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オバQと同年スタート!「忍者ハットリくん」第一話大解説!/藤子不二雄と忍者<特別編>

「藤子不二雄と忍者」と題して、これまで4本の記事を執筆した。過去記事はこちら・・。


ご存じの通り「オバケのQ太郎」は藤本先生と安孫子先生の合作であり、特に週刊少年サンデー連載分は、アイディアも二人で出し合って創作されている。よって、このオバQの初回で忍者ごっこをテーマに選んだのは、藤子不二雄両氏の総意によるものだった(はず)。

「忍者」は昭和30年代~40年代前半くらいに、かなりの数のマンガや小説、特撮ドラマなどが作られていて、一大忍者ブームの様相を呈している。

「オバQ」を始めとする作品の中に忍者をモチーフに入れてきた藤子不二雄両先生だったが、本格的な忍者を主人公にしたお話が求められた可能性がある。


「オバQ」の連載開始からおよそ10ヶ月後、藤子不二雄として「少年」(光文社刊)にて、一本の忍者マンガがスタートする。それが後に安孫子先生の代表的作品へと成長を遂げる「忍者ハットリくん」である。

ちなみに「少年」では白戸三平の「サスケ」を連載中で、こちらは「ハットリくん」とは異なり、敵と対峙していく本格派の忍者マンガで、さらに主人公サスケは甲賀の忍者であった。

「ハットリくん」は後発の忍者マンガとして、「オバQ」のような生活ギャグ路線、かつ伊賀の少年忍者を主人公とする。おそらく意図的に「サスケ」とは内容面で被らないような作りに仕立てているのである。


「忍者ハットリくん」は「少年」の休刊間際(1968年2月号)まで連載が続き、1966年には実写ドラマ化もされている。東映京都で撮影された、時代劇タッチのお話だっというが、自分は未見。

その後、1980年代に藤子不二雄アニメの大ブームが巻き起こり、「忍者ハットリくん」もアニメ化同時プロジェクトとして、「月刊コロコロコミック」などで1981年に再連載が始まった。

以後、1988年まで連載は続き、藤子不二雄A先生の最大のヒット作となったのである。


自分は1980年代の藤子不二雄大ブームの真っただ中で少年期を過ごした世代で、当然のごとく「忍者ハットリくん」はアニメを帯番組の頃から堪能し、原作の単行本も揃えていた。

今では信じられないが、当時は藤本先生と安孫子先生の作品の区別は全くできてなかった。「ドラえもん」「オバQ」「パーマン」「ハットリくん」「プロゴルファー猿」の全てを「藤子不二雄合作まんが」として認識して、ともかく読み漁っていたし、アニメや映画を楽しみにしていたのである。

「ハットリくん」と「パーマン」が共演する合作映画なども、当たり前のように超絶興奮して見たものだが、今となって思えば、それは奇跡のようなコラボレーションだったんだなと、感慨深いものがある。


さて、本稿では、そんな「忍者ハットリくん」の記念すべき第一話をレビューしていく。「藤子不二雄と忍者」と銘打っておきながら、ハットリくんをスルーするわけにはいかないのでござる!


「忍者ハットリくん」『ちょっとしつれいつかまつる』
「少年」1964年11月号

まずは主要の登場人物についておさらいから。

ハットリくんの本名は服部貫蔵。忍者の故郷・伊賀の出身で、服部半蔵の子孫という設定。ちなみに服部半蔵は、戦国時代の初代から明治まで生きた12代目まで断続的に続いた当主の名前である。

ハットリくんが居候することになった三葉家の長男の名はケン一。オバQの正太と同じ役どころで、「忍者ハットリくん」のもう一人の主人公と言ってよいだろう。

ハットリくんには肉親や仲間、そしてライバルがいて、お話が進むと登場してくる。弟のシンゾウ、ライバルで甲賀流のケムマキ、80年代に初登場する忍者犬の獅子丸、忍者猫の千代丸など、多彩である。

さらに、途中から忍者怪獣ジッポウが登場するが、こちらはハットリくんに次ぐ人気キャラクターになった。


本作第一回目は、ケン一とハットリくんの出会いが描かれる。

ハットリくんの初登場シーンは、案外あっさりしたもの。ケン一がテレビで忍者の特撮ドラマを見て夢中になっていると、突然背後から声がする。振り返ると、いつの間にか部屋の中に少年忍者が座っている。そして丁寧に手を付いて、

「せっしゃハットリカンゾウと申す」

と自己紹介。ケン一も誘われるように「ケン一でござる」と挨拶を返す。

ケン一がどこから来たかと尋ねると、窓の外からだと言う。ケン一の部屋は二階なので、「イイ~ッ!?」と俄かに信じ難い。


ケン一が騒ぐので、ママが「誰と話しているの?」と言いながら部屋に入ってくる。ケン一がハットリを紹介しようとすると、姿がない。

「どこへ消えたのだろう」と思いつつ、その夜は布団に入って寝ようとするのだが、そこでケン一は、天井にへばりついているハットリ君を見つける。慌ててママを呼ぶと、「んまーっ!」と飛び上がる。

この「んまーっ!」は、「まんが道」で松葉のラーメンを食べた時と同じような、A先生独特の驚き表現である。


ママは「帰らないとおうちの方が心配する」と言って、帰宅を促すのだが、ハットリの家は何と忍者の里伊賀だと言う。伊賀の国は現在の三重県で、ケン一の住む東京都とはえらい距離がある。

そこで、「今晩は泊めてあげよう」とケン一が提案、ママも「しょうがないわね」と言って、ハットリ君の分も布団を用意してあげる。「かたじけない」とハットリ。

なお、ハットリくんはこの間の会話を、ケン一と糸電話を通じてしゃべっている。どうやら直接会話するのは、ケン一だけにしているようで、何か忍者の掟のようである。

ハットリくんの初期設定では、無口で何を考えているのかよくわからないというキャラクターとなっている。これはケン一との友情関係を示す意味合いと共に、得体の知れない感じを出すことで周囲の人から見ると何やら不気味な印象も与える効果がある。

ママに布団を用意して貰ったものの、ハットリくんは「ここで結構でござる」と言って、天井にしがみ付いたまま眠ってしまう。確かに忍者はどこでも眠れるのが特技なのだが・・・。ケン一は目が合ったまま眠ることになるので気になって仕方がない。


翌朝。ケン一が目を覚ますと、天井にハットリくんの姿がない。ふと隣の布団を見ると、ハットリくんと思わしき人物が寝ていて、布団から足だけ出ているのが見える。

ケン一は、「しばらく寝かしておこう」と言って、部屋からパッと廊下に出るのだが、そこはまるで氷上の世界。床がツルツルとしており、そのままツーッと滑っていくと、逆方向から滑ってきたパパと正面衝突してしまう。

ママが言うには、今朝起きたら家中がピカピカに掃除してあり、ご飯も炊いてあり、みそ汁も作ってあったという。庭を見ると洗濯物が全て干し終わっている。誰かが早朝に家事全般をやってくれたようである。しかも、とびきり丁寧に。


ケン一が部屋に戻って布団を剥がすと、ハットリくんかと思っていた足は、棒に足袋を履かせている扮装であった。となると、家事を済ませたのはハットリくんとしか考えられない。

ハットリくんのことを始めて知ったパパは、「シンゾウだかカンゾウだかわからんが、勝手に人を泊めてはいカンゾウ」などとダジャレを飛ばす。この手のダジャレは、A作品でたびたび見かけるもの。


すると天井から水が大量にパパに降りかかる。雨漏りかと思いきや、外は晴れ。すると屋根の上に水を撒き、丁寧に掃除しているハットリくんの姿がある。バケツを頭の上に乗せたまま、瓦屋根を雑巾がけしているのだ。

ハットリくんは屋根の雨どいに足を引っかけて宙ぶらりんとなる。落ちそうだということで、パパが屋根に登ってハットリくんを掴もうとすると、逆に自分が足を滑らせて、屋根の上から転落してしまう。

すると、パーっと超スピードで地面に降りたハットリくんが、落下してきたパパをキャッチ。これをきっかけにパパも態度を軟化させ、ハットリくん受け入れ態勢に。


ただパパとしては、ハットリくんは家出少年に思えるので、警察に届けた方が良いのではと考える。せっかく忍者の友だちができたケン一は、来たばかりなのでしばらく通報は止めておいてほしいと願い出る。

その後も、食事ごとに「そろそろ警察に届けなくては」とパパが切り出すが、そのたびにケン一は、もう少しだけ一緒に、もう一晩だけ泊めてと延長をお願いする。

ここでケン一が何度も一緒にいたいとお願いしていることで、ハットリくんの信用度も高まっていたのかも知れない。


さて、夜。ハットリくんはまた天井で眠るという。てっきりどこでも眠れるようにと修行していたのかと思いきや、天井でないと眠れないのだという。とは言え、ケン一からすると気になってこっちが眠れない。

そこで天井に布団を敷くことを提案する。具体的に天井と布団をロープで括ってその間にハットリくんが入るという形。枕も頭の下に置いたりしているが、重力が逆方向なので、枕の効果があるかどうかは怪しいところ。


その晩、ハットリ君は水とんの術を使って泳いでいる夢を見る。

翌朝。ケン一の頭に水がポタリと落ちてくる。今日もハットリくんが屋根の掃除をしているのかと思いきや、どうやら別の事情のようで・・・。天井向かって「ああ~~つ!!」と驚きの声を上げるケン一。


珍しく布団で眠ったせいか、夢のせいか、環境が変わったせいなのか。ハットリくんはおねしょをしてしまったのである。そしておねしょの後は、十字型で、ケン一はそれを見て、

「十方手裏剣!!さすがだなあ!」

と感嘆する。ふんどし姿で顔を赤らめるハットリ君なのであった。


ハットリくん初登場回は、特に理由も明かさられずに突然ケン一君の部屋に現われ、そのまま家に住み着いてしまうという流れ。詳細設定をはっきり語らずに物語を始めてしまうのが、藤子A先生の特徴でもある。

なお、パパが警察に届けるべきだと何度も主張していたが、これは連載二作目の『おのれ!にっくき先生め』で、実際に通報されてしまう。この二話目では、有名な小池先生が初登場する回でもあり、こちらも機会があればご紹介してみたい。


ということで、珍しく藤子不二雄A先生の作品についてレビューをしてみた。僕としては、80年代までのA作品はかなり読み込んでいて、語りたいことも多いので、是非時々はA作品も取り上げてみたいと思う。



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