見出し画像

科学+日常? 小学館漫画賞受賞作「すすめロボケット」大解説/初期SFヒーロー漫画③

藤子不二雄は1951年の「天使の玉ちゃん」でデビューし、1953年には「UTOPIA 最後の世界大戦」の単行本を発表、その名を漫画界に轟かす。

その後、紆余曲折があるものの、多くの短編や短期間の連載作品などを次々と発表。1959年には「週刊少年サンデー」の創刊号から「海の王子」を連載し、人気と実力を確かなものとした。

「海の王子」は安孫子先生との完全合作だが、ここで生まれたSFヒーローものというジャンルが藤子F先生にとっての得意ジャンルとなった。1960年4月から連載が始まった「ロケットけんちゃん」など、小学館の児童向け雑誌が、その活躍のベースとなった。

その流れに本作で紹介する「すすめロボケット」がある。本作は「てぶくろてっちゃん」という作品を合わせて、第八回小学館漫画賞を受賞することになる。藤子F先生としての最初の代表作と言えるわけだが、なぜか単行本化はしてこなかったので、それほど一般的な知名度があるわけではない。


と、ここまでの藤子先生の作家遍歴は、以下の記事で幾度とまとめているので、こちらをご覧いただくと話が早いと思われる。


さて本稿では「すすめロボケット」についての作品解説を行っていくが、足かけ3年に渡って「幼稚園」「小学一年生」「小学二年生」「小学三年生」と連載されたので、作品数が膨大となっている。

本作が初めて単行本化された「藤子・F・不二雄大全集」では、連載を全三期に区分しているので、藤子Fノートでもこちらに従って区分けしておくことにしたい。


まずはその区分を列記する。

<第一期> 全38話
1962年1月~3月「幼稚園」全3話
1962年4月~1963年3月「小学一年生」全12話
1962年4月~12月「幼稚園」全9話
1963年4月~1964年3月「小学二年生」全12話
1964年4月~5月「小学三年生」全2話

<第二期> 全20話
1963年1月~3月「幼稚園」全3話
1963年4月~1965年3月「小学一年生」全12話
1965年4月~8月号「小学二年生」全5話

<第三期> 全15話
1964年4月~1965年3月「幼稚園」全11話(65年1月号は掲載なし)
1965年4月~7月号「小学一年生」全4話

<その他> 全2話
1963年春季号「別冊少年サンデー」
1964年10月号「こばと幼稚園」

全部で75作も描かれている。ただし、各期・各話によって掲載ページ数はまちまちで、たった2ページの作品から64ページの大作までと幅広い。

「すすめロボケット」の連載中には、並行して類似した科学冒険漫画が多数描かれている。この時代の小学館学習誌においては、日常系作品ではなく「海の王子」系譜の作品ばかりが集中的に発表されていたのである。


「すすめロボケット」の特徴は、非常にシンプルな設定しかないことである。すすむ君とロボケットが悪者と戦う、それだけである。すすむの出自は不明だが、特に家族が登場することはない。ロボケットは、ロケットとロボットの特性を併せ持ったマシンである。

最初は主人公二人だけの冒険主体のストーリーだったが、途中から隣の家に住むみきちゃんと、みきちゃんの発明家のお兄さんも登場して、戦いの拠点が固まるのが特徴的。

見方によっては、「海の王子」の科学冒険漫画から、日常系の作品に移行する過渡期のような作品と考えられなくもない。


そして、個々の作品を読み進める前に、1962年第八回小学館漫画賞の受賞理由が、大全集に掲載されているのでこちらを抜粋してみたい。

「藤子不二雄氏の作品は、発想が愉快で健康、展開がキビキビしていて、画面も明るく比較的品がよい。またこどもの想像力を健康な方向に伸ばすように努力している点が買われて審査員一致の推挙により本年の受賞作品として決定したものである」

上記理由の中で、「展開がキビキビ」という部分が言い得て妙で気に入っている。

藤子作品は短いページ数の中に巨大なネタをギュッと詰め込んでいる作品ばかりだが、それは「展開の早さ」と「わかりやすさ」という相反する要素を無理なく列記していることを意味する。

「展開がキビキビ」していること、それはすなわち、天才的な発想と巧みな技術を兼ね備えたF先生の特色を適切に表現しているように思うのである。


ではここでは第一期の作品を簡単に紹介しておこう。

1『ロボケット誕生』「幼稚園」1962年1月号 2P
ロボット+ロケットであることが説明される。

2『どろぼう退治』「幼稚園」1962年2月号 2P
ロボケットが地面を掘って地中を進めることが判明

3『車をすくえ』「幼稚園」1962年3月号 2P
ロボケットが水中を進むこともできることが判明

4『女の子を助けろ!』「幼稚園」1962年4月号 6P
主人公の少年の名前がすすむであることが明らかに

5『空とぶ海ぞく船』「幼稚園」1962年5月号 6P

6『ロケットそうじゅう機』「幼稚園」1962年6月号 6P
その後の藤子モチーフの一つ「ロボットの反乱」が描かれる

7『すすむが大男』「幼稚園」1962年7月号 6P
「ガリバー旅行記」のモチーフを導入している作品

8『火星人と人さらい』「幼稚園」1962年8月号 6P
ロボケットは宇宙も飛べることが判明

9『ペンキぬりたて』「幼稚園」1962年9月号 5P
ロボケット目線でお話が進む日常篇

10『ふしぎなおり紙』「幼稚園」1962年10月号 4P
折ると動き出す不思議な折り紙が登場するドラえもん型作品

11『雲にのりたい』「幼稚園」1962年11月号 4P
雲を固める薬が登場。藤子作品の定番パターンの一つ

12『ロボケットのサンタ』「幼稚園」1962年12月号 4P
サンタクロースいる、いない論争をすすむとロボケットで繰り広げる


13『ジャングルの怪獣』「小学一年生」1962年4月号 16+16P

「小学一年生」では、本誌16ページ+別冊付録でその続きを描くという形で連載された(例外もあり)。当時の児童向け雑誌は、小学館だけではなく講談社や学研などの新規参入があったため、「〇大付録」と銘打って読者の気を引く作戦だった。その付録の目玉として藤子作品が扱われていたのである。

本作は藤子作品定番となる「怪獣ロボットがジャングルに現れる」という展開ど真ん中のお話であった。


14『巨大な虫』「小学一年生」1962年5月号 16+32P
これまでで最長の48ページの中編。虫型巨大ロボットとの対決を描く。

15『あばれだした銅像』「小学一年生」1962年6月号 16+27P
上野の西郷どんの銅像が動き出す、というミステリアスな立ち上がり。銅像をロボットにする敵との戦い。

16『ゴルゴン星』(あやしい星)
「小学一年生」1962年7月号 16+27P
宇宙怪物との戦い


17『おとなりのみきちゃん』(ふしぎなたこ)
「小学一年生」1962年8月号 16+21P

ここまですすむとロボケットだけがレギュラーだったが、本作からおとなりのみきちゃんが登場して、以後共に敵と戦っていくことになる。彼女自身は何か特技があるわけではないが、兄が不思議な道具を作ることのできる発明家で、その発明品を勝手に使ってしまって騒動が起こってしまうことも。

「てぶくろてっちゃん」も隣の家の女の子といつも遊んでいるし、この頃の藤子作品では少年・少女の組み合わせで展開するお話がほとんどであった。

本作では巨大なタコ型ロボットとの戦いになるが、さっそくみきちゃんやお兄さんの活躍の場が出てくる。また、すすむがピンチに陥り、ロボケットが身を挺して助けるというシーンも登場。一気に作品の幅が広がる一作ではないだろうか。


18『ふしぎなくすり』「小学一年生」1962年9月号 16+29P
ロボケットの誕生日(製造日)が1961年9月であることが判明。本作では藤子作品の大定番となる、「体が小さくなる」展開が持ち込まれる。

19『ふしぎなはこ』「小学一年生」1962年10月号 16+29P
不思議な箱=タイムマシン。戦国時代や石器時代にタイムスリップしたすすむたちの冒険物語。石器時代では恐竜ではなく「ゴジラ」が登場。村を代表してゴジラ競争の乗り手となる。

20『ロボケット対クロケット』(くろいにせもの)
「小学一年生」1962年11月号 16+29P
にせのすすむくん(名前は不明)と、にせのロボケット(クロケット)が悪事を働き、すすむたちが犯人と疑われてしまう。また本作当時は開通していなかった新幹線こだまが描かれている。

21『あべこべのくに』「小学一年生」1962年12月号 15+21P
藤子先生のアイディア炸裂の一作。地面の裏側にある何でもかんでも逆(あべこべ)になってしまう不思議な国を舞台とするお話。かなり面白い一本であるので、別の切り口で単独記事を予定している。

22『ふしぎな雪人間』「小学一年生」1963年1月号 16+27P
雪星から飛来した雪人間との戦い

23『人間ロボット』「小学一年生」1963年2月号 16P
人間をロボット化される悪者との戦い

24『ガラス人間』「小学一年生」1963年3月号 16+32P
こちらも藤子先生お得意の「透明人間」もの。透明ピストルを使って楽しく遊ぶ前半と、それを悪者に奪われてしまい戦いとなる後半という、二つの見所を入れ込んだ作品。しゃっくりが止まらないという冒頭とオチが繋がっていてお洒落な作りとなっている。

初期の手塚漫画に似ている


・・・と、かなり長くなってしまったので、本稿はここまで。「すすめロボケット」は第二期以降、少しずつ作風を変化させていくが、そのあたりの解説はまた時を改めてご紹介したい。



この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?