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恐怖!鏡の世界が現実世界に浸食?『入りこみミラーⅡ』他/かがみの国ののび太③

これまで「ドラえもん」の中から2作品の「鏡の中の世界」を扱ったお話を取り上げた。

一本目は、今の世界とは異なるパラレルワールドの存在を明らかにした『かがみの中ののび太』。今の世界ののび太とは少し知能指数が高そうなもう一人ののび太も存在が印象深い一作。

二本目は、原理は作者も不明だが、なぜか人間だけがいない鏡の世界を描いた『鏡の中の世界』である。

両作とも同じ「鏡の中の世界」を描いているようで、まるで違う世界が広がっており、二作並べて鑑賞すると、非常に興味深いものを感じさせる。

本稿では、さらに上二つとは異なる世界観の「鏡の中の世界」を描く作品をご紹介する。『入りこみミラーⅡ』というタイトルで、前稿での『鏡の中の世界』の続編にあたる作品でもある。

実際に読み進めると分かってもらえるが、なかなか破綻した世界になっていて、ある種の実験的なお話と言えるかもしれない。そして本作は、「大全集」以外の単行本には一切収録されていない「幻の作品」なのだが、そうした世界観の破綻が幻となったことに影響しているような気がする。


『入りこみミラーⅡ』
「小学四年生」1988年6月号/大全集16巻
*てんとう虫コミックス未収録作品

『鏡の中の世界』を読んでもらうとわかるが、ここで登場する「入りこみミラー」を使って鏡の中に入ると、そこは左右があべこべになっていて、人は誰もいない世界となっていた。

鏡の中の世界の鏡には、元の世界の人たちが写って見えるが、その人たちに物理的な干渉することはできない仕組みとなっていた。つまり、「入りこみミラー」の世界は、元の世界とはお互いに干渉し合えないパラレルワールどなっていたのである。

本作で登場する「入りこみミラーⅡ」は、その点が大きく異なる。それはどういうことなのだろうか・・?


冒頭、スネ夫にのび太、ジャイアン、しずちゃんが呼び出される。三人ともスネ夫に何か自慢されるのはわかっているのでとても嫌なのだが、やはり気になるということで集まってくる。

3人はこっそりスネ夫の庭を覗いてみると、何と真っ赤なポルシェが走っており、何とスネ夫が運転している。ちなみに真っ赤かどうかは推測である。

庭とは言え、勝手にポルシェを乗り回すスネ夫に、スネ夫のママはカンカンだが、スネ夫は「叱られちゃった」とあまり気にしてない様子。18歳になったらすぐに免許を取って、超高級車のポルシェを乗り回し、日本中をドライブするんだと豪語する。

ジャイアンもしずちゃんも乗せてあげると言い出すと、二人とも乗り気になってしまい、取り残されたのび太は面白くない。


そういうことで、のび太は家に帰って「今すぐ運転したい」とドラえもんに泣きつく。「18歳まで運転免許は取れない」と諭すと、「免許なしでも走れる道路がある」と反論する。

のび太が指摘したのは「鏡の中の世界」である。「のび太と鉄人兵団」で鏡の中の世界を経験済みなので、「入りこみミラー」の存在をばっちり覚えていたのである。


ドラえもんは「覚えていたか・・・」と渋々取り出したのは「入りこみミラーⅡ」という道具。「Ⅱ?」とのび太の頭に疑問符が付くが、実際に鏡の中に入ってみると、前回までと同じような世界に思える。

ドラえもんが言うには、今回の鏡の中の世界は、こっちで何かがあった時に元の世界にも影響を与える仕組みになっているという。入りこみミラーの「Ⅰ」では、ある種のパラレルワールドになっていたのだが、今回は元の世界に干渉することができるということで、何か危ない気配がする。

試しにドラえもんが鏡の中の世界で襖にオバQの落書きを書いて見せると、元の世界では突然同じ落書きが出現する。のび太は「面白い」と大喜びだが、ドラえもんは「だから気を付けてくれ」と注意する。


さっそく車の運転をすることになるが、ドラえもんはポルシェではなく、「へたくそ用練習カー」という、見た目はおもちゃ風の車を出す。練習カーと言うだけあって、頑丈・安全な仕様で、ギアもクラッチも付いている本格的なマニュアル車。(この当時はAT車は本格普及前だった)

これで運転するのだが、あちこちの塀にぶつかったりするので、結局空き地で練習することに。そしてちょっと慣れただけで、のび太は再び鏡を抜けて、しずちゃんをドライブに誘いに行く。

のび太が車を運転したいという目的は、要はしずちゃんを助手席に乗せてドライブしたいということなのである。まあ、いつものことである。


ところが、ここで「入りこみミラーⅡ」の存在がジャイアンとスネ夫にもバレて、二人とも鏡の中に入ってきてしまう。のび太たちはたまらず「へたくそ用練習カー」で逃げていくが、スネ夫はこっちの世界にもポルシェがあるはずだと言って、自分のの家へと向かう。

スネ夫としても鏡の世界を利用して、誰にもお咎めを受けずにポルシェを公道で乗り回すチャンスなのである。

のび太たちはドラえもんが口うるさく安全運転を奨励して、何とか楽しいドライブとなっている。ところがその脇を、スネ夫のポルシェが猛スピードで抜いていく。

ところが、所詮スネ夫でもまだまだ運転に慣れているわけでもなく、ガッシャーンとどこかの壁にでも衝突して、ポルシェは大破してしまう。(スネ夫とジャイアンもボロボロ・・・良く死ななかったものである)


スネ夫は「でも鏡の世界のポルシェで良かったよ」とトボトボ元の世界へと帰る。確かにこれまでの「入りこみミラー」の鏡の世界だったら問題なかったわけだが、「Ⅱ」は一味違う。

「ところがよくないんだよね」とドラえもんが指摘した通りに、元の世界のポルシェもぐっちゃぐちゃに壊れており、スネ夫のママにスネ夫はこっ酷く叱られるのであった・・・。


さて、最後まで読んできて、皆こう思うはずだ。なぜドラえもんは今回「入りこみミラーⅡ」を使ったのだろうか、と。特に運転の練習という目的において、元の世界に大きな影響が及ぶ可能性は大である。選択ミスとしか思えない。

でも、さすがにドラえもんもそんなことはわかっていたはず。作中には全く説明がないが、何らかの理由で、これまでの「入りこみミラー」が手元になかったためだろうと思われる。

単純にリース期限が切れてしまっていたのか、未来の世界では「Ⅰ」に不具合が出て(例えば前作みたいに割れると元の世界に戻れなくなるから)、「Ⅱ」の使用のみに制限されてしまったのか。

元の世界に影響を及ぼすという行為は非常に危険な感じがするので、むしろ「Ⅱ」の方が先に生産中止になりそうな気もするが・・・。


少し穿った見方をすれば、スネ夫のポルシェを壊したかったから、オチから逆算して「Ⅱ」を登場させたんだろうと思われる。言わば、物語を動かすために作られた道具なのではないだろうか。

本作は「てんとう虫コミックス」には最終的に収録されない幻の作品となってしまっているが、そうした作為優先に作られた道具のお話なので、敢えて単行本化させなかったのではないかと、睨んでいる。


さて、これまで3つの鏡の中の世界を紹介してきたが、実はもう一本別の世界観を持った鏡の国が表現されたお話が残されているので、オマケ的に取り上げておく。

『あべこべ世界ミラー』
「小学一年生」1983年10月号/大全集15巻

本作も「てん虫」には収録されていない(カラーコミックのみ)、割と知名度の低い作品。

『あべこべ世界ミラー』のスイッチを押すと、あべこべ世界ができ上がる。中に入るといつものように左右あべこべなのだが、この世界にはなんと住人がいる。なんとあべこべの人々の住む、全く別の世界なのである。

このあべこべ世界では、のび太は日本一強い小学生で、ジャイアンやスネ夫を常にイジメていて、しずちゃんにも乱暴者だと嫌煙されている。これは『あべこべ惑星』に近しい世界観かもしれない。

あべこべ世界ののび太がこちらの世界にやってきて、ジャイアンとスネ夫をボッコボコにしてしまうのだが、この世界を気に入ってしまい居座ろうとしてしまう。

何とかして帰そうとするのだが、とても腕っぷしでは敵わない。性格も最悪。果たしてどうなるのか・・・。ラストは割愛するので、是非カラーコミックスを手に取って見て欲しい。

本作は、『あべこべ惑星』と同様に、長編SF映画にもなりそうなネタを使いながら、本作は扉込みで7ページという小品となっている。何とも贅沢な一本と言えるだろう。




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