見出し画像

ホルスターから飛び出すロケット!「とびだせミクロ」『ミクロ対忍者』/藤子不二雄と忍者③

「藤子不二雄と忍者」と題して、主に1960年代の空前の忍者ブーム(忍者ごっこ)を背景にした藤子作品を紹介していこうという企画の3本目。

今回は少しマイナーな作品で、藤子Fノート初登場となる「とびだせミクロ」という作品の忍者モノを取り上げたい。


まずは「とびだせミクロ」とは何ぞやという話から・・。

今藤子Fノートでは、「藤子F初期作品をぜーんぶ紹介」シリーズを連載中だが、こちらは1959年から連載が始まった「海の王子」までの作品を取り上げている。

これに並行して、「ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品」と「初期SFヒーロー漫画」のシリーズも適宜執筆中である。

これらのシリーズは、前者が藤子先生お得意の日常系SF(少し不思議)の作品で、あまり世の中に知られていないものを扱い、後者は「海の王子」人気から派生した少年(少女)がロケットなどに乗って悪と戦う作品群を取り上げている。

1960年代前半は、幼児向け作品とヒーローSF作品の両極を藤子先生は得意としていたわけだが、今回の「とびだせミクロ」は、初期ヒーロー作品の一本となる。

こちらの詳しい各話の紹介などはまた別途記事を準備中なので、詳細はそちらに譲るとして、本稿では簡単な概要の上で、忍者をテーマとした作品を見ていくこととしたい。


「とびだせミクロ」は「幼稚園」1963年1月号から連載スタートし、その後4月からは「小学一年生」、翌年4月号からは「小学二年生」、さらに翌年4月から「小学三年生」へと、学年繰り上がり方式で連載が続いた作品。

「オバQ」フィーバーの中、1965年7月号で最終回を迎えるが、2年以上も連載が続いた人気作品なのである。


登場人物は主に3人。主人公でミクロというロケットを使って悪と対峙していく少年けんちゃん、けんちゃんの肉親でもあり発明家でもあるおじいさん(丸山博士)、けんちゃんと友だちになるまりこちゃんである。

けんちゃんはおじいさんからホルスター付きのベルトを貰うのだが、このホルスターをぽんと叩くと、ミクロが飛び出す仕掛けとなっている。

ミクロは高性能の乗り物で、空を飛んだり、水中に潜って航行したりできる優れもの。けんちゃんは、このミクロを相棒に、様々な敵を戦っていくことになる。そんなシンプルストーリーとなっている。


連載当時の扉絵を見てみると、「小学館まんが賞」受賞第一作と書かれている。これは1962年に「すすめろぼけっと」と「てぶくろてっちゃん」の二作を対象に藤子不二雄先生が「小学館まんが賞」を受賞したので、その次の作品という意味合いである。

なお、この時期には「ロケットけんちゃん」という人気作品も連載しており、本作とよく似た構成で、かつ主人公の名前が一緒ということで、かなり区別がややこしいことになっている。


それでは本作について見ていく。一本筋を追えば、大体内容もわかっていただけるものと思われる。

「とびだせミクロ」『ミクロ対忍者』
「小学一年生」1964年2月号+2月号別冊付録

本作は、本誌8ページと別冊付録48ページの合わせて56ページの大作である。当時の藤子F先生はこのヴォリュームの作品を数本執筆していたが、かなりの筆の早さであり、乗りに乗っている様子が伺える。

また奇しくも本作が描かれた時期と時を同じくして、「オバケのQ太郎」の記念すべき第一話が発表されたのだが、このお話も忍者絡みのストーリーだった。下記記事のオバQ誕生の物語「スタジオボロ物語」に詳しいので、是非ともこちらを。


本作はけんちゃんとまりこちゃんの二人が、不思議なテレビをくぐって、戦国時代に向かい、そこで忍者軍団と戦いながら財宝を探すという奇想天外なお話となっている。

勉強中のけんちゃんの家にまりこちゃんが遊びに来るが、しばらくテレビを見ていて欲しいと言われる。ところがそのテレビは、おそらくおじいさんが作ったと思われる「本物が出る」テレビ

大相撲を見ていると、投げられた力士が画面から飛び出してきて、まりこちゃんにのしかかってくる。普通ならこの時点で圧死だろう・・。さらに、西部劇を見ればピストルが飛んできたり、海が映ると海水が部屋中に流れ込んできたりと、かなり物騒なテレビである。


時代劇にチャンネルを合わせると、武士と忍者たちが戦っているシーンが映り、彼らがブラウン管をくぐって現実世界に現れる。本気のチャンバラが行われ、部屋中を滅茶苦茶に。忍者たちは去っていくが、巻物を一本落としていく。

二人はこれを届けようということで、逆に画面の中に入り込むと、そこは戦国時代と思しき「むかしの世界」。遠くに城が見えている。二人は歩き出すのだが、木の上にいた忍者の目に留まり、「怪しいやつ」ということでロープで二人は縛られてしまう。

いきなりの大ピンチ到来というところで、本誌の8ページ分が終了。別冊付録に舞台を移して、本格的時代劇が幕を開ける!


忍者に引っ張られていくけんちゃんとまりこちゃん。そこは黒山城の城主の前。けんちゃんたちは白川城の回し者だと疑われて、牢屋に閉じ込められる。そこには先に捕まっている男がいる。

男の口から状況説明(=設定)が行われる。

・大きく険しい山を挟んで白川城と黒山城が並んでいる
・その山には、昔、白川の先祖が百万両の小判を埋めたらしい
・最近小判の場所を示す地図が見つかった
・黒川城主がそれを横取りしようと7人の忍者を使って盗み出した
・男が取り返しに来たのだがあえなく捕まった

けんちゃんは、自分が届けようとしていた巻物を「地図ってこれじゃないの」と出すと、まさしくドンピシャの代物。

そしてけんちゃんがホルスターを叩き、ミクロを飛びださせると、それに乗って牢から脱出。そのまま白川城へと飛んでいく。その飛ぶ様はまるで忍術のようにみえ、農民たちは天狗様だと思い込んで拝むのであった。

戦国時代に、急に現代的なロケットが飛ぶ様子は、まるで「戦国自衛隊」を彷彿とさせる。


けんちゃん、まりこちゃんは歓迎され、白川城で一晩を過ごす。しかし、黒山の忍者たちが秘かに忍び込み、けんちゃんたちを「おねしょ」の計略で気を逸らせている内に、巻物を再び盗み出してしまう。しかも、隙を突いてミクロのホルスターも奪われてしまうのであった。

まりこちゃんが機転を利かせて、あらかじめ地図を別の紙に写し取っていたため、宝の場所はわかる。こうなると、宝を巡って、黒山と白川が山中でぶつかり合うことになる。

白川のお殿様は、けんちゃんたちの「忍術」に頼って、助けて欲しいとお願いしてくるのだが、ミクロを奪われてしまったので、どうにもならない。そこで一度TVをくぐって現代に戻り、準備を整えることにする。


けんちゃんたちは、戦いに使えそうな様々なグッズを大きなトランクに詰めて戦国時代へ舞い戻る。さあ、ここからはいよいよ山の中での忍者とのバトルの始まりだ。

宝の場所への重要な目印である大きな杉の木の周辺で、けんちゃんたちは忍者に襲われる。手裏剣を強力な磁石で吸い寄せたり、おもちゃの自動車を走らせて油断をさせたりと、あの手この手を使って、忍者たちを巻く。

地図の道案内通りに谷へ下り、ほら穴を探そうとするのだが、ここで夕暮れとなり、先へは進めない。ここでビバークすることになるのだが、忍者たちは暗闇でも見渡せるという。

そこで、隠れも無駄だと言うことで、逆にたき火をして明るくして、忍者が暗闇に紛れて急襲してくるのを防御することに。けんちゃんたちも、現代の道具を使った準備に入る。

ポップコーンを周囲にバラまき、発電機や電線を張り巡らして、スクリーンも設置する。何かの「忍術」を仕込んでいるようなのだが・・・。


たき火を囲んで夜を過ごしていると、忍者たちが木々の上を飛び回って、砂を頭上からかけて火を消してしまう。暗闇は忍者に分があるが、そこでポップコーンが敵の足音を察知する役目を果たす。

同じような戦い方をその後「パーマン」の『怪人ネタボール』でも使っている。


さらに懐中電灯で忍者たちの居場所を照らしたり、事前に用意してあった映写装置を使って、恐竜を映し出して忍者たちを驚かせたり、電線で感電させたりと、けんちゃんたちの施策が成功して、7人の内4人を倒す。

ところが、残りの3人の忍者たちが崖の上から巨岩を次々と落としてきて、けんちゃんたちは岩に囲まれて身動きできなくなる。このままでは岩の下に埋まってしまう。

すると一人の倒れている忍者がミクロのホルスターを巻いているのに気がつくけんちゃん。落石をうまく逃れてホルスターを取り返すと、さっそくミクロを出して、岩を粉々にしてしまう。

ミクロを出す瞬間に「とびだせミクロ」と掛け声を掛けているのだが、これが決めゼリフ&決めポーズになっていて、かなりカッコいい。この手のケレン味は藤子作品では珍しいように思う。


ミクロが飛び出せばこっちのもの。残りの忍者3人を追い回して、あっと言う間に捕まえてしまう。

そして次のコマでは、大量の小判が洞窟内で発見されて、いきなりの大団円。この異様なる早さの収束が、実に藤子先生っぽいと感じさせる。


けんちゃん、まりこちゃんが7人の忍者と戦うというプロットが、忍者ごっこ全盛期の読者を引き付ける。7人の忍者がそれぞれ個性を出す、というような展開にはならなかったものの、ミクロを封じられて、別の道具で工夫して忍者と戦うことになる設定も抜群。

「大長編ドラえもん」などでも、異界の地を冒険するにあたり、ひみつ道具を使えなくなったり、ドラえもんが壊れてしまったりと、強烈な枷(カセ)をハメることがよくある。

本作もその意味で、大長編ドラえもんなどに通じるスケール感があるように思える。

そういえば、これまで大長編ドラでは戦国時代などを舞台にした作品は無かった。「クレヨンしんちゃん」には『 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』という名作があるので、ドラえもんでも是非描いてもらいたいものである。



マイナー作品も全網羅!


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?