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2024年の遥か彼方/ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection』

ASIAN KUNG-FU GENERATIONがメジャーデビュー20周年を1年遅れで祝うシングルコレクションをリリースした。最新シングル「宿縁」から1stシングル「未来の破片」まで、現在から過去へと遡るような形で全33曲が収録されている。

本作のDisc1の1曲目を飾るのはメジャーデビューミニアルバム『崩壊アンプリファー』の1曲目であり、代表曲の1つ「遥か彼方」の再録テイクである。現時点で最新の音源であり、楽曲として最古の楽曲。シングルコレクションのコンセプトにもそぐう抜群の選曲だが、その企画としての秀逸さのみならず、2024年に「遥か彼方」を録り直す意義を強く感じたのでここに書き留めたい。



”君じゃ無いなら意味はない“と歌うこと

アジカンはこれまで『ソルファ』や『サーフ ブンガク カマクラ』といった作品を、再挑戦や完全版を作るといった明確な意義をもって再録してきた。「遥か彼方」は今回のリリースにあたって後藤正文(Vo/Gt)が再録を提案。しかし本人としても「あれ以上やりようがない」(※1)と語っており、原曲の荒々しさが大きな魅力だろう。この曲はまだ何者でもなかった頃のアジカンのヒリヒリした心象が生々しく投影された楽曲だからだ。

今でこそ「NARUTO」の主題歌として世界中で熱狂を巻き起こす楽曲として知られているが、上記「THE FIRST TAKE」の冒頭でも語られている通り、「遥か彼方」は音楽を辞めるかどうかの瀬戸際において生まれた。当時ブームだったメロディックパンクの波に負けじとエネルギッシュな曲調の追求に勤しみ、誰かに見つけてもらうべく奮闘していた時期(※2)。そのギリギリの焦りや決死の覚悟が歌詞の随所に刻まれている。

奪い取って掴んだって
君じゃないなら
意味は無いのさ

「遥か彼方」より

サビで叫ばれるこのラインは特に重要に思う。ここでの“”とは当時の境遇を考えればソングライターの後藤正文(Vo/Gt)自身であり、アジカンそのものを指した二人称として届く。あくまでも自分自身の表現でその存在を示さなければならないという誇り高き意志。自分自身に呼び掛け、《もっと遠くへ》《もっと…遥か彼方》へと向かおうとする意思。「遥か彼方」はアジカン自身を鼓舞する楽曲であり続けた。

そんな想いを体現するかのような初期衝動溢れる粗い音と後藤の若々しいシャウトが原曲のインパクトに繋がっていた。一転、再録版では現在のアジカンらしいくっきりとした音の輪郭で、ボトムの低い重厚なサウンドを志向。歌声も太さと逞しさが増したことでアンセムとしての勇壮さが加わり、歌詞中の“君“には聴き手である我々も含まれているように響く。20年の間に出会った我々を鼓舞し続けた曲としての意義深いテイクだ。

そしてこの再録版「遥か彼方」にあるトーンは、本作で連続した曲順の最新シングル「宿縁」との接続性も伺える。この曲における“”も自分自身のことであり、我々のことでもあるのだろう。時に《うんざりだ》と思いながらまだまだこの世界を行く自分、そして我々に《渇きを癒す水源地をひたすら求めて いざ》と歌う。20年かけて辿り着いた、同時代を生きる者としての緩やかな連帯と強固な覚悟が浮かび上がるのだ。



偽らざる心に向けて

偽る事に慣れた君の世界を
塗り潰すのさ、白く…

「遥か彼方」より

「遥か彼方」を締めくくったこの言葉はその後20年、アジカンを突き動かす宣誓のようなものだったと本作を通して強く思った。アジカンは常に自分たち、そしてリスナーという“君”に向けて、偽らざる心を持つことを叫び続けてきたのだろう。


ささやかでも今は弱い光でも
響く速度で声を聞かせて
届けどこまででも

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ダイアローグ」より

僕らに相応しいこと 見つけて
それをギュッと握りしめて
嗚呼 いつか老いぼれてしまっても
捨てずに新しい扉を開こうか

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ボーイズ&ガールズ」より

Disc1の前半にある近年の楽曲たちは、分断に満ちた世界をどう生きるか、どうコミュニケーションを繋いでいけるかについて歌った曲が多い。狡猾さや卑劣さが得を生む時代において、いかに誠実に、そして自由であれるか。リスナーと同じ目線に立ち、そのヒントを探っているタームだ。


その後に続くのは、アジカンの骨子を確かめ直すような激しい楽曲たち。代表作『ソルファ』を録り直したり、ラウドなロックナンバーをロサンゼルスで録音したりと、自分たちのサウンドを真っ直ぐに誇るような、純度の高いロックバンドらしい在り方に突き進んでいった歴史が見えてくる。


そして終盤は東日本大震災の時期に生まれた楽曲たちへと辿り着く。絶望と冷めた態度に沈み込まないための生きるエナジーを讃えるタフな表現。「踵で愛を打ち鳴らせ」という身体的かつ根源的な喜びを溢れさせながら終わるDisc1は近年のピュアで風通しの良いムードに連綿と続いていく。


Disc1が世界との対峙を通して、“偽らざる心”を描く内容が中心だったのに対し、ディスク2はアジカンとしての表現においていかに純粋性を保つかという葛藤の日々へと遡っていく内容である。開け心よ/光れ言葉よ、と歌う1曲目から次第に光り方、開き方を模索する言葉へと収斂していく。


表現に対する様々なトライアルはポエトリーリーディングを導入した「新世紀のラブソング」と一録りパワーポップ「藤沢ルーザー」が並ぶ異様な曲順にもその痕跡が垣間見える。混沌の中、裸の心を曝け出す「転がる岩、君に朝が降る」が杖のようにその歩みを支えてきたことも分かる。


《夢なら覚めた だけど僕らはまだ何もしていない 進め》や《夢のない僕らの行き先は夢から醒めたような現在》など、ブレイクの渦中にいた時期の楽曲には様々な言葉を尽くして現実に立脚しようともがく姿が見える。自分を騙さず、熱に浮かされず、内側と向き合った日々の記録たちだ。


君と僕で絡まって
繋ぐ…未来
最終形のその先を
担う…世代

ASIAN KUNG-FU GENERATION「ループ&ループ」より

繋いでいたいよ
君の声が聞こえた日から萌える色
伸ばした手から漏れた粒が
未来を思って此処に光る

ASIAN KUNG-FU GENERATION「未来の破片」より

ディスク2はアジカンが”繋ぐ“ことを歌い続けていた時期に辿り着き幕を閉じる。語りかける、と言うよりも切実に”君“へと想いを叫んだ日々が彼らの原点だ。抽象的で難解な表現もあるが、それこそが我々を惹きつけ、ここまで聴いてきた32曲の“未来“へと連なる密な繋がりを生んだのだ。


どんな時代においても、偽らざる心を持つことを祈り、惰性へ流れていきそうな時こそそんな思いを塗り潰してくれるアジカンの楽曲たち。現在、既に次なる新曲「ライフイズビューティフル」が控えており、続く未来にも希望が溢れる。これからも未来永劫、自分たち、そして我々に発破をかけ続け、そして同じ時を生きる同志としてあり続けてくれるはず。2024年。デビュ−21年。まだまだこれからもずっと、遥か彼方への道の途中。


(※1)ASIAN KUNG-FU GENERATION『Single Collection Special Booklet 2』「遥か彼方(2024)」の項より

(※2)ゴッチ語録 「は:Hi-STANDARD」の項より

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