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お金の使い道は自分で決めたいものである『税金鳥』/税金は嫌いだ!②

本来税金とは、富の再配分機能だったり、個人では成し遂げられないことを集団で達成しようという大きな目的と意義がある。

ところが、その使われ方が納税者の納得のいかないことばかりになると、お金を納めるのが非常に腹立たしく思えてくる。

誰だって、自分のお金を取られるのは嫌なのは当たり前。それでも税金のシステムを維持継続させていくためには、税金の意義を皆が理解することだったり、公平感をどれだけ保てるかなどが、非常に大事な要素となってくる。


藤子作品では、子供たちの世界に税金システムを導入するという、ある種の実験的なお話がいくつか存在する。そこで「税金は嫌いだ!」と題して、税金という観点から見た、大人社会の縮図となるようなお話を鑑賞・検証していきたい。

既に一本目の記事(パーマン)は終えているので、宜しければご一読のほどを。


さて、続けて今度は「ドラえもん」における税金システム導入のお話を見ていく。前稿で書いた「パーマン」のエピソードと酷似している部分も多いので、是非とも比較しながら読み進めると面白い。


「ドラえもん」『税金鳥』
「小学四年生」1979年10月号/大全集9巻

「パーマン」では税導入の発端は、野球だった。野球で使うみんなの共有物(ボール、バット)を、チームメンバーから税金を集めて、それで賄おうと考えたのである。

本作ではもっとパーソナルな目的が発端となる。のび太が小遣いに苦労してマンガが買えない一方で、多額のお小遣いを貰っているスネ夫はマンガの新刊を一気に10冊買えてしまう。

のび太はスネ夫の大人買いを見て、「世の中不公平だ」と不満を述べる。するとドラえもんが、世の中を公平に近づける方法があると言って、「税金鳥」という機械仕掛けのひみつ道具を出す。

この税金鳥は、みんなの小遣いから税金を徴収してくれる機械。税率は、1000円以下が1割、それを超えると3割となり、さらに1万円以上は7割だという。現実の累進課税もビックリの高い料率である。

税金の使い道はみんなで決めるとして、そもそもみんなはこの税金システムに賛同してくれるのだろうか・・・。


このアイディアに真っ先に飛びついたのは、町一番の強欲者、ジャイアンである。税金でジャイアンズのユニフォームや専用の球場を作ろうと、さっそく乗り気。野球関連に税金を使いたいという設定は「パーマン」から引き継がれている。

ちなみにのび太も「まんが図書館」を作ろうと言い出しているが、こちらは「パーマン」においてみつ夫が出していたアイディアと一緒である。

ただ、他の面々はそれほど納得していない。スネ夫や出木杉などは、自由にやりたいと意見するのだが、「自分さえよければいいのか」とジャイアンが暴れ出して、半ば強引に賛成を取り付けるのであった。もっとも自分本位の人間の言うことではないが・・。

なお、本作で出木杉君の登場は二回目。この後、出木杉らしいエピソードも出てくるので、ご注目いただきたい。出木杉君初登場回は、既に記事になっているので、こちらもご興味あれば是非読んでみて下さい。


さて、一応全員賛成ということで、税金鳥を発動させる。するとさっそく、ドラえもんから、どら焼きを買うはずだった100円に対する税、10円を徴収する。みんなの所得状況がパッとわかってしまう恐ろしい機械であるようだ。

前項の「パーマン」の記事では、子供たちの正確な所得を把握するのがとても困難であった。いかに税収を確保するためには所得を調べることが大事だというテーマの作品だったわけだが、本作ではそういう苦労はいらないようだ。


続けて税金鳥は、各家庭に向かい、みんなの貯金に目をつけていく。まず最初に狙いを定めたのは、金尾タメルという男の子の家。名前の通りにお金を貯めることが楽しみなモブキャラ男子だが、彼の貯金箱から2万3046円の7割(!)、1万6232円を無理やりに奪い取っていく。

抵抗したタメオ君にビビっと電気ショックを与えて徴収するという、税金鳥の情け容赦ない仕事ぶりが、頼もしいやら残酷やら・・。


のび太は現在、小遣いも貯金もゼロ。なので安心していたのだが、こんな時に限って、臨時収入があるものだ。まず家に帰るとママから今月分として500円を渡される。ここから1割50円が徴収される。

さらに、のび郎おじさんがいきなり現われ、「またインドの行くことになり3年間は帰れない」ということで、3年分のお年玉を先払いしておくと言って、3万円を渡してくる。ここからは、7割引かれて2万1000円が税金として持っていかれるのであった・・。

なお、のび郎おじさんが、「またインドに」と言っているが、これは本作の6年間に発表した『ぞうとおじさん』のエピソードを踏まえたもの。こちらも記事になっているので、気になる方は是非。


さて、貯金からの税金徴収も一段落して、ここまでの集金状況がまとめられる。

・野比のび太 2万1050円
・源静香 1万1200円
・出木杉太郎 4万9000円
・金尾タメル 9万800円
・郷田武 0円
・骨川スネ夫 0円

ジャインアンとスネ夫が0円となっていて、ジャイアンはともかく、スネ夫がお小遣いなしとは思えない。これは何か裏がある・・。

あと、補足をしておくと出木杉君の下の名前が、本作では「太郎」となっている。出木杉は初登場時には「明智」という苗字となっていて、これが二回目の登場となった本作から「出木杉」に変更となった。

名前については、本作では太郎で、そのまま修正もされずコミックに収録されているが、後に英才(ひでとし)という名前に設定が固められている。


のび太とドラえもんは「自家用衛星」を打ち上げて、ジャイアンとスネ夫の0円の秘密を探ることにする。まずジャイアンだが、彼は欲しいものはお菓子でもマンガでも友だちから奪い取るやり方をしているので、全くお小遣いがいらない生活となっているようだ。

ただ、ここで思うのは、ジャイアンは普段からお小遣いを貰っていないので、みんなから物を借りパクする生活に追い詰められてしまったのではないかという仮説である。もしかしたら、厳格な家庭環境が、彼を暴君にしたきっかけだったのではないだろうか・・・(違うか)。


次にスネ夫の様子を伺う。スネ夫がずる賢い性格なのは皆が知るところ。今回も見事な手法で脱税行為を働いていることが判明する。そのやり方とは、

①自分の貯金を全額母親に渡す。
②そのお金の中からいくらかスネ夫に渡してプラモのレーシングカーを買っておいでと言わせる。
③買ってきたプラモを一旦母親に渡し、それを改めてスネ夫にプレゼントしてもらう。

という裏金の流れ。お使いからは税金を取れないという「法の穴」を巧みに突いたスネ夫流の脱税手法である。


そんな中、金尾と出木杉から税金が高すぎるというクレームが入る。出木杉が貯めていたお金は、顕微鏡が欲しくて近所の小さい子の家庭教師を引き受けたりして一生懸命稼いだものだったのだ。出木杉君らしい秀才なエピソードである。


そんな悲喜こもごもの中、能天気なジャイアンが「そろそろ溜まった税金で何か買おうや」などと言い出す。するとジャイアンが道端で10円を拾う。そこへ税金鳥が飛んできて、税金(1円)を徴収しようとする。

ジャイアンは「もっと金持ちから取れ」と反発(たかが一円だが)。「払わなければ差し押さえ」ということで、税金鳥は電気ショック攻撃を仕掛けてくる。しかし、町一番の強欲者ジャイアンは、そんなことではめげない。

「やりやがったな!」とどこからかバットを持ち出して税金鳥と交戦し、そのままぶっ壊してしまう。皆の中で一番、税システムを喜んでいたのだが、それを自ら破壊してしまうジャイアン。

もともと税金に賛成していたのは、単純に自分が一方的に得すると思っていただけだったのだろう。


ということで、税金鳥が壊れたので、税金ごっこはこれにて終了。前回の記事でも書いたが、やはり皆が納得して納税できる税金システムを構築するのは至難の業であるのだ。

金持ちほど脱税行為を働いたり、僅かな税金でも怒り狂う人がいたり、せっかく稼いだお金を取られて悔しがったり、そんな税に纏わる社会の縮図がばっちりと描かれた作品なのである。


「ドラえもん」の考察多数。


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