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パーマンVS.現役甲賀忍者!『忍者でござる』/藤子不二雄と忍者①

藤子不二雄の忍者マンガというと、当然真っ先に浮かぶのは安孫子先生の代表作「忍者ハットリくん」だろう。

伊賀の国からやってきた少年忍者の服部貫蔵(カンゾウ)と、あまりぱっとしない平凡な少年・ケン一君を主人公とした、ドタバタコメディである。

お話の構造は「オバケのQ太郎」と全く一緒で、異界からやってきたキャラクターが、平凡な少年の家に居候することになるのだが、特殊な能力を持っている割に世間知らずだったりするので、いつも何かと騒動が起きてしまう。

ちなみに「ハットリくん」は、「オバQ」連載開始の9カ月後に連載が始まった作品で、安孫子先生としては、同時期にほぼ同じ構造の作品を二つ描いていたことになる。


今では忍者ごっこなどしている子供は全く見なくなったが、昭和の子供たちにとっては、忍者は今よりもっと身近なヒーローで、当然忍者ごっこもメジャーな遊びであった。

「ハットリくん」と同時期に連載していた忍者マンガを拾ってみると、「おれは猿飛だ!」(1960~)、「伊賀の影丸」(1961~)、「カムイ外伝」(1965~)、「仮面の忍者 赤影」(1966~)などがある。これらは特撮ドラマやアニメになったりもして、お茶の間の人気となった。

小説界でも山田風太郎が、『甲賀忍法帖』(1959)『柳生忍法帖』(1964)など忍者モノを数多く発表している。他にも忍者映画も「柳生武芸帳」やら「忍びの者」など無数あり、とてもここでは全部書き出せない。

ともかくも、50年代後半~60年代は一大忍者ブームであったことは間違いないだろう。


では、藤子F先生は空前の忍者ブームとも言えるその時代に、どのように忍者を作品に取り込んでいたのだろうか。いくつかの作品で忍者をテーマとしたお話を描いているので、何本かを紹介していきたい。

まず一本目は「パーマン」から、1967年に発表された『忍者でござる』という作品を取り上げる。本作は、パーマンと本物の忍者が戦うという夢のような企画となっており、読者の子供たちも大いに喜んだのではないだろうか。


『忍者でござる』
「小学五年生、小学六年生」1967年5月号/大全集4巻

本作は、空き地でカバ夫とサブが本格的な忍者ごっこをしているシーンから始まる。みつ夫はそんな二人を見て、「チャンバラごっことは幼稚だなあ」とバカにするが、カバ夫たちは「何をぬかす。ただのチャンバラじゃないぞ、忍者だぞ」と反論する。

ここでわかるのは、チャンバラ(時代劇ごっこ)よりも忍者ごっこの方が格が上だと子供たちが認識していることである。

なお、忍者ごっこで作品の幕を開ける作品と言えば、「オバケのQ太郎」の記念すべき初回がすぐに思い浮かぶ。こちらも追って記事にするので、その時はよろしく・・。


みつ夫はカバ夫たちに殴られるが、「乱暴するとパーマンに言いつける」と切り出し、難を逃れる。カバ夫たちは「パーマンに言うのは止めてくれ」と退散。みつ夫は、「パーマンに比べれば忍者なんか時代遅れだぞ」とカバ夫たちに言い放つのであった。

なお、この時、F先生の相棒安孫子先生は「忍者ハットリくん」を絶賛連載中。その事実だけを踏まえると、ハットリくんは時代遅れで今はパーマンの時代だと主張していることになるのだが、もちろんそんな話ではない。

当時の藤子不二雄は、二人で一人のコンビ漫画家であり、読者からすれば「ハットリくん」も「パーマン」も同じ人たちが書いているという認識であった。つまりここでは、自作を敢えて貶めるような言い回しにするギャグであったと考えられるのである。


ところが、この時代遅れという言葉に反応する人物が他にいた。「パーマンとやら、何者でござる」と言いながら姿を見せたのは、典型的な忍者の格好をしている本物の忍者で、甲賀流忍者、猿蚤鳥助と名乗る。

「今でも忍者がいたの」と驚くみつ夫。猿蚤は、山中でひそかに修行を積み、久しぶりに下山してきたのだが、既に忍者など時代遅れと言うことを聞いてショックを受けたらしい。

猿蚤は気を取り直し、パーマンと修行のため試合をしたいと申し出る。ただ試合と言っても、それは果し合いのこと。猿蚤は、「命を賭した真剣勝負なのだ」と言って、物騒な刃物を取り出す。


みつ夫は真剣を見てビビり、その場を離れようとするが、みつ夫の脚力では忍者から逃れることはできない。うまく間違った道順を伝えて巻くことには成功するのだが、忍者はたまたま遭遇した小池さんから「パーマンなら須羽家に行けばわかる」と聞いてしまう。

猿蚤は頭が少々悪そうだが、屋根の上をぴょんぴょんと飛んで行くなど、忍者としての腕前は本物であるようだ。


みつ夫の部屋。みつ夫はコピーロボットに猿蚤のことを話す。ひょっとしたら変人かも、などと言っていると、屋根からスーッと猿蚤が現れる。驚くみつ夫たちだが、猿蚤も、見分けのつかないみつ夫とコピーが二人で座っているので、「鮮やかな分身の術。さては貴公も忍者であったか」と驚嘆する。

「分身の術はパーマンがかけたのだ」と適当に話を濁そうとするのだが、「パーマンはそれほど優れた人物か」と、逆に感心の度合いを深めてしまう。こうなると、猿蚤は、果し合いをするまで諦めつもりはないようである。。


それでも「パーマンは宇宙旅行に出掛けて不在」などと言ってお引き取りを願うのだが、「どうせ暇だから」と部屋で寝転がってしまう。ただそのままゆっくりしてくれればまだいいのだが、みつ夫のパパが帰ってくると、パーマンだと勘違いして切りかかろうとしてしまう。

なお、この時にみつ夫のママが猿飛を見て、

「パーマンがうちへ出入りするようになって、変なお客は増えて困るわ」

と機嫌を悪くする。本作に限らずみつ夫のママは、パーマンのことがあまり好きではない様子なのだが、これにはきちんとした理由がある。記事化しているので、もしよろしければこちらも是非。


猿蚤鳥助は、どんどんと気持ちが昂っていき、部屋の中で手裏剣を大量に飛ばしたり、部屋中を駆け回るなどの訓練を始めてしまう。あまりにうるさくするので、機嫌の悪いママから「いい加減にしないと怒るわよ」と、完全に怒った口調で注意されてしまう。

忍者よりママが怖いみつ夫。意を決して、忍者とひと試合して追い返そうと考える。パーマンの姿になって猿蚤の前に参上し、裏の空き地で試合をしようと伝える。

かくして、パーマンVS.忍者の名勝負が幕を開ける・・!


パーマンは空を飛べるし腕力もある。普通に戦えば一方的に勝てそうなのだが、忍者もさるもの、パーマン顔負けの能力を発揮する。まず、宙を舞いながら真剣を振り回し、気がつくとパーマンのシャツの真ん中だけが切り取られる。

手裏剣を投げつけてくるが、それをパーマンは木で受け止め、その木を引っこ抜いて、ぶん回すがヒョイとかわされてしまう。どこから持ち出したか謎だが、槍を投げつけてきて、これがパーマンマントを貫いてしまう。

マントが取れてしまい、パーマンは完全に劣勢。真剣を振り回して追いかけられ、たまらずパーマンはバッジで二号にヘルプを求める。ウキキーと即座に飛んでくるパーマン二号(ブービー)。


威勢の良かった猿蚤だったが、パーマン2号が猿だと知ると、急に刀を置いて、ガバと手をつく。そして、

「もしやあなたは、大先輩の猿飛佐助様では・・・」

と言い出し、「自分を弟子にしてくれ」とお願いしてくる。よく分からないが誉められていい気分となったブービーは、「イーイー」と二つ返事で弟子入りを認める。

なお、当たり前のことだが、猿飛佐助は猿ではない。真田十勇士の一人とされる忍術使いのこと。モデルがいたかもとされているが、実在性はともかく、忍者マンガや小説ではお馴染みのメジャーな忍者である。


「調子に乗るなよ」とパーマンはブービーに釘をさすが、猿蚤が「黙れ!先生に無礼であろう」と言って剣の切っ先を向けてくる。たまらず逃げ出すパーマン。対するブービーは、すっかり師匠気分のご様子。

ところが、パーマン二号の住み家は、「旧パーマン」においては動物園。猿蚤は「ここに住んでおられるのでござるか」と、檻の中で大困惑するのであった。


当時のメジャーなヒーローだった忍者とパーマンが一戦交える夢の企画。勝負としては、忍者がだいぶ健闘していたのは、「ハットリくん」に配慮したのか、そうではないのか・・・。



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