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野草みたいに小さい料理を作る

ガリガリ君の梨味を食べていたら
なんと初めての当たりが出て地味に嬉しい、
胃腸が弱い主婦の、毎日食べる日記です。

皆さん、体調はいかがですか。


和食は、下ごしらえが多い料理だから
面倒がられますが『仕込み』をうまくすれば
仕上がりの時、手が省けるという利点があります。

和食の良いところは、手がかかる割には
出来上がったものが「非常にシンプル」という
ことだと思います。

手がかかってるのに?
シンプルだなんて、それまでの手間は?と
まるで損したような気分になりそうですが…


盛る、デコる、映える、
といった言葉が流行る昨今。

それにも飽きて、流行りの反動が起これば
またシンプルなものが良い、となりそうです。

盛らない、デコらない、地味で映えない
というのも趣があって良いです。
和食には、デコらずとも控えめな良さがあります。


シンプルな割りに手間がかかる、と思うのか。
はたまた、
事前に手間はかかるけれど『仕込み』をすれば
あとから楽になって、
余計なものが入らないし、独特の潔さがある、
と思えるか。

流行り廃りが激しい世の中ですが
「和食の良さ」はずっと大切にしていたい。
通常から「潔さ」を念頭に置いておくと
いろいろな考えから解放されていく気がします。


世界の気象変動。
さすがに、ただ事ではない状況になってきて
もうこれまでの日本の気候ではなくなりました。
日本が今まで歩んできた四季の概念も
危うくなってきています。

和食は、気候が暖かい、涼しい、暑い、寒いを
表した食べ物です。

寒い国、暑い国には、独自の食文化がありますが
アジアの中でも日本は独特です。

これほどまで気候に注意し、
四季の微妙な変化に沿って考えられてきた食は
たぶん他には、あまり無いんじゃないでしょうか。


みそ田楽を、逆手に取る

『みそ田楽』という料理は、ものすごく地味です。
地味な割には、きちんと手順を守って作ると
相当、手がかかります。

私は若い時、懐石料理を習う機会がありましたが
もっと気楽な家庭料理に置き換えて作ると、
わりと田楽の出番が増えました。

豆腐の上に甘味のある味噌を乗せれば
完成しそうなものなんですが
それでは案外、美味しくはないんです。

懐石料理の、田楽用のお豆腐は
信頼された贔屓筋の豆腐屋さんで
バランスよくなるように特注で作られたもの
だったりします。

田楽味噌の味を決めるのは、砂糖、みりん、酒の
配合バランスと、小鍋で焦がさないよう混ぜ続け、
極弱火で煮詰める丁寧さ。

熟練の板さんが作る料理のように、
『この豆腐の田楽は、素晴らしく美味しい!』
となるには、いくつかのハードルがあります。

今は便利なものがあるので
忙しいときには、煩わしい過程や
それらのハードルをスキップできます。


店のこだわりの田楽味噌との相性にも
よるのでしょうが、

豆腐は空気を含んだ隙間だらけの、
味の染み込みやすい豆腐を使う店もありますし、
しっかり目の詰んだ豆腐を使う店もあります。
これらは、固めの木綿豆腐になります。

田楽味噌を、焼けばカッチリ固まる白味噌にして
わざと柔らかい絹ごし豆腐を使う店もあります。

日本人は、技を突きつめたくなるたちですから
全国に色んな特徴の田楽があります。
豆腐だけでなく、こんにゃくや、里芋、生麩を
使うところもありますね。
大きな茄子の田楽も、美味しいです。


そもそも、豆腐の田楽は、郷土料理なんですが
もとは固めの木綿豆腐しかありませんでしたから
今のような、よりみずみずしい滑らかな木綿豆腐
とは違いました。

江戸以前の豆腐は、
今のスーパーで売られている木綿豆腐よりも
目が荒く、固めで、あちこちに隙間があったよう
です。目が荒い豆腐は、味が染み込みやすく
食感に食べごたえがあります。
江戸になってから絹ごしが登場したらしいので
ここから更に料理法が広がったんでしょうね。


豆腐は様々な書籍でも親しまれてきた食べ物で、
江戸時代に『豆腐百景』という本がベストセラー
になりました。
たまに耳にします、知る人ぞ知る『豆腐百景』。
料理屋さんや、町の主婦、商人たちに愛され
飛ぶように売れた、と言います。

今も、あちこちの純文学に豆腐は登場します。
古風な雰囲気を出すには、豆腐は手っ取り早いし
誰もが馴染みあるものですから、
豆腐を描写に加えるだけで
一瞬で古めかしい場面が出来上がります。 


以前、時代物の小説で
二人の男が今から人を斬りに行くのに、
少しの間どこかの店で
豆腐の田楽を肴にして呑む場面がありました。

なにか特別非情なことをしに行くのに、
男たちは今お酒を呑みつつ
「味噌を塗りつけて焼いた豆腐が大変おいしい」
と言って、日常の安らぎを味わっているんです。
こういった異様な場面の対比に、
豆腐の平凡さがよく似合っており
より残忍さを感じさせる描写です。

食べ物とは、文学や映画にリアリティをもたらす
小道具であって、見逃さずによく見ておかないと
味わいも減ってしまいますから、
イメージとしてしっかり捉えるようにすると
より面白いように感じます。


夏の終わり。ぼんやりとした行灯の照明に
小さな肴の器が並ぶお膳。
すりおろした生姜に、鰹節が乗り
四角く白く佇んでいるのは豆腐です。
ただこれだけの描写で、静けさが強調されて
文学や映画のシーンが活きてくるのだから
冷奴の役割も、たいしたものです。

盛らない、デコらない、さほど映えない和食。
しかし、ここまでくると
和食の存在感も、捨てたものではないです。


のどかな気分でやりたい料理

さあ、みそ田楽です。
ここでは、豆腐でやっています。
簡単に『焼きの香り』がする田楽にするために
私が忙しいときに採用しているやり方です。

時間がある方は、もちろん網でじっくり焼く方法
で構わないのですが
田楽味噌は、焦げつきやすいのです。
焼き加減を調節するのも難しいですね。

味噌が焦げついた網の汚れって
なかなか取れないし、掃除が大変です。
豆腐や味噌の水分が下に落ちて、あ~コンロが~
ってなりますでしょう。あれがね、嫌ですよね。

魚焼きグリルを使うと、まだ洗いやすいけど
焼き加減が見えにくいですから、今回はボツ。

だから、急ぐときにはフライパンでいいです。
表面コーティングされたフライパンを使います。
わざわざ、豆腐を串に差したりはしません。


・今回使うのは、『厚揚げ』です。
これからフライパンで焼こうとしているので
厚揚げでいいです。水切り作業も省けます。

・田楽味噌を作るには、慣れるまで手間がかかる。
だから、これを手抜きします。
田楽味噌は、市販のものを使います。

・そして野菜を一種類、添えたいので、焦げ目を
つけられるような大振りな野菜を選びます。
今回は、くし形に切った玉ねぎを使いました。

大根、かぶ、長芋、万願寺とうがらし、
太めの白ネギ、大きめの空豆でも美味しいです。
焼き目がつけられる面積がある野菜を使います。

おおざっぱなご案内は、以上の3つです。


厚揚げは、熱湯をかけ余分な油を抜いてから
ペーパーで水分を拭き取り、
大きめのひとくちサイズに切ります。
なんなら熱湯をかける作業は、省いてもいいです
が、ペーパーで油や水分は拭いておいて下さい。

サイコロ状の小ぶりな厚揚げよりも、
できれば厚揚げは、大きいタイプのを切る方が
適度な豆腐感があり、田楽に合います。

木の芽味噌
大葉味噌
クルミ味噌
ごま味噌
たらの芽味噌
ふきのとう味噌
ねぎ味噌
ゆず味噌

田楽味噌は、いろんな種類があって楽しいです。
手作りする場合、旨味の強い赤味噌ベースでも
上品な白味噌ベースでも
家にある合わせ味噌でも構いません。

市販品の田楽味噌なら、すでに
みりんや砂糖、お酒が加えられていて、
小鍋で艶が出るまで極弱火で
焦がさないよう混ぜ続け、煮詰めてあります。
ここを省きたい方は、市販品を使ってください。


私はお正月に向けて、最低3ヶ月前から
たまごの黄身だけを
お酒を足した味噌床に漬けています。
『黄身味噌』といって、白いごはんに乗せたり
お酒のあてになるんですが
私は正月用に、
ゆで玉子の黄身と、生たまごの黄身と、
どちらも作っています。

生たまごの黄身で作ったら、ウニみたいな味に
なって生の良さがあるし、
ゆで玉子の黄身で作ったら発酵を進めた先には
ウニっぽい味からチーズのような味に変化します。

生たまごの黄身の場合は、薄い1枚取りのガーゼを
味噌床の上に置き、生の黄身をのせ、また上から
ガーゼをのせてから、味噌を被せて漬けます。
ゆで玉子の黄身は、私は面倒くさいからガーゼを
使いません、黄身を崩さないように直に漬けます。

味噌床の固さは、お酒を加えて、
カスピ海ヨーグルトくらいのユルさが目安ですが
それもお好み加減で構いません。

この黄身味噌の、味噌床は、
繰り返し使える上、
それでも余ったら味噌汁にすれば劇的に美味しく
なります。
お酒が入っている味噌床なので、鮭やアサリの
お味噌汁が格段に美味しくなります。

そして、田楽にも。
この味噌床を使った田楽がまたマイルドで旨味が
凝縮されていて美味しいんですね。
私はこれを使った田楽を、他で食べたことがあり
ません。わが家でのオリジナルです。
みりんや砂糖、お酒を加えて極弱火で
艶が出るまで焦がさないように、混ぜる手を止め
ずに煮詰めて、田楽に使い回します。


ちょっと話が脇にそれました。
田楽の味噌です。
もう、市販の田楽味噌を使ってください。
こんなことを言うと怒られそうですが
市販の田楽味噌に、すりおろした木の芽を足そう
が、なにを足そうが、構いませんし
市販そのままの田楽味噌だけでもいいんです。


それじゃ面白くないという方。

さっき、私は黄身味噌の話題を出しましたけど
あれは出来上がるのに、数ヶ月かかってしまう。

だけど、市販の田楽味噌に
『ただの半熟ゆで玉子の黄身』を入れるだけで、
旨味がグレードアップします。
生たまごより、半熟の茹でた玉子の黄身がいいの
です。配合量も、個人の好み。
興味のある方は、お試しください。


わざわざ、ゆで玉子を茹でるのが面倒ですか。
まぁそうですね…分かります。
私は日頃から、ゆで玉子は常備しています。

仕込みは大事。楽になりますよ。

これは、ビニール袋の中にゆで玉子を入れ
だし醤油に、酢を3滴くらい加えてあります。
調味液は、たまごの表面に絡まる程度でいい。
『半熟気味の、味つけ玉子』です。
1~2回ビニールの中で、コロコロと転がします。
このやり方は、冷蔵庫で日持ちします。

「お酢を加える」のが重要です。

麺つゆでも、しょう油でも、ウスターソースでも
ナンプラーでも構いません。絡まる程度の量。
好きな調味料に、お酢を入れるだけです。

濃い色の調味液の場合、たまごの表面には
まだらに色が付きます。大理石の柄といいますか。
調味液が絡まるだけの量ですから。
でも、気にしません。どうせ切って食べるんです。

それでも、どうしても気になる方は
色の薄いだし醤油か、
市販の白だしを使ってください。


味つけ玉子って、調味液の中に浮くくらいに
つけ汁を作りますね。
それじゃ毎回、調味液がもったいないですし
冷蔵庫のスペースを大幅に取ってしまいます。

今ご紹介した「味つけ玉子」だと
お酢が入っていても、酸味はないです。
冷蔵庫内の温度環境にもよりますが
お酢の力で、4~5日くらい持ちます。
冬場の冷蔵庫で1週間くらい持つかもしれません。

タルタルソースやサンドイッチ、サラダ、
鶏手羽煮、おでんやグラタン、お弁当、
ラーメンのトッピングに、すぐ使えます。
これがあれば、なんとか一品ひねり出せます。

わが家の冷蔵庫には、いつも
『下味のついた半熟ゆで玉子』が常備してあります。
小腹がすいたときの、おやつにもなります。


私は調味料を無駄にすることに、いつも
気がひけるんです。
できるだけ無駄にならないようにしたいのです。

お酢を使う方法は、塩分や調味料削減に役立ちます。
これを機に、あらゆる場面で、
少しのお酢を使いこなすやり方にシフトしていく
のは良い事だと思います。


半干し椎茸のお吸い物
厚揚げの味噌田楽と、焼き玉ねぎ
柿の皮と千切り野菜の和え物
漬け物


市販の田楽味噌に、
あれば、半熟ゆで玉子の黄身をすり混ぜます。
青ネギの小口切りや、叩いたクルミなどを混ぜ、
お好きな田楽味噌にしてください。

見た目がもっとこってりしますが、
味噌にカシューナッツや、ピスタチオを加えても
美味しくできます。
味噌が固いと思ったらお酒かみりんで調整します。
配合は、味見をしてお好きにしてください。


もちろん、素直に市販そのままの田楽味噌だけで
うまくできます。それでも十分です。

切った厚揚げを、「あまり動かさずに」
油を引いたフライパンで焼きます。
ここで、炭火で炙ったような焼き色を、しっかり
つけるのがコツになります。
途中で返して、ここで全面に焼き目をつけます。
最後に、田楽味噌を入れて、軽く焼きつけるだけ。


「味噌を塗ってから焼く」という工程を、逆に
するんです。逆手に取ります。

『厚揚げに炭でしっかり焼いたかのような焼き目
をつけてから、味噌を加えて絡める』やり方です。


今回は、試しに、なにも加えないまま
市販の田楽味噌だけを使いました。

油を引いたフライパンで焼くので、
田楽味噌に油が加わり、艶が出ます。
これで出来上がり。

焼いた玉ねぎと合わせ、枝豆を飾りました。

付け合わせの野菜は
お焦げの香りで田楽を引き立たせるために
大ぶりに切り、表面にしっかりと焼き目をつけて
おきます。

田楽に添える、玉ねぎの『仕込み』です。

田楽の良さは『香ばしいお焦げが身上』なので
付け合わせの野菜の表面も焼いて、野菜にも
スモーキーな香りをつけておきます。
『仕込み』の段階では、大きめの野菜ならば
中身まで火を通さなくても良いのです。
ここでは、表面の焼き目だけが大事です。

あとで食べる際、器に盛り付ける前に
電子レンジで少しだけ加熱し最終的に火を入れる
方法です。

この方法は、肉料理、魚料理の付け合わせ、
暖かいサラダにしたり、酢豚などの炒め物や
カレーに使ったり、
そのままレンジであたため塩をふって食べたりと、
どんな料理にも『便利な仕込み』です。

焼き目だけをつけた野菜は、中身には火を通して
いないのと、塩もしてないので、
余分な水分が出ません。


大ぶりに切って、焼き目をつけ、冷蔵庫へ。
たくさん作ってストックしておけます。
ここで大事なのは、
『決して塩などで味つけはしない』。
これが肝です。

あとでレンジで少し加熱して最終的に火を入れる。
野菜がグッタリするほど加熱しないように、
気をつけるだけです。最後に、うっすら塩をふる。

この仕込みをしているだけで、
これが冷蔵庫にあるだけで、
どんなに安らぐことか。いつも助かっています。

カレーで玉ねぎを使うときに、
よぶんにいくつか、玉ねぎの皮を剥いて
大きめに切り、焼いておくと便利です。

様々な場面でやってみて下さい。
あたためて塩をふって食べるだけでも
新鮮な食感もそのままに
素材の香りが立ち、美味しいものです。


今回はデザートに柿を用意したので
柿を剥いたあとの皮を使って、大根、人参、
紫玉ねぎの千切りで、和え物にしています。

柿の皮には十分な甘味があり、
味つけの際には、砂糖やみりんが必要ありません。

材料は、そのときにある野菜を千切りにして
合わせてボウルに放り込み、冷蔵庫へ。
食べる直前に、和辛子、塩、ぽん酢、
数滴のごま油で和えました。
フレンチドレッシングでも構いません、単純で
シンプルな味が合います。

調味料は、全体的に、ほんの少しだけです。
食べる直前にボウルの中で、
かなり少なめの調味液とザックリ混ぜるのが大事。
器に盛った上から調味液をかけるやり方では
ベタッとします。
食材の味を生かして、調味料は香りづけであって
野菜がしんなりする程度です。


今回のお昼ごはんは、完全な精進料理です。
特別なものは何も使っていません。

朱色の和え物は、秋の野草のような一品です。


地味で映えない精進料理なんですが
よろしければ一度、お試しになってください。


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