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京都一周トレイル 西山コース

2022年の5月、まだ本格的な暑さが訪れる前、私たちは山を求めて今度は京都にいた。登山をちゃんと始めてまだ間もないが、そんな私たちでも行けるような山を選んだ。今回はいわゆる一般的な「登山」とは少し異なるが、山を楽しむ一つの方法としての「トレイル」をご紹介。

トレイルとは

トレイルとは英語の「trail」、つまり自然の道やコースのことをいう。
日本語ではそれが、自然の道を歩く、といった動詞までの意味を含むようになり、今では一般的に使われる単語になった。トレイルコースを走ることから、最近では「トレラン」なんていう言葉もあるらしい。

トレイルにはバックパックを背負って1日かけて歩くものから、何泊かかけてじっくりと歩くものまである。その辺は自分の体力や目的との兼ね合いで、いくらでも自分たちで計画を組み立てて楽しむことができる。人間の本来の速さである「歩く」という行為から自然の姿をさまざま感じられる、最高の営みではないだろうか。

登山と違って、必ずしも標高の高いところを目指さなくてもいいのが、トレイルのいいところ。初心者のトレーニングにもおすすめなので、ぜひ山を探しながら、トレイルコースも探してみて欲しい。

京都一周トレイルについて

「京都一周トレイル」とはその名の通り、京都市をぐるっと囲む自然を楽しみながら歩くことができるコースのことで、京都一周トレイル会という団体が整備している。コースは五つあって、次の通り。

  • 東山コース(伏見桃山駅〜伏見稲荷大社=9.5km、伏見稲荷駅〜ケーブル比叡駅=24.6km)

  • 北山東部コース(ケーブル比叡駅〜二ノ瀬=17.9km)

  • 北山西部コース(二ノ瀬〜清滝=19.3km)

  • 西山コース(清滝〜上桂=12.3km)

  • 京北コース(細野起点〜細野起点、山稜橋〜黒田=48.7km)

このように、それぞれのコースの端点を繋ぐと京都市の周りを囲むような構図になり、その総合距離はおよそ83.6km。はずれの右京区を歩く京北コースも合わせると132.3kmにもなるが、その全てを一気に練り歩く必要はない。自分のレベルや歩きたい場所でコースを選んだり、自分たちで始点と終点を決めてもよし。自由自在に楽しむ方法を考えられる。

大まかなマップは京都観光オフィシャルサイトからダウンロード可能なので、ぜひ一度ご確認を。各コースの詳細ガイドについては300〜500円で京都市内で販売していたり、一冊のガイド本にもなっているので、トレイル前の計画に活用して、実際のトレイル時にも持参しよう。(ガイド本からはトレイルするところの地図を印刷して荷物の軽量化しても良い)

京都一周トレイル全体マップ:https://ja.kyoto.travel/doc/pdf/trail_map.pdf

いざ西山コースへ(嵐山天龍寺前〜始点:清滝バス停)

たまたま最初に調べたのが「西山コース」だったので、とりあえず選んでみた。距離はおよそ12.3km、標高も一番高いところで236mということで、初心者にもちょうどいいかなと。2022年5月5日にアタック。

当日はほぼ始発で阪急嵐山駅にまず向かった。駅に到着すると時刻は8:40。すでに太陽は高く昇っていた。5月とはいえども、気温が上がりそうな雰囲気で、熱中症にならないようにと気を引き締めてスタート。
まずはスタート地点の「清滝」に向かうべく、バス停へ。

朝の嵐山駅。ほぼ快晴のトレイル日和だった。
朝の渡月橋を独り占め。向こうに見えるのはどの山だろうか。
目指すバス停は「嵐山天龍寺前(北行)」
渡月橋を北に渡ってまっすぐ進むと、左車線に見えてくる。

バスの本数は限られているので、嵐山天龍寺前(北行)発の清滝行きバスをしっかり調べて行こう。京都バスのサイトに情報があるので、ぜひ参考に。

バスに揺られること10分。清滝のバス停は山の中にあり、何もないところに降ろされると少しワクワクとドキドキが混在する感情になった。一緒に乗ってきた登山客には「愛宕山」登山の方に行く方も多く、いく先は違えども仲間がいることには少しほっとする。靴紐を締め直し、少しストレッチなどを済ませたら、いざ京都一周トレイルの西山コースの幕が開く。

嵐山天龍寺前(北行)〜落合

バスに乗ってやってきた道のりの反対側を見ると、道が二手に分かれていることに気がつく。ここが間違ってはならない最初の分岐で、しっかりと右手の道を選んでおく。右手の道をまっすぐいくと公衆トイレと小さな橋が見えてきて、いよいよトレイルが本格スタート。トイレポイントは嵐山までしばらくないので、ここでしっかりトイレを済ませておこう。

バス停を出てすぐの分岐点では、トイレを目指して迷わず右に進む。
分岐を右に進むと、立派な看板がついたトイレが見えてくる。
しばらくトイレスポットはないのでしっかり済ませておこう。
トイレを出るとすぐに見えてくる「金鈴橋(きんれいきょう)」
金鈴橋から見える清滝川。
この美しい川と緑こそ、この西山コース前半戦最大の醍醐味。

金鈴橋を渡ったら「京都一周トレイル」と書かれた標識を見つけよう。
今回はこの標識を頼りにコースをめぐる。標識探しをしているとまるでトレジャーハンターになった気持ちになる。だが、冗談抜きにこの標識が大自然の中に紛れてわかりづらいこともあるので、しっかりと目を凝らして探しながら、標識を頼りに確実に進もう。

自然色で周りにとけこんでいる「京都一周トレイル」の標識。
今回の旅での標識第一号は「北山94」
ここから「西山1」の方に進み、ひたすら西山の標識を順番に辿っていく。

嵐山までのコース前半は、清滝川に沿ってひたすら進む。豊かな自然に囲まれつい走りたくなるが、途中濡れていたり、道が落ち葉に覆われていて滑りやすくなっているので怪我のないように注意が必要。存分に走りたい方はトレラン用のシューズがいいと思う◎

また、道中で私たちを抜いて行ったトレランランナーが「ここにヘビがいるよー!」と振り返って教えてくれた。人の気づかいに心温まると共に、ここが自然界であることを思い出す。色々な可能性を考慮しながら、楽しく進むべし。

木漏れ日がさす、美しい山道。
枯れ葉や濡れた場所、そしてヘビなどにも要注意。
つい立ち止まりたくなるビュースポットがたくさんある。
川に入って少し遊んでみるのもまた良し。
京都一周トレイル標識の「展望良」の文字につられてトンネルを抜けると、
そこにはエメラルドグリーンの美しい川を見下ろすことができた。
ちなみに、ビューポイントの崖をよじ登ってくる達人もいて、確かに、登る価値あり。

六丁峠〜嵐山

落合の「展望良」からルートに戻ると、いよいよ「六丁峠」越え。
川に沿った道とは打って変わって、20分ほど坂を登る。車も走る一般的な道路だが、自然に囲まれたコンクリートロードは依然として美しい。
たまに昆虫や野鳥との出会いも楽しみながら、テンポよく進んでいこう。

くねくねした道路をひたすら登る。対向車には気をつけよう。
先程の「展望良」がさらにグレードアップ。自転車で坂を登る強者もつい足を止める。
たまに後ろ向きに登ってみたり、単調なコースを工夫して進んだ。
登りの終着点ではつい達成感が込み上げる。とはいえ、まだ前半戦の途中。

登り切った先には人間がこれまで育ててきたであろう杉林が広がっており、さっきまでとは異なる世界に迷い込んだかのように錯覚する。日傘のような杉の木々のおかげで歩みが軽やかに。また、突如ウグイスの声が聞こえてきて、つい足を止めて耳を澄ませた。あと、ウシガエルの太くて低い歌声も道路脇から聞こえてくる。

「六丁峠」を越えてすぐ振り返ると、5月なのにすでに夏らしい緑と水色が奥に見える。
峠越えをすると杉林が出迎える。涼しい緩やかな下りは、つい駆け出したくなる。
たまに周りの動物の声や音にも耳を傾けてみよう。
ついに「嵐山」の文字が見えてきた。
里までくると人気が感じられ、なんだか別のエネルギーが湧いてくる。

次第に人気を感じるようになり、愛宕山の鳥居本が見えてくると、嵐山公園はもうすぐ。大自然から京都らしい洗練された街並みへと、見える世界が一気に変わる。気になるお店があれば、休憩も兼ねて入ってみよう。トレイルと同時に観光もできてしまうのがこのコースの醍醐味の一つ。忘れずに、しっかりと味わいたい。

愛宕山の鳥居本(とりいもと)。緑に映える朱色は遠くからもよく見え、安心感をおぼえる。
このあたりから観光客や人力車が多くなってくるので、周りに配慮して進もう。
整備された街並みに、ひとりでに溶け込む古びたポストを発見。
なんとも風情あるたたずまいに、思わずにらめっこ。
盆栽が美しいお店を発見。たくさんのたぬきたちに癒された。
Google mapでは見えてこない「歩いて出会う景色」がたくさんある。

「京都一周トレイル」と書かれた標識は、意外にも街中の方が見つけづらかったりする。標識探しの旅は怠らず、トレジャーハンターの気持ちのまま街を歩こう。また、街中に入ると太陽を遮るものがなくなるため、こまめな休憩と水分・カロリー補給をお忘れなく。

愛宕山の鳥居本とりいもとからずっと進んで、かの有名な「竹林の小径(嵐山)」までは、だいたい50分くらいだっただろうか。トイレ休憩やお店にふらっと寄ったりしながら、自分たちのペースで進んだ。「標識1」から始まったこの旅も、嵐山公園周辺で「標識19」。最終地点は上桂駅周辺の「標識51」ということで、旅路はまだ長い。

無理なく、京都の街を楽しみながら進むべし。

渡月橋〜阪急嵐山駅〜松尾山

嵐山でお昼を済ませて渡月橋をまた目にする頃、太陽はすでに頭上にあった。桂川沿いに陰はなく、ここは耐えどき。清滝から下り中心で進んできたとはいえ、身体の疲れを確実に感じる。そんな時間帯。

朝見た渡月橋とは打って変わって、お昼にもなれば観光客でごった返す。
川を船で楽しむものもいれば、おしゃれなカフェの目の前でSNS用に写真を撮る若いカップルもいたりして、登山の格好の私たちは少し浮いて見えたかもしれない。だが、目指すは西山コース踏破とうはなので構わず進む。むしろ、京都の大自然もグルメも一気に楽しめるので、「トレイル最高ー!」といった感じである。

桂川から見える渡月橋も、また良いものがあるのかも。
まるで現代の大名行列。
当たり前の日常が戻りつつあるようで、それは何よりも喜ばしい。
清滝行きのバスに乗った場所周辺でひと息入れる。京都グルメでカロリー補給。
涼むついでに「ちりめん細工館」にも立ち寄り、可愛い伝統工芸品の数々に癒された。

渡月橋を経て、朝来た「阪急嵐山駅」に戻っていく。朝のテンションはどこへやら…やはり疲れが身体には溜まっているようで、ここで改めて小休憩をとった。コンビニで買ったスポーツドリンクを口にすると、これがなんと小悪魔的に美味しい… 普段は好んで飲まないスポーツドリンクを飲んで、汗とともにミネラルやら何やらが全部抜けていたらしいことに気がついた。身体を酷使する際、水以外のドリンクがいかに大切であるかということを学んだ。この日以来、私たちの登山においてスポーツドリンクは必須アイテムだ。

阪急嵐山駅から松尾山入り口まで、そう遠くはないのだが、この辺のマップがなかなか難しい。実際私たちも曲がるポイントがわからず、Google mapも頼りにしながらなんとかたどり着いた。時には思い切りが大事ということで、駅から「標識25」へはコンビニ横をまっすぐ突っ切って行こう。

街中にしれっと現れる「松尾山」の登山口。
里から大自然にまた向かっていくと思うと、少し不安が頭をよぎる。
登り始めの竹林では、何匹ものスズメバチに遭遇。
良し悪しはともかく、この時は走ってさっさと進んだ。
道はしばらく枯葉で覆われているので、スリップには注意しよう。
さっきまでの下りと平坦な道のりとは別世界で、とにかく登りがつづく。
ここでまたしても自転車で登る強者に出会い、登り切る勇気をもらった。
坂好きの自転車乗りというのは、どこにでもいるものだ。

久々の登りとはいえ、自然に囲まれるとなんだか癒される。大変ではあったが、なんとか276mを登り切った。これくらいの標高でゼーハー言っているのはまだ初心者の証ではあるが、清滝からよく歩いてきたとも思う。やり遂げることも一つ大切なことなので、しっかり自分を褒めて鼓舞してあげよう。

道中、ゼンマイらしきものを発見。野草などにも詳しくなりたい今日この頃。
京都盆地を一望。上から見て街のどの部分か語ることができれば、ガイドになれそう。
標高276mはかわいいものだが、清滝からのトレイルとなるとそれはそれは…

いよいよ京都一周トレイル西山コースも大詰め。下山のタイミングとなると、少し寂しいものがある。ここまできた道のりを振り返りながら、そして今日の歩き方や装備の反省もしながら歩く。

途中、とある老夫婦に出会った。
気さくな方々で、京都から登ってきたらしい。「若い人が登山、いいね〜」なんてことを言われたが、私たちからすると歳を重ねても登山をしようという彼らのアクティブな姿勢に感銘を受ける。お互いのここまでの健闘を称え合いながら、笑った、笑った。
ついでにおすすめの登山コースも教えてくれた。なんでも、比叡山を京都側から滋賀に突っ切っていくルートがいいらしい。琵琶湖が美しいだとか。
そんな情報提供にも感謝しながら、私たちは先に進んだ。会話からパワーをもらうと、これまでの疲れもどこへやら。最終地点の「阪急上桂駅」を目指して、またギアを入れ直す。

苔寺〜終点:阪急上桂駅へ

松尾山を下りてくると、また人気を次第に感じる。道は整備され始め、近くの川か滝で子供達が遊んでいる声が聞こえる。目指す街を近くに感じると、さらにパワーがみなぎってくる。

涼しげな竹林を歩くのは気持ちがいい。こちらも枯葉でのスリップには要注意。
たけのこ、みっけ。
人の楽しんでいる声のする方につられて行ってみたりも。
疲れはあるが、なぜか気になるとそっちの方向に進めてしまう。

登山の帰りは、いつもあっけない。感覚として、意外にもすぐに下山できてしまう。それに、自然との別れがすこし寂しいと感じて、少しだけ後ろ髪を引かれてしまう。とはいえ、寂しさが募るほど、それはその時のトレイルや登山を楽しんだという証拠でもある。代わり映えのしないアスファルトを歩きながら、今回のトレイルの余韻にひたる。

16:15 阪急上桂駅に到着。
最終地点に着くやいなや、どっと疲れが込み上げてくる。

トレイル距離:12.3km
最高峰:松尾山(236m)
トレイル時間(休憩込み):8:40〜16:15(7時間35分)

近畿登山 第二弾ということで、初心者二人組でよく頑張った。時間こそかかったものの、自分たちのペースを守りながらじっくりと歩けたと思う。
また次の山を目指して、トレーニングしようという決意も生まれ、どんどん山の虜になっていく。

終点の阪急上桂駅。電車に揺られるなり、まぶたは勝手に閉じた。

まとめ

そんなこんなで、京都一周トレイル 西山コースの記録をつづった。
朝から一日がかりのなかなか大変なコースではあったが、初心者でも無理なく楽しめるトレイルコースだと感じた。大自然あり、観光ありのルートで、京都を一気に堪能できた。途中、街中に出るタイミングもあり、その点においても初心者におすすめできる。もちろん、清滝〜嵐山で一区切りつけるルートでも楽しめるので、自身の実力や体調、目的に合わせてトレイルコースを考えてみよう。

靴に関して、私たちは今回ランニングシューズでトライした。長距離ルートで、なおかつ厳しい登り等もないとのことでのその判断だったが、場合によってはローカットの登山靴を選んでもいいかもしれない。ただ、本格的に走ってみたいという方は、トレラン用の靴があったほうがいいだろう。衝撃の吸収の仕方や滑りにくさ、脚への負担を軽減する工夫などが凝らされているので、こちらも自分にあったものを探すといいと思う。

京都一周トレイルの一つのコースを踏破とうはしたに過ぎないが、なかなかいい経験ができたと感じる。他のコースにも挑戦して、京都を堪能するだけでなく、山を歩く技術をこれからも身につけていきたい。

次は、老夫婦におすすめされた「比叡山」を目指して、まずは日々のトレーニングから。


この記録が京都一周トレイルをやってみたい人の参考になれば幸いだ。

それでは、また!

2021.08.13
ShareKnowledge(けい)

トレイルデータと参考資料

  • 標高:236m(松尾山)

  • 距離:約12.3km

  • コースタイム:約7時間35分(休憩込み)

  • コース:清滝バス停→落合→六丁峠→嵐山→渡月橋→阪急嵐山駅→松尾山→苔寺→阪急上桂駅

  • アクセス:行き・阪急電車「阪急嵐山」駅から嵐山天龍寺前(北行)バス停を経て、清滝バス停へ|帰り・阪急電車「阪急上桂駅」


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