読まなきゃダメ! 隠れた超傑作「ロケットGメン」/初期SFヒーロー漫画④
藤子先生は1954年に上京しトキワ荘へと入居し、その後原稿落とし事件などを経ながらも、多数の短編・中編・短期連載作品を執筆していた。
その後1959年4月、「週刊少年サンデー」が刊行されると、創刊号から「海の王子」の連載を開始する。安孫子先生との完全合作であった。
「海の王子」は大ヒットとなり、当初の予定を大幅に超えて約二年間連載が続く。
小学館での藤子先生の評判は一気に高まり、「小学一年生」などの学年別学習誌から連載の依頼が届くようになる。そのオーダーは、「海の王子」のようなSFヒーローものであった。
1960年4月、オーダーに応える形で「ロケットけんちゃん」を「小学一年生」にて連載開始。以降、学年繰り上がり方式にて、3年間の連載となった。
続けて手塚治虫先生の「ぴろんちゃん」を引き継いだ「すすめピロン」を1961年6月から連載スタート。
1962年1月からは「幼稚園」にて「すすめロボケット」が始まり、いくつかの雑誌を変遷して、1965年までの長期連載となった。
こうした作品群が同時並行的に描かれていく中、1962年4月から一年間「小学二年生」で発表されたのが、本稿で紹介する「ロケットGメン」となる。
ちなみにこの1962年度は「幼稚園」「小学一年生」で「すすめロボケット」、「小学三年生」で「ロケットけんちゃん」が連載されていた。タイトルや主人公設定、そして具体的なエピソードがかなり混同しやすく、一覧化させている僕でも混乱してしまう。
なお、翌1963年度は、さらに「とびだせミクロ」「スーパーじろう」「ろぼっとたろう」が連載となり、混乱に拍車がかかる。こちらは、追々紹介していきたい。
まずは、本作の特色・概要を簡単に列記する。
エピソードは4つしかないので、タイトルだけこれも列記しておく。
たった一年だけの連載で、かつラストが未完で終わってしまったこともあり、本作の知名度は恐ろしく低い。ネットで検索していても、個人発信の感想などは皆無となっている。
ところが、誰も語っていないからと言って、本作が平凡な作品なのかというと、全くそんなことはない。むしろ、再評価するべき熱きバトル漫画だし、感情移入をたっぷりできるヒーロー物語であるし、何よりも一つ一つのエピソードが重厚である。
特に3番目のエピソードとなる『レムリア王国を救え!』は、その後の大長編ドラえもん「のび太の大魔境」の原点となっている大作である。A先生の「シルバークロス」なども彷彿とさせる。
ただ、非常に残念なのが、4番目のエピドード『海底魔城のアナコンダ』が、完全なる未完で終わってしまっている点。おそらくは、連載が「小学三年生」に続くような形を想定したと思われ、学年が繰り上がった4月号などで完結させる構想だったに違いない。
何らかの問題で、続きが継続されなかったのだ。無念。
本稿では、第一話『謎のうみへび』のエピソードに絞って、ざっくり解説しておくことにしたい。
まず、そもそも「Gメン」とはどういう意味なのか?
最近の方だと小沢としおのコミック「Gメン」を思い浮かべるかもしれないが、50歳以上の大人にとっては、丹波哲郎主演の「Gメン’75」という大人気刑事ドラマを想起するに違いない。
もともとの意味は、Gメン=Government menで、アメリカ連邦検察局(FBI)の捜査官たちの総称であったようだ。
日本では、この意味が少し変わって、「万引きGメン」とか「麻薬Gメン」といった、警察官以外の取り締まりの仕事人を指す言葉として使われている。
本作の「ロケットGメン」についても、世界平和を守るため、国家機関とは別に悪を取り締まるヒーローという意味合いが込められているものと思われる。
記念すべきファーストエピソードは、Gメンたちが居住する島へ、科学者の細川と助手の丸山が漂流してくるところから始まる。外部の人間の目を借りて、主人公たちを語っていくというテクニックである。
Gメンとロボットのピック、そしておじいさんの3人で暮らしている。基地は島の中に作られていて、そのほとんどは海の底に沈んでいる。
Gメンは速度500を出す高性能のロケット・カーを乗り回す。このロケットの名前がアロー号であるとされたのは、5月号から。最初は単なるエアカーのように思われていたが、前方と後方に分離できたり、空を飛んだり海中に潜ったりできる万能ロケットであることが、徐々に明らかになっていく。
余談だが、冒頭の方で細川に「ロケットGメン」でなはなく、「ロケットラーメン」君と呼ばれて憤慨するシーンが描かれているが、ここで本作がユーモアのある作品であることが明示されている。
細川博士がおじいさんと初対面となるのだが、この時細川が、「望月君じゃないか」と声を掛けて、「人違い」だとおじいさんが拒否するシーンが描かれる。望月は十年前に行方不明となった細川の友人であった。
本エピソードの終わりで、おじいさんが望月であることはほぼ間違いないことがわかるのだが、なぜ正体を隠しているのか、その理由ははっきりしないままであった。
細川と丸山が漂流していた理由、それは巨大な海蛇に襲われて、あっと言う間に船が沈められてしまったのだという。
ロケットGメンは、放ってはおけないと調査に乗り出す。丸山も同行して、アロー号で調査へ出発。するとすぐにSOS信号をキャッチし、その先に向かうと噂の巨大海蛇が船を襲っている。
弾は効かないが、アロー号で体当たりをすると手応えあり。しかし分離していたピックの操縦する後部が潜れなくなってしまい、逃げる海蛇を追うことは叶わない。
帰還して海蛇を撮った写真を確認すると、体当たりをした跡から機械の部品が見えて、海蛇は人間の手で作られた一種の潜水艦あることが判明する。それはつまり、背後に悪党たちが存在していることを意味する。
悪の組織の居所を突き止めるべく、魚型のロボットを大量に海に放つ。世界中の海から電波信号を送らせて、モニターしようという地道な作戦である。
この調査期間、Gメンが丸山を島の案内に連れ出す。さり気ない設定説明である。
・波の力(揚力)で発電している
・島の周囲に防衛用のトゲが仕込んである
そうこうしていると、とある南の海底に砦が築かれており、中で海蛇の修理が行われているのを魚ロボットがキャッチする。ここが敵のアジトに違いないということで、アロー号で向かう。
うみへびの砦では、全身覆面姿の敵たちが、魚型ロボットの存在に気がつき、何者かが近づいてくることを察知。迎え撃つ準備に入る。
アロー号は大渦巻に巻き込まれ、翼を損傷。そのまま敵陣に突っ込んでいき、一対大量の潜水艇との大バトルとなるが、何とか勝利する。しかし機体が故障してしまい、海中で修理をしようとしたところで、船外にGメンを残したまま、アロー号は浮かび上がっていってしまう。
アロー号に乗っていたピックと丸山は国際警察の巡視船に救助される。国際警察の潜水艦隊がうみへび軍へと攻撃を仕掛けるのだが、反撃されてあっさりやられてしまう。
一方海底に残されたGメンは、一人でうみへびの砦に近づき、中へと潜入する。単独で海蛇を壊そうという、やや無謀な行動である。
Gメンはあっさりと海蛇軍の首領に近づき、捕え、海蛇を修理している工場へと案内させるのだが、隙を突かれて落とし穴に落とされ、そのまま地下空間に閉じ込められてしまう。
ここまで順調な戦いぶりを見せていたGメンだったが、ここで立場逆転。閉じ込められた地下は密閉されており、空気がどんどんと澱んでいく。マイクロラジオでピックと繋がり、居場所は伝えることができたが、そのまま気絶してしまう。
ピックと丸山を乗せた修理済みのアロー号が、砦へと向かう。爆弾の雨にあうが、海底の下に潜って事なきを得る。そのまま地面を掘って進んで、Gメンの倒れている地下室をぶち破って、救出に成功する。
さあ、こうなれば、いよいよアロー号と海蛇との一騎打ち。まるで「海の王子」そのものといった海中でのバトルとなり、最後はアロー号の体当たりでうみへびは大破してしまう。大破のシーンは2ページぶち抜きの迫力で、別冊付録の余力を使った大胆なページ使いと言えるだろう。
こうして一発目の事件を解決。本作はGメンやピックたちの個性や、アロー号の強さ、魅力をたっぷりと伝える、好篇である。
「ロケットGメン」は、とても「小学二年生」に連載していたとは思えない、全く子供だましではない作品となっている。
その中でも、3番目のエピソードとなる『レムリア王国を救え!』は、最もページ数を割いている大長編で、語るべきことも多い超傑作。特別扱いして、別の記事を作ってしっかりと紹介する予定である。
ただし時期は・・未定。
埋もれた傑作も紹介しています。
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