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マカロニえんぴつの”ずらし方"/2023.11.05『マカロックツアー vol.16』@マリンメッセ福岡

両日ともにソールドアウトという大記録となった初アリーナツアー福岡公演の2日目。Queblickやvoodoo loungeで観たバンドをマリンメッセで観るのは初めてのこと。この5年のブレイクに伴って興味が薄れるどころか、今年のアルバムで最高値を叩き出してくれた稀有なバンドの大舞台である。

ところでこのツアーには正式タイトルがある。「マカロックツアーvol.16 ~マカロニちゃん、じつはとってもシャイなの…仲良くなっても時間を置くとすぐまた照れちゃうからコンスタントに会ってくだシャイ…♡編〜」である。どうだろうか。まず長いな、と思う。長すぎてオフィシャルアカウントも正式名称でツアーを一切呼んでいない。そして、何とも言えねえな、とも思った。実際ブレイク渦中のバンドであるからこそ"コンスタントに会って欲しい"というのは本心な気もするが、ダジャレによってあえて腰を折っているようにも見える。毎度ツアーにこのような何とも言えない長い副題を付けているからこそ、初めてのアリーナツアーでも踏襲したのだろうが、にしてももうこんな何とも言えないサブタイトルを付ける必要はない段階だろう。

しかし彼らはカッコつけようともせず、最初にやり始めたことを今なおやり続けている。王道からは確実にずれているように見えるのだが、今回のライブを観て彼らは王道から自覚的にずらしに行っているのだと確信した。そしてこの"ずらし方"こそ、マカえんをマカえんたらしめる真髄なのだろうと。


例えばライブのやり方もお祭り感はなく、王道のアリーナライブからずらしてある。凝ったモニターセットはあったが映像演出自体は各楽曲に色をつけるような程良いもので、入場SEも演奏のペースもそんなにウケはしないMCも、何もかもが普段通りなのだ。しかしその姿でちゃんとアリーナを掌握している。派手な衣装があるわけでも、カッチリとした世界観があるわけでもない、普段着のロックバンドが最新アルバムの収録曲と代表曲をしっかりと演奏することで大きな会場を揺らしている。小手先の大飛躍ではなく、着実に楽曲を浸透させてきた11年の歩みがこの空間の存在を肯定していた。


そして、楽曲の共有のされ方もここ数年のバンドシーンとは一線を画している。はっとり(Vo/Gt)は「歌って!」と煽ってはいるが、マカえんの楽曲で大合唱になる曲は数える程しかない。むしろじっくりと静かに味わう楽曲が多い。だからこそ「嘘なき」のような弾き語りの楽曲によって12000人を浸らせることができる。「なんでもないよ、」で巻き起こった穏やかなクラップはまるでゴスペルのように楽曲の聖性を高めている。皆で大声で歌う楽曲があるわけでも、同じ振り付けをする楽曲があるわけでもなく、ただ1人ぼっちで口ずさめる歌に希望を織り込んできたバンドだと強く実感するのだ。


また、このバンドの"ずらし"を最も実感するのは中盤で披露されたムード歌謡ソング「嵐の番い鳥」だ。前後には小芝居のコントVTRを挟み、この1曲だけのための衣装替えもしてしまう。こういうネタ曲を真剣に粒立て、何とも言えない空気にさせる点に美学すら感じてしまう。またメロコアオマージュな「Frozen My Love」ではフロアを人型のバルーンが飛び交い、さながらダイブのような光景が疑似的に繰り広げられる。パロディ的な遊び心がそのまま会場を沸騰させる演出へと直結する見事なセンス。ユーモアと批評性の共存ははっとりが敬愛するUNICORNの血統を強く感じる"ずらし方"である。


終盤の流れは更に圧巻だった。「洗濯機と君とラヂオ」でブチ上げた後、そのままハッピーな大団円に突き進むのでなく「星が泳ぐ」でグッと重たく引き込んでいく構成の美しさは白眉である。そしてラストはアルバムでは1曲目を飾った「悲しみはバスに乗って」。パーティチューン的高揚感もなければポップな包容力もない、ひたすらに切迫した生への執念で突き刺していくようなクライマックス。こんなセットリストを組むことができてしまう”今流行りのロックバンド"がいるだろうか。アンコールの「ヤングアダルト」と「ミスター・ブルースカイ」含め、ずっしりとした余韻を残してくれた。


マカロニえんぴつはその王道からの"ずらし方"が面白いわけだが決してトリッキーなわけではなく、この過剰化したカルチャーシーンからすればむしろ素朴で誠実な音楽に徹しているようにも見える。こんな上昇気流の中で孤独の愛し方を歌ったアルバム『大人の涙』をリリースし、12000人のひとりひとりの鏡像としてあり続ける。ただひとりで噛み締め、明日へと希望を繋ぎ留めるための歌こそがマカロニえんぴつの核だ。だからこそ彼らはコロナ禍においても途切れずに支持されてきたのだろう。そして彼らの"ずらし"の方向へ、世間からチューニングが合いにいく今が来た。これからも呆れるほどに長い副題をツアーにつけ、ずれたまま真ん中へと突き進んで欲しい。

《setlist》

  1. 愛の波

  2. レモンパイ

  3. ペパーミント

  4. たましいの居場所

  5. リンジュー・ラブ

  6. ブルーベリー・ナイツ

  7. 零色

  8. TIME.

  9. 嘘なき

  10. ありあまる日々

  11. なんでもないよ

  12. 嵐の番い鳥

  13. ネクタリン

  14. だれもわるくない

  15. はしりがき

  16. メイビーネイビー

  17. Frozen My Love

  18. 洗濯機と君とラヂオ

  19. 星が泳ぐ

  20. 悲しみはバスに乗って

  21. ヤングアダルト

  22. ミスター・ブルースカイ

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