寝袋は後に大長編の「のび太とアニマル惑星」にも登場する。


夜も更けて満月が上ると、ホイたちがいる庭の家の軒下から、小人族の女の子が一人姿を現す。「森の木蔭でドンジャラホイ」と陽気に歌い、踊りだす。軒下からは「クンちゃんあまり騒がないように」と声が掛かる。クンちゃんはミノムシ状で木にぶら下がってホイの姿を見つけると、「お兄ちゃん!!」と大声を出す。思ってもみない兄妹の再会である。

ドラえもんとのび太は、軒下のホイの部屋へと招かれる。村人たちは散り散りにこの辺りの家の床下に引っ越したという。

床下の小人と聞くと、ジブリ映画「借りぐらしのアリエッティ」の原作となったメアリー・ノートンの「小人の冒険シリーズ」を思い起こす。「小人の冒険シリーズ」は、1952年から足かけ30年かけて全五冊で完結したばかりの作品だが、これが本作のアイディアのベースとなったと考えられる。

画像6


ちなみに「ジャングル黒べえ」の作品成立に至るドラマの中で、「小人の冒険シリーズ」が一つのキーワードとなって登場してくる。これについての記事も書いているので、もしよろしければ補足として読んでみて下さい。


小人たちは人間が寝静まる深夜にした出歩けない。ホイたちに連れられて、のび太たちは近くの公園へと向かう。公園ではホイの父親から、昔の思い出話を聞く。この辺りは百年以上前は良いところだったと。ホイの父親は百年前でも子供だったということから、小人族は長生きする種族であることが分かる。

遠い目をして、昔を懐かしむ父親。

「月夜の晩はお祭りです。村中総出で森の木蔭でドンジャラホイと踊り明かしたものでした・・・」

するとそこに引っ越しトラックに乗った小人族の仲間が通りがかる。住んでた家がシロアリ除去の消毒をすることになり、住めなくなるので別の家を探すのだという。「小人たちが安心して暮らせる場所は無くなってしまったのかな」と嘆くホイのパパ。

のび太とドラえもんはその話を聞いて、小人族のための土地を探そうと思い立つ。

画像7


「リクエストテレビ」を使って、広くて人間の近寄らない土地を探すことにする。すると、アマゾン河流域に人類未踏の原始林を見つけ、そこにミニハウスで簡素な町を作るドラえもん。そしてドンジャラ村の村長一家でもあるホイの家族を連れてきてこの場所を紹介すると「素晴らしい!!」と大喜び。

「河までの大通りを中心に街を広げ、緑地をたっぷり残し・・」と、町づくりの構想が頭を巡る村長。クンちゃんは「ドンジャラ祭りできる?」と興奮を隠せない。すぐに村人を集めての新しい国作りがスタートするのだった。

画像8


日本に戻るのび太とドラえもん。ホイたちのことは他言に無用。エリマキガエルは見間違いだったとのび太は公言すると、ジャイアンやスネ夫からは「一日無駄骨させられた」と迫られる。「本当に見間違いか」と咎められるが、のび太は口をつぐみ、それに対して「バカにするな」とボコボコにされてしまう。

のび太は暴力に屈せず、秘密を守り通したのである。そして遠くジャングルのドンジャラ祭りに思いを馳せるのび太とドラえもんであった。

画像9


二回に渡って「グリーンドラえもん」作品を見てきた。緑カラーのドラえもんは今となっては懐かしいばかりだが、ドラえもんが環境に優しいというイメージは、このキャンペーンをきっかけに定着していったのは間違いない。

その意味でも非常に重要な2作品ではないかと思う。


「ドラえもん」の考察が70本以上!どうぞこちらから。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?