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超常現象の現在地/「サムシング・イン・ザ・ダート」「モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン」

フィクションに触れるならせっかくだし見たことのない世界を見てみたい。そうなるとやはり超常現象が出てくるものを欲してしまう。それも約束された超大作よりも、どっちに転ぶか分からない変な予感のするやつ。そういうわけで観た2作はどちらも超常現象を今この時代に描く意味に溢れていた。


サムシング・イン・ザ・ダート

「ムーンナイト」「ロキ シーズン2」というMCUドラマの傑作2本を手掛けたジャスティン・ベンソン & アーロン・ムーアヘッド監督による最新作。2人が主演を務めた小規模作品で、浮遊する結晶を目撃した2人の男がその謎を解き明かし、ドキュメンタリー映画を撮って一攫千金を狙う映画だ。

浮遊する結晶が引き起こす超常現象はあくまで主人公リーヴァイの部屋で起こるだけのものだが、その相棒となる隣人のジョンは現象と部屋の細部、そしてロサンゼルスの街に忍ばされたなんらかのサインを勝手に感知し、それらを次々と関連づけてひとりで世界の秘密へと"気づいていってしまう"。リーヴァイは置いてけぼりを食らい、次第に2人の心理的なズレが生まれる。そう、本作は超常現象を介して2人の内面へ迫る物語を隠し持っている。

ジョンはままならぬ人生の逆転として陰謀論へとのめり込んでいく。リーヴァイは人生の納得のいかなさへの理由づけとして陰謀論に身を投げようとする。同じようで少し違う陰謀論への対峙の仕方。虚しさと笑いで味付けされた2人の対立は、中身は空っぽであれども金を得ることができる術が増える一方、巨悪がいると妄信しそれを攻撃しなければやりきれないと思う人々も増えてしまったこの現代を悲しいほどに象徴してしまっているように思う。

超常現象が魅力的に見えるかどうかは、いかにこちらに丸投げしてくるか、によると思う。その意味で本作はこの超常現象の有無すらも問うような構造を取って迫ってくる。監督である2人がそのまま主人公の2人を演じることで生まれる現実と虚構の境界線の揺らぎもあり、入れ子構造はマトリョーシカのように連なっていく。本当に目撃した出来事とデザインされた真実の間にある”あわい“。もはやどんなことでも起きたことにでき、起きてないことにもできる時代における冷淡なブラックコメディとして本作は輝いている。


モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン

イラン系アメリカ人のアナ・リリー・アミールポアー監督による長編3作目。主演に本作がハリウッドデビューとなる「バーニング 劇場版」「THE CALL」で知られるチョン・ジョンソを迎え、赤い満月の夜に突如として人を操ることができる能力を手にした女性・モナの物語を描いている。

モナは12年間、精神病棟に隔離されていた。統合失調症との診断されているようだが物語上は特徴的な症状は見受けられない。10歳のときに「出生証明書を持たない政治的亡命者」としてアメリカにやってきて以来、同じ病院にいたのだという。どう考えても不当な入院である。看護師からも虐待される、あり得てはならない環境でモナは抑圧されている。そんな彼女が、人を思いにままに操る超能力を手に入れ、支配と被支配が反転していく。

彼女の能力はX-MENのプロフェッサーXと同じでスーパーヒーローであるどころかチームを率いることのできるレベルの凄まじいものだ。しかしこの映画でモナはただ自分として自由に生きるためだけに能力を使うことを習得する。スナック菓子を食べ、映画を観て、メタルに乗せて怒りをぶちまける。そんな尊厳を取り戻すことと同等なものとして超能力が存在する。物語の最終局面には一切、彼女の能力は登場しない。彼女の生き様がメインなのだ。

巷で話題のスーパーヒーロー疲れを癒していくように、トラウマをド派手に描くことのカウンターのように、ただ生き辛さをサポートする反撃としての超能力。これこそがこの映画の根幹だ。イカした重低音とオフビートな逃避行によって、我々もまた解放的な気分へ誘われる。そしてふとした出会いや瞬間にうだつの上がらない現状への突破口が開いているかもと思わせてくれるのだ。続編について思いを馳せざるを得ない瞬間もある。ずっと続く人生にまつわる、大切な祈りが超常現象を通して描かれているのだ。


超常現象を通して行き詰まった現実を描くこと。超常現象を通してそんな現実を打破する願いを描くこと。その二極の間を揺れながら、私たちは自分自身の感情を超常現象へと投影していく。夢想の中ではなく、現実の延長上としての超常現象。どんな意味があるにせよ、やはり心奪われ続けてしまう。

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