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大人のカツアゲ=ボッタクリ『あの係長が!おごってくれた!!』/町のカツアゲくん⑤

「町のカツアゲくん」と題して、子供たちの世界の身近な恐怖であるカツアゲしてくる年上の不良というテーマで4作品を見てきた。

年上というところがポイントで、相手は中学生や高校生となるので、同級生の中で幅を利かせているガキ大将では太刀打ちできない。圧倒的な力と巧みな脅しの前に、子供たちはビビって言いなりになってしまうのである。


さて、本作ではそんな子供の世界から、だいぶ装いを変えて、大人の世界におけるカツアゲについて見ていきたい。

大人もチンピラにカツアゲされることもあり得るが、普通に生活している分には、あまり現実的ではない。本稿では、大人にとってのカツアゲとも言えるボッタクリバーを舞台とした作品を取り上げる。

そして、大人が主人公のお話と言えば、、そう「中年スーパーマン佐江内氏」である。

「中年スーパーマン佐江内氏」は、中年サラリーマンの悲哀をたっぷりに描いた知る人ぞ知る名作なのだが、知らない方も多いと思うので、そんな方は紹介記事を是非ともチェックしただきたい。


「中年スーパーマン佐江内氏」『あの係長が!おごってくれた!!』
「漫画アクション」1978年02月23日号

藤子先生はほとんどサラリーマン生活の経験がないはずだが(数日で辞めている)、なぜかサラリーマンの気持ちや、組織の力学をよくご存じ。本作を執筆するにあたり、その辺のリサーチもきちんとしていたのであろう。

本作では、しがない係長である佐江内が、部下を掌握することが会社で生き残るには大事だと同僚から諭されて、課員たちを飲み会に誘うことでの出来事となっている。


全国に支社があるような会社の場合、出世レースと配属先とは密接な関係にある。若い頃に地方で鍛錬を積むというのならまだいいが、本社で係長→課長(→次長)→部長と昇進していくにあたり、中堅からベテランに差し掛かる時に、地方や関係会社に出向となると、その昇進レースから外れたことを意味する。

今は働き方も自由で、出世が会社での唯一の生き方ではなくなっているので、昇進レースと聞いても「はあ」という感じだろうが、本作が描かれていた昭和真っ盛りにおいては、会社でのし上がっていくことが、仕事人生の大きなウエイトを占めていたのである。


どうやったら出世をするかは、実力やタイミングや運などもあるのだが、僕が思うところでは、人間関係に依るところが大きい気がする。上司に好かれた、合う合わない、部下の評判がいい、同僚と比べて人当たりがいい、などなど。

本作における佐江内氏は、仕事と私生活は全く切り離して考えているタイプ。部下を掌握するために、飲みに誘うというような発想自体がない男である。人間関係にドライな部分を持っている。

皮肉なもので、今の時代は、軽々しく部下を業務時間外で食事に誘うのは、あまりよろしくないという流れがある。佐江内氏の考え方が多数派を握ろうという世の中に見える。

佐江内氏の考え方は、盛んに人付き合いをしなかった藤子F先生のキャラクターが反映されていると思われるが、ある意味で藤子先生の考え方が、今の時代にフィットするようになったと言えるのかもしれない。


さて、ということで部下たち4人に一杯付き合わないかと誘う佐江内。部下たちは、これまでそんな誘いは一切なかったので、思わず「今なんて言いました?」と二度聞きしてしまう。

ところが誘ったのはいいものの、普段そういう行動を取っていないので、どこへ向かったらよいか分からない。部下たちに「行きつけの気安いところでもないか」と尋ねるが、部下たちは、「せっかくの機会なので、普段行かないような高級店に連れて行って欲しい」とねだる。


そして歓楽街をブラブラするのだが、「クラブロイヤルヘブン」「バーエベレスト」「天国への階段」「ブラックホール」といった高級クラブを目の前にして、高そうだ・・ということで、入店を尻込みしてしまう。

佐江内は基本的に夜のお付き合いをしないタイプにつき、お小遣いはたばこ代程度しか渡されていない。それゆえ、お金の心配をしてしまうのだが、今日は腹をくくって、ヘソクリを使おうと考える。


よって、部下たちには適当な店を探してもらい、その間、スーパーマンとなって家に帰り、ヘソクリを取りに行くことに。

残された部下たちは、佐江内の懐事情を鑑みる。「所帯やつれした顔を見れば金持っていないのがわかる」などともはや悪口。よって、係長のためにも安っぽい店を選ぼうということで、なるべく「薄汚くて陰気なとこ」を探す。

すると、ケバさ120%の女性に声掛けられて、「寒々としたムード」の店を選ぶことに。


一方、ヘソクリを取りに家へ飛んで帰る佐江内氏。ヘソクリの場所を奥さんに見られるトラブルがあったが、スーパーマンのスーツを着ていれば、忘却光線が出ているので、しばらくしてその記憶は消えてしまう。

歓楽街へと戻ってくるが、部下が残していたメモが風に飛ばされてドブに入り場所がわからなくなってしまい、仕方なくそれらしく店を一件ずつ透視して中の様子を探っていくことに。

しかしスーパーマンの格好でウロついていると、酔っ払いや警官などに声を掛けられて面倒くさいことになったので、その上から服を着て見えなくする。こうすることで、忘却光線を出すことができなくなる点に要注意。


部下4人が入った店は、雰囲気が陰気くさく、しかも酒もウイスキーのストレートが水っぽいという怪しさ。

なかなか係長が戻ってこないものだから、部下たちもソワソワし出す。佐江内が来なければ自分たちで支払いをしなくてはならないが、給料日前なので、みな持ち合わせがないのだ。

すると、もう一人ケバイ女性をホステスに飲んでいた別の客の男性が支払いをすることになるのだが、何とその請求金額は12万8000円という。水割り二杯とピーナッツくらいしか頼んでいないのに・・と大ショックを受けている。

しかも払えないと店のマスターが聞くと、グイと襟元を掴んで、「ちょっとそこまでお顔を」などと言いながら、店の外へと連れ出していく。それを見ていた部下たちは、どうやら自分たちは暴力バーに入ってしまったことに気がつき、一斉に顔を青ざめる。


一方、部下たちを探す佐江内。そこへ困った人の念波をキャッチする。するとビルの狭間の小さな公園で、先ほどの暴力バーのマスターが客の首根っこを押さえつけている。

何をしているか佐江内が尋ねると、マスターは「余計なことに首を突っこまねえ方が身のためだぜ」といきり立っている。捕まっている客が、たまらず佐江内にぶちまける。

水割り二杯とピーナッツで12万8000円を要求されたと聞いて、たまげる佐江内。この値段がぼったくりなのか、正規の値段なのかイマイチ判断つかない佐江内は、

「酒というものは、そんなにも高価なもの・・・」

と慌てふためいて、よろめいた流れで、公園の木をなぎ倒してしまう。


佐江内のスーパーパワーを間近にしたマスターは恐れ戦き、佐江内が木を抱えたまま「計算違いでしょ、そうでしょ」と念を押すと、1280円の間違いだと答えを変える。これによって、お客は無事帰路へ。

佐江内は、続けて念波を感じ取る。その発信先に向かうと、ちょうどマスターの変える方向と一緒。「何でついてくるんだよ」と愚痴られながら、同じ方向へ向かい、そのままバーへと入っていく。

するとそこには困り果てた部下たちの姿。「ここにいたの」と喜ぶ佐江内。「係長!!」と藁をもすがる様子の部下4人。佐江内が先ほどのマスターに「いかほど?」と尋ねると、小声で「1000円で結構でございます」と言って肩を落とす。


バー帰りの道すがら。佐江内の後を追う4人は小声でささやき合う。

「何十万円だったか知らんが、マユ一つ動かさずに払ったぞ。見かけによらない大人物だ」

佐江内は、自分も良くわからぬまま、当初の目的だった部下の掌握に成功したようである。これで出世はともかく、左遷は免れたか・・。


さて、ここまで5本のカツアゲを記事にしてきたが、今回でシリーズはひとまず終了。今の時代だったら、アルアル詐欺のようなものを藤子先生は題材にしたかもしれないな、と思う次第である。


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