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集めたら100種類以上もあった生理用品と僕の話


「生理用品を買われるお客様には

 グレーのレジ袋を使ってください」

学生時代、僕は薬局でアルバイトをしていました。
いろんなマニュアルがあったんですが、その中に生理用品についてのルールがありました。
 
透けないレジ袋を使うこと。
 
お店によっては黒いレジ袋や生理用品だけ紙袋に入れるところもありますよね。
 
バイトでは、品出しで生理用品を棚に補充することも当然あるので、僕にとっては生理用品も風邪薬も柔軟剤も同じ「商品」です。
 
それでも、お店にマニュアルがあるので、
「ふーん。生理用品は見せない方がいいのか……」
と思い、定番の白ではなく、グレーの袋に詰めていました。
 
とまぁ、こんな具合に、僕と生理用品との接点はバイト先での一瞬だけで、家族が使う生理用品も
「あそこに置いてあるな」
ぐらいしか意識していませんでした。
 


そんな僕と生理用品の薄い関係は、社会人になって一変します。


 
シャープに入社して1年目、僕は生理用品IoT収納ケースの開発プロジェクトに参加することになったのです。


そこで知ったのは、生理用品を買い忘れることに対して、女性の皆さんがストレスを感じているということでした。
 


僕にも経験がある


 
生理用品と同列で語ってはいけないことは重々承知していますが、僕もよく必要な日用品を買い忘れます。
 
ある晩、シャンプーが残りわずかなのに気づき、
「明日、会社帰りに買おう」
と思っていたら、結局忘れて、なけなしのシャンプーに水を足して使ったことがあります。
 
もうすぐトイレットペーパーがなくなるから
「明日、会社帰りに買おう」
と思って、案の定忘れ、急いで買いに行ったこともあります。
 
生理用品の在庫切れは、きっと、もっと困るはず。
 
こうしてほんの少しだけ、女性の気持ちを自分ゴトとして想像できるようになった僕に、重要なミッションが託されました。
 


生理用ナプキンを計測すること


 
生理用品IoT収納ケースは、中に生理用品を入れておくと、残量を計測して使用状況をセンシングし、そこから生理周期を推定してアプリに自動記録するプロダクトです。


開発に先立って、まず生理用ナプキンのことを徹底的に調べよう、市販されている全商品は無理だとしてもできるだけ多く集めて計測してみよう、ということになりました。
 
僕たちのラボには次々と生理用ナプキンが運び込まれました。
最初は、女性メンバーがドラッグストアで買って会社に持参していたのですが、調べていくと
「こんなにも種類があるの?」
と驚くほどのラインアップです。

あまりにも多いので、後半はネットショップで購入し、大きな段ボールが会社に届くようになりました。

そうして集めに集めた生理用ナプキンの数は……
 

なんと100種類を超えました


 
生理用ナプキンをつくっている国内の主なメーカーは7、8社ほど。
海外メーカー数社の商品も取り寄せました。
それにしても、この品数は圧巻ですよね。
 
僕は薬局のバイトで生理用品のパッケージはよく見ていましたが、開けて中を見たことはありません。

しかも入社して初めて任された業務だったので、商品開発のために何を測っておけば後々役に立つのか試行錯誤。
サイズや重さを計測するだけでなく、色や香りまで記録していました。
無香料と香りつきのものを一緒に収納したら、匂いが移るんじゃないかと心配して。
 
初心者ゆえに、素朴な疑問も失敗も数知れず。
そのたびにメンバーに質問や相談をしながら、僕は生理用品について一つ一つ学んでいきました。
 

【僕の素朴な疑問】


「あの、羽つき、羽なしの『羽』ってなんですか?」

「そっか、しらないよねー。ナプキンの両側についているズレ止めの部分を羽というんだよ。羽つきだとずれにくい、羽なしだとショーツからつけ外しの手間が減ったりとそれぞれメリットがあるんだよ。」


「サイズを記録しておいてねと言われたので、個包装の縦横の長さと、ナプキンを広げたときの長さを計っておきましたが…合ってます?」

「ごめーん!広げたときの長さはパッケージのだいたい右上に書いてあって、この数値を見て選んでいるよ。」


【僕の新鮮な発見】


 
ジャンルが細分化されている
●昼用/夜用/昼夜兼用
●軽い日用/普通の日用/多い日用/特に多い日用
●多い昼用/特に多い昼用/多い夜用/特に多い夜用
●超スリム/スリム/ふつう
●羽つき/羽なし
●香りつき/無香料/消臭 などなど

「ジャンル分けの細かさは、僕の想像以上でした。色の種類も白色/ピンク色/水色、表面材も合成繊維/コットン/オーガニックコットンといろいろあるし。こんなに細かく分岐している商品を、女性の皆さんはどうやって選んでいるんですか?」

「トライアンドエラーかなぁ。生理期間も、経血の量も、使うシーンも人によって全く違うので、みんな使ってみて自分に合うものを見つけていく感じかな。」


「20cmと20.5cmみたいに、長さが0.5cmや1cm刻みでつくられていることにも僕、驚きました。」

「確かに!普段自分が使うサイズしか見ないけど、そろえてみたらすごい数があるね。あと少し長い生理用ナプキンを使っていたら漏れが防げたのに、という残念な経験がよくあるからね。」


悩みの数だけ種類がある


 
僕は、生理も生理用品の使い方も人によってさまざまで、いろんな悩みを抱える人がいるからこそ、それに合わせて生理用ナプキンの種類も増えてきたんだな、と次第に思うようになりました。
 
そうは言っても、100種類を超える生理用ナプキンの計測は、予想以上に大変でした。
結局、最終的にはプロジェクトメンバーが総出で計測。
おりものシートも計ったので、総数は150種類ほど(!)になりました。
 
  ジャンル分けが細かいので、妻にお使いを頼まれた男性メンバーが間違って買ってきてしまったのも無理はありません。


プロトタイプで実証実験を進めます


 
IoT収納ケースのアイデアは経済産業省の補助金に採択されたため、 プロトタイプを使った実証実験を進めました。
 
その際、細心の注意を払ったのは、実証実験に参加してくれた女性のプライバシーを徹底して守ることでした。
 
参加者へのアンケートやインタビューを行うのは、女性メンバーだけに限定。
そして僕たち男性メンバーには誰が参加しているかわからないように、チームで何度も議論して
「このやり方だったら絶対わからないよね」
とデータを匿名化する方法を考えました。
 
男性メンバーの一人は、実証実験の終了後、顔見知りの女性社員から
「私も参加していたんですよ」
と言われ、
「え!そうだったんですか」
と驚いたほどです。
 
アンケートの質問文も何度もディスカッションして、参加者が答えやすいように柔らかい文章へと練り直し、インタビューを担当する女性メンバーは実演練習を重ねました。
 
センシティブな話題にどこまで踏み込むのか、そのラインを引くのはとても難しいことでした。
だからこそ慎重すぎるぐらい慎重に準備を整え、アンケートからインタビュー、生理用品利用実態の分析へと実証実験を進めていきました。
 
 


【買い忘れ・買いすぎ問題】


 
実験前の予測では、日用品の買い物に慣れている人は生理用品を「買いすぎる」ことはないだろう、きっと「買い忘れ」が多いはずだと仮説を立てていたのですが、いざ調べてみると「買いすぎる」人も結構いて驚きました。
特に夜用ナプキンです。
夜用が切れると困るので、在庫がどれくらいあったかわからないと、心配でつい買ってしまうとのこと。

参加者からは実証実験中、自分の1回の生理でのナプキンの使う枚数を改めて確認できたことで、交換頻度や購入数の見直しのきっかけになりそうといったコメントもありました。



【アルゴリズムを構築していく】


実証実験に参加いただいた方々のおかげで、生理用品利用実態データが蓄積できました。
そのデータをさまざまな軸で分析したうえで、隠れた共通因子や関連性をみつけて生理を判定するためのアルゴリズムを改善しています。
 
このプロダクトはケースから取り出した後の残量を計る仕様なので、取り出した後どのように生理用品を使っているか、もしくは使っていないかまではわかりません。
それでも、データから仮説を立てることが重要なのです。

例えば、何枚かまとめて取り出しがあった場合、次の日の外出の用意しているのかもしれませんし、取り出しがあっても利用頻度が少ない場合は、生理前の準備で使用しているのかもしれません。
 
こうして読み解きながら、生理周期判定のアルゴリズムの精度を高めていきます。
 
また、人それぞれの利用実態から、パーソナライズしたアドバイスを提供できる可能性もみえてきました。
例えば、用品の交換頻度がとても高い場合は、用品が合っていなかったり、出血量が多いのかもしれません。
最適な用品や使い方のおすすめなど、生理に関する情報を発信も考えていきたいと思いました。



使う人が導いてくれる


 
僕たちは今、商品化に向けて試行錯誤を重ねていますが、道しるべになるのは、いつだって「使う人」です。
 
正直に言うと、生理用品の在庫管理や生理周期の記録など、そこに課題があるとわかって企画したものでも
「ほんとに売れるかな?」
「必要とされるかな?」
と不安もよぎります。
 
その不安を少しずつ払拭してくれているのは、プロトタイプを使った方々の声です。
 
「これ、使える!」
「これなら周期記録を続けられる!」
「使い方をイメージできていなかったけど、実際に残量管理を試してみたら便利でした!」
 


うれしい・・・!

このプロダクトを必要としてくれる人が、確かにいるんだ。
開発者として歩きだしたばかりの僕でしたが、ユーザーからの反応がさらなるモチベーションにつながっていくことを強く実感しました。
 
 プロダクトに対するマイナスのご意見も宝だと知りました。
厳しい声をいただいても、意外と落ち込むことはなかったです。
なぜならプロダクトを良くしていく上で絶対に必要なことだから。
僕たちがこうした方がいいと思っても、間違っているかもしれないと気づかされることもありました。
 


生理との新しい向き合い方


 
そして、僕と生理の関係性も変わりました。
 
社会人1年目の時、男女の友人が集まり、会社でどんな仕事をしているか報告していた時のことです。
僕は、
「Femtech関連のこんな商品開発をしている」
とだけ話すと、女性たちが
「私は生理、重い方だよ」
「私は軽いかも」
と口々に話し始めたのです。
 
ちょっとびっくりして
「女性同士は生理の話をするの?」
と尋ねると、
「ううん、全然話したことないね」
「女性でも話す人もいれば話さない人もいるよ」
とのこと。
市場調査の一環としていろいろ質問していると、
「男性と生理について話す機会がないから、どこから話せばいいかわからないけど、言いたいことがいっぱいある!」
と笑って答えてくれました。
 
男性同士で生理が話題にのぼることは、実は以前から時々ありました。
「彼女が生理で辛い時、何をしてあげればいいかわからない」
「どうしてほしいかがわからない」
と、みんな困り顔です。
知らないから、わからない。
僕だって、そうでした。
知識を持つことが、相手への理解を深める第一歩になるかもしれません。
 
僕にできることは少ないのですが、今の僕は、もし母や彼女に
「生理用品を買ってきて」
と頼まれたら、間違いなくミッションコンプリートできるようになりました。
 
こうしてほんの少し成長した僕と、プロジェクトに関わった皆さんでつくり出したIoT収納ケースが、少しでもお役に立てれば、どんなにうれしいことでしょう。
 
生理用品IoT収納ケースは、これまでの生活を変えることなく、いつもどおりに過ごしていただくだけで、あなたの代わりに生理用品の在庫をチェックします。
生理周期も記録します。
 
もしかしたらその先の未来では、シャープのAIoTで、生理用品IoT収納ケースが他の家電と連携しているかもしれません。
 
これまで世の中になかった(と思う)、いわばゼロから始めた生理用品IoT収納ケースが、暮らしをプラスに変えていく未来を、僕はワクワクしながら夢見ています。
 
たぶん、そう遠い未来ではないはずです。


これまでの記事はこちら

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