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風邪を引くと未来予知できる男『血潮の海に・・・』/Fキャラも不調になる①

人から「いつも楽しそうだね」とよく言われがちな僕だが、まあ、確かに実際楽しいのだが、それでも時々は、どんよりと気持ちが上がらないことがある。

やるべきことが手に付かず、悪い方向に全てを捉えてしまって、「一体どこで間違えたんだろう」なんて答えの出ない後悔をして一日を過ごす、なんてことがある。

ここ一年と少しの間、毎日noteを更新しているのだが、どうにも筆が進まない時がある。気持ちだけはnoteを書こうと思っていても、PCを開くのが億劫になって、スマホでマーベル映画の動画ばかり見てしまって深夜3時なんていうあの感じ。

これがスランプってやつなのだろうか?

あまり好不調の波がない人間だと思っていたのだが、毎日noteを始めてからは、自分の心身の調子が必ずしも一定ではないことが良くわかったのである。


人は誰でも、好不調の波があるし、スランプが襲い掛かることもあるし、どうにもやる気が出ないときもある。物理的に壊れてしまうことも・・・。藤子Fキャラの面々も、どうしても調子が悪くなる時があるようで、そんな時には思ってもみない事件が起きたりする。

そこで、「Fキャラも不調になる」と題して、Fキャラたちの不調エピソードを集めていきたい。なぜ不調になったのか、その結果どうなったのか。大概の場合、とんでもない事件や結末が用意されている。


第一回目は、久しぶりに「中年スーパーマン佐江内氏」のエピソードを取り上げる。超能力を身に付けた佐江内氏の体調がすぐれない日に、トンデモない能力が開花するという話だ。

「中年スーパーマン佐江内氏」『血糊の海に・・・』
「週刊漫画アクション」1978年4月20日号

まずはそもそも「中年スーパーマン佐江内氏」って何ぞやという方は、こちらの記事をご一読してもらうと、概要は掴めるはず。


佐江内氏はひょんなことからスーパーマンとなったわけだが、基本的にはスーツを着ないと力が出ないことになっている。また、このスーツを着て人目に付いたとしても、見た人の記憶を消す効果がある。スーパーマン活動に無くてはならない衣装なのである。

では、スーツを着ていない時はただの中年のままかと思いきや、スーパーマンが出動しなくてはならないような事件が発生すると、まるで「エスパー魔美」のような念波を感じ取ることができる。スーツの有無に関わらず、別の「超能力」も会得している節があるのだ。

本作では、そうした超能力が、過剰に発揮される。そんなお話となっている。


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朝、佐江内は、「自分が転ぶ姿」を見て起床する。

「!!」

当然寝ぼけているのだと思い込むのだが、その瞬間、先ほど見えたように、佐江内は転んでしまう。

どうも体の調子がおかしい。どうやら風邪を引いたらしく、熱がある。奥さんには「体が第一」だと気遣われるが、「風邪なんか病気のうちに入らない」と出勤しようとする佐江内。

今でこそ「体調悪いときは無理するな」が基本だが、この頃(1070年代)は、熱なんかでは会社を休めなかったのである。


ところで、奥さんに気遣われた佐江内は少し機嫌がいいが、「大した蓄えがないのに寝込まれては一家心中だわ」と余計な一言を付け加えられて気分を損ねる。そして「とんだうまや火事だ」と感想を漏らす。

この「うまや火事」というのは、髪結いの亭主の一言でオチがつく有名な落語の演目「厩火事」のことを指している。落語好きのF先生の教養が漏れてしまっている。

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スーパーマンスーツに着替えて空を飛んで出勤するが、途中タバコ休憩を挟むと、目深な帽子を被りサングラス姿の目の不自由そうな男性と会話となる。「あなた、今日は会社へ行かん方がよろしいな」と、いかにも曰くありげな言いぶり。

気になりつつ会社に向かうと、社屋の前で車の接触事故を目撃する佐江内。が、すぐにそれは消える。朝のように幻覚を見ているのだろうか。さらに部屋に入って仕事に取り掛かると、スーパーマンスーツの姿で血まみれで倒れている佐江内の姿が見える。

思わず声を出してしまう佐江内。課長にその様子を見られるが「風邪気味なので」と誤魔化す。課長に早引けを勧められるが、「仕事に打ち込めば風邪なんて飛んで行く」と強気な佐江内。

そんな姿を見ていた後輩たちに、

「さっすがあ。昭和ひとケタは土性骨(どしょうぼね)が違うよな。資本家にとっちゃ貴重な存在さ」

と噂される。けして褒められただけではないニュアンスも感じる。

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と、会社の外で、車の衝突する音がする。佐江内が朝幻覚だと思った風景がそこにはある。佐江内は、自分は未来が見えるようになったと確信する。そうなると、先ほど幻覚で見た血まみれの佐江内は未来の自分ということになる。

会社にいては予知通りになってしまう。家で仕事をしようと思い直し、課長に申し出て帰宅することにする。

帰宅し、布団に潜り込みながら資料作成をする佐江内。なかなか快適の様子。今では在宅勤務は当たり前の時代となったが、家でもやり方次第では仕事が進むものなのである。


ところが、あと一息で完成というところで、一つ資料を会社に置き忘れてきたことに気がつく。ちょっと取ってくるだけならと、スーツに身を包んで会社に飛んで行くと、部屋のテーブルの上にあった赤いインクで転んでしまい、床の上の血まみれ、いや、赤インクまみれとなってしまう。

佐江内が見た予知幻覚は、血ではなかったのである。

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未来予知能力を獲得した佐江内は、喜びよりも不安を強く感じる。例えば自分の死を予知したら、その重圧に耐えられるだろうか。夜の公園のベンチで一人思い悩んでいると、朝会話した目の不自由そうな男性が話しかけてくる。

「人より先が見えるってことは、不幸なことですよ」


男は名前は名乗らないが、佐江内のように、少し先の未来が見えるのだという。そしてこれまでの半生を丁寧に説明を始める。

・太平洋戦争中、日本が負けると状況分析したが、憲兵にしょっ引かれて拷問を受けて目が不自由となった。
・その結果、ちょっとばかりの未来が見えるようになった。

そして、

「わしの経験じゃ、予知能力なんて人間にとっちゃ荷が重すぎますな。先に知ってもどうにもならんことが多いんだ、この世には」

と、絶望的なことをさらりと言いのける。


未来予知能力を得ても幸せになれないという思想は、藤子作品の中に何度か登場する。代表的な作品としては『ポストの中の明日』がまず思い浮かぶ。こちらは絶望と希望を織り交ぜた傑作なので、未読の方は読んでみてください。記事もあります。


ショックを受けてフラフラと帰宅する佐江内。そして玄関先で倒れて気を失ってしまう。風邪で無理したからなのか、予知能力を使ったせいなのか、この夜から本式に寝込んでしまう佐江内。

すると、倒れた佐江内に家族は優しく接してくれる。

「悪くないもんですな。わしは一家の中心なんだという実感!何年振りですかな。もうすっかり良くなったんですがね、味をしめて一日だけズル休み」

佐江内は、プライドと体調を取り戻した、良い休暇となったようである。

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その後、佐江内は幻覚を見ることはなかったのだという。


原則的にはスーパーマンスーツを着ないと活躍できないはずなのだが、事件の念波を感じ取れるように、体調を崩したことで、未来予知の能力も目覚めてしまったようである。

結論:中年スーパーマンは、不調になると超能力がアップする


藤子作品の考察たくさんやっています。


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