ジャイアンズ誕生までの歴史/藤子Fのベースボール④
敢えて言いきってしまうと、昭和の子供たちの遊びの中心は「野球」だった。(平成はサッカー?)
なぜ言い切れるかというと藤子マンガの題材として「野球」が頻繁に選ばれているからである。しかも「オバケのQ太郎」「パーマン」「ドラえもん」の人気作において、連載開始直後に野球作品が登場している。
藤子先生は、子供向けマンガをメインストリームにしていたので、子供たちの流行はしっかり掴んでいたはず。「野球」が子供たちの王道の遊びであることを理解して上で、野球を「鉄板ネタ」として取り上げていたのではないだろうか。
これまでの記事はこちら。
「藤子Fのベースボール」と題した本シリーズの第4弾は、前稿に引き続き「ドラえもん」の野球作品を取り上げる。
「ドラえもん」と野球と言えば、ジャイアンが監督で四番でピッチャーをしている「ジャイアンズ」を誰もが思い浮かべるだろう。「ジャイアンツ」ではなく「ジャイアンズ」というネーミングセンスが素晴らしい。
ジャイアンズは隣町のチームらとリーグ戦を行っており、あまり成績は良くないようである。このジャイアンズを巡るお話はかなりの数があるのだが、あまりに膨大なので詳細については、別途考察シリーズを執筆しなくてはならないだろう。
本稿では、その前段として、ジャイアンズ誕生までのドラえもん野球作品史を辿っていくことにしたい。
前回の記事で連載2ヶ月目に発表された『やきゅうそうどう』(70年2月)を取り上げた。その次に野球が登場したのが『うつつまくら』(70年9月)。夢の中ではあるが、天才のび太はホームランを打って人工衛星にしてしまい、ヨメイリジャイアンツからスカウトされる。
続けて『タイムマシンで犯人を』(71年4月)で、スネ夫が放課後のグラウンドで野球をしており、このボールが事件を引き起こす。
さらにスネ夫の弟が出てくることで有名な『アリガターヤ』(71年8月)では、ジャイアンとスネ夫が初めて一緒に野球をしている光景が描かれる。ここではのび太が野球に入ろうとして嫌がれる展開となる。
この時は珍しくスネ夫がピッチャーで、ジャイアンがキャッチャーのポジションに就いている。初期ドラではスネ夫の存在感が大きかったことが、こんなシーンからも明らかだ。
続けて『夜の世界の王さまだ』(71年12月)では、夜中に「ムユウボウ」を使ってジャイアンやスネ夫を寝たまま空き地に呼び出して野球をする。ここではジャイアンが投げて、ドラえもんがキャッチャーをしている。寝ていたが。
『ボールに乗って』(72年11月)は大きな野球ボールに乗るお話。
『人形あそび』(72年12月)ではドラえもんと共に、ジャイアン・スネ夫と野球をしている。(何度もみっちゃんに邪魔されるが)
『ネジまいてハッスル!』(73年4月)では、スネ夫とジャイアンに野球に誘われているが、いざ実際に行くと「のろまが入ったら、なおさら負ける」とウザがられる。ここでは、ネジのおかけでランニングホームランを打つ。
『石ころぼうし』(73年4月)でも、ジャイアンとスネ夫が、「のび太を野球に入れると負けるから誘わないようにしよう」と話し合っている。この時は「石ころぼうし」を被った状態だったが、左バッターボックスに立ってホームラン性の当たりを飛ばしている。
『スケジュールどけい』(73年5月)ではのび太が野球をする約束をしていたが、雨で中止となる。
『ダイリガム』(73年10月)では空き地で野球をしていて、ジャイアンの打った球が、隣接する家の窓ガラスを割ってしまう。26個目だと言っているので、かなりの頻度で野球をしていることがわかる。また、空き地の隣家と言えば神成さんだが、この時は別の爺さんの家であった。
ちなみにこの爺さんは同月に発表された『タヌキさいふ』にも登場していて、子供たちに庭の柿を狙われている。
『しあわせカイロでにっこにこ』(73年11月)でも、ジャイアンとスネ夫が野球をしていて、道を歩いていたのび太にボールが直撃する。そろそろ手狭な空き地で野球するのは無理があるようだ。
『ミチビキエンゼル』(73年11月)では、しずちゃんの家に行こうとしたのび太が、ジャイアンとスネ夫に野球に誘われて渋々試合に出ることになる。
『エースキャップ』(74年9月)では、のび太がコントロールが悪いことを嘆いている。本作で使われた「エースキャップ」は、後にもう一度登場する。
・・・と、あらゆるシチュエーションで数多くの作品に「野球」が登場している。きちんと試合をしているシーンもあれば、空き地で野球の練習をしていることもある。
のび太はジャイアンたちに野球を誘われたり、逆にチームに加わろうとして嫌がれたりしている。ここまで読む限り、のび太はしずちゃんとの遊びを優先した時もあったが、基本的に皆と野球をしたいようである。
さて、次はいよいよ「ジャイアンズ」初登場のエピソード。
冒頭から情報量満載で幕を開ける。
13対1で野球の試合に大敗し、ジャイアンは怒り心頭。のび太やスネ夫たちに説教を始める。
この発言から、ジャイアンたちは「ジャイアンズ」というチーム名で、リーグ戦に参加していることが判明する。
けっこうな大差で試合に負けているし、その後の反省会でのび太が「僕のせいで負けた試合が多い」と語っていることから、ジャイアンズは負けが込んでいるチームのようだ。
基本的に野球が好きなのび太は、足を引っ張る場面が多いようだが、チームの人数の関係もあってジャイアンズに参加できているようだ。
しかしながら、逆にメンバーが足りていれば、のび太はただの足手まといなので、チームとしては加わって欲しくない。そんな事情を真正面から捉えたお話がこちらである。
本作では冒頭でのび太は庭でバットの素振りをしている。ドラえもんが珍しいと話を振ると、「これには深い訳が」とのび太が話し出す。
ここからは、のび太とドラえもんの漫才のような会話が繰り広げられるが、そのくだりを全部抜き出してみよう。今ののび太の置かれた状況がはっきりする。
あまりにのび太がチームの足を引っ張るので、とうとうジャイアンズをクビになったようである。
のび太はこの後、ドラえもんに「みんなを見返したい」と語っていることから、野球を続けたい、うまくなりたいという気持ちはあるようだ。ミスしてチームが負ければジャイアンに殴られたりするはずなので、のび太は本当に野球が好きなのだろう。
本作はドラえもんに「エースキャップ」「ガッチリグローブ」「黄金バット」という野球における三種の神器を貸してもらい、しずちゃんたちに声をかけて女子チームを結成、ジャイアンズに試合を申し込む。
この試合は、抱腹絶倒の珍プレー満載なのだが、今回は長くなってしまうので割愛したい。
ここで一度はジャイアンズをクビとなったはずののび太だが、『人間ラジコン』(75年9月)でチームに復帰を遂げたり、『トレーサーバッジ』(75年9月)ではチームのマネージャーを押し付けられたりしている。
のび太と野球の関わりは、その後もずっと続いていくのである。
「ドラえもん」の考察はこちらから。
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