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オバQ第一話のリメイク?『忍者対オバケ』/藤子不二雄と忍者②

1960年代には、今では考えられないような一大忍者ムーブメントが起きていた。それは子供だけではなく、年齢層高めの読者を引き付ける山田風太郎の小説や、白戸三平の「カムイ外伝」などもあった。

忍者ものと一口に言っても、作品によってテイストや忍者の描かれ方もだいぶ異なっていたようである。それだけすそ野が広い、人気ジャンルだったことが伺える。

忍者ブームの熱狂は、その当時の子供たちを包む込んでおり、忍者ごっこは子供らによる最もメジャーな遊びであった。そんな子供のブームを見逃すはずもない、根っからの児童漫画家である藤子先生は、この当時の作品の中に、何かと忍者を忍ばせている。

安孫子先生が「忍者ハットリくん」を連載していたので、忍者を主人公にした作品は描けないが、重要なモチーフとして扱っていたのは間違いない。


前稿ではパーマンVS.忍者のエピソードを取り上げたが(記事は下記)、本稿ではオバケのQちゃんと忍者との対決を見ていきたい。もっとも、今回の忍者はごっこ遊びの子供たちで、本物ではないのだが・・・。


「オバケのQ太郎」『忍者対オバケ』
「小学一年生」1965年3月号別冊付録/大全集6巻

オバQと忍者と言えば、記念すべき第一話目『Qちゃん誕生』が有名である。忍者ごっこの最中にQちゃんが卵から生まれて、正ちゃんと共に、ゴジラらやんちゃな子供たちと忍者対決をすることになる。

この作品はまた後日取り上げるとして、本稿ではその初回とかなり良く似た構成のお話『忍者対オバケ』を見ていきたい。

なお、本作のタイトルからするとオバケのQ太郎が、本物の忍者とバトルする話を想起させるが、本作は忍者ごっこをするいたずらっ子たちとの対決となる。


本作は「小学一年生」の連載三か月目の作品で、別冊付録に収録された少し長めのお話となっている。まだQちゃんの存在が、友だちの中でも広がっていない段階であり、作中でもゴジラ(と思しきガキ大将)に「その変なの誰だ?」と聞かれている。

Qちゃんの能力があまり知られていない時のお話として読み進めていただきたい。


冒頭、正ちゃんとQちゃんが部屋でドタンバタンと相撲を取り、ママから「おもてで遊んでらっしゃい」と注意を受ける。これは2号前の「小学一年生」1月号『オバQ誕生』でも二人が相撲を取っているので、その続きということだろう。

また、外で遊べとママが言っている点は、最後のオチの伏線にもなっているので、よく覚えておいてもらいたい。


空き地ではゴジラとその友人二人で忍者ごっこをしている。仲間に入れてくれと正ちゃんがお願いすると、Qちゃん含めて悪者の役なら入れてやると言われる。

不本意ながら忍者ごっこに加わるが、相手が三人でということで、追いたてられてしまう正ちゃんたち。しかしここからQちゃんの能力を使って、ゴジラたちに対抗していく。

本作はQちゃんの能力や特徴を読者に紹介するような作品であり、「週刊少年サンデー」の初回のリメイクといった構成となっている。


正ちゃんは忍者たちに取り囲まれてしまうが、姿を消したQちゃんが正ちゃんを抱えて、空に浮かんで脱出。みんなからすれば、正ちゃんはヒラリと空を飛んだように見えるため、「本物の忍者みたいだ」と驚く。

みんなも驚いたが、正ちゃんも「Qちゃんすごいんだね」と感心する。正ちゃんもQちゃんと出会ったばかりなので、まだQちゃんの能力を良く知らないのである。Qちゃんは、「まだ色んなことができるよ」と言って、ビューと口から息を吐く。

それは疾風のような勢いで、ゴジラたちを吹き飛ばしてしまう。吹きすぎてQちゃんはしわくちゃになってしまうが、Qちゃんの肺活量がすごいなどという設定は他では見かけない。


Qちゃんがいれば負けないと自信を持った正ちゃん。正々堂々と戦おうとゴジラたちのところへ歩いて行くが、彼らもさすが忍者ごっこに手慣れており、木の枝の上に身を潜めて、正ちゃんたちが枝の下を通りかかると、上からロープで降りてきて、二人を捕まえる作戦に出る。

ところが、正ちゃんは押さえつけられるものの、Qちゃんはパッと姿を消し、逆にロープで忍者3人を縛ってしまう。これでQちゃんたちの勝ち・・・と思いきや、そこに野良犬が歩いてくる。犬嫌いのQちゃんは、「怖いーっ」と叫びながらどこかへ飛んで行ってしまう。

本作はQちゃん紹介エピソードなので、その能力と共に、分かり易く弱点も明らかにしているのだ。


Qちゃんがいなくなればこっちものということで、正ちゃんは簡単に捕まってしまい、木に縛り上げられる。正ちゃんたちが悪役だったはずだが、ゴジラたち忍者のすることはヒーローの行為とは言い難い。さらにQちゃん対策で犬も連れて行く。

Qちゃんは正ちゃんを助けたいが、犬は怖い。そこで家に帰っておやつのドーナツをもらい、これをエサに犬を遠くへと誘きだす。犬がいなくなった隙に、消えては現れ、くるりと宙を舞う身軽さでゴジラたちから正ちゃんを救出することに成功。

二人は逃げていき、その先にあるドブ川を空を飛んで渡るのだが、そのまま追いかけてきた忍者たちがドブ川にドボンと落ちてしまい、正ちゃんたちも泥を大いに被ってしまう。


忍者ごっこはかくして痛み分けで終了。泥んこのまま家に帰ると、ママから

「まあっ、そんなに汚して。お家で遊びなさい」

と注意を受ける。家で遊んでもうるさいと言われ、外で遊んでも泥だらけになって怒られる。ママはガミガミ言うけれど、まあ子供ってこんなもんですよね。


ちなみにこの「家の中でも外で遊んでも注意される」というネタは、以前にも藤子先生は使っている。それが先日記事にもした「ろぼっとろぼちゃん」の第一話『ろぼちゃんとうじょう』である。

藤子先生は気に入ったモチーフやネタを繰り返し使用することで有名なのだが、大全集を読み解いて、そんな同一シーンを見つけたりすると、少し嬉しくなる。

藤子研究の最大の楽しみといってもいいだろう。



「オバQ」たくさん紹介しています。


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