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出木杉、衝撃的デビュー!『ドラえもんとドラミちゃん』/のび・しず・出木杉の三角関係①

いよいよ「ドラえもん」の本丸記事に突入する。

ご存じの通り、のび太はジャイ子と結婚することが予定されていた。(『未来の国からはるばると』1970年

ところがドラえもんが来たことで未来の運命が代わり、わりと早い段階でしずちゃんに結婚相手が変更となる。二人の間にはノビスケという息子も生まれている。(『のび太のおよめさん』1972年

これによりジャイ子の出番は失われるが、その後マンガ家の卵として復活する。(『まんが家ジャイ子』1980年)

のび太としずちゃんの婚約というイベントも描かれ、これでのび太の行く末は安泰かと思われた。(『雪山のロマンス』1978年

ところが、セワシ君の時代ではまだ貧乏生活が続いており、まだはっきりと野比家の未来が変わったわけではなさそうだ。(『未来の町にただ一人』1979年4月

のび太はしずちゃんと結婚する流れであることは間違いないが、まだ決定的な運命になり切れていないのである。


では、いったい何が(誰が)のび太の恋路を邪魔しているのだろうか。

そう、それはのび太最大の恋のライバル、出木杉英才の存在が障害となっているのである。

出木杉君は、突如「ドラえもん」の世界に登場し、あっという間に何でもできる秀才として認知されるばかりか、しずちゃんとも良い仲になってしまう。(『ドラえもんとドラミちゃん』1979年9月

そしてこの日から、のび太は80年代のほとんどを、出木杉としずちゃんとの三角関係に悩まされる日々を送ることになるのである。


最初に結論を言ってしまえば、のび太と出木杉の恋の争いは、のび太の勝利で終わる。しかしその本当の決着は、なんとこの10年以上先のこととなる。(『しずちゃんをとりもどせ』1989年6月/『宇宙完全大百科』1990年5月

本稿では、全4回のシリーズで、のび太としずちゃんと出木杉の三角関係をテーマにしている作品を一本ずつ紹介していく。のび太の悩ましい日々を感情移入たっぷりに見ていくことにしたい。


『ドラえもんとドラミちゃん』
「コロコロコミック」1979年9月号/大全集20巻

出木杉君の初登場回となる本作だが、「てんとう虫コミックス」には収録されておらず、当時は知る人ぞ知るエピソードであった。(その後に「ドラえもんプラス」にて初単行本化)

色々なところで書かれているが、初出当時は「出木杉」ではなく「明智」と呼ばれている。もちろん現在は修正済み。出木杉については、下の名前問題もあるのだが、本稿ではそれは割愛する。


冒頭、のび太としずちゃんと出木杉で下校している。しずちゃんはのび太と会話するときよりも、出木杉と話している方が楽しそうに見える。実際、二人と分かれたのび太は、「気のせいか、しずちゃんが僕に冷たくなったよううな」と感想を持つ。

「出木杉のやつとは23回おしゃべりした。僕には3回だ。出木杉と話す時はニコニコしていた。僕に向かってはつまらなそうな顔」

しっかり、しずちゃんの反応を数えていたとはいじらしい・・。そして出木杉の悪口を言おうとするが・・

「出木杉がなんだ!! あんなやつ頭が良くてハンサムでスポーツマンで明るくて・・。悪いとこが一つもない。しずちゃんがあいつを好きになったらどうしよう」

と、出木杉の完璧さを褒めたたえただけであった。

この初登場のたった1ページで出木杉君の特徴が明らかとなり、3人の新たなる関係性がばっちりと描かれる。実に手際のよい、登場人物紹介である。

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本作のタイトルは『ドラえもんとドラミちゃん』。出木杉は実は材料の一つに過ぎず、メインテーマはドラえもんとドラミの兄弟のつばぜり合いと、その先のドラえもんとのび太の友情にある。その意味で、少々分かりにくいストーリー構成となっている。

のび太がしずちゃんと出木杉の関係について相談しようと帰宅すると、ドラミちゃんが部屋で待っている。ドラえもんは定期点検整備(人間ドッグ?)で工場で診てもらっているという。

留守中はドラミがお世話係というが、のび太はしずちゃんのことを話す気にはなれない。

「かっこ悪くて、この悩みはあんなチビに打ち明けられないよ」

と、内心思う。のび太にとって、ドラえもんは単なるお世話ロボットではなく、立派な相談相手となのである。


のび太はしずちゃんに電話して遊ぼうと声を掛けるが、「宿題のことで出木杉の家に行く」と言われて断られる。その様子を見ていたドラミは「カムカムキャット」という、狙った人を家に呼び込むことのできる道具を出す。

ドラミが気を利かせてのび太に黙って「カムカムキャット」を使うと、しずちゃんがのび太宛の葉書を拾い、届けに向かってくる。そのことを知らないのび太は、しずちゃんが出木杉に宿題を聞いて「頭がいいのね」と喜んでいる姿を想像し、嫉妬に狂う

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すると未来からドラえもんが帰ってくる。「よかん虫」が鳴いたので、のび太に困ったことが起きたと思って予定を切り上げてきたのだ。のび太は泣いて相談するのだが、「ヤキモチかあ男らしくないなあ」と冷たい反応ながら、「ゴーゴードッグ」という道具を出す。

これは「カムカムキャット」と対を成す道具で、狙った人を家から出してしまう効果がある。これで出木杉を家から出してしまえば、しずちゃんが訪ねることもできなくなる。

出木杉は突然家の回りが工事でうるさくなったので、たまらず家を出るのだが、ちょうどのび太に葉書を届けてくれたしずちゃんとばったり会い、二人は運命を感じながらしずちゃんの家へと向かっていく。

ドラミとドラえもんがそれぞれ動いた結果、かえってしずちゃんと出木杉を近づけてしまったのである。のび太は二人の姿を見てさらに落ち込み、ドラえもんたちは喧嘩を始めてしまう。。(出木杉のダジャレにも注目)

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その後、ドラえもんとドラミちゃんのひと悶着があって、結局はのび太としずちゃんが二人っきりになるしかない、という話に立ち返る。

ドラミちゃんは、とっておきの「ムードスタンド」という道具を出す。このスタンドを点けると、部屋は柔らかい光に包まれ、静かな音楽が流れて最高のムードになるという、いかにも女の子ロボットっぽいアイテムである。

さっそくしずちゃんを呼ぼうとカムカムキャットを作動させると、しずちゃんの家にのび太の小包が誤配され、しずちゃんと出木杉で届けにくる。ドラミは後は任せたと言って、家を出ていく。


すると家にいたのび太に電話が掛かってくる。どうやらドラえもんに関する内容らしいのだが、のび太は電話を聞いて、「ええーっ」と大きな衝撃を受ける。そして、しずちゃんが間もなく来るのに、家を飛び出していく。

のび太が駆けつけた先では、ドラえもんが倒れている。飛んでいたらエネルギーポンプの調子が悪くなって落下してしまったという。のび太はドラえもんをおぶって、「急いで工場で修理しなくちゃ」と家へと走り出す。ドラえもんの体重は123.4キロなのに・・・と思いつつ。

ドラミはネズミで脅かした自分が悪いと泣くが、のび太は

「そうじゃない。僕がいつもつまんないことで世話を焼かしすぎたんだ」

と、あくまで自分を責めるのだった。

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その頃、荷物を運んでくれたしずちゃんと出木杉は、ドラミが用意した「ムードスタンド」の部屋でうっとりと過ごしている。のび太たちが戻ってくると、「帰ろ」と言って二人手を繋いで部屋を出ていく。すっかり二人の仲をお手伝いしてしまう結果となってしまった。

しずちゃんと出木杉の様子を見て、ドラえもんはのび太のことを気に掛けるが、のび太は「早く工場に行ってよ」と気にしない素振り。そして、

「なあに、大人になるまでまだ十年ある。その間には、きっと逆転のチャンスだってあるさ!!」

と、すごく前向きな態度を示す。そんなのび太に「そのファイトだ!」とエールを送るドラえもんであった。

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本作はしずちゃんと出木杉の仲が進んでしまうお話なのだが、同時にのび太とドラえもんとの熱い友情や、未来を自分の手で勝ち取ってみせるという気概を示した一作なのであった。

ドラえもんが調子を壊したり休暇を取っている場面で、のび太がドラえもんの都合を優先するお話は「ミチビキエンゼル」、「ドラえもんに休日を!!」などがある。のび太は常にドラえもんとの友情を一番に思う男なのである。


さて、完成度の高いキャラクターとして初登場した出木杉君は、すぐにレギュラーメンバー入りし、のび太を嫉妬させる役回りとなる。続けて次回でも、のび太・しずちゃん・出木杉の三角関係を追ってみることにしたい。


「ドラえもん」の考察たくさんやっています。


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