見出し画像

たった5ページの大冒険『のび太漂流記』/藤子Fのロビンソン漂流記③

少年時代の藤子先生の愛読書の一つだった「ロビンソン漂流記」。今読むと、「絶対に漂流したくないなあ」と率直に思ってしまう40代中年なのだが、冒険心溢れる少年時代に出会うと、それは我が事のようにハラハラドキドキしてしまう本である。

藤子作品では、手を変え品を変え、「ロビンソン漂流記」をモチーフとした物語が展開されているが、これまで「オバQ」と「パーマン」の漂流譚を紹介してきた。

パーマン(みつ夫)にしろ、正ちゃんQちゃんにしろ、基本的に自力で漂流生活をすることに憧れを抱いており、実際に冒険に出かけたり、漂流ごっこをしたりしている。


次に見ていくのは、漂流したい男の大本命・野比のび太。まず本稿では、「ロビンソン漂流記」を実際に読んで冒険したくなってしまったのび太の活躍(?)を描くお話を紹介する。


「ドラえもん」『のび太漂流記』
「小学五年生」1973年7月号/大全集2巻

まず最初に書いておくべきこととしては、本作はのび太が実際に無人島に冒険に出かけて帰ってくるまでのお話であるということだ。ロビンソンは28年間も漂流生活をしたわけだが、のび太はどのくらい「漂流」したのだろうか?

ヒントとしては、本作はたった8ページの作品だということ。出発前と帰ってきてからの描写を抜くと、たった5ページの冒険となっている。。


突然、要らなくなった割り箸を集め出しているのび太。「まだこれっぽっちか」と不満そうだが、何をしているかドラえもんが尋ねると、割り箸でイカダを作って無人島を探すのだと言う。

「僕は自分の力を試してみたいんだ。誰もいない何もない所で生き抜いてみたいんだ」

と力を籠めるのび太。

ふと部屋を見渡すと、一冊の本が落ちている。それは「ろびんそんひょうりゅうき」という絵本であった。絵本を読み、のび太はさっそく影響を受けていたのである。

ドラえもんは、「冒険するのは良いことだ」ということで「風船いかだ」を貸そうとするが、のび太は「自分の力だけでやりたいんだ」と言って拒絶する。

でも割り箸だけでイカダを組むのに何十年もかかると説得されて、いかがだけ世話になろうと、少し譲歩する。ただし、別途ドラえもんが用意しようとしたハイキングセットを入れたリュックは、断固拒否。

「僕は自分の力だけで生きる」とこぶしを振り上げ、タケコプターを付けて飛びだっていく。「そのヘリトンボ僕のだぞ」と突っ込むドラえもん。この時は、連載初期だったせいか、タケコプターが「ヘリトンボ」の名称となっている。


しばらく経って、のび太の様子をモニターするドラえもん。まだ出発から30分未満だが、海上のイカダでのび太はもう焦っており、

「どうしても島が見つからない。ひょっとしたら僕は、このまま永久に海の上を・・。ああ、来るんじゃなかった」

と、あまりに後悔するのが早すぎる様子。


呆れたドラえもんは、こっそり後を追い、海に潜ってイカダに自動的に島を見つけてくれるモーターを取り付ける。ドラえもんは、ここからのび太の漂流生活を陰でバックアップしていくことになる。

島に到着。喜ぶのび太はこの島を「のび太島」と名付けようと盛り上がる。


さて、ここからは漂流生活における定番作業の開始。①食料②住居③衣類そして④水である。このステップは、これまで見てきた漂流をテーマとした藤子作品では、全て丁寧に踏んでいる。

まずのび太は食料を探す。(STEP①)
ロビンソンは木の実を見つけたと言って島を探し回るが、実がなる木は見つからず、さっそく「腹が減った死ぬう」と大騒ぎ。だからリュックを持って行けと・・と呆れるドラえもん。

いきなり目を回しているのび太に、パンの匂いで誘導し、予めパンを付けておいた木を見つけさせる。のび太はさっそく食らいつき、「これが噂に聞いたパンの木だな」と満足する。

そこへスコールが降ってくる。住居問題の発生である。(STEP②)
「かさ、かさ!誰か持ってきて」と甘ったれののび太を、ドラえもんが見つけておいた洞窟に突き飛ばす。「ここをすみかにしよう」と、またも満足気なのび太。

ところが雨で服がびしょ濡れ。ここで衣服問題の勃発である。(STEP③)
ドラえもんは、こっそりと二枚合わせると服となる大きな葉っぱを提供する。「便利な葉っぱもあるものだな」と喜ぶ。そろそろドラえもんの存在に気付いてほしい今日この頃だ。

続けて飲み水問題。(STEP④)
外に雨水があるだろうに、「喉が渇いた死ぬう」と横たわって騒ぐのみ。すっかりお世話係となったドラえもんは「手のかかるロビンソン」だなあと言いながらも、こっそり湧水を掘り当ててあげるのであった。


さて、あらかたの問題をクリアしたのび太だったが、陽が沈む情景を見て、

「ああっ日が沈む。暗くなる。電灯がない。テレビがない。布団もない。お家へ帰りたいよう」

と、嘆きを連発。出発した時の決意はどこへやら・・。甘ったれるな!と思わず引っ叩きたくなる根性なしだ。

そこでドラえもんが「どこでもドア」で家を繋ぎ、のび太のママを連れてくる。ちょうど遅くまで帰ってこないことにイライラしていたママは、のび太の耳を引っ張って注意するのだが、すっかり弱っているのび太は「ママ!」と言って抱きつくのであった。


後日、しずちゃんやスネ夫、ジャイアンに、無人島生活の一部始終を語る。

「洞窟に住み、湧水をすすり・・、まっ、僕だからどうにか生き抜いてこられたんだろうな」

と、とても半日で投げ出したとは思えない無人島生活を、自慢するのび太。「案外逞しいのね」と驚きをもって話を聞くしずちゃんたちなのであった。


冒険したい。けれど実際の冒険は困難ばかりで嫌になる。理想と現実は乖離するものだが、ここまで酷い例もあまりないような気がする。

ただ、本作での経験が少しは役にたったのか、のび太は本作の3年半後にたった一人で無人島に漂流し、10年間もサバイブすることになる。こちらの記事で紹介済みなので、もしよろしければ・・。


次稿ではしずちゃんと「漂流」するお話をご紹介する。


「ドラえもん」考察やっています。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?