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ツバメののび太/ためになる!のび太の観察日記③

のび太を前向きにしてくれる生態観察をテーマとした作品を紹介する記事もこれで3本目。これまでの2作は下記。

のび太だけでなく、読者も読み進めるうちに、いつの間にか自然科学について興味を覚えて、勉強したくなるような作品ばかりである。

「ドラえもん」はためになる、そういう認識が浸透しており、安心して親が子供に読ませることができる。その結果「ドラえもん」は長く愛される、コンテンツとなっているのである。

さて、今回はタンポポ、羽アリときて、今度の鑑賞対象はツバメである。

『ツバメののび太』
「小学六年生」1981年11月号/大全集9巻

本作は観察ファンには垂涎のひみつ道具が登場する。それが「動物観察ケース」である。

経度緯度を合わせて、動物がいる世界中のあらゆる空間をケースの中に繋いでくれる。大きさはケースに合わせて縮み、動物が動くとケースの中の空間も一緒に移動する。これを使うことで、動物の生態を自然のままに観察できるという優れモノである。

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のび太はスネ夫に巨大な水槽に入ったグッピーやエンゼルフィッシュなどの熱帯魚を自慢され、思わずクジラを飼っていると分かりやすい嘘をつく。証拠を見せろと、のび太の家に向かういつもの一同。しずちゃんは「いくら悔し紛れでも滅茶苦茶だわ」と半ば呆れられ、ジャイアンには「もし嘘だったらただじゃ済まねえぞ」と脅される。

追い詰められたのび太は「ひょっとして、クジラは出かけているかもしれない」と逃げ口上を打つが、果たして、のび太の部屋に入ると、「動物観察ケース」の中にクジラが浮いている。

驚くみんな(とのび太)。ドラえもんは「自家用衛星」でのび太の様子を見ていて、先に手を打ってくれていたのである。この回のドラえもんはいやに優しい。(この優しさが後で裏目に出ます・・)

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クジラが深海に沈んだところで、今度はアフリカのサバンナに移動して、ライオンを見つける。とそこに、のび太がクジラを飼っていることにショックを受けていたスネ夫が、新たにペットショップでイグアナを購入し、それを見せびらかしにやってくる。

ところが部屋に入るとライオンが吠えるものだがら、スネ夫(とイグアナ)は驚いて飛び上がる。

続けてのび太たちはコアラを呼び込む。ドラえもんはコアラについて、

「動物園でもなかなか見られないんだよ。オーストラリアだけに生える特別な種類のユーカリしか食べないから」

と解説してくれる。

本作が発表されたのは1981年だが、この時日本の動物園ではコアラは一匹もいなかった。初来日を果たすのは、ここから数年後、1984年10月のこと。オーストラリアからの親善使節として6匹が贈られて全国3か所の動物園へと輸送された。コアラはこの時かなりレアな珍獣で、アメリカ以外では初出国であったという。

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その後、パンダやモグラなどを見ていくのび太たち。そして自分も操作したいと、のび太がダイヤルをでたらめに回すと、一匹のツバメを写し出す。このツバメ、本作の冒頭でのび太たちが見つけた、南に渡るのが遅れてしまっている季節外れのツバメであった。

ドラえもんはそののんびり具合と間抜けな表情と頼りない飛び方から、のび太ツバメだとバカにする。

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ツバメの観察を始めると、いきなりエサである虫を追って電信柱に激突し、延びてしまう。そこで「桃太郎印のきびだんご」をあげるとパクパクと貪りつく。よほどの腹ペコであったらしい。何とか元気を取り戻し、フラフラと南へと飛び立っていく。

その夜のび太は、のび太ツバメのことが気にかかって眠れない。たまらずケースをもう一度出すようお願いすると、ドラえもんは、夜中はどこかの軒先で寝ているはずなので、無駄だと答える。

ここでドラえもんから、渡り鳥ウンチクが語られる。

「渡り鳥は生まれながらに渡りの季節や目的地がわかるものなんだ。太陽や星の位置、または地磁気を頼りに飛ぶとか色々な説があるけど。誰にも教えられなくても、ちゃんと行けるはずなんだよ」

このような自然科学の興味をかきたてるミニ情報が、作中でさりげなく登場してくるのが、「ドラえもん」などのF作品の優れた部分である。

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のび太に似たツバメだと何度もドラえもんが繰り返すため、怒りつつもこのツバメの動向が気にかかって仕方がないのび太。翌日も学校から走って帰宅して、どこを飛んでいるか確認する。

すると、少しずつ陸づたいに南下して、九州までたどり着いていた。どうやらそのまま、フィリピン辺りに渡る計画らしい。

ちなみにツバメは日本など上半球で越冬し、夏になると南へと降下していく渡り鳥である。毎年同じ場所に戻ってきて、巣を作ってヒナを産む。実は僕の実家でも何年かに渡ってツバメが飛んできて、軒下や家の中(!)に巣を作り、ヒナを育てていた。巣の下には大量のフンが落とされるので、少々汚いのが玉に瑕だが・・。ちょうど本作を子供の頃に読んでいたことだろうと思う。

ツバメは珍しくない鳥だったが、今ではレッドデータに分類されてしまっているらしい。

すっかりのび太ツバメに感情移入したのび太は、夢中になって見守り、襲ってくるタカを撃退し、気絶したツバメを「お使者さんカバン」で診てあげる。

ちなみにこの「お医者さんカバン」は、お医者さんごっこ用の診療グッズだが、使い勝手が良いらしく、何度も登場するひみつ道具である。大長編でも見かけることができる。一度、この道具だけで記事化しても良いかも知れない。

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のび太ツバメは、のび太たちの影ながらの協力によって、日本列島の南端にたどり着き、いよいよ南海へと飛び立っていく。気がかりで仕方がないのび太は、ついていってみると言い出すのだが、ドラえもんが、代わりに同行すると申し出る。のび太には学校があるのだ。

「頼む!! 世話を掛けるね。ツバメの僕も、本人も」

いつの間にかツバメを僕と呼んでしまっている。友情に厚いドラえもんは、

「よせやい、照れくさい。必ず無事に送り届けるから、安心して!」

と力強く答えて、タケコプターでツバメと一緒に南海へと飛び立つのであった。

頼もしさを感じるドラえもんだったが、それから10日間経っても帰ってこない。心配になったのび太は、「動物観察ケース」でドラえもんを探し出すと・・・

「ツバメは無事フィリピンに着いたけど、僕の家はどっちの方角だったかなあ」

とヨタヨタ海上を飛ぶドラえもんの姿が。このケースで最後に観察したのはドラえもんでした、というオチでした。

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本作は、まだ来日前のコアラだったり、F作品に頻出する動物であるライオンだったりが登場する。家庭を動物園にする、という子供にとっての夢のようなお話である。

ただ考えてみると、今はネット上で、パンダや水族館などを固定カメラで見続けることのできる世の中である。その意味で、「動物観察ケース」は既に現実化していると言えるのだ。


ためになる「ドラえもん」の考察たくさんやってます。どうぞこちらから。


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