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中年の星!?「中年スーパーマン佐江内氏」第一話『スーパーマン襲名』完全解説!

これまで200作あまりの藤子F作品を紹介・考察してきたが、まだまだ手付かずの作品がたくさん残されている。その中でもかなりの傑作エピソード揃いでnoteユーザーも楽しめる大人向けの作品がある。

それが「中年スーパーマン佐江内氏」である。


この作品、2017年1月クールで実写ドラマ化しており、タイトルを聞いたことがある方もいるかと思う。主演堤真一、演出は今をときめくヒットメイカーの福田雄一。共演者もムロツヨシ他豪華メンバー揃いで、かなり力の入った実写化であった。

このドラマは僕も見ていたが、本作に関しては漫画とドラマは別物という認識で良いと思う。なので、ドラマに触れた人は是非漫画も手に取って欲しいと願う次第。

ちなみに藤子作品の実写化というと「エスパー魔美」や「バケルくん」などがあって、これらも全て見ているが原作とは中身が大きく乖離している。良い悪いの話ではなくて、藤子先生の少し不思議なテイストをそのままドラマ化するのは難しいのだろう。


ということで、ドラマとの比較など一切なしで物語を見ていきたい。

まず作品概要だが、本作は「近代漫画アクション」という完全に大人向けのコミック誌で連載された。大人向けというか、おじさん向けである。藤子F先生にとって大人向け雑誌での連載は、本作が最初で最後である。その意味で非常に画期的な作品という位置づけだ。

1977年9月から翌年10月まで月一本ペースで全14話。全て16ページ前後の分量で読み応えは十分だ。

本作が描かれた1977年は「ドラえもん」が軌道に乗り、「エスパー魔美」が絶賛連載中で、その直前までは「キテレツ大百科」も連載していた(本作と入れ替わるように連載終了)。SF短編集も散発的に発表していた。F先生の非常に脂の乗った時期だと言える。


と、ここで疑問に思うのは、なぜこのタイミングで急に「漫画アクション」で、初めての大人向け漫画を連載したのかということである。

藤子・F・不二雄大全集の巻末に掲載されている当時の双葉社の藤子担当だった本多健治氏の解説を読む限り、編集者の熱意が決め手であったようだ。

それまで双葉社は藤子先生の作品を扱っておらず、かなりの苦労をされて最初のアポイントメントを取ったようである。そしておそらくウマが合ったのだろう。その後の親密なやりとりから、それを強く感じる。

SFを描きたいというF先生に対して、本多氏は「主人公は若くない普通のサラリーマンしてくれ」と発注したという。そこで出てきたのが、中年のサラリーマンがスーパーマンになる話であった。


藤子先生は1970年頃から大人向けのSF短編という新しい「おもちゃ」を手に入れ、意欲的に作品を発表してきた。その中で『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』という、大人のスーパーマンを主人公に描いた話がある。

これらは二作とも、自分を律する力のない我欲の強い男がスーパーパワーを持ったが故の悲劇が描かれる。純粋な心を持つヒーロー「パーマン」の対極にある作品だ。この二作を描いたからこそ、次のステップとして「普通のサラリーマンがスーパーヒーローとなったら?」というアイディアに繋がったように思う。

ということで『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』は本作を堪能するために重要な作品だと思われるので、是非こちらの記事も機会があれば読んでいただきたい。


内容に入っていく。

主人公は左江内という、冴えない中年男。名前は作中では明かされていない。年齢は45歳、佐江内が妄想する新聞記事の中で確認できる。年の割に老けて見える。役職は係長。何の業務をしている会社かは不明だが、網走支社があるのでわりと細かく全国に営業網のある大会社なのかもしれない。

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家族構成は、妻と子供二人。
妻・円子は専業主婦で、夫同様あまり覇気がなく、佐江内とは完全にトキメキを失った倦怠期の間柄となっている(一度浮気っぽい物証が出てきて怒り狂ったことはあったが)。
姉が高校性のはね子、弟がおそらく中学生のもや夫。はね子は完全なお年頃で、家族がどのように向き合ったらいいか悩んでいるシーンも登場する。

総じて平凡な一家のパパの物語である。悲哀たっぷりな中年サラリーマンの生活と、正義のヒーロー活動はきちんと両立できるのか? そのあたりが本シリーズの最大の見どころである。


では続けて、第一話の物語を順を追っていきながら、本作の設定・世界観を明らかにしていく。

『スーパーマン襲名』「週刊漫画アクション」1977年9月15日号

まだ週休1日だった頃。土曜日の夜は真っすぐ帰ることにしている佐江内は、部下の誘いも受けずに帰宅の途につく。すると、帰り道で何度も同じ男を見かける。サングラスをかけた初老の男で、いかにも冴えない外見である。

遂には男が家の近所にまで姿を現すので、たまらず声をかけようとすると、

「君は何者で、何のために付け回すのかと聞くんでしょ。まとめて答えます。あたしゃスーパーマンです。あんたをスーパーマンにするため、付け回しておるのです」

と斜め上からの予想外なことを告げてくる。変な人に絡んじゃったなと佐江内はそこから無言で立ち去る。

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ところが帰宅すると、妻や子供たちは外出中で家の鍵も置き忘れていて、家に入れない。そんな佐江内の行動を先読みしていた先ほどの男と、結局ガード下の屋台で一杯飲むことに・・。


初老の男は、自分がスーパーマンだということをあけすけに説明する。話のポイントは下記。

・スーパーマンは見かけは派手だが所詮は縁の下の力持ち
・誰にも褒められず、好きでなきゃ務まらない
・自分はスーパーマン業に精を出し過ぎて、本業を傾かせて、妻とも離婚
年なのでスーパーマンを引退したい
・スーパーマンのカバーできる範囲はたかが知れている
・ハンカチを広げるとスーパーマンの衣装となり服の上からでも着れる
衣装を身につけないとなぜかスーパーマンになれない

このあたりの設定や世界観を酒席のジョークとして説明してしまう。相変わらず、藤子先生の第一話は見事な導入構成となっている。

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スーパーマンの説明を受けた後、改めて「スーパーマンにならないか」と問われるが、冗談として聞き流す佐江内。

家に帰ると、妻と息子は帰宅しているが、まだ娘・はね子が戻っていない。ここでの会話で、佐江内と妻のすきま風を感じ取れる。

遅い時間なので、駅まで迎えに行こうとする佐江内に、家の外で待ち構えていた先の男が声を掛けてくる。「娘さんは暗い道から帰宅しようとしているので急いで迎えに行った方がいい」と全てお見通しのようである。

夜道を急ぐと、はね子がオートバイに乗った男に捕まり、無理やりどこかへ連れて行かれようとしている。怒った佐江内はオートバイの男に立ち向かうが、あっさりと返り討ちに遭ってしまう。バイクで連れて行かれるはね子。

ボコボコに倒された佐江内に、初老の男は再度「スーパーマンになりたいと思いませんか」と尋ね、「お、思う」と声をひねり出す佐江内。「そうこなくっちゃ」とスーパーマンの衣装を佐江内に装着させる。

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すると、いきなり空を飛び上がる佐江内。驚くのは一瞬で、すぐにヒーロー然としてバイクを飛んで追いかけ、追いついてそのままバイクごと男をやっつけてしまう。驚いた表情のはね子。佐江内も我に返り自分のしたことに唖然とする。

そこに「お見事」と背中を叩いてくる「先代」のスーパーマン。はね子は家に逃げ帰ったという。そこで、再び設定が語られる。

・スーパーマンの衣装は見たことを一切を忘れさせてしまう力がある
・記憶の空白は個人で勝手に想像で埋めてしまう
・よってスーパーマンの活躍は一切報道されない

ということで、多少どさくさ紛れではあったが、佐江内がスーパーマンを襲名することになる。

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先代との別れ際、佐江内はなぜ自分を選んだのか理由を聞く。すると先代も、そのまた先代から引き継がれた時に、以下の3つの条件を満たすように指示されていたという。

◆スーパーマン3条件
①最大公約数的常識家
②力を持っても大それた悪のできぬ小心さ
③ちょっと見、パッとしない目立たなさ

衣装を着たスーパーマンを見ても記憶に残らない設定なので、③の条件は要らないような気もするが・・。ま、ともかく小市民であることが必要十分条件なのである。


帰宅すると、はね子が怖かった思いを語っており、それを聞いた弟のもや夫は「姉ちゃんゴーカンされかけたの!?かーっこいい!!」と、ピンとのズレたリアクションをしている。

実際はスーパーマンとなった父親に助けられたのだが、はね子は失った記憶を勝手に穴埋めして「オートバイが電柱にぶつかって逃げた」ということになっている。記憶が変換されるという先代の説明は間違ってはいなかった。

翌朝、昨晩のことを反芻している佐江内。すると妻が「まだ寝てたの、今日は休み?」と聞いてくる。うっかり考え込んで遅刻してしまったのだ。

ということで、通勤カバンを片手に衣装を着て、空を飛んで出社する佐江内。さっそく超能力を私用に使ってしまうが、「この程度は許してもらおう」と、独り言ちる佐江内であった。

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導入となる第一話では、手際良く世界観やスーパーマンの能力設定などが語られる。『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』にならないように、3つのスーパーマンの条件を明らかにしている点に注目しておきたい。

第二話以降は、佐江内氏の活躍とともに、普段の生活との二足の草鞋を履く葛藤なども、徐々に描かれていく。また、スーパーマンの衣装は第一話では無地だが、二話以降で佐江内の「佐」の字をデザインしたマークが前面に付け加えられる。空を飛ぶ以外の能力も明らかになる。

全14話の中にはF史的にも重要な作品がいくつかあるので、それらは追って別の切り口で紹介したい。


藤子先生の名作の数々をレビューしています。


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